表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rosso ala ─紅き翼の天使─  作者: 紅龍
第一章【過去】
6/9

第五話『シルダの傷』

冷たいレンガの壁づたいに、シルダは進んでいった。

その先にあるのは希望か絶望か。

どちらであっても、それを受け止める──彼はそう心に決めていた。

吐く息は白く凍りついて暗い空へと昇っていく。

温もりを求めて、シルダは灯を灯した。

氷のように冷えていた指先が、徐々に感覚を取り戻す。

それでも、心だけは元のようには溶かせない。

冷たい不安が、その心に纏わりついていたのだ。

「ああ…」

彼の脳裏に、忘れ去ろうとしていた恐ろしい過去の記憶が蘇る。

原形をとどめなくなった肉体、床や壁や天井までもを覆い尽くす紅、血の滴り落ちる音、鉄の臭いすら生々しく瞼の裏に再び焼き付いた。

「私は何故…」

何故、自分ばかりが。

両親を失い、孤独に生き、やっと手に入れた天使という友までもが、自分によって死ななければならないのだろう。

このまま、何も起こらずに共に過ごしていける筈だった。

これ以上、大切な者の死を見たくない。


もう、残酷な運命を辿りたくはない。



シルダが、齢14の頃だった。

友達がいなかった彼は普段のように近くの原に行き、透き通る小川を眺めながら野草を採りに行った。

その場所は丘のようになっていて、そこから自分の家も小さく見えた。

空は澄み渡り、日の光が暖かい昼下がりだ。

緑色に輝く菜を摘み取り、茹でて食事にできる。

あまり裕福ではなかったシルダの家では、菜は貴重な食料だった。

彼が淡い緑の中で黙々と菜を摘んでいると、自分の家の方向から、人々のざわめきが聞こえて来た。

立ち上がって顔を上げると、家の前に人集りが出来ている。

彼らは叫んだり、怯えたり、驚いたりしていた。

目の良いシルダが目を凝らす。

人集りの足元に、家の入口から赤い物が流れていくのが僅かに見えた。

それを見たシルダは途端に家へ走り出した。


『お父さん…お母さん…』

胸が今にも引きちぎれそうになるのを必死で抑えながら、草の中をひたすら走った。

彼の細い脚に引っ掛かる枝が、浅い傷をつくる。

そんなことは気にも留めず、シルダは走り続けた。


頭の中が真っ白だった。

人の群れを押しのけ、前へ進む。

家一面に赤い血が飛び散り、無残な姿となった家族の残骸が床に横たわっていた。

激しく脈打つ心臓の音が繰り返し耳の奥に響く。

荒くなった呼吸が落ち着かない。

それよりも、目の前の残酷な現実は少年の心をを闇の底に堕とした。

小さな部屋の中に、血の海で倒れている父と母がいる。

体中の深い切り傷、千切れた手足。

その光景はあまりにも酷く、彼の心をざっくりと切った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ