えっちでちょろい冒険者
「それじゃあ今日はよろしく頼むよ、新人ちゃん」
ギルド登録からしばらくして。
親切に怪我の手当てをしてくれた冒険者たちに囲われて、わたしは自己紹介を済ませていた。
「いやあそれにしてもね、うちにこーんなかわいい子が入ってくれるなんて!」
「ああ、やはり美人がいると華になるな」
「……まあ、お上手ですね」
こちらこそ有難い限りだった。窮地を脱出できるのと同時に、次の問題だったパーティ選びの問題まで解消されたのだから。
なかなかいやらしい手つきで看病をされた後、勧誘はすぐだった。
わたしを囲い称賛する男たちは全員Dクラス以上の証を付けている冒険者で、つまりそこそこ出来るといっていい。
簡単なダンジョンならなんら危険はないだろうし、打たれ強そうだから慣れない白魔導士の練習もやりやすい。
いきなりこんな中堅どころに誘われるなんて、わたし才能あるんじゃない?
……なんてちょっと上機嫌になっているところで、男たちも自分の紹介を始める。
どれ、ちょっとよく観察してみるか……。
「おれっちはエドガー! 獲物は短剣だ! アサシンを目指してるのさ!」
……金髪。外面だけで女たらしだと分かる。
「俺様はエリザベス。見ての通りタンクで槌を扱ってる。……名前は笑うなよ?」
……ハゲの大男だ。
「僕はエルザ。剣術士で、このパーティのリーダーをやっている」
……白髪の青年。一番若いだろうに、リーダーなんて立派なもんだな。
彼らの腰には、それぞれDランクの証である鋼のアクセサリーが輝く。
『エ』行ばかりで覚えやすいな。
よし。金髪、ハゲ、白髪で覚えることにしよう。
……せっかく助けてくれた彼らに失礼と思うかもしれないが、こいつらはただ爪でひっかいた程度の傷を治療するのに、関係ない脚だとか腕だとかをとにかくベタベタと触ってきていた。
下心なしで動くなとは言わないし全く健全なことだが、これ幸いと怪我した新人の女の子を余計に触るのは違うだろう。下心丸出し過ぎる。
だがまあ、姫ちゃんとしての足掛かりにはこのくらいいやらしい方がやりやすいのかもしれない。
そういう意図を含めてわたしも承諾したのだ。
「わあ~! みんなたくましくて頼りになりそう!」
「へへ、そうっしょ!」
適当に分かりやすく褒めておく。
ついでにボディタッチも入れておこう。魔女さんの教えだ。
三人の中で一番大柄なハゲの上腕二頭筋をわざとらしくつついて、
「すごーい! あなたとっても固いのね! わたし、こういうの大好きなの……」
「……!!」
ハゲが茹で上がる。童貞かこいつ。人の事言えないけど。
気持ち悪いのでターゲットを変えようと他の二人を見ると、何故か脱いでいた。
「どうかな? 僕も筋肉には自信が……」
「おれっちの腹筋も触ってみてくれよ! 仕上がってるっしょ!?」
「……」
もしかしてとんでもないハズレを引いたんじゃないだろうか?
ちょろくてやりやすいかもしれないけど、あまりにも頭が残念過ぎる気が……。
……嫌な汗が背中を流れるも、今更抜け出しにくい雰囲気だったので何も言い出せないわたし。
仕方ないと内心嫌々しながら、表面上は取り繕って彼らの肉体自慢に合わせてボディタッチを繰り返す。
最悪な気分だったが彼らからの好感度はかなり上がったようで、一段落したころには三人ともわたしとの距離が一歩近くなっていた。
……くだらない世間話なんかを少しできるようになった後、いよいよだとこちらから切り出す。
「それでね~、わたし、さっそくダンジョンに行ってみたいんだけど」
「ダンジョン? 君みたいな子にはあまりにも不釣り合いなところだ、やめたほうがいい。あそこは危険がいっぱいで君みたいな子が怪我でもしたら――」
「どうしても一回行ってみたいの! ね、……だめ?」
「いいよ、さあ出発だ」
扱いやすくて結構なことだ。
新しいパーティメンバーが入ったばかりですぐにダンジョンというのは、二人も何か意見がありそうだったがリーダーが了承したのだ。結局何も言えずに口ごもる。
「お前、ポータルを」
「ういっす」
白髪に指示を出された金髪が、ポケットから小さいサイコロの様なものを取り出す。
それを軽快に空中に放ると、それは綺麗な放物線を描きながら空中で静止し崩壊。その場に半径1メートルほどで細長い鏡の様なものが出現する。
『インスタンスダンジョン』
久しぶりに見た文明の利器、魔道具だ。
わたしもよく使っていた。ダンジョンを好きなタイミングで抜け出すことが出来て、かつ抜け出した場所を記憶し、これを再度使用すると抜け出した位置へ戻ることができる。
普通に潜りなおすより好都合だ。こいつらがどこまでダンジョンを潜っているか、一番理解しやすい。
「それじゃあイブちゃん、僕たちの後に続いて」
男たちは次々とゲートを潜って消えていく。勝手に最後列になれているなんてラッキーだな。
……さて、か弱い姫ちゃん初めての冒険だ。頭の弱いナイト様たちはきちんと姫を守ってくれるだろうか。
まあ、腐っても男だ。まさかこんなかわいい女の子を置いて逃げかえるような腰抜けではないだろう。
一抹の不安を胸に抱えながら、わたしは最後にゲートに飛び込んだ――