1話 村に泊まる事になった。
蹴り飛ばされたヤマトは扉を抜けて驚いた。
地面が無い。
それはもう全く。いや、厳密には地面はあるのだけれど、500メートルや800メートルじゃきかないほど下にある。
このままいけば地面と激突して死んでしまう。
ヤマトを放り出した扉はもう消えて無くなっていた。
「色んな死に方を一度に体験した後でまた別の死に方を体験させるってマジかよ・・・」
ヤマトは地面まで距離があり過ぎて、混乱していた頭の中が、一周回って考え事をする程度には落ち着いている。
「能力を使えば生還できるしな。
ってか生還出来なければもうこれで終わりだ。
とりあえず能力を使うにはどうしたら良いんだ?能力名でも言えば良いのか?
『すべての向きを自由に変えられる能力ぁ!』
まずは!減速!減速!減速!減速!!!!」
ヤマトが言った通りにどんどん落下速度が減速をしていく。
「すげーな。重力とかの向きも相殺してるな。
あの小説だとそこら辺がよくわからなかったけど、細かい演算?とやらもいらない分、たぶんこっちの方が楽だな」
減速したままゆっくりと降りていくヤマト。
「能力名、いちいち長いな・・・。
なんかもっとしっくりくる短い名前考えなきゃな」
高速で高層から落ちていた間は余裕が無かったけれど、ゆっくり落ちている今なら地面や空を見る余裕が生まれる。
地面は平原で特に魔物とかが待ち構えているなんてことはない。
南の方に大きな森があって、その中を少し歩くと小さな村があるみたいだった。
木々の隙間からチラリと見える。
空は太陽がまだ出ている明るい時間帯。遠くの方で翼の生えたデカイトカゲが飛んでいる。
「あれは、ドラゴンか?
やっぱりファンタジーな異世界に来たって事か」
しばらく遊覧落下を楽しんだ後、地面に降り立つ。
「まずは・・・とりあえず村の方に行ってみるか」
しばらく歩いて平原から森へと入り、小さな村に辿り着く。
その時今更ながら自分の格好や言語の事を考えた。
格好は灰色のパーカーにジーパン。
村人の会話や看板の文字はなぜか問題無く聞き取ったり、読み取ったりすることは出来た。
書けそうにはないけれど。
「やっぱり、この格好は目立つか?
変な格好だと思われてるな。
つか、そういえば無一文だな。
当然といえば当然か。
さて。どうしたものか」
ヤマトが辺りを見回してもあまり大きな村では無いらしく、宿という宿も無さそうだった。
「あまり旅人とか来ない村なのか?
それとも過疎っているのか」
「あ、あのぅ・・・。旅人さんですか・・・?」
恐る恐るといった様子でヤマトに声をかける村娘が1人。
どうやら他の女の子達に声をかけて来いと言われて渋々来た様子だった。
赤みがかかった黒髪、三つ編みポニテの可愛らしい女の子だった。
やりとりを遠巻きに見ている女の子達はクスクスと笑いながら様子を見ている。
村娘の女の子は返事をしないヤマトに再度声を掛ける。
「あの・・・。どうかしましたか?」
「いや。別に。旅人・・・ぁぁ、まー、そうだな。そんな所だ」
なぜか女の子は怯えた様子でヤマトに聞いてくる。
「こ、こんな何もない村に何の用ですか?」
「あー、別に何かがあって来たってわけじゃないんだが・・・。
なんだ。なんかマズかったか?」
「いえ!
そういうわけではないんですけど、珍しいお召し物をしていらっしゃいますし、そもそもこの村を訪れる方自体があまりいらっしゃらないので・・・」
「ふぅん・・・そうか。
この辺りで一番大きい街はどこだ?」
「それはノーティラスですね。
旅人さんは歩きですか?
見た所それらしい移動手段をお持ちでは無いようですけど」
「ぁぁ、まー今は正直金も無いし、歩くしか無いと思ってる」
「そうですか。歩きですと、ここから西に約2日程行った所に馬車も通る大きな道があります。
その街道を南へ3日ほど歩けば港町ノーティラスに着きます。
大森林をまっすぐ突っ切って行くと速く着きますけど、迷いやすいのであまりおすすめはしないです」
「5日か・・・」
(俺の能力を使ったらかなり速く着くだろうな)
考え事をしているヤマトを不思議に思ったのか村娘は首を傾げる。
その時、遠巻きに会話を見ていた女の子の中でもリーダー格っぽい娘が離れた所から囃し立てて来た。
「ねぇ!
その娘さぁ、親とか兄弟とか居なくて毎晩独りぼっちなのよ!
一晩ベッドで相手してやれば?あははっ」
「えっ!良いの!?」
会話を聞いていた村人全員からヤマトはドン引きされた。
あれ?おかしいな。
これだと村に泊まれないぞ・・・