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ささみさま

 町を見下ろす小高い山の麓に、西日に照らされた小さな祠がひとつ存在している。木製の質素な造りの祠だ。かつての住人が手塩にかけてこしらえたその祠の内部には、しかし何も奉られてはいない。空っぽなのだ。

 この祠を初めて見るものは、大抵どうして何も祀っていないのかと不思議に思うだろう。かく言う筆者も、初めて実物を見たときにどういうことなのかと住人に聞いてしまったほどだ。筆者に語ってくれた老齢の婦人は、わしにも分からんと言って一笑いしたあと、神妙に語ってくれた。

 いわく、この祠には猫の神様がいるのだそうだ。白くて瞳の青い、それはそれは美しい猫。同じく取材をした住民のほとんどが、この老婆と同じ証言をくれた。彼らはこの祠で猫の鳴き声を聞き、また白い影を見たと言う。にわかには信じられない話であるが、しかし確かにここには何かがいるのかもしれないと思わせる何かがここにはあるような気がした。帰り際に、筆者は祠の前で手を合わせることにした。

 数秒間目を閉じ、ふと見上げた祠の上に、その白猫はいた。じっと深い青色の瞳を私に向けたかと思うと、急に興味を失って山の中へ消えていってしまった。がさがさと藪を駆けていく後姿を捉えようとすぐさま追ったのだが、既にその姿は見えなくなっていた。

 今、この記事を書きながら筆者は思うのだ。もしかしたらあの猫こそが祠に祀られていた猫の神様ではなかったのかと。無論、証拠などどこにもない。単なる思い違いだと言われればそれまでである。だが、思うのだ。あの猫が神様であったらなあと。

 それは単なる願望である。形のない思い込みである。誰かが筆者を馬鹿にしても何もいえないのである。それでも、筆者の中には、あの猫を神だと思いたい自分がいるのだ。

 これはちょっとした遊びと似ているのだと思う。そう思う方が面白いから思っているだけのことなのである。

 願わくば、この世から神と呼べる神秘が存在しなくならないように……。



                 S56.7.23        ××市 ささみさまの祠を取材して  



ここまでお付き合いいただきありがとうございました。初めての長編でしたので、各話の分割部分など目に付く部分も多々あったと思いますが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。

それでは、またいつか長編でお会いできることを祈りながら。

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