第6話 発覚、最強生命体ってマジですか!?
トウコウダヨ
「マジ、すいませんでした!」
俺は壮年の男性もとい、ベルグさんに謝っていた。
ベルグさんは金髪野郎の仲間で、『ディープブラック』というクランのメンバーらしい。
クランというのは、冒険者と呼ばれる冒険者組合のメンバーたちが作った団体のことを言うらしい。ソシャゲやネトゲなどで稀に見るものだ。
「まさか、クルアが赤い宝石を持っているとは思わなかったんです」
「いや、因縁つけて君を追いかけ回し、挙げ句の果てに能力まで使ったことは聞いている。うちのヴィントの方が悪い。そして、それに気づけなかった私も悪い」
どこで、誰に、ここまでの経緯を聞いたのだろう? 謎だ。
それはそうと、俺とベルグさんは現在場所を変えてとあるカフェで話をしていた。話といっても互いに、自分の方が悪いかった、と言い合い続けているだけだが。
ヴィントは病院へ救急車で送られていった。
それと、金髪野郎もとい、ヴィントが使っていたのはやはり特殊能力的な何かだったようだ。
「あいつは実力はあるんだが、自分の予想を信じすぎるのでな。今までにも似たようなことがあったのだよ。今回のことは寧ろ、ヴィントにとっていい経験になったとも言えるだろう」
本当に困ったものだ、とベルグさんはため息をついた。
どうやら、ベルグさんも金髪野郎もとい、ヴィントには困らされていたらしい。
「だがな、腕や足に加えて鼻とろっ骨まで折られている。仕事には出られないだろう。ん? 何の話か分からないという顔をしているな。実は明日は非常に重要な仕事があったのだよ」
おぉう、罪悪感が……。
「しかし、ある意味運が良かったとも言えるな。どうやったのかは見られなかったが、君はあのヴィントを倒すぐらいなのだから」
「え?」
あれ、嫌な予感がする。
空気が変わったような気がしたのだが、気のせい、ということはないだろう。
こういう時は確実に予感が当たる。
「君に彼の代わりをしてもらいたいのだよ。まぁ、そこまで危険な仕事でもない。悪い貴族の屋敷の壁を登って家に侵入し、とある物を盗み出して欲しいのだよ。ほら、君もこのことをこれ以上面倒にしたくはないのだろう?」
あれ? これって脅しでしょうか?
いや、これは間違いなく脅しだ。
要するに、襲ったヴィントが悪いが、ヴィントを過剰防衛をした俺も悪いから、代わりに仕事とやらを手伝えということだろう。
「もちろん、仕事を代わってくれると言うなら今回のことは全て水にながそう。さぁ、どうする?」
その後、俺はガルゼルドさんの屋敷の近くまで送ってもらって帰った。
ヴィントの仕事を代わりにするという旨を伝えた後で。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
「フォッフォッフォッ、まさか、あんなことになるとはのぅ」
今日起こったことは隠すつもりだったのだが、帰って来たら、ガルゼルドさんは何が起こったのかを既に知っていた。
なぜ、この世界の人は知り得ないはずの情報を得ることができるのだろうか?
謎は増え、深まるばかりだ。
まあ、それは置いておいて、俺にことのあらましを確認したガルゼルドさんは愉快そうに笑い出して今に至っているのだ。
俺の苦労を聞いて楽しんでいる……悪魔、いや、悪の魔法使いか。
「いや、笑い事じゃないですって、俺まだこの世界に来たばっかりですよ?」
「じゃが、やると決めたんじゃろ? それに、ユキトならできるじゃろ?」
なぜ、俺の心まで把握しているのだろうか。
そう、ガルゼルドさんの言う通り、俺には明日の仕事を成功させる自信がある。
なぜなら、今日覚醒したと思われる自分の能力––【消える能力】と【高い身体能力】––を俺は手に入れたのだから。
今なら、もしかすると忍者のような動きもできるかもしれない。
そう思うほどには自信があるのだ。
「……はい」
俺はそれを知られているのではないか、と思いながらも頷いた。
「とは言っても、儂も少しは助力しよう。だがまずは、食事じゃろう? 安心せよ、食事に関しては、儂のメイドがしてくれる」
そう、俺がこの世界に来たのは昼過ぎで、そこから何時間も経っているのだ。
ふと、時計に目を向けていると、時計の短い針が7を指している。
色々なことがあったせいか、俺もすごく腹が減っている。
そういうわけで、夕食を取ることになった。
ガルゼルドさんには色々なことをしてもらっているので悪い気がするのだが、金も仕事もない以上はガルゼルドさんのお世話になるしかなかった。
そして、出て来た食事に目を疑った。
食卓には白い飯を主食に、味噌汁と煮魚があったのだ。
しかも、箸も置いてある。
「え? なんで、日本料理が!?」
「うむ、それも日本人が伝えたとされておるものじゃ。案外、このクロニアスに日本人が残した文化は多いんじゃ。それより、帰ってきた時から思ってあったのじゃが、その獣はどこで拾ったのじゃ?」
ガルゼルドさんの視線の先には、俺の膝の上で、俺から食事を奪おうとしているクルア。
そういえば、育てる許可をもらってなかったんだよな。
「実は、俺が持ってきた荷物の中に丸い謎の物体があったんですけど、それがこいつだったみたいで」
「ふむ、なるほどのぅ……む、その獣はもしや! ……なるほど、そういうことじゃったか」
ガルゼルドさんは、声を荒げたと思ったら、妙に納得したような、それでいて懐かしむような顔をし始めた。
何か、クルアについて知っているんだろうか?
「あの、クルアについて何か知ってるんですか?」
「……クルア、とはこの獣の名前か。いい名前をもらったのう」
「キュァ? キュァ ッ!」
クルアは、ガルゼルドさんが何を言っているか分かったのか、可愛いらしい鳴き声をあげる。
俺はもう、突っ込まない。
「……その獣はのぅ、ラーテルドラゴンと言うんじゃ」
「ラーテルドラゴン!? ラーテルってあのラーテルですか!?」
「うむ、そうじゃ。とは言っても実際のラーテルではなく、 ラーテルのような容姿と皮膚の硬さと伸縮性を持ち、毒に耐性を持っていて、怖いもの知らずなだけの毛の生えたドラゴンなんじゃがのぅ。まぁ、色は全て黒なんだがの」
ラーテル。それは世界で1番恐れ知らずな動物にして、ライオンの爪でさえ通さない装甲のような皮膚を持つ動物だ。
それとドラゴンを合わせたりしたらとんでもない生物になるのは明らかだ。
「あぁ、ラーテルとは違って腹の下も硬く、その硬さも剣や槍では通らんレベルじゃぞ」
「なんすか、その最強生物……」
「そうじゃ、実際に最強生物と言われておる。なんせ、それだけ強いのにドラゴンとしての特殊な力も持っておると言われておるからのぅ。まぁ、と言っても超希少種でほぼ幻のようなもんじゃが」
「あの、ここにいるんですけど」
もう1度クルアを見る。
首を傾げて、クリクリとした可愛らしい赤い目で俺のことを見つめ返してくる。
これが最強生物か。
全くそうは思えない。
「育てたいのじゃろう? 頑張るんじゃぞ」
「え……あ、はい」
元々、そのつもりではあったからいいのだが。
ちょっと驚きすぎて頭が回らない。
なんと言えば良いか….…アプリゲームを始めた直後のガチャで最高レア最強キャラを取った時の気分と言えば良いだろうか?
……少し、違う気がするな。
夕食を食べた後、ガルゼルドさんはメイドさんの1人を呼び、俺を地下室へ案内するように言った。
俺は言われるままにメイドさんの後をついていき、地下室までやって来た。
「こ、これは!?」
そこには、色々な種類の武器や防具が山のように積まれていた。
剣や短剣、鎧だけでなく、大きなハンマーやローブ、コートもある。
「旦那様からは、この中の武器や防具から装備を一式選ぶといい、と仰せです。ご自由にお選びください」
おいおい、マジかよガルゼルドさん!?
どんだけ金が有り余ってたら、ここまでしてくれるんだ?
それとも、何か目的があるのか?
何にしても、自由に選んで良いと言うのだ。
装備を選ばせてもらうとしよう。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
そして、明くる日。
俺は昨日送ってもらった場所までベルグさんに迎えに来てもらい、仕事をするという目的の場所まで送ってもらっていた。
昨日、選んだ装備を身につけて。
俺は今、グレーのシャツと黒いズボンを着て、黒いブーツを履き、腕には肘から指の第2関節までを覆う黒いガントレットと、特殊な素材でできているという黒い手袋を着けている。その上には黒いフード付きの外套を羽織り、腰にはポーチ付きのベルトと短剣を2本差している。
だが。
「あれ、空間管理協会のクロスガルド南区支部ですよね?」
「ん? うむ、そうだ。さぁ、こっちへ」
言われるままについて行くと、1つの大きな部屋にやってきた。
部屋の真ん中には、俺の胸ぐらいの高さの台座のような物があり、その台座にはボタンがある。
それ以外には何もない部屋だった。
すると、ベルグさんが台座の上に赤い石のようなものを置いた。
「ん? あれって……」
あれは石じゃない。昨日の宝石だ。
しかし、なぜ、この場所にあの宝石を。
しかも、この空間管理協会へ来る必要があるのか?
なぜ?
……まさか!
そう考えている間に、ベルグさんはドアの近くまで移動していた。
「まさか、仕事って!?」
「言ってなかったが、仕事場所はこの世界ではないのだよ。着いたら洞窟の中だ。そこから出て、真っ直ぐ進んでくれ。それ以降の詳細は君の右ポケットの中だ。」
「は? ちょっ、聞いてないって!」
次の瞬間、台座から眩いばかりの閃光が放たれた。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
ここまでの話で世界観がわかりづらいとのご指摘を受けたので、世界を改変しました。
1話と2話が少々変わっています。
読んでない方は読んでみてください。
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