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魔剣ウピッピーダーク

「不意打ちのつもりですか?」

 トマト王子はなんなく受け止めていた。男の剣先を払い、間合いを取る。

「魔剣ボルディアスの露になってください」

 男が一人、お星様になった。

「やるわね。でもこれならどうかしら。魔剣ウピッピーダーク能力ぜんかーい!」

 ミチル大王が叫ぶ。別の男が襲いかかる。魔剣ボルディアスは輝かない。

「なっ……」

 何が起こったかは分からない。ただ、魔剣ボルディアスが相手をぶっとばす作用を失ったようだ。

 トマト王子は、間一髪で男の追撃をかわし、ただのなまくら剣となったボルディアスで叩き付けた。

「うっふーん、流石ね」

 トマト王子を見つめながら、ミチル大王が舌なめずりをする。

「少しは苦戦してくれると思ったけど、このままじゃつまんないわーん」

「……何をしたのですか?」

「うふふ、何をしたと思う?」

 ミチル大王と共に、男達がほくそ笑む。

「魔剣ボルディアスが使えないのか」

「楽勝だな!」

 じりじりと、男達が近づいてくる。しかし、トマト王子は動じなかった。

「今のうちに申し上げますが、僕は強いですよ」

「んな事わかってらー!」

 男達が一斉に襲いかかる。トマト王子は鼻で笑う。

「分かっていませんね」

 男達の剣をあるいはかわし、あるいは受け止め。トマト王子は鮮やかに切り抜けた。

「お伺いしますが、あなた達の魔剣は使えますか?」

 男達が顔を見合わせる。

「そういえば、調子が悪いんだよなぁ」

「なんか、魔力が使えない」

 力を発揮できないのは、トマト王子だけではなかったようだ。

「あらやっだーん。魔剣ウピッピーダーク張り切りすぎちゃったー」

「は?」

「どういうこと?」

 男達が口々に疑問を呈する。その間にも、トマト王子は次々と男を倒していた。

 男達が苦言を呈する。

「な、解説を待てよ!」

「空気が読めない王子様だなぁ」

「そんな空気を読むつもりはありません」

 トマト王子は、苦言を呈する男達も倒した。

 あっという間の出来事だった。ミチル大王の手下は、あっという間に倒せる数しかいなかった。

「魔剣ウピッピーダークは、他の魔剣の能力を封じたのでしょう。手下の魔剣の能力まで封じてしまうとは、間の抜けた話ですね」

 トマト王子は得意げだ。

「んっもーう、つまらなーい」

「つまらなくても、これが現実です。さあ、鼻血王国の実権は僕のものでよいのですよね?」

「いやーんミチル泣いちゃうー」

「泣いてください。そして、二度とこんなパーティーをしないと誓ってください」

「えーんえーん、なーんてね」

 ミチル大王が、魔剣ウピッピダークをふりかぶった。トマト王子は身構えて、攻撃に備える。

「うふふふふふ」

 ミチル大王が含み笑いを始める。紫色のオーラを放っている。不気味である。

「いくわよー!」

 ようやく切りつけてくるが、トマト王子は難なくかわす。がら空きになった背中をボルディアスで叩きつける。

 ミチル大王は無様に地面を転がる。

「いったーい! もう許さない。カムチャッカファイアーミチルインフェルノオオオォォォ!」

 魔剣ウピッピダークが赤黒いオーラをまとう。

「いったい何を……?」

 トマト王子は警戒し、再び身構える。ミチル大王は巨体をゴロンゴロンと転がすだけだ。その姿は、見ているだけでウザい。

「すみませんが、さっさと終わらせますね」

 そういって、トマト王子はボルディアスを振り上げる。

 しかし、ミチル大王に振り下ろされる事はなかった。

「……?」

 ボルディアスは、そのまま地面に落ちた。手に力が入らなくなり、握れなくなったのだ。

「なぜ……」

「うふふ、私が魔剣使いなのをお忘れかしら」

 ミチル大王は、勝ち誇った笑みで起き上がる。

「魔剣ウピッピダークは、他の魔剣の能力を奪うだけじゃないのよ。奪った魔剣の能力を、そのまま使う事ができるのよぅ。魂を抜き取っちゃうとかね!」

「そんなバカな……!」

 トマト王子には、信じられない話であった。あまりにも理不尽な能力差だ。

「憤りを覚えます」

「おーほっほっほ! 負け犬の遠吠えほど愉快なものはないわ」

「くっ……」

 どれほど気力を振り絞ろうと、体から力が抜けていく。かろうじてボルディアスを握るものの、持ち上げるのはできなかった。


 しかし、異変があるのはトマト王子だけではなかった。


 ミチル大王の、魔剣ウピッピダークを握る右手が干からびている。

「使い手の魂も抜こうとするの。流石は魔剣でしょう」

 ミチル大王は、魔剣ウピッピダークにキスをする。

 トマト王子は苦々しい表情を浮かべた。

「狂っています。自分の身を危険にさらすなど」

「あら、だからいいんでしょ。このスリルがたまらないのよ」

 ミチル大王は、ボルディアスを取り上げた。その目は、怪しく光っている。

「魔剣はねぇ、人をいたぶってなんぼよ。誰かを守るためとか、くだらない。力のある人間が生き残るのが当然の摂理なのよ。弱くて生き残りたいなら、強い人間に従わなくちゃダメよん」

 ミチル大王は、ボルディアスを大切そうに抱えた。

「でもねん、トマト王子。私はあなたの事も嫌いじゃないわ。悪を倒すための暴力、結構じゃないの。力で何もかもを解決しようとするあなた、まさに魔剣の使い手にふさわしいわ。私に従うなら、喜んで仲間にするわよーぅ」

「誰が!」

 トマト王子は、強く否定した。体が動かず、ボルディアスを取り上げられた。彼を支えるのは、プライドだけだった。

「そう、残念。じゃあ、見せしめになってもらうしかないじゃない。このまま魂を抜いちゃうのも簡単だけど、誇り高い王子が魔剣にいたぶられて、命乞いするのを見たいわーん」

 ミチル大王の手下達が、一人、また一人と起き上がる。

 ミチル大王は高笑いを始める。

「おーっほっほっほ! ほーっほっほっほ! 魔剣ボルディアスがないのに、どうやって魔剣士たちと戦うのか、考えた方がいいわよーぅ」

「くっ……」

「魔剣ウピッピーダーク能力ふういーん!」

 魔剣の力を持った屈強な戦士達が、トマト王子を睨む。

「さっきはよくもやってくれたな」

「覚悟しろよぉ」


 ミチル大王が更に高笑いをあげる。


「言い忘れたけど、一度うさぎ王国の外に出てから戻ってくるのは禁止しているけど、うさぎ王国に初めて入る人間はその限りじゃないのよん。あーん、でも区別ができなーい」

「俺達はゆっくり休んでから、戻っていいという事さ」

「万事休すだな、トマト王子!」

 あまりにもアンフェアなルールだ。

 トマト王子はため息を吐いた。

「全員倒すのは無理ですね。僕の体力が持ちません」

「おーい、鼻血王国の実権はどうなるー」

「すみませんがキーゼルバッハ王、僕には荷が重過ぎました。ここは一旦引きます」

「了解、命大事にね。もともと俺が引き起こした事件だし。気にする事はない」

「もとよりそのつもりです」

 キーゼルバッハ王が再びすねている。

「もっと違う言葉があるだろ」

「ミチル大王、あなただけは許しません。また今度、野菜王国の全軍を挙げて倒しにきます」

「あら、そんな事ができるの?」

 ミチル大王の手下達が、トマト王子を取り囲む。

「生きて帰れると思うな」

「お星様になった同胞達の恨み、ここで晴らす」

「おーっほっほっほ! 誓約書にサインをさせるわ」

 ミチル大王の場違いな発言に、トマト王子は眉をひそめた。

「誓約書ですか?」

「野菜王国の実権を譲るという誓約書よ。今からサインしてくれれば逃がしてあ・げ・る」

「冗談じゃありません!」

「丸腰のくせによくほえるわねー。押さえつけなさい!」

 手下達が、トマト王子に襲いかかる。次々と迫る剣を、難なくかわす。

「おっとこのうさぎが目に入らないか!」

 うさぎが捕まっていた。

 一瞬だけ気がそれた。その一瞬の隙をつかれ、押さえ込まれてしまう。

 うさぎが悲鳴をあげる。

「トマト王子、ごめんなさい!」

「いえ、大丈夫ですよ。僕が命を取られる事はありませんから」

 トマト王子は微笑む。

 うさぎは涙目だ。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

「おーっほっほっほ! このうさぎの命がほしければ、サインしなさい」

「……できません」

「あなたに断る権利はないのよ。うさぎ鍋を食べるか、サインをするか選びなさい」

「……」

 うさぎの命を守るために、野菜王国の実権を握らせるわけにはいかない。しかし、目の前の善良なうさぎを守れなければ後悔しながら生きる事になるだろう。トマト王子は決める事ができなかった。

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