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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
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番外9(食べ物の恨み4)

 

 私とブリタニーは門番から納入業者が来たという連絡を受けて商人の荷馬車が来るのを待ち受けていた。


 私達は新しい商人達にどうしても一言言ってやりたかったのだ。


 やって来た荷馬車には男が2人乗っていて荷台には木樽や木箱が山積みになっていた。


 新しい取引先はジブソン商会と言うらしい。


 やって来た荷馬車の馭者台にはガラが悪そうな男達が座っており、私達を見つけると嫌らしい笑みを浮かべていた。


「まいど、ジブソン商会です。ご注文の品を持ってきましたよ」

「物資は倉庫に搬入する前に品質を調べさせてもらいます」

「ええ、こちらをどうぞ」


 そう言って木箱をこちらに差し出してきた。


 だが、それは良い物が入っている検査用の木箱だという事は明白だった。


「こちらで無作為に選んで調べます」

「それは困りますねえ」


 そう言って荷台に乗っている他の木箱を調べようとすると行く手を塞ぐように体をねじ込んできて邪魔をしてきた。


「何をするんですか?」

「いいから、こっちの木箱を調べてろ、お前だって貴族様には逆らいたくはないだろう?」

「何ですって?」

「頭が悪いのか? これは貴族様の指示だと言っているんだよ。邪魔をするな」


 そう言うと男達は私の肩を強引に押し退けた。


 その力が強かったので私はバランスを崩して地面に倒れ込んだ。


 私が非難を込めてその男を見上げると、男は私を助け起こそうともせず蔑んだ目で見下していた。


 後は私達の事を無視するように荷物を倉庫の中に搬入するとさっさと帰っていった。


 私達はこの暴挙をメイド長に報告するのだが、メイド長は私達に賛同してはくれなかった。


「良いですか、主家様は色々問題を抱えております。私達のせいで余計な気を使わせる訳には参りません。この件はこれで終わりです。分かりましたね」


 そう言われてしまうとこれ以上文句を言う訳にも行かず仕方なくこれ以上事を荒立てることは出来なかった。


 私はメイド試験で見せてくれた配慮を知っていたので、ブレスコット家の人達がこのことを知ったら直ぐにでも改善してくれるという確信があったのでとても残念だった。


 だからと言って新参者の私ではお館様に近寄る事も出来ないので今の状況を改善する方法が無かった。


 今日も拙いご飯を食べてから町に情報収集をすることになったが今日からは私一人での行動となった。


 そう言えばブレスコット家の使用人は沢山いるが、その中で貴族家出身は私だけで他の人達は大半が辺境伯領の領民だった。


 私がブリタニーに教えて貰った協力者の元を訪ねると皆私の事を覚えていて挨拶をしてくれるのだが、何だがよそよそしい態度が気になった。


 そこで最初の挨拶の時に私がモス男爵家の者だと言ったことを思い出していた。


 町の人達は貴族にあまり良い印象は持っていないようだが、モス男爵家なんてブレスコット家から見たら同じ貴族だとはとても思えないような小さな家なんだけどね。


 そんな感じで街を歩いていると見覚えのある少女が露店を開いている姿を見かけた。


「あれ、貴女確かホイストン商会の」

「あ、はい、アシュリーです。ご無沙汰しております」


 露店の女性はそう言って私に笑顔を向けてくれた。


 でも商会の娘さんが何故こんな所で露店等開いているのか疑問だったが、並べられている物はあの試供品として貰ったイチゴだった。


「これ美味しいんですよね」

「ええ、ですが、価格的にどうしても人気が出なくて・・・」

「この味と価格なら貴族家に直接売った方がいいんじゃないの?」

「ええ、そうなんですけどね・・・」


 だがそう言った途端、アシュリーの顔に影が差した。何か裏がありそうだ。


 そして事情を聞いてみると元々はブレスコット家のために取り寄せた物なのだが、取引先を突然替えられたのだそうだ。


 ブレスコット家から突然取引を中止された商会という噂がバタールの町に広まってしまい商売がうまくいかなくなったそうだ。


 そのせいで取引相手が次々と取引を断るようになり、仕方なく露店で商品を売っているのだが、元々貴族家用に仕入れた商品では平民には高すぎてなかなか売れないそうだ。


 このままでは負債を抱えて廃業するしかないんだとか。


 そこで私は疑問に思った。あのブレスコット家の人達がここまで非道な事をするのだろうかと。


 きっと裏があるに違いないのだ。


「アシュリーさん、諦めないで頑張ってください。私も何が出来るか分からないけど出来る事をしてみます」


 それから態度がよそよそしくなった他の情報提供者の所に戻っていった。


 そして聞き回っているうちについに根負けした店主から事情を聞き出すことが出来た。


 そこで聞けたのは新しくブレスコット家に商品を提供することになったあのジブソン商会の悪評の数々だった。


 あの商会はバタールの町でも色々やらかしているようだ。


 安い値段を提示して無理やり取引に割り込んでくると、粗悪品を納入してはトラブルとなり、最後は契約書を盾に法外な違約金をむしり取るのだそうだ。


 それでもこの町から追い出されないのはバックにあのストックウィンが居るからだった。


 何でもケイシー・ストックウィン伯爵夫人には浪費癖があり、ジブソン商会に結構な額の借金があるそうだ。


 そして伯爵夫人を追ってやって来たジブソン商会がブレスコット家の納入業者になれたのはストックウィン伯爵夫人からの口利きがあったのではないかという事だった。


 私達が毎日拙いご飯を食べさせられているのがこんな事情だったなんて、とても許せるものでは無かった。


 何としてでもあの商会を追い出してやらなければ気が済まなかった。


 そう食べ物の恨みは恐ろしいという事を思い知らせてやるのだ。



 エミーリアは焦っていた。


 アシュリーさんに何とかすると言ってしまったがメイド長が感づいたのか意図的にブレスコット家の人達から遠ざけられているのだ。


 ブリタニーに相談してみたがあまりよい案はなさそうだった。


 おかげで事情が分かってからも無為な日々を送っている状態だった。


 そして昼の給仕が終わり別館に戻って来たところでいつものサンドイッチが大皿の上に乗せられていた。


 調理人は何とか工夫をしてくれているようだが、燻製肉は固くて噛み切れないので不人気で大皿の上で誰も手を付けずに残っていた。


 ブリタニーと一緒に席に座ると大皿から比較的食べられるチーズサンドを手に取った。


 ブリタニーも私と同じ物を手に取っていた。


「ああ、チーズは一人一つと言われているからこれで楽しいお昼ご飯もこれで終わりかあ。もぐもぐ」

「仕方ないでしょう。それにフルーツならまだましな方よ」

「そうねえ。もぐもぐ」


 そこに本館担当のメイドが食堂に入ってくるとそのまま調理場に入っていた。


 何だろうと耳を澄ませていると明日の昼クレメンタイン様が外出するので昼食用のサンドイッチを作ってほしいと言っていた。


 納入業者が変わってからまだ一度もクレメンタイン様が外出していなかったので、これが初めてのサンドイッチだった。


「ねえブリタニー、お願いがあるだけど」


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