プロローグ
これが本当のプロローグ。第1回講義前のお話。
ここは東京にある、理工系の大学。未来のモノづくりを担う学生たちが日々勉学に励む場所だ。
僕はその大学の工学部、更に最先端の機械を作り出すことを目指す学科の2年生だ。
1年生の頃は、やりたくもない化学実験や、今後いつ使うのか一切不明な線形代数学なんかを学んですごしたけれど、二年生からはより専門的な科目を学べるらしい。
そして今日、僕は機械を作るうえで必要不可欠な技能である製図を学ぶために教室に向かっていた。
必修科目「機械手書き製図」これは僕の学科では絶対に避けて通れない科目だった。一見、「最先端の機械を作る学科なのに手書きなの!?」と驚くかもしれない。けれど、僕はもう驚かない。そもそも実験レポートだって手書きのこの学科だ。今更手書きに驚くほど僕はやわじゃない。
先輩の話じゃ、この科目はかなりヤバいらしい。落単の割合が尋常じゃなく、受けた学生の1割~3割は落とすらしい。通年の科目で、前期だけでそれだけ落としているということは後期はもっと多いのだろう。
僕は新品の手書き製図の道具を持って教室に向かった。途中、友人に会った。
彼の開口一番出てきた言葉は
「この科目ってヤバいんだよ…」
皆、噂は聞いてたみたいだった。
しかし、必修科目。そんなに沢山の学生が落ちるような科目あるわけないだろう、と軽い気持ちで僕は教室のドアを開けた。
「え?」
僕はその空気に驚いた。
教室の左端の席は、見慣れない顔の学生で埋まっていた。再履修者だ。空気はどことなく澱んでいて、「負のオーラ」なんて言葉が似合う空気が充満している。紛れもない「絶望」の色をしていた。
相当ヤバいことがひしひしと感じながら、前の方の席には座りたくないなと僕は思った。
「座席表出てるな」
と友人が言う。見ると教室の前にプロジェクターで座席表が映し出されていた。
それを見て、僕は思わず叫びそうになった。
僕の席は、一番前だった。