挿入話:ミチル大王
うさぎ王国の王城にて。書類が山積みにされた部屋がある。祭りを終わらせてほしい、変態達をどうにかしてほしいなど、びっちりとクレームが書かれている。
男はその一つ一つに目を通しながら、横目で水晶玉を見ていた。
「トマト王子がくるか」
男はあご髭をいじりながら、口の端を上げた。水晶玉には、山道を歩くトマト王子の姿が映っている。
「祭りは盛り上がりそうだな」
「じゃまするわよーぅ、キーちゃん」
ぶしつけにドアを開けたのは、醜悪な巨漢だった。金髪縦ロールにどくろをあしらった肩当てに露出度の高い鎧にと、見るからに怪しい。
「ほぅら、新しいエサよん」
「エサってこの書類の事か? またクレームがきたのか」
「ヤギならありがたがって食べるわよ。嫌なら、ちゃっちゃとクレーム処理しちゃってーん」
「無茶を言うなって。俺ヤギじゃないし」
「あらいやだ、生意気な子ね」
金髪縦ロールは、腰元から剣を抜き、刃の舌なめずりを始める。
「久しぶりに誰かを切りたいんのよねぇ。でなきゃ、私の魔剣ウピッピーダークがかわいそうでしょーぅ」
「勘弁しくてれ。おまえだって、クレーム処理班がいないと困るだろう」
「班って、あなた一人しかいないのに」
「言葉の彩だ。とにかく、その物騒なものをしまってくれ。おっかないから」
「いっやーんもっと丁寧に頼んでー。ミチル激おこー」
醜悪な巨漢、ミチル大王はぶるんぶるんと首を横に振った。
キーちゃんこと、キーゼルバッハ王は呆れ顔だ。
「はいはい。いつもどおりお願いすればいいんだろ。お美しいミチル大王様、どうか憐れな俺のお願いを聞いてください」
「心がこもってないわねぇ。まあ、今はゆるしてあ・げ・る」
そう言って、ミチル大王はウィンクをした。
「クレームが片付いたら、鼻血王国の実権をすべて渡すという誓約書にサインもらうから、その気でね。なんなら今から書く?」
「遠慮しておくよ。クレームへの返事を各地に届けるのに、どうしても鼻血王国の部下が必要なんだ」
ミチル大王は舌打ちをして、剣を鞘におさめた。
「なんか、怪しい動きをするのもいたけどねぇ。トマト王子に会いにいった子もいたとか」
「気のせい気のせい。行きずりに会っただけだよ、きっと、うん」
「……へぇ。よくできた偶然ねぇ。うさぎ達も帰ってこないし」
ミチル大王が、疑いの眼差しを向けている。キーゼルバッハ王は、パタパタと両手を振った。
「そんなに見つめないでくれ、照れるから。そういえば、うさぎ達には書類を預けていたようだが、どんなものだったんだ?」
「野菜王国の実権をすべて渡すという誓約書で、トマト王子がサインすればよかったんだけど……うさぎ達、しくじったのかしら」
「そのトマト王子がくるんだろ。なら、本人に直接書いてもらえばいい」
「あっらーん、キーちゃん頭いいー」
普通は思いつくぞ、という言葉を飲みこんでキーゼルバッハ王は頷いた。
「歓迎パーティーでもしたらどうだ? きっと喜ぶぞ。そうなれば、サインをもらいやすくなる」
「うふふ、とびっきりのパーティーを考えてあるわよぅ。あなたも楽しみにしてね」
ミチル大王は、高笑いをしながら部屋を去った。
「いったい何が起きるのかな」
キーゼルバッハ王は、ため息を吐きながら、水晶玉に視線を移す。そこには、ミチル大王の手下達をぶっとばすトマト王子の姿があった。




