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Rosso ala ─紅き翼の天使─  作者: 紅龍
第一章【過去】
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第三話『天使の狩人』

レアノは長い間待っていたが、一向に主の来るようすは無かった。

既に日は暮れ落ちて、山の木々の狭間から淡い光が漏れているだけだ。

その赤は、レアノの見えない翼に覆い被さり、不安を起こす。

このままシルダは来ないのではないか、自分は天使だから遂に見捨てられたのだ。

そう思った時、日の隠れた方から人影が現れた。

彼は目を凝らしたが、主の暖かい姿では無く、その人影から冷たく恐ろしい気配を感じ取った。

このままじっとしていたら、何か起こるのでは無いか、すぐにここを立ち去った方が良いのでは?

そう考えているうちに人影は10歩程のところに来ていた。

男だったが、その瞳は鋭く、近づきたく無い程きつい空気を纏っている。

闇のように黒いローブは冷たい風に揺られ、周りの者を寄せ付けようとしない。

その男が、良く通る声でレアノに話しかけた。

「お前は天使だな」

その言葉を聞いた途端、彼は心の芯が凍ったような気がした。

男の恐ろしく低い声と、ぞっとする程尖った刃物を向けるような視線。

そして天使である事を見抜かれた恐怖。

自分はこれからどうなるのだろう。

そう考えただけで恐くなりレアノはその場から逃げようとした。

しかしその細い腕を力強く掴まれ、そのまま呆気なく地面に叩きつけられる。

全身に走る振動と衝撃。

「何故逃げる?私に従えば、手荒な真似はしないのだが」

一つ一つの言葉が胸に突き刺さり、ゆっくり消えていく。

従えば、手荒な真似はしない。

だが天使には分かっていた。

男に素直に従ったら確実に死ぬ。

天使の狩人は天使を捕らえ、実験台にし、酷い扱いをした後 始末するのだ。

必死に抵抗しようとするレアノを男は無理矢理押さえつけ、地面に寄せ動けなくした。

貴重な実験材料が逃げぬように、殺さぬように。

また、別の理由でもこの天使を捕まえておく必要があった。

動けなくなるまで痛めつけ、魔法で縛っておく必要が。

獲物の力が弱くなってから、天使の狩人はレアノの腕をぐいと引き、路地裏へ放り込んだ。

そこには男の手先だろうか、生きているようには見えない瞳を持った少年が二人。

彼らが魔法により動かされている事は、天使であるレアノにはすぐわかる。

狩人が静かな声で命令すると、少年達はレアノを強く押さえた。

彼はその圧倒的な力に驚きながら、これから起こる恐怖に震えていた。

レンガ造りの壁に押さえつけられた天使を見、男がその胸に手を当てる。

小声で呪文を唱えた途端、レアノの肩の上辺りのレンガから青く光る鎖が出て体を縛り付けた。

鎖の力は強く、小さな身体から白い光が滲み出る。

それは天使の血であり、痛みと共にとめども無く。

狩人は腰の剣を抜き放ち、レアノの首筋に当てた。

剣は赤い光をたたえ、命を切り落とす事を心待ちにするように鈍く光っている。

このまま死ぬのだ─

まだ幼さの残る天使は、何も言わず瞳を閉じた。

その時、またも低い声が全身に響く。

「シルダはお前の主か」

再び瞼を上げると、あの鋭い視線と目が合う。

レアノは黙ったまま、首を振った。

途端、剣は斜めに走ったかと思うと鉄の鎖とぶつかり、彼の体からは更に血が流れ出す。

斬られる痛みに、彼は呻いた。

浅い傷だが、それはレアノにも強い不安を与える。

「嘘をついたところで無駄だ。もう一度聞こう、シルダはお前の主だろう」

今度は静かに頷く。

すると男は剣をレアノの肩に突き刺した。

激しい痛み、襲ってくる恐怖。

この男の目的は何なのだろう。

シルダについて問いただし、どうしようというのだ?

自分の主に何かあったなら、自分はフィセゾゾになってしまう。

そうなれば、生きて行けない。

シルダのいない自分には、生きがいなど無かった。

疑問、不安、恐怖。

それら全てが鋭い痛みとなり、天使の心を襲う。

もう、何もかも捨ててしまいたい。

何故自分は天使に生まれたのだろう。

人間より醜く、弱く、小さい天使。

王居へ入れば差別が、街へ出れば暴力が天使を待っている。

どこにいても人の冷たい目が心を刺し、主によっては毎日のように殴られ斬られる天使もいるのだ。

それほど身分の低い天使に生まれてきたレアノは、いつもそれを疑問に思っていた。

だくだくと肩から流れ出る天使の血。

それは静かに、羽毛のように地に落ちて行き、だんだん見えなくなる。

男は少年達に言った。

「痛めつけろ。だが死なせるな」


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