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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編童話の詰め合わせ(仮)

優しい怪物

作者: ささかま。

※注意※


この小説では以下のような表現及び描写がされています。苦手な方はご注意ください。

読了後の苦情は一切受け付けませんので、ご了承くださいますようお願い申し上げます。


●残酷な表現。

(前半部分はほのぼのしてますが、後半に残酷な表現があります。苦手な方は全力回避してください)

 昔々あるところに、一匹の優しい怪物がいました。

 とても大きな牙や角を持ち、体も大きく、見た目はとても恐ろしい怪物なのですが、優しい怪物が住んでいる森の動物たちはみんな彼を好いていました。

 優しい怪物は優しいだけではなく、動物たちを身の危険から守ってくれる勇敢な存在だったからです。

 

 さて、ある日のことです。優しい怪物の住む森に一人の女の子が迷い込んできました。

 森は深く、中には凶暴な獣もいるということを大人たちから聞いていた女の子は、たちまち大声で泣き始めました。

 

「おばあちゃんのためにきれいなお花を摘んで帰ろうと思ったのに!お花を摘むどころか、これじゃあお家にも帰れないわ!」

 

 そんなところに、たまたま森を散歩していた優しい怪物が通りかかりました。女の子は優しい怪物を見てひどく驚きました。

 

「まあ!なんて大きくて醜く恐ろしい怪物なのかしら!こんな怪物に襲われたらひとたまりもないわ!」

 

 女の子の鳴き声はさらに大きくなります。

 優しい怪物には女の子の言葉が理解できませんでしたが、どうやら泣いているらしいということは分かりましたので、近くの木から葉っぱを一枚もらうとそっと女の子の涙を拭ってやりました。

 

【泣かないで 泣かないで キミはどうして泣いているの】

 

 優しい怪物は女の子の目の前にしゃがみ込んで言いました。女の子には優しい怪物の言葉が理解できませんでしたが、どうやら慰めてくれているらしいということは分かりましたので一生懸命涙を止めようと頑張りました。しかし、後から後から涙はこぼれて止まりません。

 慰めてくれているらしいということが分かっても、やはり優しい怪物の見た目が恐ろしかったからです。

 

【困ったな 困ったな どうしたらキミの涙は止まるかな】

 

 優しい怪物は一生懸命考えました。涙が出るのは、目にゴミが入ってしまったときや痛い思いをしたとき、お日様が少し眩しすぎたときのはずです。

 優しい怪物がそんなことを考えている間にも女の子はずっと泣き続けました。

 

【大変だ 大変だ このままではキミは涙の出すぎで枯れてしまう】

 

 優しい怪物は頭を抱えてうーんとうーんと考えて、ハッと顔を上げました。涙が出る理由をもう一つ思い出したのです。

 そう。この森に生えているナミダダケというキノコ。食べると目が痛くなって痒くなって涙が止まらなくなるのです。

 きっと女の子はナミダダケを食べてしまったのだ。優しい怪物は思いました。

 

 優しい怪物は女の子を抱き上げて、歩き出しました。

 

「きゃあ!何をするの!放して!」

【行こう 行こう 一緒に行こう】

 

 

 ※

 

 

 優しい怪物と女の子は森を抜けると、お花畑に着きました。青い小さな花が一面に咲いています。

 

【解毒草 解毒草 キミの涙を止めてくれるよ】

 

 優しい怪物は女の子をそっと地面に下ろしました。

 女の子はその美しい景色に驚いて目を丸くしています。

 

「まあ、綺麗なお花。おばあちゃんに持って帰ってあげたらきっと喜ぶわ」

 

 優しい怪物は女の子の言葉が理解できず、彼女の顔をそっと覗きこみました。

 それに気付いたのか女の子も優しい怪物に振り向きます。女の子の涙は止まっていて、口元が三日月のようになっていました。

 

「怪物さん、ありがとう。あなたって優しいのね」

「アリ、ガァトゥ?」

「そう。ありがとう、優しい怪物さん」

 

 アリガトウ。女の子の言葉を怪物は心の中でもう一度呟きました。優しい怪物には女の子の言葉は理解できませんでしたが、その言葉で不思議と温かく優しく安心した気持ちになったのでした。

 

 

 優しい怪物と女の子は、お花畑で一緒に遊びました。女の子は優しい怪物に花輪を作って、頭に被せてあげました。

 

「アリガ、トォウ」

 

 優しい怪物はそう言いながら、女の子の頭を撫でました。森の動物たちの頭を撫でると気持ちよさそうに伸びをするのを以前目にして知っていたからです。そしてアリガトウで女の子に温かく優しく安心した気持ちになってほしかったからです。女の子はまた口元を三日月にしました。

 

 

 

 

 やがて辺りは暗くなってきました。もうすぐ日が暮れます。西の方に太陽が沈むかけ、赤く燃えていました。

 

「優しい怪物さん、私そろそろお家に帰らなきゃ」

 

 女の子は残念そうに言いました。優しい怪物には女の子の言葉は理解できませんでしたが、優しい怪物は女の子を再び抱き上げると歩き出しました。

 

【夕飯の時間 夕飯の時間 一緒に食べよう】

 

 優しい怪物は、女の子がお花畑ではしゃいだせいでお腹を空かせていると思ったのです。

 

 

 

 ※

 

 

 

 青い花輪を頭に付けた優しい怪物と青い花束を抱えた女の子はお花畑を後にして、森を抜けると、小さな村に着きました。

 村に着くころにはもう日はすっかり落ちていて、飼われている家畜たちは眠り村の家々には明かりが灯っていました。

 優しい怪物が女の子を地面に降ろすと、女の子は優しい怪物の大きな手を引いて、走って行きました。

 そう。ここは女の子が住んでいる村でした。


「優しい怪物さん、ありがとう。私をここまで連れてきてくれたのね」

「ア、リガート。ァアリ、ィガトウ」


 優しい怪物は、青い花輪を揺らしながら女の子に言いました。

 

「優しい怪物さん、ここが私のお家なのよ。おばあちゃんと一緒に住んでいるの」

 

 女の子は、指を指して優しい怪物にそう教えてあげました。

 それは小さな家でしたが、女の子とおばあちゃんが住むには十分な大きさでした。小さな家の隣にはさらに小さな小屋があって鶏が数羽眠りこけています。

 優しい怪物には女の子の言葉が理解できませんでしたが、指を指した方向に鶏がいるのは分かりましたので数羽いるうちの一羽を片手でひょいとつかみ上げました。

 

【半分 半分 キミと分けよう】

 

 優しい怪物は鶏の首を片手でポキリと折り、肉を半分に裂きました。優しい怪物の頭にある花輪に返り血が飛びました。地面にも血が滴り落ちて、夜だというのに赤い血がとても鮮やかでした。

 女の子はその様子を見て、ハッと口を押えました。青い花束が赤い地面の上に散って綺麗な模様を作っています。

 

「やめて!!何をするの!!やめて!!」

 

 優しい怪物には女の子の言葉は分かりませんでしたが、女の子がまた泣いているのに気付いたので半分に裂いた鶏のうちの半分を女の子の目の前に差し出しました。

 

【泣かないで 泣かないで これをキミにあげるから】

「いやあああああああ!!!!!!」

 

 女の子は足がすくんでその場から動けず、叫ぶしかありませんでした。

 しかし女の子の悲鳴を聞いて、村のあちこちから人が出てきました。ランタンや鍬や鉈、料理包丁や槍を持っています。中には猟銃を持ったものまでいます。みんなで優しい怪物を一定の距離で囲みました。ランタンで優しい怪物の周りが照らし出されます。

 

「うわああ!!すっげええええ!!でっけええええ!!何これ?!」

 

 どこからか女の子と同い年くらいの男の子が優しい怪物のところへと走ってきました。村人たちは各自持ち物を構えたまま、固唾を呑んでその様子を見守っていました。

 優しい怪物は女の子と男の子を見比べました。

 きっと男の子は女の子の友達なのだ。優しい怪物はそう思い、男の子の頭を撫でました。

 

「やめろ!!うちの子に触るな、ケダモノ!!!」

 

 優しい怪物を囲んだ村人たちのうちの一人、体格の良い男が男の子の前に進み出ました。彼はナイフと手に持っています。

 優しい怪物は首を一瞬傾げると、いまだ自分のそばにいる女の子を見ました。女の子はまだ泣いています。優しい怪物は女の子が何故泣いているのか理解できませんでしたが、これ以上泣いてほしくなかったので体格の良い男を指さして言いました。

 

【これ これ ボクの大好物】

 

 そして体格の良い男の胴を片手で掴み上げると、彼を先ほどの鶏と同じようにしました。また地面が赤くなりました。地面に散った青い花も赤くなりました。男の子も赤くなりました。男の子は驚いて、半狂乱になり駆け去りました。

 

【一緒に 一緒に 食べよう?】

 

 体格の良い男のうちの半分を優しい怪物は女の子に差し出しました。もう半分を丸のみにしました。

 女の子は差し出されたものを目にして、わずかに息をつめ、優しい怪物を見上げました。

 見上げた先で優しい怪物は女の子を見つめて首を傾げました。そして

 

 

 

 

「醜い!!醜い!!!来ないで!!!こんな怪物なんて死んじゃえっ!!!!」

 

 

 

 

 

 女の子のその叫びが合図でした。

 

「殺せ!!」

「そうだ!!ケダモノを殺せ!!!」

「人食いの化物に容赦は無用だ!!」

「始末しろ!!」

 

 優しい怪物の背中に包丁が一本刺さりました。二本刺さりました。三本刺さりました。

 ある者は優しい怪物に銃を乱射しました。ある者は優しい怪物を鍬で何度も殴りました。

 

【痛い 痛い 何でだろう】

 

 優しい怪物は痛くて涙を零しました。涙はあとからあとから零れ出ました。

 もしかしたら女の子も痛かったのかな。ナミダタケを食べたわけではなかったのかな。優しい怪物は考えました。

 

 どんどん増していく痛みで優しい怪物はその場にしゃがみ込みました。村人たちはそこに群がります。

 しゃがみ込んだ優しい怪物の下では、さらに女の子がしゃがみ込んで震えて泣いていました。

 

【困ったな 困ったな どうしたらキミの涙は止まるかな】

 

 優しい怪物は一生懸命考えました。涙が出るのは、目にゴミが入ってしまったときや痛い思いをしたとき、お日様が少し眩しすぎたときのはずです。

 優しい怪物がそんなことを考えている間にも女の子はずっと泣き続けました。

 優しい怪物は女の子の涙を拭ってやりたいと思いましたが、血がついている手で女の子の顔を汚してしまいますのでそれは無理でした。

 

【大変だ 大変だ このままではキミは涙の出すぎで枯れてしまう】

 

 優しい怪物は頭を抱えてうーんとうーんと考えて、ハッと顔を上げました。女の子の涙を止める方法を思いついたからです。

 

「アリィ、ガァ、トウ……」

 

 優しい怪物は女の子にそう呼びかけました。

 アリガトウで女の子に温かく優しく安心した気持ちになってほしかったからです。

 

「アァ、リガ……ト……」

 

 そしてまた女の子の口元の三日月を見たいと思ったからです。

 

「ァアア……ィ……ガァ、アァ……ト」

 

 優しい怪物の声に女の子はわずかに振り向きました。

 

「       」

 

 優しい怪物には女の子の言葉がもう聞こえませんでしたが、どうやら言葉を返してくれたようなのが分かったので最後にそっと息をつきました。

 

 

 青い花輪が赤くなり、地面に落ちました。

 

 fin

 


2013/04/10 ご意見ご感想、誤字脱字変な日本語指摘などなど何でもお願いします

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 表現のひとつかな?と、思ったのですが、気になったので一応あげておきます。 9段落目の「女の子の鳴き声はさらに大きくなります。」と、いうところの『鳴』と、いう字。 『泣』←こっちではない…
[良い点] おおう、本物の怪物でした。 なかなかぞっとくる話ですね。 心温まる童話だと油断していたら、一気に落とされました。 >身の危険から守ってくれる =猟師を退治してくれる。ってことだったんです…
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