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第4話 頭に直接だと!? え、金髪野郎? モブだろモブ

雰囲気で分かる。

金髪野郎とか、どうせモブだろ。

このイベントの本命は緑のリーゼントバニーさんだろ?

既にパワーワードだもん。緑のリーゼントバニーさん。

あーあー、知ってる知ってる。

どうせ、金髪野郎なんてモブモブ。



その程度の扱いでいい男(嘲笑)

哀れなり、金髪野郎(歓喜)

Oops(ウップス)……」



 俺の声が暗い部屋の中に響く。

 恐らく、すぐ近くに金髪野郎がいる。

 顔を出さないと殺されそうだが、顔を出しても殺されそうだ。

 しかも、クルアが見つからない。

 これ、やばくね?



「おい、分かってんだよ! オメェがこいつの仲間ってことぐらい。助けに来たんだろ? 隠れてねぇで早く出てこいよ」



 おっと、どうやら俺はあのリーゼント野郎の仲間だと思われているらしい。

 もしかすると、金髪野郎は銃か刃物をこちらに向けているかもしれない。

 確認はできないが、敵がいると思っているのなら、警戒してはいるのだろう。



 つまり、隙はない。

 ここまでくると、もう状況は最悪だ。どうしたものだろうか……。



 そう思って部屋を見渡していると、静かに足元に何かが這い寄って来た。

 無論、どこぞの神ではない。クルアだ。



(お前、勝手にあっちこっち行くなよ!)

(キュゥ……)



 俺はクルアを抱き上げながら小さな声で言う。

 すると、金髪野郎に聞こえないように話している俺の意図を理解したのか、クルアも申し訳なさげに小さく鳴いた。



 勝手にどこかに行ってはいけないのだ、と分かってくれたのならいいのだが、生まれたての癖になぜ言葉を理解して、申し訳なさげに小さく鳴くことが……って、もうこの下りはいいだろう。

 こういうことは、そういうものなのだと思った方がいいのだ。特に、この世界に於いては。

 取り敢えずクルアは見つかったのだから、脱出に専念すべきだ。もし、金髪野郎に捕まればバラバラにされて、クロニアスの海に沈められかねないのだから。



 俺はそう考え、抜き足差し足でベランダに向かう。



「おい、早く出てこいよ。来ねぇなら、こっちから行くぞ」

「……待て。私も末端の者であるため、詳しくは知らんのだ。まず、お前が求めている物を教えて欲しい」



 これはまずいと思い、俺は服の裾に口を当てて男の言葉に答える。

 何か、それっぽいことを言っておけば良いだろうと思って喋ってやった。

 そして、話しながらも抜き足差し足でベランダに向かう。

 服の裾を口に当てたのは俺の本当の声が金髪野郎に分からないようにするためだ。



「詳しく聞いてねぇってことは、オメェが任されたのはこいつの始末か。ってことは、そっちは例の物を諦めたってことか……まぁ、俺らを敵にする代わりにあの宝石じゃ、割りに合わねぇってところか? 本来なら、先に出てこいと言いたいところだが……いいだろう。オレたちが求めているのは赤くて丸い宝石だ」



 あと少しで、ベランダだ。

 もう少し話していてくれ!



「こいつが俺からスリやがったものだ。黒い箱に入ってたはずなんだが。オメェ、何か知ってるか? 知ってたら––」



 よし、今だ!

 俺はベランダから飛び降りた。

 そのまま足の具合を確認しながら、路地裏を走り抜ける。

 幸い足を捻ることもなかったようだ。なりきりトークもジャンプも最高だったと言えるだろう。

 金髪野郎は気づいてないと思われる。

 さすが俺、策士である。

 しかし、あの金髪野郎は阿呆ではなかろうか。高校生に逃げられるとは。



 暫くして、そろそろ大丈夫かと思いスピードを落とす。



「さて、では家に帰るとしますか」

「キュァッ」


 俺の言葉に返事するかのように、クルアが鳴いた。

 いや、返事するかのように、ではなく、実際に返事したのだろう。



「とは言うものの、家の方向も分からんのだがな」

「心配しなくても大丈夫だぜ。そもそも、帰らせる気がないからな」



 その聞き覚えのある声に、恐る恐る振り返る。

 そこには見覚えのある金髪の男の姿。



「き、金髪野郎……!」

「金髪ヤロォだぁ? そうつぁ、俺のことかぁ? まぁいい。何モンか知らねぇが、オメェが持っていった石。返してもらうぜ」



 あ、やばい。石持ってないのに持って逃げたと思われてる。

 先の男は殺されたのだろうか?

 ……そんな気がする。

 あぁ、緑のリーゼントバニー男よ、安らかに眠りたまえ。



 という、現実逃避は置いておいて––



 こう言う展開の場合、持っていないと言っても聞いてもらえないだろう。そもそも、ベランダから侵入して何もせずに外に出た、という説明は怪しすぎるし、俺だったら絶対に疑われる。

 さらに言えば、拷問現場を見た人間を生きて返しはしないだろう。

 となれば、取れる手段は一つだ。



「……フ、フハ、フハハハハっ!」

「あぁ? 気でも触れたかぁ?」

「フフッ、そんな口の利き方をして、いいのか? お前が、この俺にかなうとでも?」



 俺はそう言ってニヤリと笑う。



「あ? 何言ってんだ? 当たりめぇだろ?」

「慢心は身を滅ぼすものだ。俺は過去に何度か奥義を使ったことがあるが、そいつらもお前と同じようなことを言っていた。だが、俺が奥義使った後で俺の前に立っていられた者は1人もいない。見よ、俺の奥義」



 事実、この技を使って、俺の前に立っていた者は皆無だ。そう、故に最強の技。



「まさか、そんなに強いってのか? ……な、何をするつもりだ!」



 金髪野郎は思わず、構えて防御するか、回避するつもりで構えた。

 だが、それこそが俺の狙い通りだ。

 今の俺は過去最高に不敵な笑みを浮かべていることだろう。

 静かに息を吸い、そして吐く!



「ハァァァァァァァァァ!!!」

「…………ッ!!!」



 俺の気迫に驚いているようだ。

 今こそ最高の好機!

 そう思った俺は叫びながら後ろを向き、地面に手をつけ、一瞬で構える。

 右足は膝を曲げて前、左足は伸ばして後ろに。

 そして、射出されたかのように走り出す。

 その名は、クラウチングスタート。



 即ち、逃走。



「逃げるんだヨォォォォォ!!!」



 路地裏に俺の叫びがこだまする。

 恐らく金髪野郎は何が起こったのか分からず、呆然としているだろう。

 その間に、俺はトップスピードに達して距離を開けていく。



「さて、あいつは追いかけてきて––」



 俺がそう言って、確認するために、走りながら振り返った瞬間、それは起こった。



 ビュンッ! ドゴォォォォォ!!

 そんな音が周りに響いた。


「へ?」


 思わず、そんな間抜けな声を出していた。

 何が起こったのか分からなかったのだ。

 金髪野郎は拳を前に突き出して止まっている。

 前方では、左右に道が分かれている壁に風穴が空いている。



「あれは……まさか……知っているぞ、この展開……あいつ、両腕に透明なバズーカをつけてやがる!」

「ちげぇよ!? これは、俺の能力だ! 外しちまったがな!!」



 金髪野郎はそう言いながら、俺を追いかけ始めた。

 足の速度的には同じくらいだろう。もしかすると、若干俺の方が速いかもしれない。



 ふむ、どうやらどこぞの透明野郎ではなかったようだ。となれば、小宇宙か気の力だろうか? 或いはただのパンチである可能性もある。

 しかし、鎧のようなものは着ていないし、髪の毛は金髪だが逆立っていないし、ハゲてもいない。



 何にせよ、やばい奴に絡まれてしまったことは確かである。

 なるべく、怒りに火をつけないようにしなければ。



「オラァ、待てや! 次はちゃんとぶち当てて木っ端微塵に消しとばしてやるからよぉぉぉぉ!!!」



 後ろから、そんな喚き声が聞こえる。

 あの金髪野郎、頭おかしいのではないだろうか? 俺を殺したら、目的の物について聞けないだろうに。

 それにもし、金髪野郎の目的の物を俺が持っていて、あの爆発を食らったら目的の物まで木っ端微塵になるだろう。それが分からないとは。

 馬鹿だな。



「誰が馬鹿だ、てめぇ! さっきから言いたい放題言いやがって。コロス! 絶対コロス!」



 おっと、口に出してしまったようだ。

 怒りに火を点けるどころか、油を注いで大炎上させてしまった。

 ここまで、怒らせてしまえば、もう何を言っても変わらないだろう。



「うっせぇよ! お前、付いてくるんじゃねぇよ! 何? 俺に気でもあるわけ? ごっめ〜ん? 俺、そっちの気はないんだわ〜」

「死にてぇのかぁ?!」

「キャー、ストーカーよー!!」

「死にてぇようだなぁ!!!」



 俺は金髪野郎を煽りながら逃げる。

 やり過ぎ? 大丈夫だろう。俺は、逃げ足と障害物走は自信があるのだ。捕まることはない。

 幸い、金髪野郎のパンチは精密性が低いため、近づかれないかぎり問題はないだろう。それに、もし俺の叫び声を聞いて警察が来てくれたら助かる。

 ただ、問題は表通りがどこか分からないことだ。人通りの多い場所なら金髪野郎も暴れられないはずなのだが。



 そんなことを考えて走り、何度目かの角を曲がると廃屋と思しき一軒家があった。

 扉が外れていることから、誰も住んでいないのだろうと思われる。



「……賭けてみるか」



 家に入る瞬間は金髪野郎には見えないはずだ。

 上手くいって裏口から出られたなら、金髪野郎から逃げ切れる。

 最悪、隠れればいい。

 そう思って、廃屋に入る。



「マジかよ……」



 なんと、入った先の階段が崩れ落ちていたのだ。

 それどころか、家の裏半分が崩れていて、左右の部屋にしか行けなくなっている。

 当然、背後からは金髪野郎が追いかけて来ている。



 これ、詰みじゃね? 

 いや、これはどちらか片方の部屋に賭けるしかないだろう。

 上手くいけば、反対の部屋に金髪野郎が入っているうちに逃げ出せる。



「……覚えのあるフレーズだな」



 なぜかデジャブのようなものを感じながら、俺は左の部屋に入った。

 部屋の中には家具一つとして存在していなかった。

 窓には蜘蛛の巣が張っていて、枠の部分が錆びている。ここから出たら、錆び付いた鉄の音で気づかれるだろう。

 そう思った俺は、息を潜めて脱出の機会を待つことにした。

 一息ついて手元を見ると、そこには幸せそうな顔で眠るクルアの姿があった。



 いや、生まれてすぐだから寝るのも分かるが、この状況で寝るなよ。

 まぁ、いいか。

 後は隠れて機会を伺うだけだしな。









 ––その時だった。



『……セ…………セ……』



 その声が聞こえてきたのは。



 最初は気のせいかと思った。

 だが、2度目、3度目と声が続くことから、気のせいではないと気付いた俺は周りを見渡した。

 しかし、周りには誰もいないどころか人の気配はしない。



 それはとても低く、重く響く声。そしてなぜか、心地よさを感じるような声だった。その声はその低さと響くせいで何と言っているのかは聞き取れないが、ひたすら同じ言葉を繰り返していた。



 この声は頭の中で響いている。

 俺にはなぜか、そんな風に思えた。それは予想などではなく確信めいた感情。

 心が凍ってしまうような錯覚すら覚えるその感覚は、俺の心を冷静、或いは冷徹とも言えるほどになるまで感情を奪っていった。

 そして、時間の流れが遅くなったかのような錯覚を覚えた。



『……セ! ……セ!』



 そして、その声は少しずつ大きくなっていった。



 なんだ……なんなんだ、これは。この声は。



 そう思いながらも、俺にはこの声に身も心も委ねればいいという確信があった。

 そして突然、深い眠りから覚醒するような感覚が起こった。

 その瞬間––



ここまで読んでくださりありがとうございました。



「まずい。宝石を取り返さねぇと! 一体、どこにあの宝石を隠した?あいつが犯人だと!? 必ず……必ずあの宝石を取り返す!」

『次回、金髪野郎死す! なろうでスタンバイ!』



感想やブクマ、意見など待ってます!

Twitterで投稿予定のお知らせや、その他諸々やってます。

@AZA_SATORU

で検索すると出てきます。


明日も投稿します。

ぜひ、読んでください。

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