プロローグ
新作です。
ラグナレスプロジェクトというプロジェクトの世界観ではありますが、主となる世界は別です。
まだプロジェクト始動してないのに、そのプロジェクトの世界観で進めるという……まあ、そのうちラグナレスプロジェクトの作品も投稿します。
って、ことで本編どうぞ。
天変地異。
この言葉の意味を知っているだろうか。
天と地の間に起こる災害や出来事のことを言うらしい。
1番日本人に馴染み深く、多くの日本人が思い浮かべるのは地震や台風、嵐、火山噴火、津波、あとは隕石や暴風、日食などだろう。
しかし、俺は思うのだ。
日本で見たあれらを天変地異と言うのは些か過言だった、と。
「な、なんだあれ……」
その後の言葉は、声が震えていたせいか、周りの音がうるさ過ぎたせいで、口に出すことができなかった。
だが、これを見てしまったら仕方がないと思うのだ。
そう思いながら俺は上に視線をやり続ける。
その視線の先には、大きな陰があった。
白くさわり心地の良さそうなそれは、真っ直ぐに地上へと落ちてくる。
少しずつ近づいてくるそれは、大量の巨大な––––羊。
このままだと、この地上に羊が落ち、俺は死ぬ、いや、それどころか近くの町は消し飛ぶだろう。
まさにこれこそ、天変地異と呼ぶべき事象。
反則的で、理解不能な理不尽。
だが、それも仕方のないこと。
ここは、日本ではないのだから。
これはこの世界ではよくあること、日常の一つなのだから。
この『境界世界クロニアス』では何が起こったとしても、おかしくはない。
それが、この世界の常識。
しかし、俺は思うのだ。
「これが普通って……この世界、ぶっ壊れ過ぎだろ……」
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
都会とは違う、自然の香りが爽やかな風に乗って流れてくる。
「うわー、懐かしー」
そう言いながら少年、黒尾幸斗は自宅への道を歩いていた。
いや、正確には自宅ではなく、元自宅だ。
母と父と共に過ごした家。
だが、父と母が死んでからの5年間は母方の叔父の家で過ごしていたし、あの家も手放すことが決まっているのだ。
仕方のないことだろう。
まだ、15歳である俺に、家を一つ維持することなどできようはずもない。
母は俺が幼い頃に病気で、父は……原因不明の切り傷による出血多量。
何で切られたのかも分からず、なぜ切られたのかも分からず、警察での捜査も打ち切りになり、最後は未解決事件になってしまったあの事件。
それが、当時10歳の少年にとって、どれだけ苦しく辛いことだったかなど、言うまでもないだろう。
そんなことを考えていると、あの家に着いた。
何年経っても変わらず残っている小さな家。
懐かしき我が家、そこは父と母との思い出の詰まった場所。
だが、幸斗がここに来たのは思い出に浸るためではない。
父が残した家、その横にある小さな倉庫の中の物を引き取りに、そして、最後のお別れをしに来たのだ。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
倉庫の鍵は幸斗が持っていた。
10歳の誕生日に、必要になった時に開けろ、と父から渡されたのだ。
この倉庫を開けずにいたのは俺自身が、この家に来ることを、もう2度と戻らない日常を思い出すことを、辛いと思っていたこと。
そして、叔父がそんな俺を気遣って、倉庫には触れずにいてくれたからだ。
倉庫の中に入ると、中には埃を被った大きな黒い袋が一つあった。
だが、大きいとは言っても、倉庫に入れる必要がありそうなほどの大きさではない。
「これか?」
予想していたより少なかった倉庫の中の物を前に、俺は呟く。
しかし、これは幸斗の父が幸斗のために残してくれたものである。
それだけで、心が暖かくなるような気がしたのだった。
恐る恐る袋を開ける。
すると、中にはいくつか物が入っていることが分かった。
中にあるものを出していくと、どこか外国の街で撮ったと思われる写真、小さなポーチのような物、見たこともない金色の貨幣、一冊の本など、統一性のないガラクタらしきものが出てきた。
「父さん、こんな物を残してたのかよ……」
まるで、子供の宝箱みたいだ、と苦笑いしながら幸斗は袋から物を出していく。
確かに、思い出してみると、いつも元気で少し子供っぽかった父さんらしい宝物だ。
そして、取り敢えず入れてあるものの全てを出してしまおう、と最後に入っていたものを出した。
「ん? なんだこれ?」
そう言いながら取り出してみると、それは黒くて丸い何かだった。
いや、正確には黒くて丸い何か、を鎖でぐるぐる巻きにして、お札を貼り付けまくった物だった。
「これ……明らかに触ったらダメでしょ……ってか、なんの封印だよ……まさか、生首とかじゃあねぇだろうな……?」
などと、色々な想像を頭の中で巡らせながら恐る恐るその黒い丸い物体を触ってみる。
しかし、その物体を巻いている鎖に南京錠などは付いておらず、きつく巻いてあるため、どうやっても外せそうにない。
「……これどうやって開けるんだよ? 札は剥がせそ……え? 札も剥がれねぇ、だと……?」
ただの紙であるはずのお札が剥がれなかった。
「…………」
特に寒いわけでもないのに、背筋がぞくっとするというのはこういうことなのだろう、と幸人は思った。
幸斗はひしひしと感じる嫌な予感に従って、黒い物体を調べるのを中止することにした。
他のものも一旦置いておいて、もう袋の中には何もないだろうか、と幸斗は確認のために袋の中に手を突っ込むんだ。
すると、底の方に何か袋とは違う手触りのものを見つけた。
「封筒……?」
それは小さな白い封筒だった。
誰へ、そして、誰からの封筒だろうか、と幸斗は疑問を浮かべながら、なんとなしにその封筒を裏返して、驚いた。そこには『幸斗へ』と書いてあったのだ。
「もしかして、父さんの遺書……?」
そんな予想が頭に浮かんだのは、封筒に書かれた三文字を見た幸斗があることを思い出していたから。
幸斗の父は、事故に遭う少し前から様子がおかしくなっていた。
突然、誰もいない影を睨みつけたり、不安そうな表情や特に何もしていない休日に疲れたような顔をしていたりした。夜に家を抜け出して、何処かへ行き日が出てくる頃に帰って来たこともあった。
その頃、よく、倉庫を開けていたのを覚えている。
そして、その時の父が、口が酸っぱくなるほど言っていたことがあった。
『何かあっても、倉庫のことは覚えておきなさい』
確かに、忘れてはいなかった。
だが、その言葉の意図を間違えて受け取っていたのかもしれない、と幸斗は思った。
父は、倉庫の中に物を入れてあるから忘れて欲しくなかったのではなく、何らかの要因で自分の死を予期して、遺書を入れておいたから、忘れて欲しくなかったのではないか。
そんなことを考えてながら幸斗は、恐る恐ると、封筒を開けていく。
一体、中に何があるのだろうか、と思いながら封筒を開けると、そこには小さな紙が入っていて、こう書いてあった。
『その袋の中の物を全て持って、家の裏の山に登りなさい。そこに鳥居がある。その先へと進みなさい。その後どうするかは、幸斗が決めなさい』
そう書かれた紙の右下には父の名が書かれていた。
〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
「なるほど、確かに鳥居がある……」
静かな山の中、幸斗は小さな声で呟いた。
手紙を読んだ後、荷物を持って––荷物については、全て、と書いてあったので、袋の中に黒い物体を含めた全てを入れて––山を登って来たのだ。
その山の中腹辺りには、平たくなった部分が少しあった。
そして、そこに手紙に書かれていたものであろうと思われる鳥居が、鳥居だけがあった。
社も何もなく、鳥居だけがあったのだ。
「鳥居があるってことは、山の上に社があるのか?」
そう言いながら山の上の方を見上げる幸斗は、なんの疑問も不信感も抱くことなく鳥居を通過するのだった。
その先に何があるのかを知らず。
その先が地球であり、日本であると、そう思って疑うこともなく。
その日、地球上から黒尾幸斗という人間が消えた。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
あ、先に言わせてもらいますが、クロニアス・クロス・クロニクルだから、黒尾って名前だったわけじゃないですよ?
ぐ、偶然クロって付く名称が多くなっただけですよ?
て、適当につけたわけじゃありませんよ?
本当ですからね?
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明日も投稿する予定です。
ぜひ、読んでください。