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PARTY CREW  作者: エトー
パーティは六人の方がいい
9/10

009 魔道工学

カタラ砂漠


汗が吹き出ては渇くことを繰り返し、身体の中の水分が消費されていくことを実感しつつ、これは本当にゲームなのか?と疑問符が出てくるが、バーチャルリアリティー以上の体験というのを改めて理解しつつある。


「暑い…」

思わず口にしてしまう。

口に出すと、更に暑さが増してしまうようで、これ以上は言うもんかと思うが、無意識のうちに出てしまうのだった。


「これは、あれか?装備か?装備がいけないのか?」

ウサギの毛皮と蛇の皮は日除けにならない。

通気性などあったものでは無い。

俺は召喚していたソフィーに向かって告げた。

「帰してー…戻してー…あついー…送還頼む…」

返事にならない。

マルを召喚すると、頭の上に乗ってきたのですぐに送還した。

地面が焼けているようで、相当暑いのだろう。

水を飲まないと、自分のHPが減るので、間違いなくダメージを受けるほどの暑さが襲っているのだ。

毒の沼地よりも質が悪いような気がしてくる…

ソフィーは肩に乗り、頭を垂れている。

数分ごとに水を被り、そして飲む。

ソフィーが体力を回復してくる。

これを繰り返し一歩一歩進む。

「遭難したら死ぬな…」

俺は思わず口にしてしまうが、俺は遭難していたのだ。

地図が真っ白と思ったが、拡大すると何もないところを歩いているのだ。

昔のカーナビを使っているせいで、新しく舗装された道が登録されておらず、海の上を走っているような気持ちになった。


幸い食料、水、テントがあるのですぐに死ぬことはない。

ファスタストの井戸水をタダだからとバカみたいに汲み上げ、魔法鞄に入れていたのが役に立つ日が来るとは思いもしなかった。


それでも恒久的な命ではないと思ってしまう。

更に敵も出る。

サンドリザードというトカゲや、サンドシャークというワニ。

名前から鮫だろうと思ったが、足があり歩行して襲ってくる。

トカゲとの違いは地中に隠れていることだ。

呼吸穴みたいなのが地面に空いていて砂が巻き上がるので、何事かと近づいたら噛みついてきたので驚いた。

アリジゴクのようなやつだと思う。


道中に現れる敵を倒しながら進む。

「ダメだ…何か目印が欲しい」

「砂漠に目印って…」

俺の呟きにちゃんとツッコミを入れてくれる出来た子だ。

暑さで考えが回らなくなってきたのか、ログアウトしてアイスでも買ってこようかと思ってしまった。

リアルじゃ梅雨だが、クーラー着けながらゲームしているはずなのに、ゲームで汗をかくなんて本当に訳がわからなくなる。


明光の渓谷を抜けて、山道と砂漠の分岐があったので、取り敢えずと砂漠に入ったのが不味かったかもしれない。

暑さが尋常ではない。


しかもこれが砂漠に入ってから時間がかかっていることだ。

リアル2日、プレイ時間は10時間越えている。

あれだけ大量にストックした水も飲み物も、無限ではないのだと悲鳴をあげそうだ。


砂漠の遠くに、また、キラキラ光るものを見つける。

遠くで光っているようだ。

完全に舞い上がってしまう。

「オアシスかもしれん」

「オアシス!?」

俺は走っていた。

これも何回目だろうか。

ソフィーも肩から離れて飛んでいる。

しかし、光は地面にあり、ガラス玉を見つけただけだった。

「オアシス違う…」

呟いたのはソフィーだ。

俺はガラス玉を拾い上げる。

アイテムを拾うのは初めてだな。

小指の爪よりも小粒なそれは、綺麗な球ではなく、雨粒をマーク化しているような、先端が尖るような形をしている。

すると、それまでの暑さが嘘のように消え、寧ろ涼しげで快適な状態になっている。

真夏にクーラーをつけた部屋に入ったかのような、サウナのあとに冷水に入ったかのような、とても心地よい感じなのだ。

リアルの自分の部屋よりも気持ちがいい。

「あー……涼しい………」

ソフィーは不思議な顔をしているが、関係ない。

この不思議なアイテムを魔法鞄に入れると、それまでの暑さがまた舞い戻ってくるので、慌てて取りだして握りしめる。

俺の涼しげな表情を見て怪訝な顔をしているのはソフィーだ。

「ご主人、それはなんですか?」

パンチング呼吸にも近い程に舌を出すソフィーが不憫に思える。

俺と同じ暑さを味わえと思って召喚していたが、これではただの虐めである。

「ヤバイよ」

ニヤリとしてガラス玉を渡す。

「ひんやり…」

両手で受けとると目を閉じて口角を上げた。

「はい、おしまい」

手のひらからヒョイと取り上げる。

しかし、ソフィーはマジギレの顔を向けて、鬼と化した。

「ふっー!ふっー!」

顔面に突撃され、何かしらの声にならない声でジタバタともがく眉や鼻を引っ張られ砂漠に倒れこんでしまう。

背中が火傷するのだろうが、ガラス玉のお陰で、ただの砂場に転んだだけのような感じだ、ガラス玉を手放したらマズイ…

「やめろ!はなれろっ!」

顔から引き離すと涙目のソフィーは、手足をバタつかせた。

渡しても地獄になるだけだ。

思案したが、またキラリと光るものが遠くにある。

ソフィーを解放して光る場所へ行く。

同じようにガラス玉を見つける。

まだたくさん落ちてるじゃないか。

握りしめていたガラス玉をソフィーに渡すと、新たなガラス玉を拾い上げる。

ようやく俺とソフィーの小さな戦争が冷戦となる。

二度と手放すものかという様子のソフィーに「はいはいあげるよ」と言うと、服の中にしまいこんだ。

俺もどうにかアクセサリーのようにして身につけたかったが叶わず、左手に握ったままで歩き出す。

HPは自動HP回復の効果ですぐに全快していく、飲み水も飲まなくてよくなり、かなりの爽快感で行動できる、砂漠に恐れる必要がなくなった。


「あれは…」

更にそのガラス玉は至るところで発見でき、見つけては回収を繰り返す。

魔法鞄に52と表示されているので54個持っていることになるのだろう。

なんだかきりがないような気がするので、ここを離れることにした。

地図を開くが相変わらず真っ白である。

自分の表示されているところにマーキングを施して更に東へと進むことにした。

ガラス玉収集場所と…


「最初からそうすればよかったのか…」

俺は地図を開いてマーキングを落としながら砂漠を歩く。

童話でパンくずを落としていく、そんな感じだと思ってよい。

何度か同じ場所を通ったような気もするが、同じ風景が続くとこういう錯覚が生まれるのかもしれない。

ぼんやりと蜃気楼も見えるし、暑さが克服できた今となってはトラップがあったとしても、時間がかかるだけだと思われる。


夜になり、月が姿を現す。

月の砂漠はなんとも味わい深い。

そして、なぜサンドシャークがワニではなくサメなのか答えがわかる。

サンドシャークは砂の中を泳いでいた。背ビレが近づいてきたときは新しい敵だと思ってしまった程だ。

ちなみに、夜はトカゲが砂の中に隠れていた。

この二匹は時間帯で立場が逆転するのだ。

なぜなら気温が逆転していて寒い。

砂漠に入って初めての夜を迎えたとき、俺はその場で凍るとは思いもしなかった。

氷付けになって身体が動かないとどうなるか。

モンスターの攻撃を交わせない。


そこをどう乗り切ったか。

身体を擦り合わせて歩いたが、歩みが鈍くなりしまいには凍る…

温度差には呆れてしまう程だ。

そこで、動けなくなった俺に、ソフィーが遠慮なくエアーカッターで切りつけて行動できるようになる。

ダメージを受けたがこうでもしないと動けなくなるのだろう…

あとはまた体力を回復させていた。

常に温かい飲み物が欲しくなる。

温かい飲み物は井戸水を日中に温め、それを魔法鞄に保管すれば、お湯ができる。

次の日は問題なく夜を迎えれたのだった。


ガラス玉はこの砂漠の必須アイテムなんだと思う。

暑さも寒さも関係なくなるのだから。


こうしてガラス玉を手に入れてからも歩き続ける。

砂漠でテントを使いログアウトをして、目印もない地図を見ながら、旅をする。

サンドリザードもサンドシャークも素材だけはずいぶんと集まった。

あんまりいないのだが、よく見ると穴が開いてるので、魔法を撃ち込み短剣で止めという流れが続いた。

遠くの敵はダイスで攻撃し、近くに誘き寄せた上でパターンに嵌める。

いきなり噛みつかれそうになったときに比べると、戦闘と呼ぶに価しないものだろう。

何せ今まで戦闘になれば逃げていた相手だ。

灼熱ダメージを負いながらの戦闘といきなり凍る可能性がある戦闘は避けていたため、ガラス玉のお陰で戦えるようになっていたというのもある。


まぁ、歩いてればそのうち砂漠を抜けるだろうと歩いた。

レベルも少し上がり55になる。

たまにウィスが入って、レイに「師匠今なにしてるの?」という言葉が投げかけられるが、「砂漠を歩いてる」と伝えると、「私たちはウォタリルムに来てるよ!」と新天地の情報をくれたりした。

ウォタリルムは城がたくさん建っていて、騎士が多いのだそうだ。

闘技場もあるらしいし、訓練もできるそうだ。

レイのレベルもかなり上がり、もうすぐ50なのだそうだ。

うかうかしてると、弟子が師匠のレベルを越えてしまいそうだなと笑いあった。

βの頃よりもレベルアップしやすいのかもしれない。

話をしながらというのがよかったのかもしれない。

ソフィーと話してはいるが、甘いものの話がベースとなっているし、ソフィーの将来の夢はケーキ屋さんになっていた。

ケーキの存在を知っていてもケーキを食べたことがないというのだ。

人生を損しているソフィーにケーキを食べさせてあげようと、街に到着したらケーキ屋へ行くことになっている。


そうこうしながら、やっとオアシスを見つけたのだが、オアシスは大きな町だった。

立派な門である。


サイシン


オアシスにテントや石レンガ、白磁などで作られた、古代に出来た建物を現在も利用しているという町並みは、冒険者(プレイヤー)は見かけないものの、商人や先住民が賑やかにしており、砂漠だというのに活気がある。


門に砂色のレッサードラゴンが繋がれていた。

帰りはここで借りていくことになるんだろうなと思った。

街の中はオアシスということもあり、街の外より異常気象になっている程の暑さはないが、それでも真夏のように暑い。

テント風の露店でアイスクリームを買って食べることにした。

マルとシャドウを召喚して一服する。

ソフィーがシャドウにアイスクリームを食べさせている。

俺は左手にアイスクリームを二個持ち、右手でもう一個をマルに渡した。

シャドウはゆっくりと咀嚼しているようだった。

「食べるとは思ったけど、本当に食べるんだな…」

マルにアイスクリームを食べさせながら、シャドウを観察した。

「マルさんが私にもちょうだいって言ってるよ?」

ソフィーが通訳してくれる、

「アイスクリームなら食べさせてるよ?」

「そうじゃなくてさっきの…」

ソフィーがシャドウにアイスクリームを食べさせ終わり、自分のアイスクリームを楽しんでいる。

「あぁ…」

さっきのガラス玉を魔法鞄から出すと、マルの前に手のひらに乗せてから差し出すと、マルはパクっと食べてしまった。

「それでいいんだ…」

首輪にでもしないとつけれないかな?と思ったが、それでもいいのかと納得する。

納得はできるが自分ではできる気がしない…

握りしめていたガラス玉を飲み込んでみようかと思ったが踏ん切りがつかなかった。

ついでだし…と思い、シャドウの前にも差し出してみる。

シャドウもパクっと食べてしまい、俺の中に何か葛藤するものが沸きだしてしまうが、首を振って否定した。

口に入れることすら躊躇うよ。


ふと気づくと街の人が俺たちを見ている。

なんだか畏怖のような、驚愕に見舞われたような、そんな視線を感じるのだ。

少し考えてから、マルとシャドウを送還する。

召喚獣が珍しいのかな?と考えた結果だった。

ソフィーも送還しようか悩んだが、まぁこいつなら問題ないだろう。

しかし、予想外に、モンスターだったからという理由ではなかったようだ。

「もし…?」

少し小太りのおじさんに声をかけられる。

「先程宝石は女神の涙だと見受けるが、よかったら売ってもらえないだろうか?」

「これのこと?」

魔法鞄からガラス玉を出してみせる。

相手から売ってくれというのは初めての経験だ。

NPCから声をかけてくることも、そりゃああるよな。

オアシスは外の気候ほど暑くないので、魔法鞄に入れていたのだった。


この世界のNPCは人格を持っていますと説明書で言いきる程、手が込んでいる。

これは俺がゲームだと思っているからだろうが、口下手な人と会話するよりも会話が弾むときがあるから不思議である。


本当にこの世界は説明書の通りに、アルゴという世界に作ったキャラクターで、そこに自分の魂を送るという仕様を忠実に再現しているようだ。

ちなみにNPCは、NPCのことを先住民(ネイティブ)と呼び、プレイヤーのことを冒険者と呼んでくる。


小太りのおじさんに声をかけられるというのは、ゲームならイベントみたいなものなんだろうが、すでにRPGという考えより、異世界へ来る機械という考え方に落ち着こうとしている。

あくまでも、俺の中ではだけども。

ゲームと現実を区別できないと言われても仕方がないかもしれないが、割りきるしかないだろう。

ゲーム好きでも、それは無いと思いつつも、この世界に侵食されているようだ。

ハマりすぎてるかもなぁ。


「そうです!それです!」

小太りのおじさんの大きな声で目が覚める。

「これ、女神の涙って言うんだ…」

ガラス玉と思っていたら結晶体(クリスタル)でしたとさ。

「うーん…いくらで買います?」

売る気は無い。

相場を聞いておくかと相手にしてみた。

「そうですね…100億でいかがでしょうか?」

おかしい!なにかがおかしいよ!

「100億ですか?!」

俺は驚いた。普通に驚いた。驚いて雑に扱っていたガラス玉、もとい、女神の涙を落としそうになった。

「たた…足りませんか?!じゃあ…120億でどうでしょうか?!」

「いいえ!100億で構いません!」

なぜ値段が上がる?!

売る気は無かったし、金もあるので今さら100億程度じゃ驚かない。

嘘です。

俺は100億を召喚獣に食べさせたのかと戦慄してしまう。

思わず敬語になってしまったじゃないか。

「私、ここで宝石商を営んでるのですよ。交渉成立ということで私共のお店にお越し下さい!さぁさぁ!」

そう言うと、砂レンガでできた立派な建物に案内された。

無理矢理案内されたわけでも、連れ去られたわけでもなく、この男に普通に着いてきただけになるが。


中は砂色ではなく白色の大理石でできているような感じで、外からじゃ分からなかったが、階段があるので二階建てになっているようだ。

調度品や、装飾品、宝飾品に原石まで取り扱っている。

綺麗な女性が数人並んでいるカウンターではなく、ゆったりと座れる黒塗りのソファーへと案内され、腰掛けていてくださいと言われて言葉に甘えると、ガラスのテーブルに冷たいチャイが差し出された。

コースターに置かれたチャイに手を伸ばし口をつける。うまい。

「なんかVIP待遇だな…」

「ねっ!」

俺とソフィーはチャイを堪能しながら待つこと数分、飲み終わる前に小太りのおじさんが帰ってくる。

鞄からゴールドが100億枚出てくるわけでなく、茶布の袋に入れられているものをテーブルに置く。

「ちゃんと100億ございます。ご確認を…」

画面に100億ゴールドの表示を見ることができた。

「確認しました」

この世界の基本だが、ゴールドは麻袋のようなものに入れられて所持することになる。1枚以上出すと、自動的に麻袋に入れられ、数字が表示されるだけだ。

モンスターを倒してゴールドが撒き散らされることはない。

しかし10000000000という表記を見ると、何回か確認してしまう。

そして、少しだけ引っ掛かることがあるので質問した。

「なぜこんな大金で取引を?」

小太りのおじさんは少しだけ唸り、目をつぶって考えてから、俺を見直すと改まって喋り始めた。

「祖父の…祖父の遺言でして…

実は私、こう見えても王族の末裔でして、ここの貴金属も我が国の出土品から作ったものでした。

しかし…私のときにはすでに砂漠になっていたのですけどね。

まぁ、昔は緑豊かな土壌だったと聞いております。

祖父は死ぬ間際に言っておりましたよ。

女神の涙さえあったならば、おまえたちに国を託せただろうにとね。

女神の涙は悪天を味方につけるという言い伝えがあったと言います。

言い伝えだけで実際にそのようなことは無かったようですがね。

しかし、祖父はもしかすると…その言い伝えを信じていたのかもしれませんね。

まぁ、私は国王という柄ではありません。

これからも、商いをし、普通の商人として生きていくつもりです。

でも、せめて、祖父の墓前にこの女神の涙を飾りたいのです。

国を託せたという祖父の願いを聞き届けたいのです。

100億ゴールドというのはそんな祖父が残した財産の一部です。

私財で賄えるわけではないのがお恥ずかしい限りです。

そして、私とて王族とは言えど、今は一介の商人です。

資産云々を言い出せば、確かに高額ではありますが…

それ以上の価値がこの女神の涙にはあるのですよ。

サイシンは一度滅んでいて、今は新しい街となっています。

これも、私共が国を納めてきたころから考えれば、急速な発展でした。私だけではなく、みんながここで生まれ育ち、ここを愛していたのです。

祖父の悲願が果たせるならば、祖父の財産全てでもと言いたいのですが、それをやらなかった私は、なんだかんだで現金なのでしょうな。

いや、祖父の財産全てと仰るならば、それでも売っていただきたいものなのですよ。」

小太りのおじさんは目を瞑ると天井を見上げる。


「なら…お金はいらないですよ」

俺は100億ゴールドの袋を小太りのおじさんに返した。

「売ってくれないと?!」

俺は頷く。

「売らない。これはあげます」

そう言って女神の涙をチャイが置かれていたコースターに、コップを避けてから、そこに置いた。

「いいえ!お金は受け取ってもらいます。

元サイシン国王の子孫である一族の名にかけて、アルフレッド・ビンゴの名にかけて、商人として、取引で厚かましい真似はできません。

そして、遺言である以上、その通りにさせてください」

綺麗なお辞儀、テーブルに手をつき、頭が付きそうな程に下げる。

俺はちょっとカッコつけようとしたことを恥ずかしくなってしまった。

思わずえっえっとか言ってしまいそうになる。

でも、それじゃ俺の面目も立たない。

誰だっていきなり大金見せられたら困惑するし、気持ちも大きくなるってもんだ。

「じゃあ、売らねぇぜ?」

俺は引けない気がした。

強気でいけ!

腕を組む。

「それは、困りましたな…」

小太りのおじさん、もとい、ビンゴは考える素振りを見せて顎に手を当てて、低く唸る。

「では、冒険者様がお持ちの女神の涙を預けてくだされば、身につけれるようにしておきますし、私どもの商品を何点かおつけさせてください。

商人として、取引させてください」

お願いしますと頭を下げた。

でも拾い物だしなぁ。

「顔を上げてください…

冒険者様じゃなくフリードでお願いします。

そうですね、身につけれるようにしてくれるのは嬉しいですが、商品をつけるというのはやりすぎですよ。

売らないなんて言ってすみませんでした。」

もう無理だ、折れよう。

カッコつけようとして、逆に恥かいた。

ビンゴの100億ゴールドを受けとることにし、女神の涙がビンゴへ渡す。

「ありがとうございます…ありがとうございます…」

感慨深く、涙を浮かべているように見えた。

俺にも少しだけ涙を貰ってしまう。

頭をかいて誤魔化す。


その後は、ビンゴに案内されて店の商品を眺めながら過ごすことにする。

女神の涙を装備できるように1つ預けた。

女神の涙をもう一個売ろうかと聞いたが、1つでよかったらしい。

「祖父の願いは一つあればいいとのことですから」

幻の秘宝がたくさんあるのは驚きだが、「それは冒険者でないと意味がありませんから」と言われる。

「私のも、首につけれるようにして」

ソフィーがビンゴに女神の涙を渡していて、ビンゴはニッコリと頷いて受け取っていた。


ビンゴとは、話をするにつれて商売人と客、王族と冒険者という感じではなく、友だちの会話のようになっていき、「サイシンに着たら顔を見せてくれ」と、タメ口で言われるような仲になっていた。

夢というのをビンゴから聞いたのも良かった。

商人になる前は冒険者に憧れていたらしい。

しかし、体力はあったものの、街を復興したい一身で商人を選び、持ち前の器用さと人望で宝石商として確立し、今では様々な経営を行っているそうだ。


そして、とんでもない話が聞けたのだが、このカタラ砂漠が、巨大逆ピラミッドの地下一階だという話だった。


大昔、ここ一帯は、緑豊かな土地だった。

しかし、迷宮が発見されると、踏破しようとする者が現れ、挑んでは帰らないものが増えたそうだ。

最下部には何かあると噂が噂を呼び、迷宮の入口を賭けて争う戦争が繰り返され、緑の大地は姿を消し、崩落と共に姿を現した砂漠を見てしまった誰もが、ピラミッドなど本当は無かったのではないか、でも、帰って来なかったものはどこへ消えたのか、様々な憶測が飛び交い、それが噂を呼び、戦争は終結していく。

砂漠の中に階段を見つければ、また迷宮に向かうものが現れるかもしれないが、この砂漠を歩きたいと思う強者が現れることもなく、今日に至るという話だ。


ピラミッドは一つのロマンだが、向かうにも余りの準備不足と言える。

ビンゴは、階段を降りたらテレポートを使って戻ってきたいだとか、入口の場所に街を作って、商売ができれば面白いとか、自分も遺跡調査に向かってみたいなど、まだ見つけもしない迷宮の話に花が咲いた。

復興が済んだ今、過去に冒険者になりたかった夢を追うのも悪くないという気持ちにも駆られているようだった。

たられば話は好きだったのでとことん付き合った。

やはり、ビンゴは冒険者兼商人という感じが似合い、王様には慣れそうにもないなと内心思ったのは口には出さなかった。

少しだけ小太りなのが愛敬みたいなものだな。


ビンゴに宿を案内され、いつでもここを使ってくれと、中は大理石のような高級な作りの宿に案内され、この世界初の浴場を体験した。

受付にいくらか聞くと、「ビンゴ様のお客様からお金を頂戴するなんて、とんでもない」なんて言われる。

この受け答えはNPCっぽかった。

大浴場は、回復力がアップしたり、ステータスが上昇する。

一時的とはいえ、貴重だろうな。

いつでも使えるというのは嬉しいものだ。

広々とした浴場で汗を流したあとは、食事をする。

どこぞのレストランのコースか、食べたこともない宮廷料理かという歓待を受け、女神の涙はもう少しかかるということで、明日は街を巡る予定を立てて部屋のベッドでログアウトする。


翌日さっそくログインしたところで、女神の涙が完成していて受け取った。

六枚の翼で女神の涙を覆ったネックレスを俺とソフィーの分を受け取り身に付けた。

装飾品は自動的に自分に見合ったサイズに調整されるようで、胸にピタリと揺れるネックレスに満足げな表情を見合わせた。

「これはいいものだ」

装備してみると、効果は環境耐性、気候ダメージ無効、ステータス異常回復力がついている。

効果も素晴らしいが、何よりもデザインが気に入った。

ソフィーも同じように、首から下げたそれを弄っては、ニヤニヤしていた。


そんな二人を、微笑みながら見ていたビンゴに気づいてお礼を言った。

「ありがとう!」

「また寄ってくれな!」

ガシッと両手で握手をしてくる。

ビンゴはすでに心の友になっていたようだ。

「本当にまた来るぞ?」

ニヤリとすると、

「どんとこいだ」

ビンゴも笑顔で答えてくれた。

見送りに来る従業員たちにも手を振り店を出た。


次に向かうところは決まっている。

ビンゴとのテレポートの話題で気になっていた店を訪ねることにした。

魔法を物に伝える技術を売りにしている店だ。

店に入ると、水瓶から水が涌き出ている物や、シーリングファンなど、さながら電化製品を扱う駄菓子屋のような雰囲気を出している。

奥にこれまた胡散臭そうなおじいさんが丸い目がねの上から品定めをするような目線を向けてきた。

「何か用かい?」

「ビンゴの紹介で来た、魔道工学に興味がある」

おじいさんはあの王様かいと呟き、

「ついてきな」

そう言うと、工房へ案内される。

陶芸教室。工芸教室。

まさにそう言う場所だった。

粘土で作られた陶器のようなものから、人形、端の棚には、兜や鎧が立てかけてあり、習字道具のようなもの、剣や杖などの武器、ありとあらゆる物が置かれている倉庫兼アトリエ、その雰囲気に回りを眺めるだけで応えた。

おじいさんが口を開く。

「俺はミドナだ。魔工をかじっちゃいるが、人に教えるまでは勉強しちゃいねぇし、先生みたいにゃできねぇが、それでもいいなら、教えてやるよ」

「フリードだ。よろしく」

「よし、まずはこいつで器を作れ」

そう言い放つと、粘土の塊を渡してきた。

言われた通りに湯飲みを作る。

「これでいいのか?」

俺は歪だが時間をかけて作ったものをミドナに見せる。

「エルフのくせに不器用なんだな」

笑いを堪えているように見えたが、DEXが低いので仕方がないと思っている。

リアルじゃここまで不器用ではないはずだ。たぶん。

「まぁ、味があるな…

そしたら、この魔方陣を底に描け」

竹串のように細い棒を受け取り、言われたように、受け取った魔方陣の本を見ながら描く。

「よし、焼くぞ」

ミドナは俺の作品を釜へ放り投げると、光の粒が吹き出し、あっという間に焼き上がった。

この釜が欲しいと思った。

「まだ熱いから素手で触るんじゃない!って、何で素手で掴めるんだ?」

ミドナは不思議そうにそこに置けと言ってきた。

焼き上がったものに水を入れる。

なんでも魔素水と言う。

入れた途端に器が変形し、黒く四角いキューブが完成した。

目の前で変わる様は異様に感じたが、蛇花火という固形に火を着けたのを思い出す。

形が変わるものを見るのは不思議な気分になるな。

「これがコアだ。人形に定着させると、自動人形(オートマタ)になるわけだ」

「へぇ…他にはどんなのがあるんだ?」

うんうんと頷く。

ミドナの話は興味が尽きなかった。

プラモデル作りなんかも好きだし、機械いじりも好きだし、いつかはレストアしたいなんて思っていたが、なかなか難しいと聞いて手が出せないでいた。

魔法の空飛ぶじゅうたんの原理を聞き作ってみたり、水が勝手に涌き出る装置や、エアコン、魔方陣を組み合わせての複合装置、ミドナは感心しながら俺と開発に没頭した。

素材が足らなくなると採取に向かった。

粘土の原料は、砂漠に眠る魔土で、詳しいポイントを聞いて採取する。

とにかくめちゃくちゃめんどくさい作業がこれだった。

魔方陣を描くための棒も自分用のを作った。

マイ魔方陣棒を作りたがったのは俺が初めてだという話を聞くと、ふふんと胸を張ったが、ミドナは呆れているようだった。

この魔方陣棒も砂漠に這えている枯れ木からなると言われ歩き尽くした。

「今じゃどこに這えてるか知らん」

というミドナは「運じゃな」と付け加える。

俺は見つけてきたけどな。

あと、素材も山のように魔法鞄だ。


砂漠の敵を倒していればレベルは上がる。

レベルは58になり、ミドナを世話するオートマタが増えていた。


いつだったか、

"職業:魔導工学者を取得"

"職業:マシナリーを取得"

"職業:魔導化学者を取得"

"称号:魔導探究者"

とログが出る。


「もう教えることないんだけど」

すでに工房を私物化していた俺は、呆れ顔のミドナに早く出ていけと言われんばかりで、金属に魔方陣を掘っている最中だった。

魔土から作り上げることもできるが、あとから魔昌石を付与すれば、自在に魔導化できることがわかったからな。

ミドナは「新発見じゃ!」と最初は騒いでいたけど。

今では一緒になって作っている。

種が分かればこういうもんだろう。

携帯魔鋼釜も作って、キューブ程度ならどこでも作れる。

魔昌石を溶かして練り合わせ、雷魔昌石も氷魔昌石も白も黒も作ることができるのは、「新発見どころか、世界が震撼するな」とミドナは俺を見る目を変えたからな。

好き勝手やらせてくれたのは、そういう理由もあるのかもしれない。


すでにリアルでは二ヶ月すぎている。

「これ完成したら出ていくから」

「それ、昨日来たときも言っておったぞ」


魔方陣と魔昌石の組み合わせで自律したオートマタができることを発見した俺は、戦闘できるオートマタ作成に取り組んでいた、魔土では脆いので、壊れにくい金属を使い、魔昌石を組み込むことで、魔土以上の効果をあげることを見つけていた。


「本当に最後にしてくれよ」

ミドナは溜め息をついて引っ込んだ。

「ありがとう」

俺は見もせずに伝えると作業に没頭。

それから二日後に強化オートマタを完成させた。


"職業:人形遣いを取得"

"職業:魔導人形使いを取得"

"称号:オートマタ製作者"


「はじめましてごしゅじんさま」

たどたどしく喋るのは、まだ学習も躾もされていないからだろうか。

「よろしく、セバスチャン」

俺はすでに考えていた名前をつける。

執事が欲しかったのでセバスチャン。

「せばすちゃん、おぼえました」

ニヤニヤしながらセバスチャンの稼動部分を弄びながら確認し、アイテムなのか、召喚なのか確認。

オートマタは道具として認識されているようで、魔法鞄に入れられる。

工房の角に誇りを被っていた鎧に、ミドナから許しをもらって装備させる。

ミドナも新しい命の誕生に腕を組んで溜め息をつく。

俺が好き勝手やってるときとは違う溜息である。

いつもの「ふぅ…」じゃなくて「ほぅ…」になっていた。

セバスチャンを魔法鞄に入れると、店を出ようと立ち上がり、ミドナに「ありがとう、世話になったよ」それだけ伝える。

「早く出ていけ」

と、憎たらしく言ったが、聞き取れないような小声で、「また来いよ」と言ったのを、俺は聞き逃さなかった。

どうもここの人間は素直じゃないようだ。


サイシンで買い物を済ませて出発する。

やることができたからだ。

これだけカタラ砂漠を歩いたのに迷宮の入口はないので迷宮探しはまた今度だ。

今はレイに追い抜かれたレベルを上げなければならないと思った。

やはり、師匠と言われるからには上でありたい。

レイたちはこの二ヶ月間でレベルが60になったと言っていた。

やはり勝ち負けではないかもしれないが、負けた気になる。


レベル上げは少しだけ当てがある。

上手くいくかはわからないが…


ちなみにサンドレッサードラゴンは、決まった場所まで送るだけの乗り物なのだそうだ。

「それよりおまえさんはいい乗り物を持ってるじゃねぇか」

と言ったが、作ったばかりの魔法のじゅうたんではなく、シャドウのことを言っていた。


俺はシャドウを召喚すると、跨がることが出来て、思わず「マジか!」と言ってしまった。

こいつの速さは追いかけられて知っていたし、女神の涙を食わせたので砂漠でも容易に駆けることができた。

ジェット機を地上で走らせるとこういう感じなのだろうな。

リアルで二日~四日以上はかかった道のりを二時間もかからないからな。

瞬間移動系の魔法やアイテムがそろそろ欲しいところだ。

β版のころは羽シリーズが合ったのに、売ってないんだもんな。


フィレッドの武器屋で買い物をして、名も無き洞窟に向かう。

ゼリーアイズが顔を出した。

もうおわかりだろう。

ノーブルメタル狩り略してノブメタ狩りを行おうとしていた。

爆発さえどうにかすればレベル上げは楽だろう、そんな軽い気持ちだ。

そのために一応クルーン山脈山頂にホームポイントを移した。

なんだかんだ、こいつの経験値は魅力的だ。

魔昌石も魔導工学に必要不可欠だし、しばらく粘ってみることに決めた。


ノブメタがうようよいる中にダイスを使って誘き寄せ、スラッシャーと、セバスチャンに持たせたピッキングハンマーを使って攻撃をするつもりだ。

戦闘中は召喚が二匹までしか参加させられないので、マルとセバスチャンを鍛えようと思う。

少し離れたところでダイスで攻撃。

ノブメタを釣ろうとした矢先、ノブメタはダイスの光の玉にぶち当たると、まるでスイカ割りのように真っ二つに割れた。


「えっどういう…?」

呆気ないにも程がある。

ダガーが壊れるかと思うほどやり合った相手を瞬殺だからだ。

解説を求めるためソフィーを召喚した。

最近じゃソフィーがそこそこ優秀であると気づき始めた。

最初はアホの子だと思っていたんだけどな。


セバスチャンを魔法鞄に入れる。

ノブメタのドロップをマルに回収させる。

「ソフィー見ててくれ」

「うん」

俺は再度ノブメタを割った。

「これは、ダイスが固定ダメージだからだね」

ソフィーは簡潔でわかりやすく答えた。

計算式とかはわからないが、LUKが絡んでるのは間違いないだろうと予測する。

「よし、わかった。ありがとう」


そこからは乱獲だ。


無限に沸いて、一定数を確保しようとするノーブルメタル。

俺は、召喚獣を入れ換えては経験値を吸収させる。

俺はダイスで攻撃するだけ、アイテムの回収は召喚獣に任せる。

たまに大きいサイズに出会うが問題がなく一撃必殺だ。



俺はクルーン山脈山頂と洞窟を往復する。

野宿するより宿で寝たいし、飯もいろいろ食べたい。

何よりシャドウで移動すればすぐだ。


拾わせたアイテムを大量に吐き出させて魔法鞄に入れることを忘れない。


そして、それはすぐに訪れた。


レベル100。

早かったなぁ。まだ一週間経ってない。


"限界突破しました"

"称号:限界突破した者"


これ以上上がらないよと言うことなのか、レベル100になった瞬間、レベル☆と表示を変え、青白く眩しい光が俺を包んだ。

召喚獣たちも順番はことなるが全員青白い光を包む。

眩しすぎるのでエフェクトオフでレベルオーラというエフェクトを解除した。


Lv.☆

HP(体力):1000

MP(魔素):1

STR(腕力):1(+50)(+1)

VIT(耐久):1

AGI(敏捷):1(+2)

INT(知力):1(+50)

MND(精神):1

LUK(幸運):1001(+50)


取得職業:冒険者、遊び人、投擲師、罠師、アルケミスト、調合師、魔導工学者、マシナリー、魔導化学者、人形遣い、魔導人形使い


戦闘での取得経験値10倍

戦闘での取得金額10倍

ファウスト(パッシブ)

フットワーク向上

遠見

星の加護

クリティカラー

ブレス

環境耐性

気候ダメージ無効

ステータス異常回復力


レベル100になっても技という技は覚えなかった。

ダイスで攻撃してただけなので仕方がないかもしれない。


大量のノブメタ素材をゲットし、しばらくは宝石関係で競売をかけるのもいいかもしれない。


師匠としての勤めは果たした気がする。


しかし数を揃えたかったこともあり、各色の魔昌石の数を500個以上にするため、何度も何度もノーブルメタルは狩られた。


稀に現れる白色のノーブルメタルから、魂神体という怪しげに淡く光る球体以外は、目ぼしい素材は無かったが、それでも魔昌石集めを行った。


フィレッド


フィレッドにホームポイントを移し、記念にソフィー念願のケーキ屋へ入ってお祝いだ。

苺の乗ったショートケーキを注文し、テーブルの上に置かれたケーキに感動したソフィーは回りを飛び回る。

マルとシャドウも美味しそうに食べる。

俺もそんな彼らを写真に収めながら、甘酸っぱい味を堪能した。

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