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第1話 この世界、やばい

投稿、投稿〜


 晴天の朝、爽やかな風が平原を駆け抜けていく。

 遠くには突き出した岩山や大きな谷、空に浮かぶ、島? のようなものが浮かんでいる。

 そんな光景が目の前に広がっていた。

 山の上にいたはずなのに、である。



「……は?」



 自然にそんな声が漏れていた。



 俺、山にいたはずだ。

 なんで、平原にいるんだろう。

 これは、夢なんでしょうか?

 というか、あの浮かんでる島のような物はなんでしょうか?



 そんなことを考えながら、俺は呆然としていた。



 後ろを振り返ってみるも、そこには鳥居などなかった。

 何となしに、頬の肉を引っぱってみる。



「…………痛い……」



 夢であるなら、痛いはずがない。

 つまり、夢ではないということだ。

 おそらく、今の俺は口を半開きにしていることだろう。



 だが、何となく今の状況の予想はつく。

 現実的かどうかを無視するなら、空間跳躍、誘拐してどこかへ連れてこられた、ただの夢、幻覚、異世界転移、この5つのどれかが考えられる。

 まず、空に浮かぶ島がある時点で、空間跳躍と人身売買の可能性は消える。

 そして、痛みがあることから、夢であるという可能性も消え、見たこともない光景が目の前にあることから、幻覚ではないだろうことが分かる。

 で、あるならば、もっとも現実的ではないが、異世界転移が残るのだ。

 異世界転移とは、所謂ネット小説やアニメなどで、最近よく見かける単語だ。

 また、実際に体験した、なんていう情報もネットで見たことがあるが、俺は作り話だと思っていた。

 しかし、空に島が浮いているなんて状況を目の当たりにしてしまえば、異世界という説を考えないわけにはいかないだろう。



 何にしても、最低限分かることはいくつかある。

 見知らぬ土地。

 平原に俺1人。

 周囲に人影なし。

 見渡す限りで、文明の気配は確認できない。

 そして、現在進行形で俺氏、混乱中。



 何が言いたいのかといえば、



「俺、この、最低でも異国であるとしか分からない土地で遭難しちまってるんじゃね?」



 ということなのである。

 ()()()()()()である土地ということは、俺の知らない生物もいるということなのであり、日本より危険だということ。つまり––



「……ガルルルルルルルルル」



 ––野生の肉食動物が闊歩している可能性があるということなのだ。

 そう思いながら、俺はゆっくりと振り返った。

 そこには、大型犬のような獣がいた。

 だが、その獣はサーベルタイガーのような大きな牙を持っていた。明らかに、普通の犬ではないように見える。



「……犬、ですよね?」



 そうあってほしいという願いを込めて呟く。

 尤も、仮に犬であったとしても、危険な獣であることに変わりはないのだが。

 しかし、そんな願いも虚しく、次の瞬間、その獣は俺に向かって飛びかかってきた。



「ガァァァァァァァ!!!」

「ギャァァァァァァ!!!」



 1人と1匹の声が重なる。



 やっぱり、そうなりますよねー?! 

 俺はそう思いながら、避けようとするも、明らかに間に合わない。



 それどころか、足を滑らせて尻餅をついてしまった。

 これは、まずい。

 次の瞬間には、俺はあいつの口の中だろう。

 平和ボケした日本人の、しかも、高校では文芸部に所属していて、ろくに運動もしていなかった俺が機敏な動きをできるはずもないのだ。

 こんなところで終わってしまうんだろうか?



 そう思った瞬間、獣の首から上が消えた。

 そして、獣は勢いを失い、地面に倒れこんむ。



「……は?」



 何が起こったんだ……?

 もう、何が何だか分からない。

 確かに、今まで普通に動いていた獣の首が消えたのだ。

 何かが飛んできた様子もなかった。

 にも関わらず、消えたのだ。

 首チョンパどころの話ではなく、文字通り消失した。



「フォッフォッフォッ、そこのお主、怪我はないかのぅ」



 背後から聞こえた声に振り向くと、黒いローブ姿のお爺さんが立っていた。

 ……いつの間に? 

 というか、何でしょうか、その格好は。

 まるで、悪い魔法使いみたいな格好だ。



「……まるで、悪い魔法使いみたいな格好だ」



 おっと、考えていることそのままを口に出してしまった。

 小さく呟いただけだったので、聞こえたないないだろうが。

 まあ、それだけ俺の頭もキャパシティオーバーしているということだ。

 もう、脳内はオーバーヒート寸前の、大パニックなのである。

 そろそろ、ぶつりと音を立てて視界がブラックアウトするのではないだろうか、と思えるほどに。



 では、なぜ俺がこんなにも冷静に自分を分析できるのかといえば、きっと、一周回って冷静になってしまったのだ。いや、違うのだろうか? よく分からない。うん、やっぱり冷静じゃないな。

 ……もう、何がなんだか分からないよ。



「おーい、聞こえとるか?」



 そう言って、お爺さんが俺の顔を覗き込んでくる。



「え? あ、すいません。大、丈夫ですけど……えっと、さっきのは一体?」



 そう聞いてみると、お爺さんは穏やかな笑みを浮かべた。



 あれ? 今気づいたが、このお爺さんの顔は西洋風だが、目と髪は黒である。

 もしかすると、一概に外国とも言えないのではないだろうか?

 いや、それはないか。

 西洋風な顔とローブだし、日本の空に島なんて浮いているわけがない。



「そうか、何もなかったならええんじゃ」



 お爺さんは、穏やかにそう言う。

 いや、大丈夫だとは言ったが、何もなかったとは言っていない。

 寧ろ、色々ありすぎだと思うな。うん。



「それと、さっきのは手品みたいなものじゃ。しかし、野生の魔物の出没地域を戦えんもんが1人で歩いとるのは、感心せんのぉ」



 いや、手品はないだろう。そんなもので首から上が全て消失したのを納得できるわけがない。

 というか、それよりも、



「魔物? 魔物って、あれがですか?」



 そう言って、俺は獣の骸を指差す。



「なんじゃ、魔物を見たことがないなんてことはないじゃろう? 魔物なんぞ、今時連れ歩いとるもんや、町に住んどるもんもおるじゃろうに」



 俺の言葉にお爺さんは、何を言っとるんじゃ? とでも言いたげな呆れた顔をしながら、聞いてくる。

 ってか、魔物なんて出てきたら、いよいよ異世界で確定じゃないですか。



「あの、日本って分かりますか?」

「日本? なぜ、そんな別の世界の国のことを……?」



 怪訝そうに、お爺さんはそう聞いてくる。

 そして、はっと、何かを思い出したかのような反応をする。



「……お主……名をなんと言う?」



 そして、やけに真剣な様子で聞いてくる。



「え?……あ、黒尾幸人です」



 なぜ、このタイミングで名前を聞くのだろう、と疑問に思いながら、答える。

 すると、俺の言葉を聞いたお爺さんは目を見開いて驚いたような様子を見せた。



「な……なるほど、そうか……なるほどのぅ。お主、異世界から来たんじゃな」

「異世界ってことは、ここは地球じゃないってことですか?」

「そうじゃな。ここは『クロニアス』という世界じゃ。お主の世界にはなかっじゃろうが、魔法に魔術、魔物や精霊などが存在しておる」



 その言葉を聞いて確信した。

 異世界説が正解だったということだ。

 偶然、飛ばされた……などではなく、あの鳥居からこの世界に通じていたのではないだろうと思う。

 となれば、父がこの世界へと導いたのはほぼ、間違いないと思われる。

 しかも、魔物を含め、自分の常識が通用しない世界ときた。

 なぜ、父がそんなことを望んだのかは分からないが、何か目的があったのだろう。

 つまり、俺が、するべき何か、知るべき何かがあるのではないだろうか。



「お主が帰りたいというんじゃったら、返してやることもできるんじゃが、どうする?」



 そのお爺さんの言葉に驚く。



「え、帰れるんですか?」

「うむ、帰れるのぉ」



 意外だ。

 こういう、異世界へ来ちゃったぜ、みたいな展開だと、帰れないことが多いのに……いや、それは小説や漫画だけか。じゃないと、体験談とかがネットに出てくるわけないもんな。



 体験談が作り話である可能性? そんなの知らん。



 しかし、そうか……帰れるのか。



 ファンタジー系のラノベやバトル漫画みたいな、常に危険と隣り合わせであろう世界。

 そんな危険な世界に来てしまったなんて最悪だ! 俺は帰らせてもらうぜ! ––と思うのが、一般的な日本人の思考だろうな。



 俺? 俺は違う。

 そもそも、父が何を思ってここへと送ったのか分からない以上、それを探したい。

 というかそれ以前に、この面白そうな世界を見て回りたいのだ。

 俺の知らない常識が存在する。俺が見たことのないものが存在する。

 それを見ずして帰るなんてあり得ない。



 さらに言えば、俺が帰ったところで、向こうに残して来たものなんてないのだ。

 親はおらず、叔父の家で暮らしている上に、親の形見が手元にある以上、心残りがないのである。

 確かに、お世話になった叔父に恩返しができないのは……って、それを心残りというんだよな。

 まぁ、それを差し引いても、



「……俺は、この世界に残りたいです」



 って、答えが出るんだがな。

 すると、お爺さんは一つ頷き、ニヤリと笑みを浮かべた。

 あ、なんだか、いたずらを思いついた子供みたいだ。

 と俺は思いながら、嫌な予感を感じていた。



「ふむ、いいことを思いついたわい。お主、儂について来なさい」



 そう言って、お爺さんは指を鳴らす。



 すると、どうしたことだろうか。

 遠くの方から、ドドドド、という音が聞こえてきたのだ。

 振り返ってみると、馬車がこちらに向かって走ってきていた。



 そして、目の前で止まった馬車に乗り込みんだお爺さんは言うのだ。



「さあ、ユキトよ。早う乗れぃ」



 さすが、ファンタジーと喜びたいところだが、起きてることのわけが分からない。



「なんで、指を鳴らすと馬車が走ってくるんだ……」



 俺は小さな声で、ぼそりと呟いた。

 魔法だろうか? または、よく知らないがカオス理論やら、バタフライ効果やらの関係だろうか? それとも、マーフィーの法則みたいなものだろうか? 



 ……やっぱり、俺には分からないよ。













 〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜



 さて、激しい状況変化に流されて、馬車に乗った俺だが、正直に言わせてもらいたい。



「この世界……冗談抜きでやべぇな」



 そんな心の声が、もう実際の声となって出ていた。



 なぜそう思うのか。

 空には家程の大きさの猛禽類が滑空し、平原にはスライムであろうと思われる、一見すると青いゼリーにしか見えない魔物や、コモドオオトカゲの2倍くらいの大きさのトカゲがおり、さらに、遠くの方では森が蠢いているように見える。

 明らかに、この世界は危険すぎる。

 そして、このお爺さんの近くには、そういうやばそうな魔物が近づいて来なかったのだ。

 多分、このお爺さんはただものではない。



 そう思っていたのだが、それ以上の驚きがあった。

 町に行くまでは、そこまで時間はかからなかった。



 日本に興味があるらしいお爺さんに、日本について話していた。

 そうしている内に、すぐに街についた。

 山の向こう側に町があったのらしい。



 そこまでは問題なかった。

 ただ、この町が普通じゃなかったのだ。



 俺は所謂ファンタジーな街並み、もしくは、中世の西洋風な町を期待して、町に入ってすぐに馬車の窓から顔を出した。

 それが、つい先程のことだ。



 そして、現在、俺の目にはその街並みが映っている。



 その町は一言でいうと、まさにカオスというべき風景だった。

 西洋風の石造りの街並み。

 日本風の木造の街並み。

 その他の見たことのない作りの家々。

 そういったものを無理矢理に組み合わせていた。



 それだけではない。



 ビルが立っていたのだ。



 道路はコンクリートの部分もあり、車が走っている。

 電光掲示板もあれば、石造りの看板もある。



 街中を歩いている人は、普通の人だけでなく、頭に動物の耳、お尻に尻尾が付いている人や、腕が鳥の羽のようになっている人、悪魔のような尻尾とツノが生えている人がいた。

 その他にも、よく分からない触覚のようなものが付いている人もいる。



 獣の要素を含むのが獣人、魔物や悪魔っぽい要素を含むのが魔人らしい。他にもエルフやドワーフ、妖精に精霊、魚人をはじめとし、多くの種族がいるらしい。さすが異世界、ファンタジーだ。

 あと、知能が高く人間と共存している魔物もいるらしく、魔族と呼ばれるらしい。



 しかも、髪の色は赤、青、緑、白、金、黒、紫など人それぞれだ。



 鎧を着て剣を持った戦士風の人がいて、ローブを羽織って杖を持った魔法使い風の人もいる。

 しかし、軍服の人や、セーラー服の少女もいるのだ。



 そんな町が広がっている。



「やばい……この世界狂ってる……」



 予想を遥かに超える世界であった。



「フォッフォッフォッ、ようこそユキトよ。ここは『境界世界』であるクロニアスにおいて、最も危険にして、唯一、何が起こってもおかしくないと言われている、通称『境界交差都市』と呼ばれる『クロスガルド』という都市じゃ」



 そう言って、お爺さんはニヤリと笑みを浮かべる。



 そのドヤ顔は腹が立つからやめて欲しい。

 と、俺は思うのだった。




ここまで読んでくださり、ありがとうございました。



いつからここが普通のファンタジーな世界だと錯覚していた?

そんな感じの内容でした。


イメージとしては、バグったゲームみたいなものです。フラグ回収してないのにイベントが進む。はじめからを押したはずなのに、主人公の家にラスボスがいる。


そんな世界です。



感想や意見など待ってます!

Twitterで投稿予定のお知らせや、その他諸々やってます。

@AZA_SATORU

で検索すると出てきます。


明日も投稿する予定です。

ぜひ、読んでください。

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