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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
126/155

番外19(バタール収穫祭9)

 

 グレッシュの実が降り注ぐと盾となったメイド長がアウトになり、ゼッケンを外してサークルから退場した。


 メイド長が退場した後は、今度は「2」番を付けた先輩メイドが役割を引き継いでいた。


 私も頭や肩に紫の染みが出来ていたが、幸いな事にゼッケンは無事だった。


 大軍で押し寄せる領民軍に対し、こちらは僅か10数名で総大将を守っていると、ふっと七色鳥の羽を取りに行った時にマレットが言った軍事演習という言葉を思い出していた。


 これはまさにバタールに押し寄せたアンシャンテ帝国軍に領主館まで攻め込まれた時の最後の抵抗を表しているのだ。


 ブレスコット家の人達が倒されたらこの領は占領されたも同然だ。


 私達はこのゲームにおいて、いかに主家を守るかという訓練だと思い至った。


 そう考えると領民軍の女性や子供達に遠慮していては訓練にならないのだ。


 そこで今までにない程容赦なく相手選手の的に向けてグレッシュの実を投げることにした。


 私が領民軍の選手達を次々と退場にさせていると観客席の方から悲鳴に似た声が聞こえてくるので、恐らくはあの中に家族か友達がいるのだろう。


 後ろでは「2番、9番、16番、アウト」という声が聞えてきた。


 今頃は「3」番を付けた先輩メイドがその後を継いでいる事だろう。


 私も自分の役割を全うするのだ。


 すると後ろからブリタニーの声が聞えてきた。


「エミーリア、貴女容赦ないわね」


 私はブリタニーのその呑気な声にちょっとイラっとしていた。


「ちょっと、口を動かす暇があったら、手を動かしてよ」

「ひやぁ、エミーリアがメイド長みたいなこと言ってるぅ」


 私はこんな状況になるのはこのゲームの中だけにしてほしいと思った。


 そしてそうならないため今も旦那様がバトゥーラ要塞でアンシャンテ帝国軍を警戒している事に感謝していた。


「3番、12番、アウト」


 守備班は半数を切ったようだ。


 素早くグレッシュの実を掴むとやって来た女性に向けて投げつけた。


 領民軍はそれでも数で上回っているのでまた一斉にグレッシュの実を投げると、守備班のメイドがまたアウトになっていった。


 そして目の前に迫った3人の女性にグレッシュの実を投げてアウトにすると、相手の投げた実が私のゼッケンに命中していた。


「445番、446番、447番、それに20番、アウト」


 私がアウトにした女性達がゼッケンを抜いて場から去って行くと、その陰に隠れていた少女がこちらの隙を突いてグレッシュの実を投げてきた。


 私もアウトになっているので何もできないままその実を目で追っていると、山なりに飛んだ実はそのまま後ろを向いていたクレメンタイン様の背中のゼッケン目掛けて落ちて行くと、紫色の染みを付けた。


「あ」

「総大将アウト、ゲーム終了です」


 その声と共に領主軍の陣地に立ててあった赤い旗が下ろされた。


 勝敗が決すると勝った領民軍の選手や観客達から歓声が上がり、生き残っていたメイド達が膝をついた。


 そしてゲーム終了を知らせる花火が打ち上がった。


 クレメンタイン様は驚いた顔でグレッシュの実を投げた少女と私の顔を交互に見ていたが、やがて自分にグレッシュの実を当てた少女に近寄ると、自分の帽子についている七入り鳥の羽飾りを渡していた。


 あの羽飾りがこの祭りにおける勝利者の証となるのだ。


 あの女の子とその家族には賞品として、木樽一杯のジュースと酒それにグレッシュの実が貰えるのだ。きっと今晩は周りに人達が集まってきてお祭り騒ぎになるだろう。


 少女に羽飾りを渡したクレメンタイン様が私に向き直った。


「全く駄目じゃないの。だけど、まあ、よくやったわ」


 どうやら私の事を少しは認めてくれたようだ。


 お役御免となったクレメンタイン様はそのまま館に帰って行った。


 収穫祭はまだまだ続き、この後選手や観客達は夜遅くまで営業している屋台や出店でゲームを話題にして楽しい一時を過ごすのだろう。


 私達は頭のてっぺんからつま先までグレッシュの実まみれになっているので、お風呂に入って汚れを落とすのだ。その後は自由時間となる。


 すると好敵手であったアランさんがこちらに近づき、手を差し出した。


 私はその手を握ると嬉しそうに握手を交わした。


「私はこれから自分の店で料理を振舞う事になってるんだ。是非、寄って行ってくださいね」


 そう言うとウィンクして去っていった。


 別館のお風呂場は2交代となり私とブリタニーは何故か先輩メイドと一緒に先に入る事になった。


 パーカーのおかげで体は汚れていないが髪の毛は酷い有様だった。


 ブリタニーと一緒に髪の毛を洗っていると先輩メイドに声を掛けられた。


「貴女、よく頑張ったわね。毎年あの3人にやられていたのよ。ヴィンスさんの顔は見物だったわ」

「そうよ、エミーリアがヴィンスさんとアランさんの弱点を探ってくれたおかげで、今年は随分ねばれたわよ」


 どうやら先輩達は、今年の出来を評価しているようだ。


 そしてお風呂から出て自由時間になるとブリタニーが誘いに来た。


「ねえ、アランさんのお店に行ってみましょうよ」


 どうやらブリタニーは私とアランさんの会話を聞いていたようだ。


 そして私達は領主館を出て町中に繰り出した。


 通りは既に祭りの痕跡はなくなっており、沿道にそって立ち並んだ出店を目当てに沢山の人達で込み合っていた。


 そして一際人だかりになっている場所にアランさんの出店があった。


 そこでは沢山の果物を上に乗せた赤と紫色のワインゼリーを提供していた。


 ワインの原料はグレッシュの実のようだ。


 アランさんは私達の顔を見ると何も聞かずに赤色の方を差し出してきた。


「あれだけ紫グレッシュを投げられたんだ。赤の方がいいだろう?」


 そう言うと私達にワインゼリーを渡してウィンクしてきた。


 それはとても美味しかった。


 だが、アルコール度数が高く食べ終わった頃にはほんのりと顔が赤くなっていた。


「おや、直ぐ顔に出るんだね」

「ええ、そのようです。でもとても美味しかったです」

「それはどうも、気を付けて帰るんだよ」


 そしてちょっと足元がふらついている私はブリタニーに腕を支えられながら館への帰り道を歩いていると、あちこちの出店から店主に声を掛けられた。


「よう、嬢ちゃん達、食べてくかい?」

「おや、あんた20番の嬢ちゃんだろう。俺も領主館の観客席で見ていたんだよ。実にいい働きぶりだったよ。ただでいいぜ、飲んでいきなよ」


 そう言って酒の入った木製ジョッキを差し出された。


 そしてその誘惑に負けてジョッキを受け取りぐいぐい飲んでいたので、領主館に戻って来る頃にはすっかり出来上がっていた。


「ちょっと、エミーリア、あんた大丈夫なの?」

「らいじょうぷよぉ、酔ってなんかいらいわよぅ」

「これは駄目だわ。見つからないうちに部屋に戻りましょうね」


 だが、運が悪い事にそこには腕組みをしたメイド長に見られていた。


「貴女達、自由時間だからと言って随分羽目を外しているわね」

「ヒェッ、すみませ~ん」

「ああ、なんれすかぁ、自由時間にぃ何しようがぁ、わらしの勝手れすよぉ」

「ちょっとエミーリア、貴女は黙っていて」


 するとメイド長の厳しい視線が私をチェックしていた。


「その様子じゃ明日からの仕事に支障をきたしますね。良いでしょう。自己管理が出来ていないエミーリアには謹慎処分とします」


 そして私は再び謹慎処分になったのだった。



 ブレスコット家のサロンではブレスコット夫妻がワインを片手に話をしていた。


「クーはグレッシュの実まみれにされなかったみたいだな」

「ええ、防衛班のメイド達が頑張ってくれたみたいね。去年の私は本当にひどい目にあったのよ」

「ああ、確かにそうだったな」

「何でも、あのエミーリアという娘が駿足のヴィンスとフェイントのアランの弱点とか癖を調べてきたんですって」

「ほう、中々やるじゃないか。クーが王都に行った時も頼りになりそうだ」

「でも、メイド長のケアードが何回も謹慎処分になる人物は困ると言ってきているわよ」

「メイド長は厳しいからなあ。まあ、1年間は雇用保証しているのだし、このまま続けて貰おう」


あけましておめでとうございます。

皆様にとって良い年になりますよう願っております。


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