表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PARTY CREW  作者: エトー
パーティは六人の方がいい
6/10

006 師匠と弟子

名残惜しいがいつまでもここにいるわけにはいかない。

来た道を引き返した。


その前に指輪の効果を確認しておくか。

思い出したようにステータスを開くと、新たな効果"ブレス"と言うのがついている。


装飾品:ソウルリング(EX/Rare)

召喚獣のパワーアップ

MP自動回復

パッシブ:ブレス


また新しいレア装飾品を手に入れていた。

今回は拾っただけではなく、色々条件があるようなので、報酬は妥当かもしれない。


ブレスの効果を見て吹き出した。

前言撤回。

これはスーパーレアだ。


ブレス

パーティー全体のステータス上昇

パーティー全体の詠唱速度上昇

パーティー全体の行動速度上昇

パーティー全体の自動HP回復

パーティー全体の自動MP回復


公表したらパーティーに誘われることがあるかもしれないが、それ以外のこともありそうなので、公表できないな…

天才召喚術士"様"に改めて感謝。


湖がある場所から出るのでランプを灯す。

相変わらず先程の景色とは一変、ほの暗い洞窟に舞い戻り、ゼリーアイズが歓迎してくれる。


マルが飛び出し、ゼリーアイズに一閃を放つ。

蹴りだろうか?

ヒュンと音がしたが、風の流れしか見えなかった。

マルはこんなこともできたのか。

ゼリーアイズは引き裂かれた部分の形を留めながらも、まだ襲ってこようとしていたので、目玉にダガーを突き立てて止めを刺しておく。


アイテムを回収していると、もう一つ通路があることに気づいた。

坂にならずに平坦な道である。

俺はそちらに進んだ。


少し入ったところで、金のような鉱物が至るところに挟まっている場所へ着いた。

小さな岩がいくつもあり、隙間に結晶が挟まって、その小さな岩がグラリと動いては止まる。


よく目を凝らすと、それは敵のようだった。

ただし、ノーアクティブのようでこちらに襲ってこない。


一体だけ離れている個体を見つけたので、興味本意に戦ってみる。

マルに攻撃をさせて、呼び戻す。

敵がこちらに向かってきた。

敵はノーブルメタルと表示された。

まさに貴金属か。


基本的にRPGでは、経験値をたくさん持っている敵がいる。

もしかすると、こいつも同じようなやつかもしれない。

敵が俊足で逃げ出すことを考えつつも、ダガーを構える。


俺はノーブルメタルに突き立てようとしたが、ダガーは弾かれる。

クリティカルは出ているが、武器が敵に対して悪いのだろう。

何しろ敵は岩なのだ。

そして、非常に固そうである。

ダガーが折れてしまうかもしれない。

選択武器を間違えてしまったのかもしれない。

こういうのはハンマーとか、βのときなら投擲レベル10の重量ダメージなどのスキルで倒すのかもしれない。


だが、少しでもダメージが入っているなら倒せるだろうと殴るようにしてダガーを突き立てる。

マルが岩に弾かれているので、観戦するよう待機させた。

他に敵が気づいたらこちらに来ることを心配してである。

さすがにこの固いやつがたくさんいると困る。


少しずつだが岩が削れてきたような気がする。

敵の残り体力も半分くらいだろう。


そう思った矢先だった。


目の前のノーブルメタルは、ふるふると震えだし攻撃の手を止めた。

俺は咄嗟に逃げ出した。

こういうのは覚えがある。


マルを転送し、俺はノーブルメタルから距離を取るために離れる。

判断が早くて助かった。

俺の後方でノーブルメタルは自爆した。

俺も爆風を受けて体力が削られ、死は免れたがバッドステータスの火傷を負い、瀕死である。


キラキラとレベルアップのエフェクトが煌めく。

やはりと言うべきかレベルが上がったようだ。

経験値を多く持っている敵のようだが、一歩間違えると死んでしまう。


すぐにヒーリングポーションで回復する。

そして再度、マルを召喚した。


「危なかった…」


ノーブルメタルは自爆するタイプの敵のようだ。

直訳すると貴金属という名前の癖して、行動がえげつない。

欲にまみれると手痛い目に合うという知らせだろうか?

しかし経験値は美味しそうだ。

別の手だてがあれば狩場にできるかもしれないが、今はこれ以上関わりたくない。


などと考えていると、呼び出したマルから、光の玉が飛んできて俺にぶつかる。

その瞬間、俺の火傷はみるみる塞がっていき、バッドステータスから回復した。


「マル…おまえこういうことできたのか」


マルも日々成長しているようだ。

さきほどの戦いでマルは経験値を貰えなかったので残念かもしれないが、倒れたらもとも子もない。

マルを撫でたあと、ノーブルメタルが爆発した場所へと戻る。

岩に挟まっていた黒い結晶が…あった。

もしかするとアイテムが残っているかもと思ったのだ。

爆破されたせいか破片のようなソレを拾い上げる。


アイテム、闇の結晶を手に入れた。


これは効率が悪すぎる。

一歩間違うと即死だろう。

体力は少ないようだが、何より短剣では歯が立たない。

やはり鈍器や鶴嘴のような武器でなければダメなのだろうか。

俺はSTRが低いので、そんな重量級武器は振り回せないけど。


あとで闇の結晶がいくらで取引されているか競売で確認しなくてはならない。

ノーブルメタルには他の色もくっついてあったので、六種類の属性の類いではないかと推測している。


アイテムを魔法鞄にしまうと、その先には進まず洞窟の外に出ようと、ゼリーアイズのいる方へと歩きだした。

歩きながらLUKにステ振りも忘れていない。

人の気配がしないので、走っていけば絡んできたゼリーアイズも振り切れるかもしれないが倒しながら戻る。


洞窟のから外の光が射し込むところまで来た頃には、俺のレベルは56になっていた。

素材も回収でき散歩にしては長いこと潜入していたみたいだ。


洞窟から出ると、まだ干潮が続いているようで濡れずに海岸へと出れそうだ。


さて、フィレッドへの道はどっちかな?歩きながら道を確認しようとしたときである。

俺は巨大な亀に出会った。


島ではなく、やはり、亀だった。

名前をゲンブと書いてある。


ゲンブは俺を攻撃対象としたのか、低い唸り声をあげると、いきなり攻撃してきた。

海が割れる。

「え?」

圧倒的なものを前にすると人は動けないのかもしれない。

硬直してしまった。

海が割れたあとの地面から、間欠泉のように吹き出した水がいくつも柱となり地面を割っては水が吹き出す。

海が割れたのはバトルフィールドを作り出す演出なのか解らないが、亀に近寄れるのかもしれない。

そんなことを考える暇もなく、いくつもの間欠泉がどんどんと近づいてくる。

息を飲む。

間もなく俺は死ぬだろう。

そう予感させられる。


ただのファイアーのような、初級呪文ですら俺には大ダメージに繋がる。

そんなときにも関わらず、俺は亀を睨み付けていた。

亀の方はと言うと、無慈悲に俺を見下ろしながらも、値踏みしているような…

そんな印象を与えられた。


間欠泉が直撃し、一瞬で気を失う。

映画などで場面が変わるときなどに暗転することがあるが、そういう経験をする。

一瞬の沈黙。


目を開けるとホームポイントに設定したクルーン山脈の頂上に倒れていた。

起き上がるとバッドステータスの"衰弱"がついている。

経験値やゴールドなどの減少も無い。

普通RPGやMMORPGでは"ロスト"と言うものが付いて回るのだが、アルゴにはそれがなかった。


"衰弱"が解除される時間がどれぐらいか解らないので時計を見る。

視界の前にウィンドウのようなものを意識することで開け、そこから確認するのだが、俺は思わず動かない腕時計を見てしまい恥ずかしい気持ちになってしまった。

腕に巻いているとなぜか見てしまうな…

改めてウィンドウを展開して時間を確認する。

レイスをここから遠ざけるように連れていってから時間がかなり経過していた。

現実時間も夜の食事を取っていなかったので、食べて置いた方がよさそうだ。


休憩所の宿屋を探しそこでログアウト。

そして食事や風呂などを済ませて再度ログインした。


衰弱が解けるまで時間がかかりそうである。

まだ夜ではないが、展望台に登ろうと階段に差し掛かったとき。

「あっ!あのときの人だ!」

声のする方に振り向いた。


「やっぱり!」

俺を指差す女の子は、いつぞやの猛者パーティの格闘家の女の子である。

「あのときは、ありがとうございました!」

格闘家の女の子は深々と頭を下げてお礼を言ってきた。


「えっと、レイスの件かな?」

接点がそれだけだろうと頭を下げられる理由を探した。

「そうです、あのとき私だけじゃなく、みんな慌ててました。」

そりゃあそうだろう。

レイスなんてβ版でも闇のダンジョンの下層でしか見たことがない。

ましてやVRになって初めて会った。


「あんなに苦戦したゴーストだけじゃなく、見たことがない敵がいて、これ勝てないやつだって思ったんです。

回りも逃げてるし、私も逃げなきゃって思ってたら、ドンって私の肩にぶつかって、前に飛び出していく人が見えたんですよ。」

「それ、俺だった?」

「はい。私たちは結構前の方にいたので、敵もよく見えてました。」

綺麗な黒髪を揺らしながら自分と同じくらいの身長の女性が流暢に話してきたが、俺たちは展望台へ繋がる階段を塞いでいた。


「取り敢えず話をするなら場所変えようか。」

女の子も「あ、そうですね。」と周囲を見回して気づいたようだ。

人がたくさんいる場所で頭を下げるという行為は目立つのだった。


休憩所に喫茶店があるということで、格闘家の女の子に案内してもらった。

席に座ると、ウェイターがやってきてメニューを持ってきてくれる。

ここって、山の山頂で休憩所ってとこだよなぁ?

街と変わらないんじゃないかと思うほどだが、登山経験者でも無いので、憶測でものごとを決めるのは悪い癖だと振り払う。

リアルではあるがあくまでもゲームだと自分に言い聞かせる。


カフェラテがあるのか…

温かい飲み物はこの世界に来て初めてだったので迷わず注文してみる。

女の子は「もう一人呼んで良いですか?」と俺に聞くので了承した。

休憩所に居たのだろう。

カフェラテが届く前に、格闘家の横にソーサラーの女の子が席に座った。

「はじめましてぇ…」

猛者パーティの茶髪ソーサラーが、照れた様子で頬をかく。

お互いに軽く会釈する。


それから自己紹介をした。

格闘家の女の子はレイチェル(Rachel)といい、茶髪のソーサラーはミーツェ(Mieze)と言うそうだ。

「私のことは"レイ"でいいよ。この子は"ミーちゃん"って呼ばれてる。」

レイは、礼儀正しいのかサバサバしてるのか解らない口調だった。

ミーちゃんと呼ばれた方も「どうぞよろしくですぅ。」とニッコリ微笑んでくれた。

フルネームはあんまり使わないのか…

改めて俺も、自分の名前を彼女らに向かって伝える。

「フリードだ。よろしく。」


自己紹介して一息ついたところで、早速本題に戻す。


「途中で話を切っちゃったけど、俺もあのままレイスが道に立ち往生したら不味いなくらいにしか思ってなかったから、感謝されるほどのことはやってないよ。」

謙遜ではなく事実である。

作戦会議をして、誰かがやらなくてはならないことだった。

休憩所の中にモンスターが侵入するかどうかは解らない。

やったことがないからだが、それでも門の前に逃げてきた人が、倒れたてしまったとして、レイスがその場からいなくなるとは思えなかった。

あのときのは武功ではなく、経験者としての務めだったと言おうとした。


「あれはレイスじゃないですよぉ?」

ミーちゃんは話を割り込んで入ってきた。

「サーチっていう相手を調べる魔法をかけたんですが、ステータス見れなかったからレジられたんだと思うけど、名前は出ましたよー。確か、リューディアっていう名前持ちですぅ。」


次の言葉が出てこなかった。

まず、サーチは魔法で、敵や味方のステータスや装備を見ることができるようだ。

ただし、スキルは見れないらしい。

他にも、狩人職をやってる人がスキル:索敵を覚えていたようで、サーチと同じように相手の名前を見破ったようだ。

そして、名前持ちというのは、ボスや特殊モンスターにつけられており、通常とは別の、固有スキルを使ってくるモンスターだそうだ。

つまり、一言で言うと、目の前に得体の知れない敵が現れたというのである。

NMとはまた違う意味合いのありそうな、隠された名前を持つモンスターのようだ。

恐らくそのせいでイベントじみたものが発生したのだろうか。


ミーちゃんは続けて話す。

「フリードさんがリューディアを連れてったあとに、リューディアと一回戦ったって人たちがいて、絶対勝てないやつを運営が出しやがった!って言ってたんですよぉ…」


ミーちゃんはそこで話を区切ったので、俺はどういう意味か尋ねる。


「リューディアって、回りのゴーストを召喚するんですけど、そのゴースト一匹一匹が通常のゴーストではなくて、ファイター系の戦士や、ディフェンダー系の騎士で、一個体の攻撃力が強すぎるんですぅ。そして、そのゴーストを倒すと、リューディアはまたゴーストを召喚するそうですぅ。」

確かにそうだ。

俺はゴーストを何匹倒したか覚えていない。

「高レベルのガーディアンやタンカーでも、一人でゴーストを抑えられないって言ってました。

一匹ゴーストが休憩所近くまで来てましたので、編成して戦ったパーティが、そのゴーストを倒すのに手間取ってましたよー…

通常のゴーストより硬いだけでなく、魔法も光魔法しか効かないし、ソーサラーのクレリックさんが、回復に回りながらも光魔法しで攻撃する…という感じで、見てて大変そうでしたよぅ。」

一息つくと注文していたアイスティーがミーちゃんの前に置かれたので、彼女はそれを飲み始める。


自分もソーサラーで回復を担当しているのだろう。

説明の目線が後衛の発言だった。


「どこまで逃げてから死んだの?」

名前を言い合って打ち解けた気でいるのか、レイは随分と親しげに話すな…嫌ではないが…

少し礼儀に対して学ぶべきだとも考えたが、言うときは言う、弁えるときは弁えるのだろうか。

少し戸惑いを感じたが、ラフに話すのは俺も気が楽だ。


「んー。言っても信じないと思うけど、海岸まで行って、行き止まりだったから、もういいかなって思って、取り敢えず殴ってから負けようと思ってたけど、勝てたよ。」


淡々と話したからだろうか。

二人は目を見合せてこっちに向き直る。

そして、笑いだした。

「うっそだぁ!あはは!」

「こんな簡単に嘘つく人初めてかもぉ」

あ、やっぱり信じてないな。


「じゃあ、ドロップ品は何だったのよ?」

レイは嘘を暴きたいのか、俺にかまかけた。

「これだよ。」

称号などを晒してもよかったが、指輪の件は言いたくなかった。

なので腕時計を外して相手に見せた。


装備はレンタルで貸しだすことで、もしも持ち逃げされたとしても手元に戻ってくるようになっている。

トレードとは違うやり方だ。

これは相手とのやり取りに便利だなぁと思った。

アイテムを選択して、レンタルボックスやトレードボックスに入れたりしなくても、自分の意思で渡すだけでこのようなことができると言うのは凄く便利だと感じた。

それも自分の考えひとつで行うのだから素晴らしい。


「綺麗な時計ですね…ってVIT+1だし、壊れてるじゃん。」

時計を突き返してきた。

顔がムスッとしている。

まだ信じてないようだ。

俺は腕時計をつけ直して、それじゃあ…と、戦利品の"ゴーストの布"と"血濡れたゴーストの端切れ"を1ダース取り出して手渡す。


「な…な…なにこれ?」

レイは渡された素材を鑑定して驚いて、ミーちゃんは目を丸くして素材を見ていた。

「ほんとに倒したんですかぁ?」

信憑性に足りたのか、話に食いついてきた。

案外チョロかったようだ。

ゴーストを何回も召喚するという前情報は持っているだろうから、リューディアが召喚したゴーストを何体も倒せばこんなに集まるということを理解できたのだろう。

素材はごく一部だが、ここで全てをテーブルの上に出す必要も無いのだ。


「師匠!」

少し間があったあと、目をキラキラ輝かせてから、思い直したようにレイは立ち上がった。

「疑ってしまい、申し訳ありませんでした!」

レイは深々と頭を下げるので、隣でミーちゃんが、

「コラッ!レイちゃん!フリードさんが困ってるからぁ…」

慌てて席に座るよう促す。


周囲の視線も一時的にこちらに集まったようだ。

ミーちゃんが無理やりにレイを座らせた。

まだ目を輝かせたレイがテーブルに手をつき、

「弟子にしてください!」

またテーブルに頭が付くんじゃないかと思うほど頭を下げる。

隣でミーちゃんは、困った顔をして、俺と目が合うと、「ねぇ」というような引きつった笑みを見せる。


「どゆこと?」

「師匠と会ったのは偶然じゃない気がするッス!肩がぶつかって飛び出していく師匠の背中見て、あれが冒険者なんだなって思ったッス!でも、実際会ってみると、負けたのに勝ったとか言ってて、なんか違うなって思ったんスけど、ほんとに強かったって知って、人を見る目とかダメダメだな私って思ったッス!」

レイが捲し立てるように早口になってるし、語尾が変わった。

こいつ、こういうキャラなのか。


ミーちゃんは呆れたようにレイを見たあと、氷が溶けてきはじめているアイスティーをストローで口に含んだ。

ズゾゾと空気を吸い込む音が聞こえてくる。


「何を言ってるんだ?」

レイに向かって困ったように問いかけた。


「弟子にしてください!」

レイは頑として譲らない。


「何すればいいの?」

何を言ってるのだろうか?


「あ、じゃあ、取り敢えずフレンド送っていいですか?」

レイはフレンド交換を提案してきた。


フレンド交換とは、相手の連絡先を交換すると言うものだ。

初フレンドがこういうのでいいのか?とも思ったが、知り合いがいるわけでもないので、受けておく。

初フレンドゲットである。


「じゃあ、私もぉ…」

ミーちゃんもフレンド交換を希望してきた。

これも断る理由が無いので受ける。


「あ、さっきのレイスだけど、リューディアだっけ?

倒したってこと黙っててね。」

二人に念を押しといた。


「なんでですか?!」

レイは身を乗り出して聞いてきた。

そんな大声出さなくても聞こえる。

あと、ツバが飛ぶような気がする。

顔が近い!

簡単に説明する。

「そんな強い、誰も倒せないとか言われてるやつ倒したりすると、他の人にも嘘をついてるだとか言われるようになるんだよ。」

それがなにか?って顔してるな…


「じゃあ、いちいち誤解解くために装備見せたり、素材を売らずに取っておかなきゃいけないの?」

二人は、おぉって顔になった。

もう一押しかな。


「倒したいから手伝ってくださいなんて言われるかもしれない。

なにしろ、今回は逃げてきた敵を奪ったことになるしね。倒すつもりだったから、戦利品寄越せなんていうやつじゃないかもしれないけど、面倒は起こしたくない。

だから、言わないでね。」

あくまで、こっちの都合だという理由で納得してほしかった。


二人は、「わかりましたー」と口々に言ったのでそれでよしとしよう。


夕飯を食べてから、アルゴでティータイムみたいな感じになったな。

そろそろ寝ることを二人に伝える。


「ヤバッ!今何時?私たちも寝なきゃじゃん!」

レイは時間に気づいたのか、慌ただしくなりだした。


「あー…明日、遅刻するかもぉ…」

と、ミーちゃんはニヤリと笑うのだった。


「起こすから!」

ミーちゃんに釘を刺すレイだったが、自身も早く寝なきゃと呟いている。


「すみません師匠!おやすみなさい!」

レイは手を振った。


「はーい。おやすみー!」

ログアウトしようと立ち上がる。


「師匠さーん。おやすみなさぁい」

ミーちゃんも俺のことを師匠と呼び出した。


「遅刻するなよー」

笑いながら二人を見送った。


それから俺も休憩所の宿屋に戻ると、横になろうとしたときにはバッドステータスの"衰弱"は取れていた。


次の日ログインすると、「昨日はありがとうございました!」とレイからウィスが届く。

正式版になって初めてウィスを使ったが、電話のようにアラームが聞こえて、受信をすると言うようなものであった。

アラーム音を任意で変えられるようなので、カン高い音から、ポーンといういきなり音が鳴っても驚かなくて済む音に切り替えた。


レイに、遅刻は大丈夫か問うと、「余裕ですよ!」と返事が来た。

今日は何するのか聞かれたので、フィレッドに向かいたいことと、地図を買いたいことを話す。

「地図、まだ買ってないんですか?」

と驚かれているのか、馬鹿にされているのか解らない口調だったが、「案内しますよっ」ということなので、頼むことにした。


レイと合流すると、他愛ない話をしながら地図を売っている雑貨屋まで歩く。

雑貨屋につくまでに面白い情報を貰った。


「アルゴってダイエットに使えるんですよ!」

レイはニヤニヤしながら言うので、どういうことなのか聞くと、

「だってこっちでたくさん食べれるんだもーん!」

と、手を万歳しだした。

黙っていれば黒髪美人なのだが、こういう"はしゃぎかた"をするというのは、若さなのだろうか。


「でも生命維持装置が働くだろうから、ちゃんと食事しないとゲームに入れないだろう。」

アルゴ・オンラインは、こういうところは確りしていたのだった。

食事を抜いてゲームを続けたせいで人が亡くなるというニュースが世間を騒がせ、ゲーム事態を悪とするような話が、オンラインゲームが人気を有してきた頃に、問題が起こったことがあるのだった。

それ以来、説明書に記述されるようになっていたが、アルゴはそれ以上に厳しい審査をしているようで、生命活動に困難な状態でのゲームはできないようになっている。

例えば食事を何日も抜いてプレイしようとしたり、脳波だけ動きがある人に装着させて、点滴だけでプレイしようとすると、ログインできないのだ。


「ちゃんと三食きっちり食べてますけど、私、間食が無くなりました!」

そう言うとVサインを作って見せた。

成る程なぁと頷く。


アルゴでは食事をするが、排泄は無い。

ゲームだから当たり前だと思うかもしれないが、その食事というのがリアルすぎるので、食べたものはどこへ行くのだろうと考えるのもおかしくなかった。


もちろんトイレへ行きたくなる生理現象はあるのだが、それは現実のもので、ゲーム中断、スリープ状態にしてから席を離れるのだ。

もちろんオムツを着けてプレイする猛者もいるだろうが、そんなのは猛者ではなく愚者である。

ダイエットに使えると言うのも解るが、やはり身体を動かさないと痩せないと思うぞ。

思うだけで口には出さないが…


「痩せてきた?」

と聞いたが、

「これからです。」

とレイは口を尖らせる。

これはアルゴやってる友だちと眉唾情報入れられたかな。

などと勝手に推測するのだった。


雑貨屋に着くと、地図がある。

本になってはいるが、開くと自分がいる場所が開いた。

おぉっ!と驚いている様子をレイはニヤニヤしながら見ている。

これはこいつも驚いたな…と、ニヤニヤ顔を一瞥し、次は、ファスタストと場所を思いながら開くとそのページ…というか、表示が変わるようだ。

便利だなぁ…


すぐさま購入して、地図を眺める。

検索エンジンが瞬時に使えるようなものだと感心していると、


「師匠!地図を鞄に仕舞ってから、地図表示って念じてみて!」

俺はレイに言われるまま、魔法鞄に地図を仕舞う。

次に、地図を表示…っと、おおぉ!?

目の前にスクリーンが現れて、見たい場所の地図が出る。

所持しただけでこれ?

便利過ぎるだろう。

現実にも欲しい機能だ。


俺の反応にレイは「カッカッカ」と快活に笑い声をあげて喜んでいた。

「ありがとう」

俺は礼を言うと、「どういたしましてっ!」とお礼を言われるのを待っていたかのように返される。


「師匠はフィレッド行くんですよね?一緒行っていい?」

レイは他にも誘いたい人がいるんだけど…と続けて話す。

猛者パーティのことかな?と思ったが、あの時は展望台から眺めていたので、面識があるわけではない。

「俺の方こそ心強いよ!」


レイよりレベルだけは高いかもしれないが、あくまでもレベルだけで他のステータスは劣っている自身がある。

魔法を唱えてくる敵が現れるとここへ戻る可能性があり、また衰弱を待つことになるのだ。


願ってもない誘いの申し出を断る真似などしなかった。


初パーティだと、胸を躍らせるのだった。


誘いたい人と言われてやってきたのはミーちゃんだった。

そうだろうなと思っていたんだよな。


「あれ?あいつは?」

レイはミーちゃんに忘れ物を確認するような言い方をした。

「ゆーくんは昨日フィレッドに着いたから、西の森でパーティするんだって」

と少し寂しそうに返事していた。

「じゃあ今日はいっぱい遊べるね!」

お構い無しと言った様子で、寂しそうなミーちゃんに対して笑顔を送っている。


俺はというと、購入したての地図を開き、あの綺麗な洞窟はどうやって行くんだろうと思いながら地図をを開いていた。

頭で描くのではなく、鞄から出して操作していた。


クルーン山脈の北東と南西に海岸が広がっているようだが、洞窟などは見当たらない。

歩いた場所は自動マッピングしているようで、ジグザグにマップが更新されている。

グーグルマップで表示されない場所がある感じだと思って欲しい。


少し気になりレイに尋ねる。

「レイの地図を見せてくれないか?」

他の人がどう歩いたか、記録されるのかが気になった。

「私の?!……いいよ?…」

少し照れくさそうに鞄から取り出すと渡してくれた。


昔のゲームだと人の地図とか見れなかったよなぁ…

などと思いながら、取り敢えずファスタストを念じながらページを開く。

「プッ」

思わず吹き出してしまう。

何だろうと覗きこんだミーちゃんも口元を押さえて笑いを堪えている。

「なんだこれは?精霊馬か?」

雲の平原のページに、丸茄子に爪楊枝を刺したものがいるので指を指す。

ミーちゃんは勢いよく吹き出した。

「なによ…うさぎに決まってるじゃない」

レイは然も当然と言うかのように、答える。

「じゃあこの、メガネかけた犬は?」

「ゴブよ」

「これは解るぞ!ミカンだ」

「スライムに決まってるじゃない!」

俺たちのやり取りを聞いて、ミーちゃんは笑いだした。


「ミーちゃんのも見せてよ!」

レイは少しご機嫌斜めに、ミーちゃんの地図を受けとる。


レイがページを開き、俺は覗きこんだ。

「ミーちゃん纏めるの上手だねぇ」

絵ではなく文字で書き込んである。

見やすく分かりやすい。

意外なところを見た気がした。

語尾を伸ばすところとか、なんだかギャルっぽいし。

今、ギャルとか言わないのか?ま、いいか。


「さすがだね!」

レイはミーちゃんに地図を返した。

さすが私の親友とばかりに笑顔を見せた。

本当ならば自分の惨めさなどで落ち込むのだろうが、こういうところが、レイのいいところかもしれない。


もう一度自分の地図を取り出す。

現在地とフィレッドまでを確認しなければならない。


クルーン山脈の休憩所から、坂を下ってから、山の小路に入らなければならない。

そこから更に下ると、荒野に出るようになっていた。

なんだ、思った以上に遠くないじゃないか。


地図は一番最初に手に入れたいアイテムなのだとミーちゃんは語る。


俺は、一番がまずは敵と戦いたいだったので、そういうことは忘れていたし、山を登る準備をしたときも、装備と食事ばかりに気を取られていた。


「少し抜けてますね!」

弟子は不躾なことを言う奴である。

破門にするぞ。


少し遠い目をすると、「いいじゃないですかぁーいきましょーぅ」と少し気合いの入っているミーちゃんに気力をもらったのだった。

「おー!」

と三人はハモり、早速旅支度をして、パーティを作ることにした。

パーティ会話という状態もできたので、パーティのときはパーティ会話で話そうと言い合った。

パーティ会話にしておくと他の人には話が聞こえてないようだ。

ウィスパーのパーティ版という感じである。

これは意思ではなくメニューカーソルから選ぶようだ。

気をつけなければならないな。

休憩所に別れを告げて、地図の通りに歩き出す。

「道なりはたいした魔物はいません」と、ミーちゃんが魔法のサーチを使いながら敵のレベルを確認してくれる。

俺は彼女らよりも遠くが見えるので、先の方まで確認できる。

もっと遠くを確認した方がいいかな?と思っていたら、


"遠見がスキルアップ。鷹の目になりました。"


と報告があった。

すると、遠くを見たいと思うと、バックミラーの大きいものが浮かんできて、鳥瞰できるようになっていた。

これは先が見えすぎるような気がする…

だがこうなると"索敵"を覚えたいところだなと欲が出てくる。


鎧兜を身につけたゴブリンが、道を塞いでるのでどうする?と聞く。

「私と同じレベルですねぇ…」

「二人は、レベルいくつなの?」

「私が27!ミーちゃんが26よね!」

「それなら道中は戦いながら行こう」と調子のいいことを言うと、「師匠は見ててね!」と見事に念を押されたのであった。


"サーストン荒野"


山を下りきると、ミーちゃんが景色が変わったことでフードつきのローブを上から羽織る。

「どうしたの?」

レイは急にフードを被ったことを疑問に思った。

「なんだか、日焼けしそうで…」

言われると急に温度が跳ね上がった気がしてくる。

俺もフードつきにすればよかったと後悔した。


フィレッドはこの街道沿いに歩けばすぐである。

しかし、それはこの道の先にいる集団をどうにかしなければならないようである。

「止まって。」

俺は二人を静止させた。

「どうしたの師匠?」

「この先に盗賊団がいる。」

短いが簡潔に答える。

山を下る際に、俺の鷹の目については、この二人も理解している。

「迂回できないのぉ?」

ミーちゃんは戦闘を回避したいようだ。

と言うのも、鎧兜のゴブリンはすぐに倒せたが、ロングスタッフ持ちのソーサラーゴブリンとセットになったゴブリンは苦戦したからだ。

魔法持ちのやつとは戦いたくない。

「向こうにも気づかれてる恐れもあるしな…」

盗賊団の中に、遠見のようなスキルを持っている奴が居れば、すぐに襲われかねない。

「これは倒すっきゃなさそうよね!」

鼻息をフンスカ出しながら、レイが気合いを入れている。

「俺も同じ考えだ。」

盗賊団は六人。

隠れている者がいるかもしれないので、それだけとは考えにくい。

移動中の休憩なのか、馬車を停めて仲間で相談しているようだ。

これは過ぎ去るのを待ってもいいのか?

そう考えた時だった。


「ピィーーー!!!」

空を貫くような甲高い笛の音が響く。

「まずい!気づかれてる!」

笛が鳴った方向を見ると、口元を隠した、ターバンが透明の隠れ蓑から出てきた。

ハイディングというスキルだろう。

盗賊(シーフ)暗殺者(アサシン)が得意とするスキル。

攻撃をされなかっただけでもラッキーだったか。

何故なら背後から襲われた可能性もあるからだ。


馬車がこちらへ向かってくる。

「ミーちゃん!支援よろしく!レイはまず顔の隠れた奴からいくぞ!」

「わかった!」

ミーちゃんが鎧にアーマーアップをかけて、俺とレイの防御力を上昇させた。

俺には意味がないと判断し、レイだけを支援してくれと伝える。

「じゃあ、師匠さんはぁ?」

「アームアップがあるなら頂戴!」

攻撃強化は通用すると思いながら答える。

支援をもらい、突進するレイ。

雄叫びをあげながら近くまで引き付けたターバンマスクに、肘鉄を食らわせて仰け反らせる。


走って、馬に飛び乗る。

馬車を操る者にダガーを突き立てる。

馬が嘶き前進を止める。

急に止まった馬車から、転げ落ちるように四人の男が飛び出す。

体勢を崩して倒れそうな馬から飛び降りると、その四人と対峙する。


「ゲッ!」

思わず蛙を踏み潰したような声を出してしまう。

馬車から飛び出した者に、ローブを深く被っている者がいたからである。


魔法を唱えられるとまずい。

ロングソードを構えた痩せ身の男が上段斬りで迫る。

ダガーの峰で滑らせるように受け流し、相手の首を跳ねる。

交わし方もいろいろできるものだ。


一撃で倒せることを確認すると、あとは魔法さえ撃たれなければ問題なさそうだ。


マルを召喚し、一番左の革鎧の男に攻撃指示する。


ローブの男は魔法を唱えると、一番身体が大きかった奴に振りかけた。

シールド強化のエフェクトが表示される。

次の詠唱を初めたので、俺はローブの男に肉薄すると、ダガーを突き立てようとした。

しかし、そのダガーは大男に阻まれる。

大男はローブの男を庇っていて、なかなか近づけない。


ローブの男は唇を吊り上げ、攻撃魔法を唱えた。

「アイスサークル!」

480ものダメージを受けて、一気に劣勢になる。

ポーションを飲もうと鞄を探そうとしたとき、俺の体力が赤から白へと変わる。

回復したのだ。

「師匠さん!がんばってぇ!」

ミーちゃんが回復呪文を唱えたようだ。

そうだ、俺だけが戦ってるわけじゃない。


そう思うと魔法も怖くない。

大男を斬りつけて倒し、その後ローブ男を倒す。


あとはマルの対峙したやつを倒そうとしたとき。

マルは倒れた革鎧の上に乗り、勝利を実感しているようだった。


レイとて一対一なら余裕だったようだ。

ターバンマスクに膝をつかせ、前のめりに倒れたところを見届けたところだ。

一息つき、警戒を解く。


「一瞬、師匠が死にそうで焦りました」

と笑う。

「死ぬかと思った」

と呟くと、

「ボスだったんですねぇー」

とミーちゃんが、膨れっ面になった。

「焦ってすぐに回復させちゃいましたぁ」

「助かったよ!」

ミーちゃんに微笑みかけた。


「私も頑張ったのにー」

レイも膨れっ面になっていた。


このとき二人とも2つもレベルが上がったそうだ。

支援効果が乗ってるからだろうと思いながらも、二人を祝福する。


戦利品を回収し、街道沿いに歩く。

「このサークレットって何でしょうね?」

先程手に入れた、"盗まれたサークレット"の話で盛り上がりながら、フィレッドに到着する。

ちなみに、"盗まれたサークレット"は人数分ドロップしたため、三人で分配した。

「装備は…できないですねぇ…」

残念そうにミーちゃんは呟いていた。


"フィレッド"


門を潜り抜けると、露店が立ち並ぶ活気付いた声が響く。

武器や道具だけに留まらず、素材やアクセサリーも目立つ。

ゲームが発売されてからもう3ヶ月になるので、β版から始めたβ組は、早い人でかなりレベルを上げて、強いダンジョンへと向かっているだろう。

その3ヶ月、ひたすらコトラビを倒していたわけだが、凄く過去のようにも思える。


二人に露店を見て回らないかと提案してみることにした。


「師匠さんちょっと待ってぇーウィスきましたぁ」

ミーちゃんは誰かと話をして、レイにも、今からいきたいと話している。

「師匠さんーごめんなさいー…今、西の森で友だちがパーティしてて、二人抜けたから来ないかって…」

ちょっと前に話していた彼氏からのウィスかな?

俺もやりとりを聞いていて何となくわかっていた。

「俺はちょっと露店とか回りたいから、行ってきなよ!」

俺から促す方が楽だろう。


「行ってきますぅーありがとうございますぅー!」

ミーちゃんはお辞儀した。

「頑張って稼いでこいよっ!」

「師匠っ!ありがとうございました!行ってきます!」

そう言うとホームポイントをフィレッドに切り替えて、串焼きの露店だけ寄ってから、来た門から出ていった。


パーティリーダーをミーちゃんに渡して、「またね」と言うと、離脱した。

ウィスでレイから、「師匠!またです!」と返事が着て、ミーちゃんからは「お疲れ様ですぅー」と着た。


また一人になった俺は、さっき二人が入った串焼きの露店に入りエビと牛肉の串焼きを四本購入して、テーブルがあったので席につき、マルを召喚して頂くことにしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ