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生きていることを信じるには

作者: kizon

僕は車を運転して雅人が働いている霊園に来た。

高校の同窓会で久しぶりに会い、小説を書いたらしく僕に見て欲しいということだった。

僕は出版関係に勤めてはいないが、雅人は誰でもいいから見て欲しいらしい。

お墓の間の道に入って行くと、奥から明るい声が聞こえた。

「おいーす。久しぶりー。」

声の方を見ると、麦わらぼうしをかぶった白いシャツの雅人がお墓を磨いていた。

「そこらへんにお茶ない?持ってきてー。」

辺りを探してもお茶らしき物はない。

「おーい。そんなものないぞー」

「マジでー。わかったー」

雅人がこっちに小走りで来る。

そして僕の近くまで来ると、僕の側にあったお墓に置いてあったペットボトルのお茶を手に取り、飲み始めた。

「えっ、それ大丈夫なのか。」

「へーきへーき、俺が置いてただけだから。」

お茶を勢いよく飲みほしてしまった。

「そんで、見てもらいたいやつがー、あっちにあるんだけど。」

そして雅人はさっきいた場所に歩きだした。

雅人に着いて行き、道の真ん中に置いてあったバッグからノートパソコンを取り出し、開いたものを渡してきた。

画面にはよく見る文書作成ソフトウェアが映っていた。

「これが例のアレねえ。全部見ていいんでしょ。」

「いーよいーよ。何か添削するところあったら言ってね。」

雅人はそう言ってお墓を磨くのを再開した。

僕はお墓をしきるブロックに座り、雅人が書いた小説を読み始めた。

題名は「看護師だった俺が霊園で働くことになったわけ」か。わかりやすくていいと思う。

僕は本文を読み始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あんたさんそこに誰かいるのかえ。」

「え、はい。お孫さんですか?」

おじいさんは病室の隅を指差しながら言ってきた。そこには可愛いらしい二十代くらいの女性が椅子に座っていた。

その女の人は壁に寄りかかって寝ているようだった。

「いんやー。それはいい!よかったよかった。お前さんは良い心の人か。」

そう言っているおじいさんを特に気にせずに、シーツを取り替えたりしていた。

そのおじいさんにボケがはいっているのは、職員なら誰でも知っている。

するといきなり一枚のメモ切れを渡してきた。

「これ。電話して欲しい。すぐとは言わんが。」

「はいはい。わかりました。」

中身は電話番号なことを確認して、すぐにポケットに入れた。

作業が終わり、隅にいるお孫さんだと思う人に会釈してから、おじいさんの病室を出た。

家に帰ってから、服を洗濯しようとしたときメモを思い出した。

書いてあった番号にさっそくかけると、女の人の声が聞こえた。

「もしもし?あっどうもお昼はー。」

「いえいえ。お孫さんでしょうか?」

「いえ、娘のクキタマキです!」

「あっ、娘さんでしたか。それでどういったご用件で?」

「いえ、大したことではないのですが、父をいつも看病してくれていてありがとうございます!」

「いえいえ。当然ですよー。」

そう言いながら、ありがとうの言葉に心が元気づけられる。

「それでは、これからもよろしくお願いします。」

そうして電話は切れた。

後日、またあのおじいさんの担当になると、おじいさんは電話した病室に俺が入るとすぐ聞いてきた。

病室にはまた娘さんがいた。今度は起きて窓の方を見ている。

「しっかりした娘さんですね。」

「そうかえそうかえ。あーよかった。」

そう言いながら、おじいさんは目から涙を流していた。

慌ててティッシュ箱を持ち拭こうとすると、おじいさんはティッシュを抜き取り鼻をかんで、言った。

「あの子を嫁にもらってくれんか。」

耳を疑ったが、本気でボケなどではなさそうだった。

娘さんを見ると俺を微笑みながら見ていた。

「え、それってお見合いってことですか?」

「そう。それでいい。うん。」

おじいさんは繰り返し言った。

俺は一瞬迷ったが、娘さんをみているとまんざらでもない俺がいるので、受けることにした。

そして、次の休日に娘さんのマキさんとデートすることになった。

彼女は色白で、お気に入りなのかいつも白いワンピースで、しかもそれが似合う人でとても自分のタイプの顔立ちの人だった。

そして何回目かの彼女との休日に、自分が彼女の家に行きたいと提案したので、彼女の家に行くことになった。

彼女の家近くには霊園があった。

どうやら、両親が管理しているらしい。

彼女の家のリビングに寝転がっていると、メロンを出してきた。

美味しそうに食べる俺を見ながらマキは話してきた。

「ちょっと、言わなきゃならないことがあるんだけど。」

少し悲しそうな顔をしたあのマキは今でも忘れられない。

俺はメロンを食べる手を止めた。

「実は、私、生きてないの。」

冗談を言っているのだろうか、しかし本気で言っているようだった。

生きてない?死んでいる?どういうことか。

「信じられない?」

心の中を読まれたような気がして目をそらしてしまう。

「思い当たることない?」

思い当たることと言われて、そういえばということが次々と思い浮かぶ。

公園のベンチでクレープを食べながら話していると、遠くの方でおばさんたちがちらちら自分を見ていたり。

二人で映画や飲食店に行くと、「お一人様ですか」とよく言われたり。

手を握ると冷たくて、冷え性と言っていたり。

「君は、そうなのか?」

マキは無言でうなずいた。

しばらくの沈黙の後マキは話を続けた。

「それでね、私が生きてないっていう話なんだけど。」

「近くの霊園に私のお墓があるの。ついてきてくれる?」

そう言うとマキは立ち上がって、外に出た。

今から目の当たりにするであろう証拠に、足が重くなっていた。

マキについて行き、あるお墓の前に止まった。

お墓には「久木田 巻」と彫られていた。

「信じてくれた?」

巻の顔は不安な顔をしていた。

「大丈夫。関係ないよ。」

俺はもう覚悟を決めていた。

彼女と過ごした時が思い浮かぶ。

それが日常になるのなら、巻がそばにいるのなら。

「いつまでも一緒にいたい。」

そう言って、彼女を抱きしめた。

「ありがとう。」

生きてないが冷たくなく、とても熱を感じた。

その後、俺は霊園を受け継ぐことを決め、彼女と一緒に幸せに暮らしている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「それ、ノンフィクションだかんな。」

雅人がお墓の手入れが終わったらしく、話しかけてきた。

「んで、感想なんかある?」

「特に直すとこもなさそうだし、いいんじゃないかな。」

「よかったー。やっぱ他人の意見で言ってくれたら助かるんだよなー。」

「マキには恥ずかしくて見せられないからなー。」

「ふふふ、見さしてもらいましたよー。」

笑いながら話す雅人の横にいつの間にか女性がいた。

「あれ、いつからそこに」

僕は少し驚きながら言った。

「あれ?気づきませんでしたか?途中から隣でパソコンを見てましたよ。」

「えー。読んだのー。恥ずかしいなー。」

雅人と女性は一緒に幸せそうに笑う。

「それじゃあ帰るよ。」

「おう、ありがとうよ。」

僕は少し急ぎながら車に向かった。

車に乗ろうとすると、助手席に女性がいることに気がついた。

僕は幸せに暮らしている。

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