第六話『魔の鎖』
彼らは、ある日突然訪ねて来たのだ。
そして両親に、シルダの身を売って欲しいと頼んだ。
彼を買い取り、家で働かせようとした。
しかし、両親はそれを断った。
たった一人の大切な息子を、貴族に渡すわけにはいかない。
自分達の為に子供に辛い思いをさせることは出来なかった。
すると彼らは怒りを露わにし、剣を抜き放った。
そうして、シルダの父と母は、無残に殺されてしまった。
当時この国では、貴族は絶大な力を持っていた為に、貴族を裁くことが出来なかった。
貴族に不満を与えれば、いつ国に逆らってもおかしくない。
それ故に、シルダの両親を殺した彼らは、裁かれる事なく罰を免れた。
権力を恐れて、シルダを哀れむ者は誰一人いなかった。
彼はその後親戚の家に預けられた。
しかし親戚の人達にとってはシルダが足手まといで仕方がない。
毎日、彼は働かされ、孤独に生きてきた。
やがて自立したシルダは、魔術を学び魔師となった。
何故魔師を目指したかはわからなかったが、自分の歩むべき道は自然と定まった。
魔師として、天使と共に生きる資格を得、レアノに出会った。
天使であるレアノが、自分と同じように不幸な運命を辿らぬよう、支えながら生きてきた。
レアノと共に過ごした時は、儚くも楽しいものだった。
レアノのおかげで、過去を捨て去り、再び前を向く事ができた。
だから…
──レアノを失いたくない──
そこには、レアノの姿があった。
その小さな身体は青く鈍く光る鎖によって拘束され、目に見えて弱っている。
輝きを失った瞳が、僅かに開いているが、そこに色は映っていない。
「レアノ!」
駆け寄ろうとするシルダを、人影が遮った。
強い魔力がシルダの体を突き飛ばす。
「やはり来たか…シルダ」
シルダが擦り切れた腕を押さえ起き上がると、人影はシルダに近づいて来た。
「誰だ…?」
その時、肩に鋭い痛みが走り彼は叫ぶ。
鉄らしき物が肩の骨に擦れ、身体を稲妻が突き抜けるような激痛が彼を襲った。
肩に触れると、べったりとしたものが手に付いた。
生暖かい血が、肩からとめどなく流れている。
ずきずきと痛む肩に手を当て目の前を見ると、月明かりに照らされて男が見えた。
黒い布を纏った、魔師のような格好の男だ。
男はシルダを見、嘲笑うかのように薄ら笑いを見せた。
「レアノを…返せ」
すると男は答える。
「そうはいかない。お前のせいで散々冷たい目で見られた。お前もあの時殺しておけば…俺も何事もなく済んだだろう」
シルダがはっと顔を上げる。
「お前は…まさか…」
男が笑みを深くして言った。
「昔にお前の両親を殺したのは…俺だ」