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第1回 徴収される1000円と謎の課題

一番前の席で講義を受けることになりました。

僕はもう既に帰りたかった。

なんだって皆から怖い噂しか聞かない教授の講義を一番前で聴かなくちゃいけないんだ。



この講義を受け持っている教授は、僕の学科の名物的教授だ。なんでも「研究室に入った4年生が急に性格が悪くなり卒業後にまた会ったら気の良い男に戻った」だとか「酷い図面を描くとその場で破り捨てられる」だとか出所のわからない不穏な噂が絶えない教授だった。



講義開始の鐘が鳴り、講義が始まる。教授が教壇に立つ。狂乱の舞台の幕開けだった。


「まず皆さんにはこの教科書をこの場で買ってもらいます」

教授はそう言って、一冊の教科書を出した。教科書販売所には売っていなかった教科書だ。

「この教科書は皆さんがこれから学ぶ手書き製図において重要なことがたくさん書いてあります。1000円を持ってここに並んでください。再履修の人は買わなくて結構ですので」


皆がわらわらと立ち上がりだす。なんという事だ。この科目、初回講義で1000円を持っていない人間は落単するというのか?


「皆さん買いましたね?」

購入後、皆が席に着いたのを確認してから教授は再び喋りだす。

「来週、皆さんにはこの教科書の目次を作ってもらいます。どのように作るかは皆さんにお任せしますが、これからこの教科書を見る上で目次は細かい方が良いですよ?」


もはや驚きの連続だった。確かにこの教科書は目次が無い、欠陥品だったとは…欠陥品を1000円で売っているのか…?


「こうでもしないとみんな読み込んでくれないから」と教授はそう悲しそうに語る。しかし勝手のわからない僕らには、それがどういう意味なのかわからなかった。



それからは製図とは何か、という話に移った。

製図とは、設計図を作成することである。設計図は機械を作る時に使用するもの。設計図が書けなければ、これから先「新しい機械」というものは生み出せない。


そして、設計図を書くときは作る人のことを考えなければいけない。

工作機械の選定や細かい部分の詳細、そういった細かいことを言葉だけで伝えることは難しい。故に、百聞は一見に如かず、設計図を作るのだ。

そしてそれは、図面を描くことであり、製図である。


図面とは何か?

紙の上に線と点で描かれた図形の集まりを指す言葉か?違う。図面には規格(ルール)がある。ルールに沿った用紙に描き、様式に沿った記号などの情報を記入し、初めて図面となる。それは絵画とは異なるものだ。


図面と絵画はどちらも立体を平面上に描いたものではある。しかし、目的が違う。

絵画は、美術的な感動を我々に与えてくれるもの。情熱、悲壮、喜び、それは様々だ。

図面にはそのような感動はない。どこまでも無駄を省き、ただ「情報を伝える」という行為だけに全てを振ったものだ。図面に必要なものは「製作者の考え通りの形、大きさ、働き、精度を見た人が作り出せること」それだけだ。



その後は、規則の話(ISOやJISについて)や投影図の話が続いた。

「機械系の学生なら、JISが何の略かくらい言えないと笑われますよ?」

教授は笑みを浮かべて僕らにそう言い放った。



誰かが遅刻したりすると席が無くなるそうです。それに伴い繰上りで一番後ろの席に移動にならないかとこれから毎週願うことになります。

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