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第4回 課題返却と規格に合った人生

本格的な製図に入ると言ったな。あれは嘘だ。

開口一番、教授は言った。

「未完成が多い」



講義が始まると同時に課題が返される。評価順に学籍番号が呼ばれる。評価の始まりはBからだった。


「A評価が誰一人としていない。再履修ですらいない。もっと頭を使え」

教授はそう言って説明を始めた。


事前にテンプレートを用意することや、文字ならば文字の間隔に指定はなかったのだから詰めすぎず、適度な間隔で書けばよかった。時間内に終わるよう考えて書くことができていない人が多すぎる。


そんなことを教授は僕らに言った。


「それに…これは製図だ。見本の字を見て書けと言っているのに自分の字を書いてる人も多い」



それはつまり「自分を捨てて書け」ということだった。確かに、最初の講義で「規格(ルール)に沿って描く」ということは教わった。それを実践していない人が多いのだ。実践しなければいけないのだ。


僕は思った。こうして、個性を失った若者が増えていくのだな、と。


就活に挑む学生は皆、同じ髪型同じ服装で面接を行う。その光景はさながら大量生産されている機械のような、「規格に合った製品」だ。

僕らは規格に沿って生きるのだ。規格に合わないモノは除去されていくのだ。


それがこの世界だ。








などと考えているうちに、教授は次の課題を説明し始めた。

まずは他品一葉と一品一葉の違いについて、部品図と組立図についての話が始まる。

この機械手書き製図では原則一品一葉で図面を描くが、時々他品一葉の図面もあるからそこは柔軟にとらえろ、と教授は語る。


「部品図と組立図は通常、組立図から先に描く。また、些細な話だが「組み立て図」ではなく「組立図」という表記の仕方を間違えないように」



その後は投影法の話が続いた。

図学という学問で学ぶこの知識だが、色々あって今はやらないらしい。機械系の学生として更なる高みを目指したいならば自主的に学ぶと良い、と教授は語る。

日本では第三角法を用いるらしい。


三角法の正面は一番線の描ける面にする。

主投影図は製品の形、機能の特徴を最も明瞭に表す投影図でなくていけない。

また主投影図とは別に、最低もう一つは別の方向から見た図も描くことが必要だ。


そして、これらと共に「図面には必要なモノだけを描く」ということも忘れてはいけない。


説明を終えると、教授は言った。

「それでは、次の課題は本格的に図面を描いてもらいます。しかしその前に、皆さんにを見せますのでそれを工作用紙で実際に作ってみてください」


スクリーンに映し出されたのは三角法で描かれた図形だった。


「これを持ってきた工作用紙で作ってください。完成した人は、右手に乗せてキチンと肘を伸ばしてあげてくださいね。指示に沿っていない人のモノは見ませんから。」

教授は後半の部分に力を入れて言った。


ある者はどう作るか唸りだし、ある者は早速ハサミを使いだしたりする。その光景に、教授は深いため息を吐いた。


「機械系の学生ならせめてメモでも取った方が良いんじゃないかな?もうスクリーンに映すのやめますよ?」


それを聞き慌てて映し出された図形をノートに書き写す学生たち。それを見ながら教授は再びため息をつく。

「ほんっと…君たちは言われたことしかできなんだね」


もはや、嫌味を言われることはデフォルトである。けれど、これは嫌味ではなくただの感想なのだ。その証拠に、教授は直ぐに言葉を付け加える。

「まぁあんまり言うと、嫌味だって文句を言う人がいますからね。これ以上は言わないでおきますけど、でも本当に考え直した方が良いと思うよ」



多くの学生は、その言葉を聞き流しながら作業を進める。教授は巡回を始める。

少しずつ、出来上がった人たちが教授に見せるために出来上がった物を乗せた手をあげる。しかし、教授は首を横に振りながら「歪んでる」と言うだけだった。

「君たちよく考えた方が良いですよ。考えればわかることなんですから」


僕も見せるが、当然のように

「駄目。歪んでいる」

ついでに見られた隣の席の友人も同じことを言われていた。

「歪んでいる」長さ寸法は指示された通りの物だが、歪んでいると言われてしまった。


周りを見渡すと、同じように言われた学生ばかりだった。





幾刻が経っただろうか。数人がやっとまともなモノを作り上げた頃合いに教授はスクリーンに完成した図形を映し出した。


「機械系の学生ならこれくらいすぐ作れるようじゃないと駄目だよ」


今回多くの学生が間違えたことは、のりしろを用意してしまったことだ。のりしろがあるだけで、物体の厚みが変わる。そのため寸法が狂い歪んだ物体が出来上がってしまうのだ。

正しい作り方としては、のりしろを用意しない展開図を作り、別途でのりを塗った厚紙を内側に貼り付けて立体として組み立てることが必要のようだ。


詳しい説明をしたいが、文章力の無さの為にここには書き記すことができないが、とにかくそうなのだ。


なかばひっかけ問題のようでなんとも腑に落ちないが、機械系の学生ならばそれくらいは考慮すべきことなのだろう。とにかく、寸法通りに作ることは大変だし、投影図から立体を読み取ることはできるようにしなくてはいけない、ということだった。




講義終了後、学生たちは出来立てほやほやの制作物をゴミ箱にぶち込んでいく。

なんだかモヤモヤしながら、その日の講義は終わった。

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