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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
122/155

番外15(バタール収穫祭5)

 

 バタール収穫祭の日取りが決まってから午前中の戦闘訓練は祭りの訓練に変更されている。


 守備側は本陣にサークルを描きその中心に総大将が居ることになる。


 そしてメイド長を総大将役として守備側がサークル内に留まり、攻撃側から総大将を守る練習を行っていた。


 攻撃側はサークルの中に入れないので自然とサークルの線上での攻防戦となる。


 投げているのはグレッシュの実ではなくお手玉サイズの布切れを入れた玉なので、当たっても服が汚れる事も痛くもないのだが、攻撃側の玉が時折当たるものだからメイド長の眉間には皺が寄っていた。


 そしてメイド長の顔面に玉が当たったところで練習が終了となり、その後20人の名前が呼ばれた。


 私はその最後の20人目に名前を呼ばれた。


「今名前を挙げた20人は今年の防衛班になります。このまま執事長が待つ本館のサロンに移動するように」


 私とブリタニーは本館のサロンに向けて移動していると、選手から外れた使用人達から声援を送られた。


「皆から応援されるのは嬉しいわね。去年は審判だったから応援する立場だったのよ」


 ブリタニーの話によると選手に選ばれなかった使用人は審判等の運営側の業務を行う事になっていた。


 そしてメイド長に指定されたサロンに入ると、そこには既に執事服を着た白髪の男性が待っていた。


「空いている席に座ってくれ」


 そう言われたので開いている席を見つけて座ると、直ぐに執事長が話し始めた。


「君達は今年のバタール収穫祭での守備班に選ばれた。まずは、おめでとうと言っておこう」


 執事長がそう言ったので集まった20人は全員椅子に座ったまま一礼した。


 執事長はそれを頷いて返すと話の先を進めていった。


「領民軍の中には特に注意しなければならない人物が3人居る。これからその3人について説明する」


 執事長がそう言ったので私は隣に座るブリタニーの顔を見たが、ブリタニーは首を横に振ってきた。どうやらブリタニーも知らないようだ。


「毎年この3人に防衛側の人員が排除されて負けてしまうのだ」


 そして説明された1人目は、鍛冶屋のティムさんだ。


 大柄なティムさんは腕っ節も強く赤い鼻に髭面で見た目どおりの大雑把な男なのだが、グレッシュの実を持つと正確に遠投してくるそうだ。


 毎年物陰から投げてくるので気が付くと2、3人やられてしまい、その後、押し寄せてきた領民軍への対応で手一杯になると上空に注意が向かなくなり、山なりに飛んでくるグレッシュの実でやられてしまうそうだ。


 そこで付いたあだ名が「遠投のティム」なんだそうだ。


 2人目は配達人のヴィンスさんで、小柄でほっそりしているので女性にも見える体格だが足が速いらしい。トレードマークの鳥打帽を被り鷲鼻が特徴とのこと。


 収穫祭ではそのすばしっこさで守備が投げるグレッシュの実を躱しながら、総大将を狙わずに守備側の人数を削って来るそうだ。


 そしてヴィンスさんのあだ名は「駿足のヴィンス」らしい。


 そして3人目が食堂の料理人アランさんだ。


 ほっそりとした体に細い目、短く刈り込んだ頭をしていて、祭りでも料理人の服である白い服に白の前掛けそれに白い帽子を被っているそうだ。


 彼の目的も守備側の人数を削る事で、本陣のサークルぎりぎりまで近づくと守備側の攻撃を予測不能な動きで避けながらカウンターでグレッシュの実を当ててくる厄介者だそうだ。


 そのおかしな動きから付いたあだ名が「フェイントのアラン」だそうだ。


 毎年この3人に翻弄され守備側の人数を削ぎ落され、無防備になった総大将に領民軍の女性や子供が取り囲みグレッシュの実を投げてくるので全身紫色になってしまうのだとか。


 ちなみにグレッシュの実は赤グレッシュを領主軍が使い、紫グレッシュは領民軍が使うと決まっているので、本陣に掲げる旗も領主軍が赤色の旗、領民軍が紫色の旗となっている。


 私達守備側に選ばれた20人は総大将を守りながら、「駿足のヴィンス」と「フェイントのアラン」にグレッシュの実を当てて早めに退場させるのだ。



 私はアシュリーさんに情報を漏らしたという負い目があったので、町に出て2人の情報を集める事にした。


 確実に見つかるのは料理人をしているというアランさんだ。


 時間は昼食時を過ぎたので飲食店も暇な時間になっているだろうと思い店を訪ねることにしたのだ。


 その店は一般的な食堂といった感じでカウンター付きの厨房と客フロアは長テーブルに長椅子が並んだ効率の良い作りになっていた。


 今はその長テーブルに数人の客が居る程度なのでこれなら話しかけても怒られないだろう。


「いらっしゃ~い」


 厨房からほっそりした体格に細い目をした広い料理人の服装をした男が顔を出して挨拶してくれた。


 あの人がアランさんのようだ。


「今日のお薦めをお願いします」

「あいよ~」


 そう言うと出来上がった昼食の皿を両手を天秤ようにして持って現れた。


 それは忙しい時間を過ぎてようやく一息ついた事から、ちょっとしたサービスで行っているといった感じだった。


 そこに慌てた客が店に入ってくるとアランさんとぶつかりそうになった。


 だが、アランさんは見事なバランスで皿を落とすことも無く慌てた客を躱したのだ。


 その見事な動きを見て「フェイントのアラン」という二つ名が本物なのだと改めて思い知った。


 だが、その動きにある癖がある事に気が付いたのだ。


 それは右に動くときだけ微かに右肩が下がるのだ。


「おっと、お客さん、危ないねえ」

「これはすまない。おやじ、俺にも昼食を頼む」

「はいよ」

「はい、お待たせ。館のメイドさんがここに来るという事は事前偵察かい?」


 どうやらバレていたようだ。


 素直にそれを認めるとアランさんは今年のゼッケンは「201」だよと教えてくれた。


 そしてテーブルに昼食を並べると私にウインクしてから厨房に消えていった。


 次は配達人のヴィンスさんだ。


 昼間は仕事で町中を走り回っているはずなので目撃するチャンスが多そうな中央広場で待機する事にした。


 中央広場は既に収穫祭の準備が進み煌びやかな装飾が施され、広場の縁に沿って沢山の屋台が出ていた。


 そして祭りを見るためやってきた観光客かグレッシュの実の取引にやって来た商人達が、その光景を眺めながら屋台で買い食いをしていた。


 その光景をぼんやり眺めていると、広場の一角で騒ぎが起きた。


 既に沢山の野次馬が集まっていて中で何が置いているのか分からなかったので、野次馬をかき分けて様子を見る事にした。


「ごめんなさいね」と声を掛けて男達の間を縫って先頭まで辿り着くと目の前では、特徴的な鳥打帽を被った小柄な男と商人らしき男が言い争っていた。


「おい、俺の大事な相棒を良くも汚してくれたな」

「相棒ってなんだよ。唯の帽子じゃないか」

「唯の帽子だと、ふざけるんじゃないぜ」


 今にも掴みかかろうとする剣幕に慌てて仲裁に入ろうとしたが、直ぐに警備の領兵がやって来た。


「こらこら、それ以上やると捕まえるぞ」

「おっと、俺はまだ配達の途中なんだ。御免よ~」


 そう言うと傍に転がっていた荷物を掴むと風のように去っていった。


 どうやらあれがヴィンスさんのようだ。


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