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「ふぅ……さすがに強いですね」

 遠くのお空を見上げながら、トマト王子は呟いた。

「オカマが数人。相手をするだけで苦労しました。ですが、警備がこれだけ厚いという事は、きっとミチル大王も近いのでしょう」

 数人の手下を向かわしただけで、分厚い警備だと思われるミチル大王。人望がないのは今に始まったことではない。

 トマト王子は山道を歩き続ける。うさぎ王国は間近だ。


「キーゼルバッハ王もいらっしゃるかもしれません……」


 キーゼルバッハ王は、お祭りの主催者であり、ラケン大陸を混乱に陥れる原因を作った。同時に、魔術にかけては類まれなる才能を持っており、混乱を収める鍵を握る人物でもある。

 トマト王子に魔剣ボルディアスがあるように、キーゼルバッハ王にも切り札がある。

 滅びの呪文ウピッピーテンペストだ。

 鼻血王国に代々伝わる秘術である。その威力は絶大で、ラケン大陸を消し去るほどの熱量を産み出すという。

「そんな秘術が使われたら、ラケン大陸は二度と人が住まなくなります。ラケン大陸の平和を取り戻すには、やはり僕が頑張るしかありません」

 山道に疲れた足に鞭打って、トマト王子は歩く。その甲斐あって、視界が開けた。

「おお……」

 トマト王子は感嘆の声をあげた。

 朝日が、辺りを照らし出す。

 広大な敷地に、にんじん畑が敷き詰められている。ちょうど収穫の時期なのだろう。たくさんのうさぎ達が、にんじんを引き抜いていた。

 にんじん畑の先には、白い城が建っている。うさぎがどうやって建てたかは定かではないが、立派な城だ。

「門番も見張り台もないのは、無用心ですね」

 今までの褒め言葉を台無しにするような、些細なツッコミを入れて、トマト王子は城へ向かう。

 ふと、城の門が開いた。

 うさぎ達が畑仕事をやめて、ひれ伏す。がたがたと震えている。怯えているようだ。

「いったい何が……」

 トマト王子が状況を理解する前に、事態は進む。

 赤いじゅうたんが敷かれ、その上を悠然と歩く巨漢が一人いる。金髪の縦ロールにどくろをあしらった肩当て、露出の多い鎧。紫色のアイメイクに、どぎついピンク色の唇。唇の周りには髭が生えている。どこをどう見ても、醜悪なオカマだった。

「う……」

 思わず目を背けたくなる。しかし、トマト王子は引き下がるわけにはいかない。

「あなたが、ミチル大王ですね」

「おーっほっほっほ! ほーほっほっほっほ!」

 醜悪なオカマ、ミチル大王は意味も無く高笑いをしていた。腐臭を放ちながら赤いじゅうたんを歩いている。

「久しぶりねぇん、トマト王子。出会った頃はひよっこだったのに。大きくなったわねぇ」

「できれば、二度とお会いしたくなかったのですが」

「あらやだ。ご挨拶ね」

 赤地にドクロが描かれた、趣味の悪いセンスを広げて、ミチル大王は自らをあおぐ。

「それにしても暑くて嫌になっちゃう。でも今日はとてもご機嫌なのよ。楽しい楽しいパーティーがあるのだから。名づけて魔剣パーティー! 屈強な男達による夢の祭典よ」

「それはそれは……」

 嫌な予感がしつつ、トマト王子は曖昧に頷いた。トマト王子の笑顔が引きつるのを見て、ミチル大王は高笑いを上げた。

「生き血を吸い尽くすダーインスレイヴ、魂を食らうストームブリンガー、あらゆるものをぶっとばすボルディアス、そして私のウピッピーダーク、数々の伝説と悲劇を生み続けた魔剣たち……どれも至高の名品よ!」

 ミチル大王は歩みを止めて、両手を天へと延ばした。

「今日はそんな魔剣たちの夢の祭典よ! さあ血しぶきをあげなさい、殺しあいなさい! 相手を傷つけないと自分がやられるの。良心なんてこんな世の中にはいらないのよ。戦いなさい、そして栄光を勝ち取るのよ、おーっほっほっほっほ!」

 高笑いは意味もなく響き渡る。いつまでも聞いていると耳が腐るので、トマト王子は口を開く。

「ミチル大王……一つ聞いていいですか?」

「あら、質問なんてある? 生き残ったものが勝ち。それだけよ」

「栄光とは何ですか? 誰かを傷つけ、勝ち抜いたという自己満足でしょうか?」

「うっふん。勝ったという気持ちだけじゃ不満なのね。じゃあ、とっておきの商品をお見せしようかしら」

 城の門から、人影が現れる。二人の男に挟まれた、キーゼルバッハ王が出てきた。

「変な気分だ。綺麗な姉ちゃんに囲まれたかった」

 キーゼルバッハ王は、両脇を抱えられ、自分では身動きが取れない状態だ。

 ミチル大王は、また高笑いをあげる。

「おーっほっほっほ! 勝ち抜いたら、鼻血王国の実権をあげるわ」

「鼻血王国の!? どうして、あなたが鼻血王国の実権を自由にできるのですか」

「決まっているじゃないの。キーゼルバッハ王が言ったのよ。パーティーの優勝者には、鼻血王国の実権をあげていいって」

「本当ですか!?」

 トマト王子の顔面が青くなる。鼻血王国は、トマト王子の住む野菜王国と、友好な関係にある。トマト王子は、鼻血王国の実権を握った人物とは嫌でも深い交流をしなければならないのだ。

「もしもミチル大王が優勝するかと思うと、ぞっとします」

「あらやだ、本人の前で言うかしら」

「そうでなくても、こんなパーティーにまともな人間が参加するとは思いません。パーティーと呼ぶのも、おぞましいくらいです」

 トマト王子が怒りをあらわにするが、ミチル大王は鼻で笑った。

「ふん。じゃあ、トマト王子は棄権でいいのかしら。弱い子ねー。キーゼルバッハ王が泣いちゃうじゃないの」

 キーゼルバッハ王が頷く。

「うん。俺、涙目」

「泣いて後悔してください。そして撤回してください」

「冷たいなー、トマト王子。サインしちゃったし、撤回はできないんだ。頑張ってくれ」

 キーゼルバッハ王の発言は、トマト王子を半狂乱に陥らせるには充分だった。

「どうしてサインなんかを!?」

「ミチル大王に何度も迫られたんだ。トマト王子だって絶対に折れると思う」

「開き直らないでください!」

「はいはい、謝ればいいんだろ。ごめんなさーい、トマト王子を全力で応援しまーす」

 棒読みだ。キーゼルバッハ王はすねているようだ。

 トマト王子は奥歯をかみしめ、キーゼルバッハ王を睨むが、それ以上は何かするわけでもなく、ため息を吐いた。

「怒りを通り越して呆れました。あなたは、国というものを何だと思っているのですか」

「大事なものだ。安心しろ。ミチル大王やその手下にくれてやるつもりはない」

「秘策があるのですね。信じていいのですか?」

 キーゼルバッハ王は深々と頷く。

「トマト王子がなんとかしてくれる」

「結局それですか!」

「うっふん、そろそろ始めましょ」

 ミチル大王の言葉を合図に、城から屈強な男達が姿を現す。いかつい体つきに、ぎらぎらと光る目。いずれも、戦場に慣れた男達であった。

「ルールは簡単よん。この中で生き残った子の勝ち。戦うのが嫌になったら、うさぎ王国から出て行けばいいわ。でも、戻ってくるのは禁止よん。ルールを破った時はこの私が仕留めてあ・げ・る」

 ミチル大王のウィンクに、男達はいっせいに気分を悪くするが、すぐに持ち直す。

「戦だー!」

「鼻血王に、俺はなる!」

 歓声が、あたりにこだまする。一人の男がトマト王子を切りつける!

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