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アルバイト輝夜 ~水橋パルスィ編~

「ふぅ……」


と、思わず声が出てしまった。

それはもちろん、憂鬱な時に出る息であり、俗に言うため息と呼ばれる物である。

ため息。

漢字で書くならば、是非とも『矯め息』と書きたいものだ。

『矯め』とは、『正しく直す』という意味を持っている。

つまり、『矯め息』を吐く事は、気分を一新して正しい精神状態に持っていく、という意味になる。

まぁしかし、残念ながらそう上手くはいかないらしい。

ため息は、やはり溜め息なのだ。

それに裏も表もなく、憂鬱だからこそ漏れ出してくる精神的不衛生な塊。

僕の人間である半身が、そうさせるのだ。

もっとも、僕が妖怪であれば致命傷を負っている事となる。

彼ら妖怪という存在の死は、いつだって精神的なものからくるのだから。


「本当に、憂鬱だ」


僕こと森近霖之助は呟いた後、もう一度ため息を吐いた。

ため息を吐くと寿命が減るなどという俗説は、長寿の存在にとっては無意味となる。

短命である人間だからこそ生まれた言葉だろう。

やりたい事をするには、あまりに短すぎる人間だからこそ、ため息を吐く暇があるなら動けという言葉に違いない。

僕はそう推察する。

推察するのだが……僕がため息を吐く原因はただ一つ。

いつかの様にガラス窓を突き破った文々。新聞だった。

そして間の悪い雨。

通り雨だったのか、僕への嫌がらせだったのか、今は綺麗な夜空を見せている。

ぽっかりと見える月は、まるで僕をせせら笑っているかの様だ。

そんなご機嫌な夜空とは逆に、香霖堂を留守にしていた僕は、店の中の惨状にほとほと困り果てるだけだった。

窓付近の商品が見事に雨の被害を被る事になったのだ。

不幸中の幸いで、本などの紙類が無事だったのが救いだろうか。

唯一の被害は犯人そのもの、文々。新聞だけ。

インクが滲んで、どうやら読めそうにない。

射命丸文の自業自得と思うこと半分、読めなくなって残念と思うこと半分。

どっちにしろ不幸なのは彼女だ。

今度出会った時に、きっちり文句を言ってやろう。

そんな事を思いながら店の片付けをしている間に、外はすっかり暗くなり、夜も深くなってしまった。


「はぁ~……また屋台か」


なんだかすっかりあの屋台の常連になっている気がする。

ミスティアの屋台は、慈善事業なのだろうか。

僕ぐらいの儲けでも、そこそこ通う事ができる。

それに、あのお姫様。

彼女との会話は、楽しいのだ。

人間の里から、熱心に通う男達の気持ちも分からない訳ではなかった。

もっとも、そのうちの一人に加えられるのは、僕としては心外だが。



~☆~



夜道を歩いて行くと、人間の男達とすれ違う。

平和な幻想郷と言えど、やはり妖怪が襲ってくる可能性がある。

その為か、男達は大抵数人のグループで歩いている。

だが、皆一様に頭を垂れ、少し落ち込んでいる様子だ。

それを疑問に思いながらも屋台を目指していると、ゾクリと心が乱れた。

いや、乱された気がする。

確信はない。

しかし、何か催眠術的な、どこかに心を誘導された様な、そんな嫌な感覚。

僕は立ち止まり、注意深く辺りを確認した。

その間もジリジリと、焦燥感の様なものが僕の中で渦巻く。

それを押さえつけるようにして、僕は辺りを探る。

すると、道の横に広がっている森の中に、緑の瞬きを見つけた。

どうやら、それが原因らしい。

僕が当たりを付けると、どうやらそれは諦めたらしく、ゆっくりと森の中から出てきた。


「こんばんは、霖之助」

「……橋姫か。やっかいなお姫様に出会ったものだ」


果たして森から現れたのは、橋姫こと水橋パルスィだった。


「こんな所で何をやっているんだ?」


僕が抗議の声をあげようとすると、パルスィは僕を睨む様に指を突きつけた。

その指は僕の唇手前にあり、少しでも口を動かせば彼女の手に触れてしまいそうで、僕は黙るしかない。


「そう、今日という日を無自覚に過ごしているあなたが妬ましい」


あの緑の視線が、まっすぐに僕を見上げる。

今日?

今日は3月14日だ。

はてさて、何か記念日だったろうか?

桃の節句はもう過ぎているし……誰かの誕生日だったろうか。


「今日はホワイトデーよ。その様子だと忘れているわね、霖之助」


なるほど、と僕は手を打った。

確かに今日は3月14日で、ホワイトデーだ。

聖ヴァレンティヌスの加護を受け、勇気を奮った少女達にお礼をする日。

ホワイトデーとは、お返しのお菓子が飴であり、その飴の材料が砂糖である事から、砂糖=白=ホワイト、と命名されたそうだ。

白無垢の様に、『あなた色に染まります』等という意味があるのかと思ったが、調べてみてガックリと肩を落とした事を思い出した。

忘れていたのは、そのせいだろうか。


「それで、そのホワイトデーに嫉妬の女神様は何をしているんだい?」

「もちろん、この甘ったるい雰囲気が妬ましいので嫉妬心を植えつけまくっているの」


ふふん、とばかりに自慢気に胸を張るパルスィに僕は呆れた息を零した。


「地上と地下を繋ぐ番人の仕事はいいのかい?」

「私はただ見送るだけの番人。今日くらい私の力を発揮してもいいじゃない」

「先月も言ってなかったかい?」

「私はただ見送るだけの番人。先月くらい私の力を発揮してもいいじゃない」


とぼける橋姫に、僕は苦笑した。

ようはパルスィも皆に加わりたいのだろう。

嫉妬の権化である妖怪は、やはりどこか人間くさい。


「どうだい? 今からミスティアの屋台に行くけど」


僕はクイッとお酒をあおるポーズをしてみせる。

それを見たパルスィはニヤリと笑った。


「あなたにチョコをプレゼントした覚えはないけど、そのお返しは貰っておきましょう」


一言も奢るなんて言ってないのだが……


「まぁいい。それより何とかしてくれないか」

「何が?」

「とぼけてもらっては困る。僕に植え付けただろう」

「ふふ。霖之助はそれ位が丁度いい。人間らしいわよ。そうね、今日の帰りに戻してあげるわ」


僕はやっぱりため息をついた。


「先に帰ったらダメだぞ♪」


人差し指を立て、可愛く振舞う橋姫に、僕は手刀を叩き込んだ。

あぁ、勘違いしないでほしい。

これは嫉妬心からの暴力であり、普段の僕は決して女性に手をあげる事が無いという事を。



~☆~



パルスィと雑談しながら歩いていくと、やはり数人の男達が頭を垂れているグループとすれ違う。

その事を橋姫に聞いてみると、どうやらこの道を通る男達にとことん嫉妬心を操っていたそうだ。

まったくもって酷い事をする。

などと呆れていると、いつもの竹林沿いに、いつもの赤提灯と、いつもの店主の歌声が聞こえてきた。


「ここのババアは良いババア~♪ 子供に優しく金持ちだ~♪ あぁババアよ、フォーエバーソーファイン♪」


今日も絶好調な夜雀は、どこかの盗賊っぽい勇者が歌っていそうなメロディを奏でている。

古い妖怪達の受けが悪いのも納得できるというものだ。

新しいのか古いのかも分かったもんじゃない。

そんなミスティアの屋台側には先客が居た。

アリスとパチュリーの魔法使い組だ。

どうやらすでに出来上がっている様で、昔話に花を咲かせている様子。

僕とパルスィは二人に挨拶をすると、長机側に座った。

赤い大きな傘に赤提灯が吊され、丸太のテーブルと椅子に薪ストーブという暖かい空間。

そして、


「いらっしゃい、香霖堂。それから橋姫さん」


月のお姫様、蓬莱山輝夜。


「はぁ……あなた達が男女の二人組みで助かったわ」

「どういう事だい?」


輝夜も疲れた様な深いため息を零した。


「今日の里からのお客さん、みんなケンカを始めちゃうのよ」


本日はホワイトデーという事もあり、里からの男性客が多かったそうだ。

しかし、彼らは輝夜にプレゼントを渡し、しばらく酒を呑むとケンカを始めるらしい。

俺のプレゼントの方が優れている。

いや、俺の方が輝夜の心を理解している。

などなど。

しまいには、殴り合いに発展しそうになり輝夜が慌てて宥めたそうだ。


「今度お客さんがケンカを始めたら、金閣寺の一枚天井でもお見舞いするところだったわ」


と、お姫様は笑う。

しかし、こっちとしては堪ったものじゃない。

僕が苦笑しているのに対して、隣のパルスィはニヤニヤと笑った。


「あっ! パルスィ、あなたの仕業ね」

「その通りよお姫様。そして今日は霖之助の奢りなの」

「どういう事?」


輝夜の質問に対して、僕は自分の胸を指差した。


「今の僕にも嫉妬心が埋まっている。つまり恐喝されているのさ」

「あら、だったら香霖堂も私を他の殿方から取り合ってくれるのかしら?」

「それは無いね。僕はいたって冷静だよ」

「嘘だね。さっき私に手刀をいれたじゃないか」


パルスィがまたまたニヤニヤと笑う。


「あら、女の子に暴力をふるうなんて最低ね。う~ん、今日は私も呑ませてもらおうかしら?」

「おいおい、なんだって?」


つまり、二人分も奢るのか。

幾らこの店が良心的と言えど、懐が厳しいぞ。


「あら、確か私、香霖堂にチョコをあげたわよね」

「う……」


確かに貰った。

それはヴァレンタインデーでは無かったのだが、輝夜が取っておいてくれた最後の一個であるチョコレート。

貰った限りはお返しをするのが摂理だ。

しかし、すっかり忘れていた僕は、お返しなど何も用意していない。

僕は再び大きなため息を吐いた。


「太っ腹な霖之助が妬ましいわ。輝夜、日本酒と八目鰻の蒲焼を」

「はい、喜んで♪ 香霖堂は?」

「……いつもの」

「また食べてきてないの? まったくダメね。でも、喜んで♪」


輝夜の営業スマイルを残して屋台へと引っ込む。

そしてすぐに、パルスィの八目鰻と僕の筍ご飯を持ってきてくれた。


「それから、竹酒ね」


竹の筒に入れられた永遠亭特性の日本酒だ。

僕がパルスィのぐい飲みに注いでやると、パルスィも注いでくれた。


「はい、頂戴♪」


と、輝夜も満面の笑みでぐい飲みを差し出す。

僕はため息を漏れさせながら、輝夜のぐい飲みにも注いでやった。


「何に乾杯するんだ?」


僕がパルスィに聞くと、彼女は決まっているじゃないかとばかりに答える。


「もちろん聖ヴァレンティヌスだね。彼の聖人を嫉妬神と崇めてもいいくらいだ」

「嫉妬心と嫉妬神ね。迷惑な話だ」


心と神など、同じ様なものなのに。

まぁ、いいか、と僕と輝夜は顔を見合わせて苦笑する。

そして、コツンと三人のぐい飲みの音を聞かせる。

一口、口の中が潤う程度の量を呑んだ。

口の中に溢れる酒の旨みを、噛み締める。

相変わらずの美味さ。

仄かな甘みの後に広がる辛みが何とも言えない。

そこらの生半可な日本酒では到底敵わない深い味わいに僕は満足する。


「美味しいわねぇ、妬ましいわねぇ」


などと言いながら、パルスィは八目鰻を嬉しそうに頬張っている。

僕は筍ご飯を食べながら、輝夜に聞いた。


「そんなにケンカばっかりだったのかい?」


輝夜はぐい飲みの底に手を当て、両手で優雅に竹酒の呑んだあとに口を開いた。


「えぇ。私って魅力的だから」

「自分で言うのかい?」

「冗談よ。それより橋姫っていうと、和泉式部を思い出すのよね」


明らかに話題を反らしてきたな。

まぁ、いいか。

さて、和泉式部といえば、有名な歌人だ。

しかし、彼女と橋に何か因果関係でもあっただろうか。


「和泉式部の夫が橘道貞っていうんだけど、『橘』って字を『橋』と間違えて読んだのよ」


そう言って、輝夜は苦笑する。

確かに漢字として似ているが、それで何か大恥でもかいたのだろうか。


「それから、和泉式部は娘と泣きながら別れた橋があるのよ。『別れじの橋』なんて呼ばれているわ。だから和泉式部と橋のイメージが余計に繋がっちゃって」


なるほど。

間違いと事実から、輝夜の中で和泉式部と橋に因果関係が生まれた訳か。


「君は何か和泉式部と関係があるのかい?」


僕が聞いてみると、パルスィは苦笑する。


「関係も何も、私は和泉式部という人間を知らないわ。橋姫が歌を楽しむ必要なんて無いからね」

「でも、和泉式部はモテまくったみたいよ。『浮かれ女』って言われるくらいに。だから同性からは嫉妬されたんじゃないかしら」

「なるほど、それは妬ましい。だけど、その言葉、そっくりそのまま輝夜にあげる。あなたもモテまくってるじゃない。そのうち奥さんに刺されるんじゃないの?」


まぁ怖い、と輝夜は口元を隠して笑った。


「刺されても死なない所が悔しいがね」


僕が呟くと、輝夜から手刀が飛んできた。

どうやら一言多かったらしい。

甘んじて受けた額を手で撫でつつ、夜空を見上げながら僕は竹酒を煽るのだった。


~☆~



夜更けも近い頃、すっかり出来上がってしまったパルスィはアリスとパチュリーの間に入って、話を盛り上げている。

昔話だったので、僕はそれに加わる気にはなれなかった。

いや、もしかしたら、これが嫉妬心なのかもしれない。

君達以上に、僕は彼女を知っているんだぞ、という見栄でも何でもないただの嫉妬。

今更、この感情をどう扱っていいのかは、僕には分からない。


「三人官女には加わらないの?」

「僕はお内裏様じゃないんでね、お雛様」

「桃の節句は終わっているわ。早く片付けないとお嫁にいけなくなっちゃう」

「流し雛と一緒に川に流してもらったらどうだい?」

「それこそ橋姫になって、あなたに襲い掛かるわよ」


どうして僕なんだ、と訊きながら竹酒を呑む。


「あなたが通りかかったからよ。結婚しろおぉぉぉぉ!って感じかしら」


輝夜は両手を広げて、グルリと長机をまわると僕に抱きついて来た。

ハラリと流れる黒髪を払いつつ、僕は彼女を引き剥がす。


「もう、素直に抱かれなさいよ」


朱の入った頬に、トロンと溶けた様な瞳。

そして、そんな色気を台無しにするかの様に、お酒臭さ。

どうやら、このお姫様もかなり酔っているようだ。


「お~い、ミスティア。この店員さんを何とかしてくれ」

「むーだ無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄♪」


ダメだ、ミスティアも酔っ払っている。

お客を放りっ放しで歌に夢中のようだ。

夜空に向かってひたすら殴りかかっているのは、どういうパフォーマンスなのだろうか。


「妬ましい。あなたもモテる様ね、霖之助」


こちらの騒ぎに気づいたパルスィはぐい飲み片手に戻ってきた。


「本当にそう思うかい?」

「えぇ、昨今のあなたは丸くなったのか人気が高い。たまには褌一丁になって寒中水泳でもしたらどう?」


意味が分からない事を言いながら、輝夜の反対側からパルスィが抱きついてきた。

両手に花、否、両手に姫、だろうか。

これじゃ酒も呑めない。

それに酒臭い。

両手に姫どころか、両手に酔っ払いだ。


「さむしろに 衣かたしき 今宵もや 我をまつらん 宇治の橋姫」


不意に輝夜が歌を詠んだ。

静かに瞳を閉じて歌を詠む姿はお姫様そのものだろう。


「霖之助はどう感じる?」


そして、輝夜が僕の耳元をくすぐる様に言葉を放つ。

それに対して、僕は一拍置いてから答えた。


「『かたしき』は『方敷き』、つまりこの時代で言うならば、男は一人寝をしている訳だ。今宵も意中の女性に会えないから寂しいという男の気持ちじゃないかい?」


その言葉に、月の姫と橋の姫は同時に笑った。


「なるほど、香霖堂はそう受け取る訳ね」

「なるほど、霖之助はそう受け取る訳ね」


二人はお互いを見るとクスリと笑った。


「他に意味があるのかい?」


僕の質問に輝夜が答える。


「この男は、何股かかけてて、一人の女性を裏切っている。その呵責の念を詠っているのよ」

「妬ましい、妬ましいね。モテる男も妬ましい」


一つの歌も、少女から見ればガラリと姿を変えるのだろうか。

酔っ払った少女達の如く。

恋に落ちた少女達の如く。

嫉妬に駆られた少女達の如く。


「じゃぁ、香霖堂。同じお姫様でも月と橋、どっちを選ぶ?」


輝夜が僕の耳の傍で言葉を放つ。

ゾクリと背中が震えるくらいの甘い声。

なるほど、これで男を振り回している訳か。

お酒が入っているのなら尚更だ。

朱が入り、潤んだ瞳の輝夜は美しくもあり、可愛らしくもある。


「どっちも選ばないよ」


僕は毅然とした態度で答える。

どうして、と訊いてくる少女達に自身満々に答えてやった。


「だって、僕は王子様じゃないからね。ただの道具屋の店主さ」


その答えにパルスィが爆笑した。

それほど上手く答えたつもりはないが、気に入ったらしい。

特に王子様というフレーズに。


「あはは、違いない。霖之助が王子様なら幻想郷は崩壊してるよ」


失礼な。


「くひひひ……はぁ~ぁ、それじゃ私はそろそろ失礼するわ」

「あら残念。同じお姫様同士、もう少し話していたかったわ」

「輝夜は本物だけど、私は偽物さ。鬼女だよ、ただの」


パルスィは苦笑する。

人間から嫉妬により鬼になったとされる、橋姫。

丑の刻参りの張本人。

だけど、それが彼女とは限らない。

晴れ渡った顔で、妬ましいと呟く彼女に、怒り狂った伝説など無用だろう。


「ごちそうさま。また来るよ」

「今度は奢らないぞ」

「それはどうかな」


ニヤリと笑うと、パルスィは空へと舞い上がる。

そのまま夜空に消える様に飛び去っていった。


「あ……僕の嫉妬心」


しまった。

操られたまま消してもらってない。


「大丈夫よ」


僕に抱きついたままの輝夜が呟く。


「そんなものとっくに消えてるんだから……」


そういうと、輝夜は眠ってしまった。

果たして本当に操られた心は元に戻っているのだろうか。

今もどこかの誰かを妬ましいとは思ってないだろうか。

だが、それにしても。


「輝夜、動けないんだが……」


輝夜はズルズルと僕の足の上に身体をズラした。

膝枕をしている様な状態なので、立ち上がる訳にもいかない。

里の男達が見たら、羨ましがるのだろうか。

そうは思うが、僕としては迷惑な事この上ない。


「まったく……色気のない話だ」


これはこれで森近霖之助らしいといえばらしいのだが。


「私に色気が足りないっての~……むにゃむにゃ」

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