表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PARTY CREW  作者: エトー
パーティは六人の方がいい
8/10

008 契約

ログインするとトールからメッセージが送られてきていた。


「フリード?

言われてたやつができましたので、ログインしたら連絡をお願いします」


録音をするときになると、なんだか訳のわからない丁寧語になるんだよなぁ…と苦笑してしまう、親しげに話したいのに録音されていると意識すると、丁寧になってしまうものである。


フレンド一覧を見るとトールはログインしている。

俺はすぐさまウィスを送る。


「こんばんは。メッセージありがとう」

と送ると、すぐに返事が来た。

「こんばんはー!武器できたよー!今から取りくる?」

「今すぐ行くよ」

「オッケー!鍛冶ギルドの前にいるよ!」

ウィスを切ると、すぐに鍛冶ギルドに向かう。


鍛冶ギルドの前で手を振ってるトールを見つけた。


「言われてたやつ作ってきたよ!それから、ちょっと気合い入れたとこもあるから見てみて!」

と早速渡してきた。


「あらためてこんばんは!早かったね!」

俺は矢継ぎ早に言うと、受ける取る。


そして、頼んでいた武器、"ダイス"を鑑定。

しかし、ただのダイスではない。

全ての目が1の、"一つ目のダイス"だ。


散髪に行った床屋で待っているときに、あるマンガを読んでいてピンときたのだった。


こんなに自由度が高ければ作れるのではないかと…

どうせ作るならば最高級の素材を使わなければ…と、思い立ったのもちょっとした拘りである。


「おぉ…こりゃあ凄い…」

思った以上の出来だった。

どんなものでもトールさんが作ったと言うなら、両手を上げて喜ぶのだが、これは凄い。

まず、何が凄いかと言うと、全ての面の目に使われた属性石がドクロの形に加工されていた。

6面が3つ。つまり18面全ての目がドクロの形になっているのだ。


そして、一つのダイスに使用された属性石は、火、水、土、風、光、闇の六種。

思惑通り、美しく嵌め込まれている。

そして、これは予想外だったが、使われた骨は"ワイトイリュージョン"だったので、鮮やかな緑色の焔が属性石の中で燃えているので、ドクロが緑色に輝き揺らめいて見える。


小さいものだが、かなりの時間がかかっている代物だ。

トールにお礼を言うと、

「いやぁ!これは気合い入ったよ!ドクロのアイデアどうだった?渡された頭蓋骨を見て閃いたんだ!」

「グッジョブだよ本当!これは素晴らしすぎる!」

指輪をバラすのに鍛冶師と彫金師、属性石を加工するのに彫金師、サイコロを作るのに骨工師…わかる範囲でも技術の結晶、匠の業である。


暫く嗜好品を愛でるように眺めていたが、ハッとして、

「そうだ。お礼しないとね。

製作料だけど、言い値を出すよ!」

俺はトールに言ったが、

「いい仕事をしたあとにそう言うのは野暮ってもんよー!」

と女気を見せられる。

やはり、中身は変わらないんだな、惚れたぜっ!


でもさすがに悪いと思い、「何か露店で奢らせてくれ」と頼む。

「じゃあー遠慮なくっ」

とその提案を受けてくれるのだった。


そして、「これがもう一個の武器なんだけど…」

そう言って渡してくれたもの、今度は黒いダイスだ。

これは意外なものに化けた。


もし合成が失敗し、壊れたときの予備で渡していた素材(ワイトサタンの骨)だったが、余すことなく使ってくれたようだ。

好きに使っていいと言ってたので加工してくれたようだ。

これも凄い。

寧ろ先程のやつと対になっているようで、セットのようにも思える。


このような一品に仕上げてくれたのは嬉しい限りだ。

目は属性石ではなかったが、指輪の"輪"の部分の金属が使われているようで、金色に輝いている。

その奥で、赤紫色の焔が目の淵の部分を揺らめいていた。


このダイスもトールなりのジョークが利いていた。

全ての面の目の数が6になっている。

しかも全てドクロの形をしている。

手間がかかりすぎだろう…

ひとつ作るとコピーできるのだろうか?

でないと、6×6×3=108のドクロを彫金したというのだろうか。

俺は思わず吹き出しそうになったが、トールのニヤニヤした顔を見て、取り敢えずしまっておく。

御守りというか、家宝だな。

いつか使う日がくるだろう。

そのいつかまで大事にしよう。


一先ず武器は手に入れたので、あとは戦闘でじっくり自分の武器にしていくだけである。


「さすが!いい出来だよ!」

俺はトールにお礼を言った。


「じゃあ、折角だし露店行こうか!」

夜中に甘いものを食べるという贅沢をするために、二人はクレープの露店に入っていった。

アルゴではお昼どきなのだが、ここはリアルの事情だと思って欲しい。


マルを呼び出してから、二人と一匹でクレープを食べて落ち着くと、トールはダイスの属性について語ってくれた。


「これが今の私の最強武器、トールハンマーだよ」

そう言ってトールハンマーをレンタルしてくれた。

トールが最近完成させたものらしい。


属性:白雷がついている。


確か、属性は火、水、土、風、光、闇の六種類の筈だ。


火は風に強い、風は土に強い、土は水に強い、水は火に強い。

光と闇は相反するもので、絶対量が大きい方が強い。


他のゲームなどでは雷の属性もあったりするが、アルゴの基本属性は六つなのだ。

これは説明書にも書いてあった。


「雷っていうのは、火、水、土、風の四種類を全て取り込んだ属性なんだよ」

つまり、反発するはずの属性四種類を陰陽のように一つにしたものなのだそうだ。


では、雷は何に強いかと言うと、火、水、土、風に強いのだと言う。


生産ギルドじゃ、割りと常識になりつつあるんだけど、その雷と光を掛け合わせると白雷、闇を掛け合わせると黒雷と呼ばれてる。

トールハンマーは白雷なので、光と雷だ。

なんだかイメージ通りの名前になってると思ったが、トールは本名らしく、"トオル"から来ていて、名前も、作った本人が決めれるそうだ。


ならば俺のダイスも"幻想のダイス"と"悪魔のダイス"にしてほしいものだと相談すると、

「ネーミングセンスあるね!」

とからかわれ、すぐに変更してくれた。

確かにガキっぽいネーミングセンスだ。

ほっといてくれ。

呼び方と言うのは大事なのかもしれない。


しかしそうなると、このダイスは何属性何だろうと効果を見ると、そこで知った事実。


幻想のダイスは全属性だった。

"スキル:幻想(イリュージョン)"が付いていて、即死ダメージを受けてもHPが1残ると言う効果までついている。

またもやおまけつき。


ちなみにもう一方、悪魔のダイスは無属性、"スキル:悪魔(サタン)"が付いている。

これは確率によってモンスターを召喚するという何か聞いたことがあるような効果だった…

なるほどと頷く。

三角形を作らなくても自動発動なのか…

すごいダメージが出そうだが、反動も凄そうだ。


「また何か作って欲しい物があったらウィス頂戴っ」

トールは食べ終わっていて、俺が食べ終わるのを待っているようだ。

「ありがとう!また何かあったらお願いします」

ダイスを魔法鞄に片付けると、クレープにかぶりついた。


他にも武器だけでなく防具や装飾品も作れるようになり、最近は生産ギルドを自分で作ろうと考えてるなど、トールの活動スタイルを聞くことができた。

「生産なら、少しかじってるからだいたい作るよ」

トールは謙遜して言ったのだろうが、本当は凄いことなのだ。


「フリードはこれからどうするの?」

トールは俺の活動方針を尋ねた。

「そうだな…ギャンブラーになりたいと思ってるよ」

そう言うと、

「じゃあ、さっきのダイス、役に立ちそうかな?」

と首をかしげる。

おっちゃんだったころのイメージとの差がありすぎてクラクラしてしまいそうだった。

可愛い人だ。

「これは、暫く、いや、末永く付き合っていくと思うよ」

俺はもう一度お礼を言うと、

「そりゃあ嬉しいね」

とトールは満面の笑顔をくれたのだった。

ごちそうさまでした。


トールを鍛冶ギルドへ見送った俺は、早速手に入れた武器の特訓である。

地図を見て、近くに狩り場は無いかと探す。

フィレッドの東に渓谷があるのでそこへ向かおう。


街を出ると、馬に乗った人や、レッサードラゴンに乗って駆けていく人がいる。

馬に乗れるのか!

思わぬ移動手段が見つかったと喜び、俺はフィレッドに入ろうとする、青色のレッサードラゴンから降り立った、全身赤と黒の華やかでいてスマートな服に身を包んだ人に駆け寄り、情報を聞こうとした。

「すみません!お急ぎかもしれないですが、ちょっとよろしいですか?」

「はい?なんでしょう?」

俺の装備を下から眺めて俺の顔を見ると笑顔になった。

「さっき、青いレッサードラゴンに乗ってたみたいなんですが、どうやったら乗れるようになりますか?」

「あぁそれだったらー!」

赤と黒の服の人は、ついてきてとフィレッドに入り、厩舎まで案内してくれた。

「あとはこの人に聞くといいよ」

そう言うと微笑んで、「それじゃ」と手を振って別れた。


厩舎のおじいさんに、「馬かレッサードラゴンに乗りたいんですが…」と聞くと、

「はい!じゃあ免許を出してくださいねー…」


「ん?免許?…持ってませんよ?…」

まさか免許が必要なのか?

すぐに乗れるようになるものだと思ったのだが、これでは引き返す羽目になる。


やれやれと言った風のおじいさんは、

「免許取得に10000ゴールド、乗るための訓練料として20000ゴールドだ。

払えるかい?」

初心者を見下すような視線。

そうか、この装備か…


漸くここで、人々の視線に気がついたのだった。

ラビットアーマー一式は謂わば下級者装備だ。

レベル10から装備できて防御力も高めに設定されてはいるが、レベルが低いということは、それだけ適正とは言いがたいのだろう。

一人でやっていたし、回避主体だったのでそこまで気にしていなかったのだが、考えてみればそうなのだろう。

一回防具も考えた方がいいな…

見た目が気に入っていたからしばらくはこれで行こうと思ったんだが。

そろそろ変えてもいいかな。


「代金は払えます。ご教授、よろしくお願いします!」

俺はおじいさんに30000ゴールドを支払い、

「じゃあ、この馬に乗ってごらん」

見るからに優しい表情をしている馬を撫でる。


俺は言われるままその馬に跨がり、厩舎内の広場で数分乗る感覚のコツを掴んでいた。

「兄ちゃん、筋がいいじゃねぇか」

おじいさんに、お褒めの言葉を頂いた。

恐らく、馬がいいのだろう。


次はレッサードラゴンに乗る。

馬よりも揺れが激しいが、瞬発力も速さもまるで違う。

何より初速が違い、クンッと、浮遊感が生まれるほどの動きだ。


この速さに魅了されていくかの如く、早くこいつに乗って駆け回りたくなった。


「もう、十分だな。よし、免許をやるから降りてこい!」

おじいさんに、呼ばれて厩舎に戻ると、名簿に名前を書かされた。


"乗り物に乗れるようになりました。"


「はい、登録終了だ。すぐに乗っていくのか?」

意外にあっさり免許って取れるもんなんだな…

免許証ではなく、小型の蹄鉄を首飾り状にしたものをもらう。

乗りたいときは厩舎に料金を支払うと、借りられるのだそうだ。


「じゃあ、レッサードラゴンを借りていきたいんだが」

「早速かい?!でもまぁそう言う冒険者も結構いるからなぁ…

で、何時間借りるんだい?」

おじいさんは腕を組んで笑いながら問いかける。

「そうだな…1日借りたいんだが」

俺は少し悩んで伝える

「1日?!!せいぜい3時間もあれば結構なとこまでいけるぞ?

兄ちゃん、どこまで行く気だい?」

「見て回りたいところが多いのもそうだが、何よりもこいつで走りたい」

俺は奥に居たレッサードラゴンを見ながら答える。

「そうか、ならこの厩舎で一番速いこいつを貸してやろう」

そう言うとさっきのブルーではなく、もっと深い青色をした少し大柄のレッサードラゴンを連れてきた。


「振り落とされるんじゃねぇぜ?

料金は一時間1000ゴールドだから24000ゴールドだ。

だが、今回は特別に15000ゴールドでいいぞ」

おじいさんは、白い歯を見せて笑う。

「いいのか?ありがとう!」

料金を支払い、跳ぶように跨がる。

「じゃあ行ってくるよ」

「乗り捨ててもこいつはちゃんと帰ってくるから、好きに使ってくれ!

くれぐれもケガだけはさせないでくれよ!」

「あぁ!」

俺は右手を突き上げて答える。


地図開きフィレッド周辺を開く。

よし、フィレッドを東へ行き、渓谷へいこう。

俺は青色のレッサードラゴンで駆け出した。


"明光の渓谷"


微かな光と、時々降ってくる降臨するかのような強く射す光が美しい谷だ。

そこを徘徊するのはオークと巨大トンボ、それに盗賊に狼もいるようだ。

鷹の目は便利である。


風と化して大地を駆ける。

おじいさんの言うとおり、速い何てもんじゃない。

荒れた道でも壁を蹴りながら走れそうである。

モンスターが襲ってきても、確かに逃げ切れそうだと、自慢の足を見せるレッサードラゴンの背中を撫でる。


ダッカダッカと渓谷を下って行き、一度崖のような谷に捕まるが、その崖沿いに走り、下へと降る坂道を抜けて、赤土まじりの壁を左右に感じながら、まるでジェットコースターのように当てなき走りを続ける。


すでに動物の姿は無く、赤土がゴツゴツした岩に変わって来たときに、夕焼けが見えてきた。

遠くの砂漠に沈んでいく太陽は、ゆらゆらと揺らめき、まるで蝋燭の火のようであった。


少し立ち止まってそれを眺めて、魔法鞄から水筒を取り出して水を飲んでから、また走り出す。

お尻が痛くなったりすることは無いようだ。


日が沈み夜になる。

空には満月が出ている。

天然のプラネタリウムのようで、山の上から見た景色と甲乙付け難い。

さすがに足元が暗いので本来の走りは期待できないかもしれないので明かりが欲しい。


「ソフィー」

「何?どったの?」

光に包まれて現れたソフィーは、呼ばれてボケっとした返答をする。

「明かりを出してくれ」

端的に、用件だけ伝える。

「えーっ!?まだ契りも結んでないのにそゆこと言う?」

口を膨らませてムスッとしている。


「契りって何だ?」

「契約よっ私はあなたになになにするから、見返りになになにしてくださいってあれよ。

私はあなたのこと気に入ってるけど、だからって使われるだけって何か癪じゃない?」


「ふむ…なるほどな…」

「だったらあれね。クレープとか食べさせてくれるとか、どうなの?」

フフンと鼻をならし、偉そうだがこちらの反応を伺うような言い方だ。

マルを呼んだときに一緒に呼んであげればよかったな。

たぶん、隠れて見てたに違いない。

こいつ食事はどうしてるのだろうか?

マルは俺と一緒に食べてるが、ソフィーはその限りではない。

ただその疑問はすぐに解消されることになる。


「ん?そう言うのでいいのか?」

不思議に思い、名案が浮かんだ。


「ソフィー、これでどうだ?」

俺は手にした金貨を投げ渡す。

「何?1ゴールドで私を使うって?あんた、バカじゃないの?

そんな簡単なわけないでしょうが」

話にならないと1ゴールドを受け取りながらも首を振る。


「それが1ゴールドに見えるのか?」

「少し大きい気がするけど…」

「割ってみろ」

「割る?えっ?」

ソフィーは腕に力を入れて、金貨を半分に折り曲げる。

パキッという音をたててその金貨は割れて、中から茶色の肌が見える。

「これはもしかしてチョコレート?」

ソフィーはふるふると震えだした。


これはフィレッドの店ならどこにでもある"5ゴールドチョコ"だ。

雑貨屋のみならず、武器屋にもカウンターに置かれるほどだ。

バラ売りもされているが、俺は20個入りの袋で大量購入していた。


「これ食べてもいいの?」

チョコレートと俺を交互に見つめる。

「もちろんだ。契約成立か?」

俺はニヤリとした。


「一個じゃなくて三個なら考えてあげてもいいわね」

胸を剃らせていてもチョコレートは放さない。

「三個じゃダメだな。1日一個だ」

腕を組んで子どもに言い聞かせるように答える。


「え?1日一個?!毎日もらえるの?する!契約する!」

ソフィー陥落。

金の包み紙を取りながら、自分のものとなったチョコレートに早速かぶり付く。


光輝く笑顔でソフィーが食べているのを見ていると、俺の身体に暖かいものが流れ込んでくる感じがした。

これが契約か…

力がソフィーから流れてくる。

ステータスを確認すると、INTが+50されていて驚く。

ん?これ、召喚士の人って相当強くならないか?


ただ、召喚は、召喚しただけでは契約にはならずに使役できるだけで、相手に自分同様の何かを得るためには、何らかの成約がいるのだということは理解した。


「チョコ食ってるとこ悪いが明かりを頼む」

「………はい」

ソフィーは口の回りのベタベタを袖で拭きながら、右手を前に出すと光の玉がレッサードラゴンの頭上に浮かんだ。

「これって前方にビームのように照らすことはできないか?」

俺は更に要求した。


「こんな感じ?」

ソフィーは俺の要望に的確に答えて、バイクのライトのようにしてくれた。

これで夜の走行もバッチリである。


「早く暗視(ダークヴィジョン)覚えなさいよね」

ソフィーは呟くように主人となった俺に呆れながら言った。

「そのうち覚えるさ」

俺はINTが上がったことで、色んな制限が取れているため、スキルが取得できるかもしれないとウキウキである。

「STRが上がる召喚獣と契約すれば、いろんな武器が使えるかもしれない」

クックッと口の端を吊り上げる。


「そういやソフィーはご飯はどうしてるんだ?」

「家で食べてるよ?」

「俺が食べさせなくてもいいのか?」

「なんで?当たり前でしょ?」

あれ?じゃあマルには食べさせてるのは何でだ?

「でも、俺の渡すやつも食べれるんだよな?」

「?食べてるじゃない。」

「そうだよな」

「?」

「?」

つまり、召喚獣はペットじゃないのだろう。

定義はわからないが、食べさせなければならないものと、食べさせなくてもいいものといるようだ。

食べさせるとなついてくるようなので、食べさせれれば、食べさせる方がいいみたいだけどな。

何より食べてる姿はかわいいし。


肩に停まりながら、「もう一個食べたいな」とねだるソフィーの相手をしながら走り出そうとしたときだった。

後方から、寒気のような、悪寒のようなものを感じたのだ。


俺は振り向いて鷹の目を使う。

闇に紛れてよく見えないが、月に照らされているお陰もあり馬に乗って駆けてくる黒い物体ということは確認できる。

明らかに自分の方へ近づいてくる。

馬のように見えるがレッサードラゴンよりも速いようにも見える。

「止まっていてはダメだな、逃げるぞ!」

しがみついてきたソフィーを胸に抱き、手綱に力を込めた。


「ソフィー!サーチは使えるか?!」

「ダメ!距離が遠い!」

鷹の目は黒い物体があと数秒で追い付かれるのを物語る。

「魔法障壁は張れるか?!」

「動いてるときは無理!」

手綱から、魔法鞄に手を伸ばし、ダガーを取り出す。


いきなり黒い物体は斬りかかってきた。

ダガーで受け流す。

空を貫く高い音が響き渡った。

レッサードラゴンから飛び降りるように空中でムーンサルトをするように舞い、着地した。

乗る者がいなくなったレッサードラゴンは立ち止まり、俺は、馬に乗った黒い物体に対峙しダガーを構えた。


俺は目線でレッサードラゴンに、逃げろと顎で合図する。

止まっていたレッサードラゴンは少し戸惑いながらもこの場から離れていった。


「ケガさせたら弁償だろうからな…」

一頭買いたいとは思ったが、大事に撫でるおじいさんを見てたらそんなこと言える雰囲気ではなかったし…


レッサードラゴンがいなくなったのを確認して黒い物体に目をやる。


急にウィスが入る。

こんなときに…と確認すると、レイだ。

「師匠ー!何してるのー!?こっち終わったー!」

「こっちは戦闘中だ」

パーティを終えたのか。


ダガーを構えてはいたが、ヒビが入っており、武器としての性能を落としている。

こんなこともある。ソードブレイカーの類いの武器だろう。

ダガーを魔法鞄に片付け、スラッシャーを取り出す。


「そうなの?私たち落ちるからまた今度ね!おやすみー!」

「あぁ、おやすみ!またなー」

少し緊張がとけた気がする。


腕からソフィーを開放し、

「魔法障壁を何か頼む」

俺は一言伝えると、こくりと頷いたソフィーは、魔法詠唱し"防風壁(ウィンドカーテン)"を張った。

俺は黒い物体を睨み付ける。


剣を胸に構えたそいつは、全身黒い鎧で身を固めていた。

漆黒の炎が燃えたぎるような馬に跨がり、俺を見据えている。

月に照らされた黒剣(こっけん)が鈍く光る。


名前が読める。

敵は、デュラハン。


デュラハンは黒剣を地面に向かって横凪ぎにする。

剣先から墨のようなものが巻き散らかされ、地面から三体の地獄(ヘル)猟犬(ハウンドドッグ)が現れ、飛びかかってきた。

戦闘に出せるのは2体までだろ?

敵はその限りではないのか?


「マル!」

俺もマルを召喚する。

マルは出てくるなり、全体に白色の雷を落とし、地獄の猟犬の一匹を踏みつけ(ストンピング)をし、離れる。


全体が一時的に麻痺している。


俺はすかさずデュラハンにスラッシャーで切りつけた。

胴にクリティカルで攻撃が入る。


しかし、次の瞬間黒い馬の目が赤く光ると、デュラハンの身体が緑色に光って回復しだした。


「なんだこいつ?!ソフィー!サーチだ!」

「はいよ!」

ソフィーはデュラハンをサーチした。


Name:シュヴァルツァー

HP:??????

MP:??????

弱点:光属性


「げっ、名前有りじゃねぇか!」

ただの敵ではないことを確認する。

武器が壊されてしまうことから、武器で防御するのはまずい。


シュヴァルツァーは剣を突いて攻撃してきたが、物理攻撃はなんなく交わせる。

マルは一閃を使って地獄の猟犬三体を相手にしてくれている。

こっちは任せて大丈夫そうだ。


「ソフィー!マルの回復と、俺に魔法障壁を頼む!」

ソフィーに指示を出す、

「それ無理!」

「何が無理なんだ?!」

「同時が無理なの!」

「どうにかしろ!」

「わかった!」

ソフィーは詠唱を開始する。


シュヴァルツァーは俺を貫くつもりなのか、剣を身体に引き寄せると、高速で六連撃を放つ。

全てを交わした俺は、一太刀浴びせようとする。しかし、馬上にいるので短剣では届かない。


「攻撃が届かん…」

起死回生するべく、魔法鞄にスラッシャーをしまい、幻想のダイスを取り出す。

「くらえ!リリース!」

俺は地面にダイスを投げつける。

ダイスは当然1・1・1だ。


ダイスから流星のように光の玉が射出され、シュヴァルツァーに向かって飛んで行き、頭に直撃した。

「キャッチ!よし!いいぞ!」

俺は手元に戻ってきたダイスを掴み取る。


シュヴァルツァーの頭が地面に転がる。

即座に頭が弱点なのではないかと判断した。


突然シュヴァルツァーの範囲に真空刃が巻き起こる。

巻き添えになった俺の魔法障壁が一気になくなった。

範囲攻撃も持ち合わせてるのか。


俺はさらに攻撃を続ける。

標的を頭に絞り、ダイスを転がす。

頭がリフティングされるように宙を浮く。


更に繰り返す。

シュヴァルツァーの胴体も俺を攻撃するが、全てを回避していた。


業を煮やしたのか、シュヴァルツァーの剣が形を変えて槍のようになる。

それを投擲してきたので、それを交わすが、槍が地面に突き刺さると、"轟ッ!!"と音をたてて大地が揺れる。


何という破壊力だろうか。

揺れにもダメージが付加されていそうだが、俺は交わせていたようだ。

槍が刺さった地面はヒビが入って抉れている。


ソフィーの長い詠唱が終わり、空中に魔方陣が現れると、そこから熾天使(セラフィム)が現れる。

ホントにどれだけ待たせるのか…


セラフィムの金色に燃える羽が降り注ぐ。

回復するのを感じながら、更に光魔法のベールが自分の身体を覆っていく。


「召喚獣が召喚を使えるのか…」

俺の魔力を補うとは言え、高レベルのソーサラーでもできるかどうかわからないことをやってのけるソフィーの姿を見て、頼もしく感じた。


「ソフィー!やるじゃねぇか!」

「このぐらいやれるわよ!」

出来て当然といい放つので、このままいけそうだと考える。


マルがとどめの一撃を地獄の猟犬に叩きこんだ。

召喚獣ではなく、技かスキルなのか?


マルはシュヴァルツァーにターゲットを替えて飛び込む。

シュヴァルツァーの攻撃を交わしながら、確実にダメージを与えて削っていく。

シュヴァルツァーはマルの攻撃を盾で防ぎつつもたじろぐ。

そこにソフィーも追い討ちをかけて、魔風の(シャムシール)を放ちダメージを与えていく。

しかし、シュヴァルツァーは緑色に光って回復するのだった。


今しかない。

俺はダイスからスラッシャーに装備を替えると、頭を真っ二つにしてやる気持ちで攻撃を加えようと頭に向かって疾走する。

熾天使(セラフィム)は俺に光属性付与を支援しているようで、武器が光に包まれていく。


クリティカルが入れば光属性ダメージになるんだけどな。

と、つまらない思考が頭の端に生まれたが、光属性となったスラッシャーでシュヴァルツァーの頭を腰の回転を使い、テニスのバックハンドのような動きで切り上げる。


短剣(スラッシャー)の刃先から、煌々と光の輝きが迸り、シュヴァルツァーの頭、つまり、兜を真っ二つにするような筋が入る。


シュヴァルツァーは武器と盾を放し、虚空となった頭の部分を抑えようとする動きを見せ、馬上から墜落した。


どさりと大きな音をたてシュヴァルツァーは動かなくなる。

「やったか?!」

ダイスでかなりのダメージを与えていたはずだし、今の攻撃で致死ダメージとなったんじゃないかと思っていた。


ただ、相手の馬鹿力を目の当たりにし、体力も相当あるのではないかと、スラッシャーを構えて胴体の動きを観察する。

ピクリとも動かなくなったシュヴァルツァーの周りを黒い馬が回り出す。

何もない頭の部分に、生体ならば舌を出して起こそうとしているような素振りで、鼻先でつつくような行動を取りだした。


しかし、シュヴァルツァーは動かない。


やがて、光の粒子となって空に消えていくシュヴァルツァーの最期を見届けた。

セラフィムは戦闘終了を合図するかのように消える。


"エリアボス:明光の宵闇(シュヴァルツァー)を倒しました"

"称号:デュラハンキラーを取得しました"


俺のレベルが上がり、漸く武装を解く。

シュヴァルツァーの跡に報酬が転がっているので回収する。

宵闇って月が出ていない夜だと思ったが、月が出てるから見えてたのか?

俺は無粋な考えを巡らせてみたが、すぐに振り払う。


黒い馬は消えずに、月を眺めているのか、空を見上げている。


「勝てたな…」

俺は溜息を洩らして、呼吸を整える。

「なんだか可哀想だね」

ソフィーは馬を見ながら答えた。


「そうだな」

俺もさっきまで強敵を乗せていた馬を見る。

近寄っても空を見上げている馬に、触ってみた。

馬は攻撃する意思が無いようで、主人の敵と襲ってくることはないようだ。


「朝になったら消えちゃうんだろうね」

あ、そうかと、闇の住人である黒い馬を見る。

ソフィーは俺の側まで来ると、肩に停まった。

マルもいつのまにか足元へと着ていた。


黒い馬を二、三度撫でてから、俺も夜空を見上げる。

月が明るいな。

もう朝日が昇りつつある。

いつもより大きく見えていた月が、徐々に霞んでいく。


じりじりと太陽は顔を出し始め、ダイヤモンドのように輝く。

闇が取り払われて覗かせる黎明の光が、俺たちの存在を浮かび上がらせていく。


最後に馬の顔を見ようと胴の横から顔の前に移動する。

空から俺に目を移すと、じっと見据え、馬の赤い目と俺の目が衝突する。

数秒時が止まったような気がした。


太陽が出ていくにつれ馬も薄くなっていく。

馬は炎のように煙をあげながら、形を成さなくなってきていた。


陽に照らされてできた俺の影に、炎は吸い込まれていく。


「ん?」

俺は天に召されていくのだろうと感傷に浸っていたが、どういうことか俺の影が浸食されたようだ。


「名前つけないとね」

ソフィーは意味のわからないことを口にしだした。

「次の主人はご主人だってことだよ」

ソフィーが俺のことを"ご主人"と呼ぶのも驚いたが、この後に流れてくるログで理解した。


"黒雷(ブラックライトニング)(フォース)を召喚できるようになりました。"

"黒雷の力に名前がありません。名前ををつけて下さい。"

"武器派生があります。確認してください。"

"職業:召喚士を取得。"

"ハイブリッド型に変更可能です。確認してください。"


いつもよりも多いな…

一つ一つ確認しよう。

まず、馬が仲間になった。

(ホース)(フォース)をかけてるのか…?

なわけないか、それに馬ではなく影らしい。

「名前か…」

こういうのが苦手な俺は、影だから"シャドウ"にした。

「超、ベタね」

ソフィーうるさい。


次は武器派生だ。

召喚獣:シャドウの効果でSTR+50されていた。

持てる武器が増える!と、それはそうなのだが、ここでの武器派生は、両手持ちか二刀流を選択させられる。

武器として扱うことはできるが、戦闘スタイルでの補助が違うようだ。

それぞれ25%のダメージ増加が追加される。

俺は二刀流にした。

ダイスを扱いながら短剣を使いたい、それだけの理由だ。

何よりも両手持ちは重量の重い武器を扱うときに効果が出るようなので、俺には必要なかった。


職業:召喚士は、召喚獣を三体の取得すると、召喚士になるらしい。

「本当は火の精霊、水の精霊、風か土の精霊と主従契約結んだりするんだけどね」

と、ソフィーが教えてくれた。

職業は職業を名乗れるというだけで、スキルは覚えていないようである。

「契約結んだり、技を見たり覚えたりすると、自然に覚えるわよ」

ソフィーが先生のように教えてくれる。

流石魔力のフォローをすると豪語するだけはある。


最後にハイブリッド型への変更だが、ファイターとソーサラーのハイブリッドに変更でき、魔素が上がるようだ。

しかし、ファイターの将来性が閉ざされるのかもしれない。

俺は特化させたかった。

と言ってもラックに振り続けるのだが。


ハイブリッド型は断念し、ファイター一本の道に進むことに決めた。

変更しないを選んで一先ず解決。


他にも戦闘スキルや必殺技、魔法など、取得したものが無いか確認したが、覚えたものはなかった。

短剣の必殺技くらいは覚えたいものだ。


完全に太陽が顔を出している。

その太陽を薄目で見ながら欠伸をする。


そろそろ寝るか…


旅と言えばテントだ。

魔法鞄からテントを出す。

5900ゴールドで、10回使用できる優れものだ。

傘を開くように、骨格が自動で出てきて、白色の布地が現れる。

中へ入ると、それなりに広かった。

敵と戦闘中や、発見されているときは使えないらしいが、野宿で攻撃されることを想定すると、テントを使う方がいい。

しかも、HPとMPを全快する効果もある。


ログアウトを選択して召喚したままのマルとソフィーに手を振りながら落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ