プロローグ
温かい目で読んで頂けると幸いです。
プロローグ
聖女と魔王の戦い。それは何十、何百とこの世界で繰り返されてきたこの世の理。
魔族を束ね、人族と戦い続ける魔王。
その力はまさに一騎当千、千差万別で、絶対的な力を駆使して全てを破壊する存在、それが魔王。
そして、そんな魔王と対極の人間を束ね、力を貸す人類の希望となる存在、それが聖女なのだ。
聖女率いる人間軍が勝つ時もあれば、魔族率いる魔王軍が勝つこともある。どちらかが勝者になり、どちらかが敗者になる。勝った者は生き続け、負けた者は死ぬ。
それもまた自然の理であり、生まれながらの運命なのだ。
だが、今世の聖女と魔王は違った。幾度の激しい戦いの中で二人は恋に落ちた。
そして二人はこの世界の理を破り、聖女と魔王の間には子供が出来た。
聖女と魔王は停戦を決め、戦争のない平和な時代が幕を開けようとしていた。
二人の間に生まれた子供は無事生まれ、すくすくと成長していった。
だが、それを世界の理は許さなかった。
突然、聖女はその体に不治の病を宿した。それは聖女の力を持っても治すことは出来ず、聖女は数年でこの世を去った。
これに怒りを覚えた魔王はまだ生まれて間もない我が子を守る為に遥か遠く異郷の地にある聖女の故郷、人間の里に子供を預けると姿を消した。 子供はみるみると育っていき、9歳になったある春の日にそれは起きたのだった……
これはそんな聖女と魔王の間に生まれた子供の物語である。
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黒色の硝煙が至る所で空へと登り、数多の金属のぶつかる音が鳴り響く平野の中、上空・1500m付近を茶色のマントを着た一つの団体が飛んでいた。
団体と言っても8人しか居ない小隊であり、それも今回が初めての戦争参加者であるこの小隊の名前は第一空戦魔装小隊、別名【ウィル小隊】。
最初で最後のこの小隊の任務は敵、魔装小隊の撃破。
相手はリスターン王国。6万にも及ぶ大兵力でこの土地エルシオン帝国に侵攻して来たのだ。
だが、6万の兵力を持ってとしても帝国側はビクともしない。何故ならエルシオン帝国はこの人間世界で最強の軍事国家だからだ。
最強と言うわれる所以は、今までになかった新たな武器と兵士一人一人の力量、更に魔術士や魔剣士などの魔法に長けた存在が多数いるからだ。
このウィル小隊が全員所持している武器も帝国が開発した新たな武器で、名前を【スナイプ】。
超遠距離からの精密射撃、及び数発の連射を可能にした新兵器なのだ。
「前方に敵影を発見‼︎ 距離1500‼︎」
先頭を飛ぶ僕の横から観測士がそう叫ぶ。
スナイプについているスコープから正面を見ると確かに敵が見えた。
僕は小隊に止まるようスナイプを掲げ、合図を出すと振り向き指示を出した。
「これより、敵魔装部隊に襲撃をかけます! 練習通り遠距離射撃の後は僕が魔力結界を張るので全員で一斉射撃をお願いします!」
「「「「了解!」」」」
全員の威勢の良い返事に僕は一度だけ頷くて再び前を向いた。
この小隊に気付いた敵はこっちに向かって飛翔してくる。
「敵に気付かれた!作戦変更! 各員、照準準備!」
「「「「照準準備!」」」」
僕とその他の隊員は全員スコープを覗き込む。
敵の1人にロックオンをすると次の準備をする。
「魔力装填開始!」
「「「「開始!」」」」
復唱と共にスナイプ内にある弾丸に魔力を込める。
「敵の射撃圏内に入りました!」
観測士が隣で叫ぶ。僕は魔力結界を展開すると再び全体に指示を出した。
「各員! 射撃後、すぐに拡散して下さい! 拡散と同時に2射目に備えて!」
「「「「了解‼︎」」」」
魔力結界に敵の弾丸が当たるが全て無視。今は肉眼でもしっかりと姿が見える所まで来ている敵に意識を向ける。
「敵との距離、約600m‼︎」
その声が聞こえた瞬間、僕は躊躇わず叫んだ。撃てと。
複数の銃声音の数秒後、凄まじい爆発音が戦場に響きわたった。