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第6回 工作物はいつも歪んでいる

言われたことだけをやるのではなく、自分で考えて行動することが大事なのだ。

ましてや、ボルトの図面を社会に出て描くことはまずない。この課題の多くは、今後この学科の学生として「まだこの世界にない機械」を設計する際に必要な技術を身に着けるためのものだ。製図のチュートリアルなのだ。

学生の多くはこれを理解できていないのだろう。僕は1年越しに改めて考え直してわかった。これを読む学生にはそれを理解して欲しい。別に媚を売りたいわけではない。事実なのだ。(平成31年4月著)

講義開始と共に、ボルトの課題の返却が終わった。

僕の図面はびっしりと赤でダメな部分にチェックだけが入っていた。矢印の矢の部分なんか全てにチェックが入っていた。最初のうちは30°の角度を守って描いていたが時間が無くなって雑になったのが目に留まったのだろう。テンプレートを買うかどうか真剣に悩んだ。



教授の講評をする前に、ある本を紹介してくれた。

その本の名前は「算数・数学ビジュアル図鑑」


「君たちは図面を描く前にモノの見え方を勉強し直した方が良いかもしれないね。小学生の時に習わなかったかな?」

そう言って教授はホワイトボードに三角錐を描く。


「この三角錐は横から見た時は三角形だ。でも、上から見たらただの円。これができていないんだよ君たちは」


小学生からやり直した方が良いようだった。


それからも、教授はボルトの説明を続ける。


「やっぱり君たちは書いてあることを読まないんだね。全部書いてあるんだから、この教科書に」


ここで、教授が目次課題の時に言ったことを思い出す。

教授は学生に教科書を読み込んで欲しくて目次の課題を課したのだ。


(目次の課題をやってもやらなくても学生が教科書を読まない事実は変わらなかったのでは?)

と、おそらく教室にいる何人かの学生は思ったことだろう。

何故学生が教科書を読み込まないのか、それは予習をやる時間を確保するだけのスケジュール管理をできないからだと僕は思った。学生の多くは何故か日曜の夜まで実験のレポートを書き、深夜にレポートを書きあげて朝9時に提出している。その為、製図の予習を怠っているのだ。

そう考える僕もまた、そういうタイプの人間だった。



それから教授は平面性状の話や寸法公差、参考寸法の話など「見れば書いてある話」をしっかりと説明してくれた。

特に表面性状の話はどれも初めて聞くことばかりだった。


表面性状には「除去加工を一切しない」「除去加工を必ずする」「除去加工の有無を問わない」 の3種類があり、今回の2年生の手書き製図では「除去加工の有無を問わない」は絶対に使ってはいけないらしい。

というのも、これは加工する人から見れば「除去加工するかしないかくらい自分で考えろよ?」と言っていることに等しいらしく、素人の学生風情が使えば生意気にしか感じず加工する人が気分を害する為らしい。




これをボルトの課題の前に説明してくれれば学生はもっとまともな図面を描いてくれただろうに、と思うがそれでは学生の為にならない。これは教授なりの優しさなのだろうか。


仮にこれが教授の優しさだというのならば、教授はツンデレの類だ。それこそ、これが高飛車な眼鏡美人教授ならばこの大学の学生ならば喜ぶ人も多いだろう。「我々の業界ではご褒美です」などと口にしながら喜んで罵倒されに行く人もいただろう。


教授は男だ。



「見ればわかる」

教授は何度も言った。その言葉を聞くたびに、僕の頭の中のサーバルキャットが「すっごーい!」と感想を述べてくれた。


違う、そうじゃない。と言いたかった。「見れば書いてある」はわかる。けれど「見ればわかる」と「見れば書いてある」をイコールで結び付けないで欲しい。そう思った。

けれどそんなこと言えなかった。言える立場にいなかった。僕自身もまた、見ていない学生の1人だったから。



それから、次の課題の説明が始まる。

次の課題はナットの図面だった。描くもの自体は小さいが断面図が必要になる課題だった。


「断面図を理解するうえで、皆さんには今から映し出す投影図の物を工作用紙で作ってください。今回も完成したら右手の上に乗せて肘を曲げずにまっすぐ伸ばして掲げてくださいね。指示に従わない人のモノは見ませんから。また、作り終わってOKを貰った人は次は断面図を自分のノートに書いてください」


スクリーンに三角法で描かれた図形が映し出される。僕たちは急いでメモを始める。僕たちは一度言われたことは覚えておかなくてはいけないのだ。前回のように「メモくらいすぐやってくださいね」などと言われないように。


工作が始まってしばらくして、教授は困ったように言った。

「君たちはどうしてスクリーンを見るんだ?自分でメモしたものがあるだろう?自分のメモが信じられないのか?」


どうやら、スクリーンと自分のメモを見比べて間違っているところが無いか不安になっている心配性な学生がいたらしい。しかし、それもまた教授にとっては不思議だったのだろう。

「もう自分のメモを見ろよ」


そう言って呆れたようにスクリーンに映すのをやめた。



しばらく時間が経って、教授は笑いながら言った。

「まだ完成しないの?こんなの小学生だってできるんだよ?」

教授は小学生を比較対象にするのが大好きなようだった。もうこの講義でそう言われるのは何回目だろうか。


「なんだったら小学生を連れてきたいですね!きっと言われますよ「え~?お兄ちゃんこんなのもできないの?」って」


小学生が女子小学生ならこの大学なら喜ぶ人が多そうだな、と思い女子小学生が歩き回る教室を想像する。


「本当に、君たち大丈夫かな?こんな時間経っても2人しか完成できないなんて。もう工作はやめてください。」


教授はそう言って完成した人から借りた工作物をプロジェクターで映し説明を始めた。


・・・・・・・(※この部分の説明は忘れてしまいました。ノートすら残っていません)


説明を終えて、教授は言った。

「それではナットを書き始めてください。この課題は来週までに完成させてください」


僕らは唖然とした。主に今日は課題をせず工作して終わると思っていた学生には絶望に近い何かがあった。



注意点は確かに言われた。切り口に入れるハッチングは入れなくても良いが、2年生の製図では絶対に入れるということや、めねじの部分にもハッチングを入れることを忘れないようにということも言われた。


必要なことは説明された。つまり、僕らは今度こそ「見ればわかるのだから見れば良いじゃないか」と言われる前に見なければいけないのだ。


講義はもう30分ほどで終わる。僕はこの日、製図はせずにどんな図面を描くかを軽くルーズリーフに下書きして終わった。


この講義の途中、とんでもないくらいの尿意に襲われて死にかけました。一番前の席ということもあり、立ち去るにしては目立ち過ぎるし下手なことをして死にたくないけれど、我慢の限界を超えた時僕はどうなってしまうのか、ただただ不安でした。

教室の床はカーペットが敷かれているので、下手に漏らした日にはシミが残るだろうか、不名誉な痕跡が残り続ける事には僕は怯えました。

結果として、僕は己の精神力と後ろの友人の励ましで耐え忍び、ナットの作業開始と共に製図板を取りに行く人々を押しのけて便所に駆け込みました。

講義前は水分を摂り過ぎないよう皆さん気をつけましょう。


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