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悪役令嬢の華麗?なる脱出劇  作者: サンショウオ
ゲームフラグとの戦い
106/155

その106(夢の世界1)

 

 その日、王城キングス・バレイは大いに沸き上がっていた。


 第一王子イライアスとリリーホワイト嬢の婚礼の儀が執り行われるからだ。


 その主役であるリリーホワイト嬢は花嫁の控室で、沢山のメイド達から服装のチェックを受けていた。


 今日の衣装は沢山の刺繍やフリルが付いた真っ白の花嫁衣裳であり、頭には沢山の宝石がついたティアラが乗り、額にはダイヤモンドが付いた額冠を付け、それを絹のケープで被っていた。


 胸元には鮮やかなルビーが付いたネックレスを付けていた。


 ゲームのエンディングがようやく動き出したことに熊野彩芽は満足していた。


「これでようやく第一王子ルートの攻略が完了するのね」


 控室を出た熊野彩芽は誘導係の後を付いて、王子の待つ会場まで続く毛先の長い絨毯の道を静々と進んでいった。


 そして大きな扉が開くとそこには王子と式次第を進行する司祭そして沢山の参列者が主役の登場を待っていて、彩音が姿を現すと万来の拍手でもって歓迎してくれた。


 そうこれがやりたかったのよ。


 それはゲームがエンディングを迎えた時や、小説や漫画の最終回を読み終えた後の達成感に似ていた。


 そう私はやり遂げたのよ。その満足感がとても心地よかった。


 乙女ゲーム「ファン・ステージ」のエンディングは、結婚式において攻略対象の第一王子との誓いのキスで終わるのである。


 熊野彩芽の顔の前には、第一王子の顔があり、私に誓いのキスをするためゆっくりと近づいてきた。


 そして私の唇に王子の唇が合わさったその瞬間、熊野彩芽の意識は大いなる満足と共に消えていった。


 そうゲームが終了したのだ。



 私はキングス・バレイで行われた第一王子とヒロインの結婚式というゲームのエンディングを眺めていた。


 そして無事2人がキスをする所を見届けると、そっと会場を出て池のある中庭に避難してきた。


 私はゲームの攻略キャラでしかない第一王子に何の思い入れも無いのだが、参列者がチラチラとこちらを見て来る姿に気が付いてしまうと彼らが何を考えているかが分かりその場に居ずらかったのだ。


 池に架けられた小さな橋の上から水の中で泳ぐ錦鯉を眺めながら手に持った餌を水面に撒くと、錦鯉は餌めがけて突進してきては大きな口を開けて次々と餌を吸い込んでいった。

 錦鯉達の狂乱が始まると水面に様々な波紋が広がり、それまで静かだった池にバシャバシャと水音が広がっていた。


 乙女ゲーム「ファン・ステージ」のエンディングのテロップが変わったことによるゲーム補正は今の所現れていない。


 どうやら私ことクレメンタイン・ジェマ・ブレスコットの死亡フラグは、回避されたようだ。


 そしてこれから私はどうなるのだろうとぼんやり考えていると、後ろからエミーリアの声が聞えてきた。


 いつの間にか私の背後に来ていたようだ。


「素敵な結婚式でした。次はクレメンタイン様の番かもしれませんわね」

「私よりエミーリアはどうなの?」


 私がそう言うとエミーリアは嬉しそうな寂しそうな、どっちつかずの表情をしていた。


「モス男爵家が再興したのは嬉しいのですが、私が女男爵になってしまったのでお嬢様付きのメイドを続けられなくなりました。あ、ところで私がモス女男爵を名乗るにあたって、ミドルネームにミズキを使わせてもらおうと思って貴女の許可を頂きたいのです」


 このゲームの世界でのミドルネームは、偉人や一族の中で尊敬する人物の名前を付けるのが一般的だ。


 それを私の名前にしてくれるなんてとちょっと嬉しかった。


 私が快く承諾するとエミーリアも嬉しそうな顔をしていた。


 これからはエミーリア・ミズキ・モス女男爵と名乗るようになるのだ。


 社交の場でミドルネームの事を聞かれたらどう説明するのだろう?


 冒険者仲間の名前?


 それだときっと教えられた相手は、貴族と冒険者という相容れない身分に目を丸くする事だろう。


「貴女にもお礼を言わなければなりませんわね」


 エミーリアの顔には普段クレメンタインに見せる親しみ深い笑みは無く、真面目な顔で私を見ていた。


 それはまるでクレメンタインの中に入っている高月瑞希に向けて話しているかのようだった。


「おかげで私の大事なお嬢様が死なずに済みましたわ」


 まさか、エミーリアには私が誰だか分かっているというのだろうか?


 でもどうやって?


 外見的には私はクレメンタイン・ジェマ・ブレスコットだ。


 エミーリアの言い方だと、私が二重人格者と言っている訳でもなさそうだ。


 完全に別人格がクレメンタイン・ジェマ・ブレスコットの体を借りていると思っているようだ。


「驚いているようね。貴女に分かるかしら? この繰り返す世界で愛する人が何千何万回も殺されるのよ。私はその度に愛する人を守れない自分を責めながら身悶えるの。貴女に私のこの気持ちが分かる?」


 いや、それはゲームのシナリオではないの?


 でもこれが現実で私も好きな人が死んでしまうような世界なら、変えてしまいたいと思うだろう。


 私はその気持ちは分かると言うと、エミーリアは嬉しそうに微笑んでいた。


「私は、この呪われた運命を何とかしたいと祈ったの。するとお嬢様の中に貴女が居たわ。貴女は私の期待にこれ以上ないという位応えてくれた。それと今頃、第一王子と結婚したお嬢さんも元の世界に戻っている頃よ」


少し表現を変えました。

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