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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
男爵令嬢のメイド日記
110/155

番外3(辺境伯家のメイド試験3)

 

 案内された部屋には似たような恰好をした女性達が大人しく待っており、エミーリアが開いている席を見つけて座ると館の使用人から試験についての説明が始まった。


「お集まりの皆様、本日はブレスコット辺境伯家のメイド試験に参加頂きまして誠にありがとうございます。これから試験に関する説明を行いますが、途中でリタイアしたい場合は手を挙げてその旨をおっしゃってください」


 そう言うとメイド服を着た女性が食事を運ぶワゴンを押して入ってきた。


 ワゴンにはお茶を入れるポットが載っており、ガチャガチャ音がすることから中にも銀食器が入っているようだ。


 想像するに試験というのはあのワゴンを押して食堂に運びテーブルに料理を並べるのだろうと思った。


 それなら家でも仕込まれているので問題ないだろうと感じていた。


 だが、使用人からの説明は違っていた。


「皆様にはこのワゴンを押して庭に造られたコースを回ってもらいます。中身を零したり、回って来られなかったら残念ですが失格とさせて頂きます」


 そのあまりにも想像とかけ離れた内容に集まった女性達からは戸惑いの声が漏れていた。


 そして勇気ある女性が皆を代表して質問をぶつけていた。


「あの、何故そのような事をしなければならないのでしょうか?」


 全員が知りたがった疑問に参加者が皆耳を澄ませると使用人はちょっと困った顔をしてから恐ろしい事実を口にしたのだ。


「それはお嬢様がそれを要求されるからです」


 お父様からブレスコット辺境伯家の一人娘はかなり甘やかされていると聞いていたが、ここまで非常識とは思わなかった。


 それから始まったテストは2人ずつ行われたが、本来屋外で使う事を想定されていないワゴンを押すのは大変だった。


 それにコースには凸凹もあり、そこを中身を零さないように押して一周するというのはかなりの重労働のようで次々と脱落していった。


 そして私の番になると一緒に走るもう一人の令嬢もごくありふれた令嬢でとても力がありそうな体形はしていなかったが、それよりも問題なのがその令嬢が他の3人の令嬢と何か相談しながらこちらをチラ見している点だ。


 まさかとは思うが何か仕掛けてくる可能性も考慮していた方がよさそうだ。


 そして私達の番になり私の手前には食器を積んだワゴンが置かれていた。


 ワゴンにはお茶を飲むカップとポットが置いてあり、恐らく中には料理を入れた皿が入っているのだろうと想像できた。


 そしてそのワゴンは9歳の私には大きくそして重く見えた。


 それを両手で掴み合図を待っていると隣の女性も同じようにワゴンを掴んでいた。


 そして合図と同時に渾身の力を込めてワゴンを押し出すと整地されていない地面にワゴンの小さな車輪が乗り上げバウンドした。


 そこで初めて車輪の前に石を置かれたのに気が付いた。


 慌ててワゴンが倒れないように抑えている隙を突いて隣の女性がすっと先に進んでいった。


 これは競争だとは聞いていなかったはずなのにと思ったが、それでも隣をすり抜けて行く時に見えたその横顔は微かに笑っていた。


 どうやらこの石を置いたのはこの女性のようだ。


 エミーリアはワゴンを押して猛然と後を追っていった。エミーリアも家の手伝いを日常的に行っているので意外と力があるのだ。


 ブラム地区の辺境伯家の敷地は他の貴族家と比べても質素な方なので一周はおおよそ2百mといったところだった。


 前に走った人達のおかげでコースにはワゴンの車輪が付けた轍が出来ていて、それに気を付けながらワゴンを押していくと先行していた令嬢の後ろ姿が徐々に近づいてきた。


 相手の令嬢のワゴンからは何かが零れたような跡がある事からもしかしたら転倒したのかもしれなかった。


 やがて並走すると相手の令嬢が口角を上げたように見えたので思わず警戒レベルを上げるとこちらのワゴン目掛けて片足を上げたのが目の片隅に映った。


 惰性が付いたワゴンを急停止させるため必死に踵でブレーキを掛けると思いの他効果がありワゴンが急減速した。


 それを見た相手の令嬢の顔には驚愕の表情が浮かぶとこちらのワゴンを倒そうと突き出した足が空を蹴るとそのまま勢い余って派手に転倒したのだ。


 エミーリアはそれを見て助け起こそうと手を伸ばしたが、転倒した令嬢にその手を弾かれてしまった。


 異変に気が付いた使用人達がこちらに駆けてくるようなのでエミーリアはその令嬢に一礼してからワゴンを押して館前のゴールまで走り抜けた。


 ゴールでは使用人達が押してきたワゴンの中にある皿やポットを出して中身が零れていないかを調べるようだ。


 そしてコースの途中で転倒した一緒に走った令嬢が使用人達に助けられながら戻って来るとこちらに冷たい視線を投げてきた。


 エミーリアはその行動で他家がどれほどブレスコット辺境伯家と縁を結びたがっているのかを思い知ったのだ。


 それにしてもメイドを雇うのは貴族の紹介状とか社交の場で両家が合意して決めるのが普通でありこのように試験を行うなんて前代未聞だ。


 しかもこんな体力テスト等聞いた事も無かった。


 ワゴンレースが終わった後、部屋に残っている令嬢は十数名にまで減っていた。


 そしてあの傲慢な伯爵家の令嬢や一緒にワゴンレースをして今はこの部屋に居なくなっていた。


 ここから居なくなった令嬢達はどうなったのか気になったが、今はそれを聞く相手も居なかった。


 エミーリアは先程のワゴンレースのせいで震えている両腕や膝がようやく元に戻ってきたところだった。


 流石は王国一の武力を誇るブレスコット辺境伯家である。使用人にもそれなりの力を要求するという事なのだろう。


 そして試験はまだ続くようだった。


 人が減って寂しくなった部屋に使用人が入ってくると次の試験についての説明を行ったのだ。


 次はワゴンを運んで食堂に入り指定されたテーブルに配膳するというありきたりな物だった。


 だが、ここはブレスコット辺境伯家の食堂なので、どんな罠が仕掛けられていても不思議ではなかった。


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