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10/10

銀の格闘士


「申し訳ありません、私ったら早とちりしてしまって……」



 お洒落な食事処を出て、再びギルド。

 

 突然服を脱ぎ始めた彼女を全力で止めたわたしはなんとか、昨夜の騒動が勘違いであることを告げることができた。


 なにをどう勘違いしたのかはよく分からなかったが……理解してくれたなら良しとしよう。



「もういいの、気にしないで」


「いえ、やっぱりこういうのは順序を踏むべきだと反省してます……」



 じゅ、順序?


 あれ、まだ何か勘違いされてない?


 わたしはちゃんと、「昨夜言ったことは全部忘れてほしい」って言ったんだけど。



「……イブ様は照れ屋さんだから、もっとお互いの時間を増やしてからですね」



 何か怖い台詞が聞こえた気がするけど、きちんと誤解は解けているはずなのだ。気にし過ぎということにしよう。


 突然服を脱ぎ始めたりなど奇行は確かに目立つが、どうやら悪い印象は抱かれていないらしいし。


 それに貴重な女の子同士の知り合いだ。大事にしていきたい。


 

 姫ちゃんを演じるにあたって同じ性別の生き物というのは邪魔でしかないと教わったが、今まで会った子と違ってギスギスしてるわけじゃないし。


 むさくるしい男どもに囲まれ続けているのも息が詰まったから。いいリフレッシュだ。


 ちょっと好意の方向性が違う気もするけど。



「それでイブ様? イブ様はこのあとどうされるおつもりですか?」



 シャロちゃんは手を後ろに組んでふらふらと体を揺らしながら、上目遣いを見せる。


 ぐぬぬ、かわいい。わたしも見習わなければ。



「まずはパーティ探し。それでいつもみたいにダンジョンに潜って、おわりかな~」


「いつも通りなんですね。……イブ様は毎日違うパーティで活動されていますが、どうしてですか?」 

 

「あ、それは、えっと!」



 ……当たり前のようにわたしのライフスタイルを把握されている事にはもう突っ込まない。


 それより、痛い所を突かれてしまった。


 自分に都合の良い男がいるパーティを探しています、なんて素直に言えるわけがない。


 しかし、普通の冒険者ならもう固定のパーティがとっくに見つかっているような時期だ。ふらふらとしてるのはあまり印象がよろしくない。



「……なんて、意地悪な質問でしたね」



 しかしここでシャロちゃん、くすっと笑う。



「私、知ってます。ずっと見てましたから」


「……え、え!?」



 まさか、まさかこの子わたしが姫ちゃんであることに気付いてる……のか?


 少し身構える。

 

 ここはギルドだ、あまりわたしのマイナスになるようなことを言いそうなら――


 ……けれど、次にシャロちゃんの口から飛び出したのはまたもや予想外のもの。




「ダンジョンに入る時はみなさんと和気藹々としていますが、いつも出てきた後はどこか空気の変わっている感じ……私、分かるんです。


 あの鼠共はみんな――イブ様の魅力が分からないどうしようもない方達なんですよね」


「シャロちゃん……」



 

 大丈夫、突っ込まない。


 


「でも、もう安心してください。これからはわたしがいるんですから」


「……え? それって」


「はい! イブ様さえよければ、わたしのパーティへいらしてください!」


「え~……っと、それは~」



 まさかのパーティのお誘い。……まあ、あんまり乗り気にはならないけど。


 確かにシャロちゃんはわたしを悪く思っていないから、今までの子みたいにギスギスすることも無さそうだけど……しかし問題はこの容姿だ。



 この子はどう見ても冒険者が向いている身体ではない。


 今までも細い子は見たことあるけど、ガッチガチに鎧で固めてたりしていた。それに比べてこの子は白い布地の服に藍の簡単なスカート。


 とてもダンジョンで通用する装備とは思えないんだよね。



 わたしだっていつまでも低ランクではなく、固定パーティに入るならきちんと上を目指していくところがいいのだ。


 リリーが何か仕掛けてきたときに、姫ちゃんを守ってくれるナイトが役に立たないでは済まされない。



 ……と、あれこれ頭を悩ませていると突然、シャロちゃんがわたしの右手を取る。そして、かわいらしく微笑んだ。



「イブ様、もしかしてわたしのランクについて気にしてます? ……それなら何にも心配いりませんよ」



 そんなことを言ったかと思えば……それが当たり前だというように自然な動作で、わたしの右手は彼女の胸元へと吸い込まれていった。



「シャロちゃん、何して――!?」


「イブ様。これがわたしの力です」



 慌てて手を離すと、反動で彼女の首から胸元へと隠れていた何かが表へと飛ぶ。


 それは銀色に光る、人の拳を模した模様が彫られたアクセサリーだった。わたしは目を疑う。



「……これ、もしかして」


「イブ様。わたしはこの力で、あなたを全力で守るナイトになれますよ?」



 銀色に光るアクセサリーは、ランクBの格闘士のもの。


 少なくともこの姿ではまだ見たことのない、エリートクラスの冒険者の証だった。 

 

思ったより多くの人に見られていて驚いています。

ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 10/10 ・ここから面白そうです。続きを楽しみにしときます。
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