第8話 運命の瞬間、可愛いは正義だと知りました!
口蓋を3歩下がって……フフフフフフフ
陪審員席の純白なる翼を持つ紳士の皆さん、お聞きください。私は––
門の扉を開けた直後、俺は自分の間違いに気づいた。
俺は最上階が宝物庫だと思ってここまで来たが、宝物庫は上から二番目の部屋だったのだ。
では、俺が入った部屋は何の部屋だったかと言うと。
部屋の中はカーテンが閉められているため暗く、質素な椅子やテーブル、本棚やランプが置かれただけで、城らしい煌びやかな装飾品などは1つもなかった。
そして、部屋の奥にあるベッドの上に人影があった。
暗がりの奥にいるその人影は、よく見ると幼い少女であることが分かった。
薄いプラチナブランド、或いはクリーム色とでも言うべき綺麗な髪の毛と透き通った水色の目をした少女は、怯えるようにこちらを見つめている。
年は小学校高学年ぐらいだろうか?
にしても、とんでもなく可愛い子である。
日本にいたら、アイドルになれる。
というか、天使ではなかろうか?
それ程までに整った顔とそのあどけない表情が、俺の胸を高鳴らせていた。
あぁ、何だろうこれは。
可愛すぎだ。
可愛すぎるのだ。
これが恋なのだろうか?
その少女は白いドレスのようなものを身につけているため、一瞬、魔導士の娘なのだろうか? と思ったのだが、すぐにそれは違うだろうと考え直した。
なぜなら、少女の足には鎖が繋がれていたからだ。
「あなたは、誰ですか……?」
「俺は……ユキト・クローだ。ここの城主が悪い組織に加担していると聞いてな。それを阻止するためにここに来た侵入者だ。君は?」
まぁ、これぐらいの情報なら教えても大丈夫だろう。
一瞬でそう考えた俺は、優しくそう答えた。
俺、天才じゃね?
「私は……クロエ、です。小さい頃にここの城主に攫われてから、ずっとこのお部屋で暮らしてきました」
「ずっとって……?」
「両親の顔も覚えてないぐらい前からです」
マジっすか……それって、拉致監禁じゃね?
これ、警察に通報……そっか、警察なんているわけないか。
こんな子を拉致監禁するとは許せん!
俺がどうにかしてあげないと。
「じゃあクロエ、君はここから出たいと思うかい?」
「それは、出たいです! でも……ここからは出られません。それに、 ここの城主、バゼル・ビュートが許しません。もし、バレて捕まったら……」
まぁ、当然出たいよな。
ただ、バレた時が怖い、か。
じゃあ、俺のやることはただ1つだ。
完璧かつ、最高の作戦だ。
「クロエ、これから俺が君を連れ出す。文句は聞かない」
「でも、もし捕まったら」
「––この城から、俺が君を盗みだすんだ。だから黙って盗まれろ、な?」
「……っ! はい!」
俺が優しく微笑みかけると、クロエは一瞬息を呑んで、俺の案を承諾した。
その目からは、ぽろぽろと涙が溢れていく。
俺はクロエに近づき、そっと抱きしめた。
きっと、今まで1人で耐えてきたのだろう。
言っておくが、別に役得だなんて思っていないし、いい匂いだとも思っていない。
思っていないったら思っていないのだ。
本当だ。
ここまでの短い会話だけでもクロエは賢い子だと分かる。
多分、今の俺の発言の意図も理解したのだろう。
俺が全ての責任を負う、と言っていることも。
「じゃあ行くけど、何か持って行きたいものはある?」
そう聞くと、クロエは目元を拭いながら首を振った。
わぉ、今の仕草めっちゃ好みやで。
可愛すぎたちゃうか?
「オッケー。じゃあ行こうか」
「え? ふえぇ!?」
俺に抱き上げられたクロエが驚きの声を上げる。
所謂、お姫様抱っこというやつだ。
恥ずかしいのか、クロエの顔は真っ赤に染まっている。何かぶつぶつと言い始めたが、特に文句を言っているようではなかったのでいいだろう。
うん、やっぱり可愛いな。
さて、それではやるとしよう。
「俺よ……消えろ」
そう強く念じながら呟き、部屋を飛び出す。
階段の上りは地味に大変だったが、下りはそこまで大 変ではない。
「あ、魔宝玉を取ってこねぇと」
「え? バレちゃいますよ!?」
「大丈夫だって」
仕事を思い出した俺は、一つ下の階の部屋まで行った。
そこには、最上階と同じように兵士がいた。
ただし、俺の能力は俺が触れているものにも影響する。
つまり、現在俺が抱きかかえているクロエも見えていないのだ。
「……なんで……もしかして、見えてないんですか?」
「ご名答、それが俺の能力だ。じゃあ、行くぞ!」
そう言った次の瞬間、軽くジャンプし、クロエを抱き抱えたまま右足を振り上げて兵士の頭に踵落としをお見舞いした。
「ぐぁっ!」
「きゃっ!」
男の断末魔(生きているとは思うが)と、クロエの悲鳴じみた声が響く。
「す、凄いです! ユキトさん、強いんですね!」
「まぁな。さて、じゃあいただいていきまーす!」
俺はクロエに笑いかけながら、ふざけるようにそのまま部屋へ入った。
中には多くの金銀財宝がある。
その中心に魔宝玉があるのを確認すると、片手でクロエを抱き抱えて魔宝玉をポーチの中へ回収した。
ついでに、いくつかの宝石と綺麗な短剣を一本、ポーチの中へ入れておいた。
後は帰るだけ。
そう思った俺は、笑みを浮かべながら部屋を出た。
「じゃあ、トンズラかましますかー! って、あ」
「え!?」
「ふぇ?」
部屋を出た瞬間、目の前に兵士がいた。
しかも、そらに驚いたショックで俺の透明化が解けた。
俺のやっちまったというニュアンスの声と、兵士の驚愕の声、そして、クロエのなぜ見えているのか分からないというニュアンスの声が重なった。
「し、侵入者め! 死べぱぁ!」
俺を殺そうとしたのだろう。
剣を抜いて斜めに斬りかかってきたが、そうはさせない。
大きく下がって剣を避けた後、一瞬で距離を詰める。
そして、首元へ回し蹴りを放って兵士を気絶させた。
「凄いです! 今のも、すごくカッコよかったです! ユキトさんはすごく強いんですね!」
「お、おう。俺は強いぞ! だから安心しろ」
クロエよ、凄いって言い過ぎじゃないっすかね?
なぜか、どったんばったんしててケモナーホイホイな某人気アニメを思い出してしまった。
しかし、こんな美少女に褒められて嬉しくないはずがない。
いや、寧ろ嬉しすぎてどうにかなりそうだ。
やはり、可愛いは正義なのだ。
「おい、こっちから声が聞こえたぞ!」
「た、大変ですよ!? 見つかっちゃいます!」
うん、まずい。
クロエの言葉を聞きながらそう思った俺は、近くの窓を開けて素早く能力発動の言葉を念じた。
「俺よ……消えよ」
後は、壁に寄って気配を消すだけだ。
その後は簡単。
体を隠しながら、ゆっくりと歩いて城を退出した。
洞窟に戻ってみると、赤いリングがあったので司令所通りに潜ったのだった。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
「ふぇ? こ、ここはどこです!?」
「おっしゃ! 帰ってきたー! お仕事終了っ!」
俺がクロエをお姫様抱っこしながら言う。
周囲の風景は先ほどの岩だらけのものとは変わり、転移する前にいた部屋になっている。
クロエは突然風景が変わったことに驚いている。
そして、俺たちの目の前には2人の男がいた。
1人はベルクさん、もう1人は知らない20代後半くらいの人だ。
「申し訳ないっ!」
そう言って、知らない男が頭を下げた。
そして、隣のベルクさんの頭も下げさせた。
何だ? 何が起こっているんだ?
というか、誰?
「誰?」
「俺はベルクの上司、ガゼル・ブレイズだ。こいつが勝手に君を、ヴィントの代わりとして仕事に行かせたことを知って、謝罪にしにきたのだ。その前にヴィントが君に迷惑をかけていたことも聞いている。全ての責任は彼らの所属する我らが結社『ノワール」のボスである俺にある。本当に申し訳なかった」
いや、別にいいんだけど。
ただ、やっぱりあの流れっておかしかったんだよな。
能力を手に入れたおかげでテンション上がってたからあんまり気づかなかったけどな。
あと、もう1つ気になったことが、
「ノワール? って、何です? ベルクさんからはディープブラックって聞いてたんですけど」
「いや、ディープブラックは偽りの名であり、本当の名はノワールという名前の結社だ」
はぁ、よく分からんけど、嘘ついてたってことか?
いや、所謂秘密結社ってやつなのだろう。
「いや、いいっすよ。まぁ、仕事内容が適当にしか伝えられてなかったことは腹立ちましたけど、達成しましたし」
「達成とは……?」
俺はクロエを下ろしてポーチに手を突っ込んだ。
そして、ポーチの中から魔宝玉を取り出す。
クロエは、人見知りしているのか、俺の後ろに隠れた。
やっぱりこの子可愛いわ。
「コレですよね? 魔宝玉って?」
「な、それは! まさか、盗んできたのか!?」
「まさか、本当にやり遂げるとは……」
ガゼルさんとベルクさんは驚きながら俺を見つめている。
口が半開きのまま固まっている。
しかし、ベルクさんよ、俺の実力疑ってた送り出したのか?
「……ありがとう。本当に感謝する」
そう言って、ガゼルさんは俺の手の上の魔宝玉を取ろうとする。
それを確認すると、俺は笑みを浮かべてその手をポケットに突っ込んだ。
「誰がタダで引き渡すって言いました?」
「「「……え?」」」
––そういう性癖ではありませんよ。
えぇ、勿論ですともそういうヒロインが出てきたのは偶然ですとも。
え、また名前にクロが?
シラナイヨ。ワタシハシラナイ。
……まぁ、そういうわけです。はい。
次も読んでくれると嬉しいです。
あ、先に言っておきますけど、内容は健全なものになる予定です。本当です。
ニンフィエット! ニンフィエット!
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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次もぜひ、読んでください。