第7回 ナットは小さいが断面図がいる
講義開始のチャイムと共に、図面を描き始める。
今回描くナットはそう大きなモノじゃない。むしろ小さい。小さいからこそすぐ終わるはずだ。
しかし懸念はあった。これは実寸大で描いて良い物だろうか?と。
確かに講義では「図面は原則。実寸(原尺)で描く」という事を教わっている。仮に実寸ではない大きさで書くならば、教科書に記載された推奨する尺度で描くことを促されている。
ではこの場合ではどうか?
重要なのは必要性だ。図面には常に意味のあることを描くことが求められる。このナットの制作に置いて、図面を実寸ではなく、それこそ2倍の大きさなんかで描く意味があるだろうか。
考えてみようとは思ったが、勉強の足りない自分の脳味噌では「紙はA4しかないし、実寸以外で描くのはなんだかめんどくさい。もし大きく描くとしても、意味は「作る人が小さいと見づらそうだから」くらいしか思いつかない」といった具合だ。
実寸のまま描くことを覚悟した僕は、製図板にA4トレーシングペーパーを貼り付けた。
しばらく作業を続けていると、もはや恒例のため息から始まる教授のお話が始まった。
「君たち断面って理解できてる?先週あんなに説明したのに出来てない人が多すぎる」
教授は手元をスクリーンに映しながら説明を始めた。教授の手元には油粘土と凧紐とボルトがあった。
教授は粘土をこね出す。
「皆さんがあまりにも理解できていないので、粘土を持ってきました」
粘土をある程度こねると、凧紐で粘土を真っ二つに斬った。
「わからないなら実際にやってみれば良いんだよ。断面がどうなるのかをさ」
真っ二つになった粘土にボルトのねじ部を押し付け、ボルトを外す。
粘土にはボルトのねじ部の跡がくっきりと残っていた。
「もうここまでやればわかりますよね?断面がどうなっているか」
おそらく、前回の講義の最後の方に説明していた「ねじ部の部分までしっかりハッチングを入れること」ができていない学生が多かったのだろう。しかし、こればっかりはしっかりノートを取っていた僕はそこは問題なく描かれていると思っている。
前回の課題のボルトでは何もわからないゼロから描き始めていたが、今回のボルトは少しばかりの予習はした。そのおかげか少しばかり早く図面を描くことができた。
後ろの席の友人と少しばかりの確認をして、足りなかった寸法を補う。しかし、いくら見直しても「これが完ぺきな図面だ!」という気持ちにはならなかった。
この話書いてる日の晩御飯に納豆が出ました。食後あれが賞味期限切れているという事実を聞かされました。