滅ぶの呪文ウピッピーテンペスト、そして……
「そのへんにしろ」
口を開いたのはキーゼルバッハ王だ。
「いくらなんでもやりすぎだ、ミチル大王」
「いただけるものはいただくのは当たり前でしょ。このラケン大陸は、私のものよ。魔剣大陸に生まれ変わらせるのよ」
「やらせはしない。こんな無法な祭りは認めない」
「あら? じゃあ鼻血王国の実権の話はどうなるのかしら」
「もちろん、俺のものだ。俺も参戦させてもらう」
そう言って、キーゼルバッハ王は空を仰いだ。
「ラケン大陸を滅ぼす能力があるのは知っているか」
「ウピッピーテンペストの事? あれはかなりの熱量と時間を必要とするはずよ」
「その準備が既にできているとしたら?」
キーゼルバッハ王の、両脇の男達が吹き飛ばされる。
「え、うそ」
「ミチル大王、俺は覚悟していた。お祭りが盛り上がればいいと願うと同時に、良識が消えればすべてを燃やし尽くすと」
「ちょ、え、待って」
ミチル大王の手下達も、戸惑い、怯えている。
「何が起こるんだ」
「に、逃げたほうがいいのか」
手下達は、ミチル大王の様子を窺う。ひどく震えている。ウピッピーテンペストは、魔剣ウピッピーダークでは防げないのだろう。
「つき合いきれねぇ!」
そう言って、トマト王子を放って散り散りに逃げ出していく。
「ま、待ちなさいあんた達。方法はきっとあるわよ、き、きっと」
そんなミチル大王の言葉に耳を傾ける者はいなかった。みんな我が身が第一なのだ。
「……どこへ逃げても無駄だというのに」
キーゼルバッハ王の呟きに、手下の動きが凍りつく。
「時期に異変がくる。このラケン大陸にな」
遠くから、爆音が聞こえる。見れば、広大な光の柱が立ち上っていた。
一回では収まらない。何度も、幾重にも、折り重なっている。
「どんどん近づいていますね」
トマト王子は辺りを見渡す。どこから聞こえるのかは分からないが、重い音がどんどん大きくなっていた。光の柱も近づいていた。
「き、キーゼルバッハ王を倒せばいいのよ!」
思いついたようにミチル大王が叫んだ。しかし、耳を貸すものはいない。ミチル大王だけキーゼルバッハ王にくってかかるが、トマト王子があっさり押さえ込んだ。
「大人しく、見守りましょうよ」
「い、いやよ。私はまだやりたい事がたくさんあるのよ!」
「そのやりたい事のために天罰が下るのでしょう。自業自得です」
トマト王子の心は安らかだった。変態のはびこるラケン大陸は、彼にとって見るに耐えないものだった。
「せめて、みんなが苦しまないように。祈る事はそれだけです」
「待って、お願い。謝るから、好き勝手やった事も、うさぎ鍋をたくさん作った事も、悪い事は全部やめるから!」
「今更そんな事を言われましても、どうしようもありません」
光の柱と爆音が、ついにはラケン大陸の全土を囲った。光は寄り集まり、巨大な光の球が生まれる。
「ぐえええ」
「まぶしぃ」
目を閉じても、その光量はすさまじかった。トマト王子も、目が焼かれると感じた。
「これで、ラケン大陸は終わるのですね」
あっけない。
そんな言葉を呟いて、トマト王子はため息を吐いた。
光の球は膨れ上がる。
そして、大空に爆発した――
ドーン……ドーン……。
遠くで、何かが爆発している。
「……?」
終わったはずのラケン大陸。しかし、目をあければ周りは何も変わっていなかった。
「え……」
音をする方をみれば、綺麗な花火が幾つも打ち上げられている。
「これは……」
「バーハハハ、大成功!」
放心するトマト王子の前で、キーゼルバッハ王が腹を抱えて笑っていた。
「たしかにウピッピーテンペストにはラケン大陸を滅ぼす力がある。だが、俺がやると思ったか」
「……やると思いましたよ。その覚悟もあったのでしょう」
「そうだな。だが、善良なうさぎや、トマト王子がいる。良識が消えれば全てを燃やし尽くすと言ったが、良識は消えていないだろう?」
キーゼルバッハ王の言葉を、トマト王子は半分は聞き流した。泡を吹いて倒れているミチル大王を睨む。
「消し去るべき人間もいるかと……」
「彼らには、彼らなりの生き方があるんだ。むやみに消してはいかん。今回はちょっとやりすぎたが、これに懲りて反省すればいい」
「あなたは優しすぎます」
しかし、その優しさにトマト王子は惹かれたのだった。彼の生死が分からない間は、本気で心配したものだ。
「キーゼルバッハ王は、人が悪すぎます。僕がどれほど気負いしたか」
「すべては俺が悪かった。許してくれ、トマト王子」
キーゼルバッハ王の笑顔は、太陽のようだった。
「許すも何も、怒る気すら起きません」
「よし、ならば話は決まりだ」
「お話ですか?」
「許してくれるのだろう。なら、祭りは続ける」
キーゼルバッハ王の発言に、トマト王子は言葉を失った。
「祭りは大変だが、うまくいけばみんなが楽しめる。さあ、次こそは楽しい祭りを開催しよう!」
「少し懲りてください」
「白い目で見なくてもいいだろ。俺だけでは心配なら、トマト王子も主催に加わるか?」
「え……」
トマト王子が戸惑っている間に、ミチル大王が起き上がった。
「あーんひどいわ。私のいけいけ金髪が台無しじゃないの。でも、魔剣ウピッピーダークが無事でよかったわー」
ミチル大王は、魔剣ウピッピーダークをスリスリしていた。
「ミチル大王、主催に加わる気はないか?」
キーゼルバッハ王が誘った。
「あら、変態企画ならやってもいいわよ」
ミチル大王があっさり引き受けるのを、トマト王子は見過ごせない。
「こんな奴を放ってはおけません!」
「じゃあトマト王子、ミチル大王の管理を頼む」
「あらやだ、人を動物か何かみたいに」
ミチル大王が頬を膨らませる。キーゼルバッハ王は豪快に笑った。
「これで運営陣はそろったな!」
「うっふん、今度こそラケンを変態の天下にするんだから」
「許しません」
それぞれの考えは異なる。
こうして、奇異な三人組はラケン大陸に、再び騒動を巻き起こすのだった――




