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第四話「黄色と緑」

最近暑くなってきて、アイスの美味しい季節が近づいてきましたね。

かき氷食べたいなー

 わたしは甘いものが嫌いだ。

 何を言っているのか分からないかもしれないが、これは本当のことだ。甘いものを食べるとわたしの体は拒絶反応を起こし、苦いものが食べたくなる。非常に捻くれた体になっていると自分でも誇らしく思っている。

世界は進歩し続け、今でも甘いものが増え続けている。大変嘆かわしい。

この間プリンと呼ばれる不気味な物体を食後に出された。

本体となる黄色い部分には光沢があり、上の部分のこげ茶色の部分がその黄色の不気味さをあおっている。

震える手でスプーンを握り、そのこげ茶色の部分にスプーンを付ける。

「ん!?」

 わたしはその違和感に思わずスプーンを落とす。

 柔らかい。柔らかすぎる。馬鹿げてるほど。なんなんだこの柔らかさは。

「どうかしました?」

 家に使えるメイドがわたしの顔をうかがう。

「い、いや。なんでもない。それより新しいスプーンを頼む」

 わたしは何を動揺しているんだ。たかがデザート一つにここまで戸惑うなんて情けない。

 新しいスプーンが手渡された。銀色に輝くよく磨かれたスプーンだ。わたしの屋敷に使える者たちはいい仕事をしてくれる。

 さ、使用人と神に幸運を祈り、リベンジと行くか。

銀色のスプーンが敵を狙うかのようにプリンを映し出す。因縁の相手でも目の前にしてる気分だ。

「具合が悪いなら無理をなさらなくても」

 メイドが再び心配をしてくるが、わたしは「大丈夫」と喉の奥から絞り出すように言い、メイドを遠ざけた。

 スプーンをプリンに近づけ、一気に振り下ろす。手ごたえ、ほぼなし。


「何もないからこそ怖い。何もないことの裏では何かがある。事実を見たなら次は真実を見ろ」

 

 昔父が言った言葉を走馬灯のように思い出す。

 今こそ事実の裏の真実を見つけ出すとき。その為にはこれを食さねばならない。食して毒か否か。口にプリンを運ぶ。口の中が甘さで満たされるのは予想ができた。まろやかな甘ささで上品な味わいだ。こげ茶色の部分はカラメルソースのようで、甘さを程よく抑えている。だが、一番驚くべきことは味ではない。

 わたしは歯の存在意義を疑った。

 こんな食べ物があっていいのか。歯ごたえがないとはまさしくこのこと。噛む前に解けてしまう。

「お味はどうですか?」

「うん、おいしいよ」

 メイドは「よかった」とつぶやき安堵した顔になる。先ほどまでちょっと気まずい雰囲気になっていたせいもあるのだろう。迷惑をかけてしまったな、と反省する。

 しかし、わたしはこのプリンが美味しいか美味しくないかは考えていなかった。ただただ、この道の触感を考え、思考していたためまったく考えていなかった。

「珍しい食べ物だね」

 気分を紛らわせるために笑顔を繕いでメイドに聞く。

「最近この町にいらした商人の方から調理法を教えてもらったんですよ」

 メイドが笑顔で話し始めたので、わたしはそれを聞きながらもう一口食べてみた。苦いものが食べたくなった。



 次の日。食後にプリンが出た。

 次の次の日。食後にプリンが出た。

次の次の次の日。食後にプリンが出た。

次の次の次の次の日。食後にプリンが出た。

つぎのつぎのつぎのつぎのつぎの日。食後にプリン。

つぎのつぎのtuuginotuginoツギノつぎのヒ。ショク後ぷりん。

つ  ぎ  つ   ぎ つ ぎ  。   ぷ り ん

つggggggggい           プリン

                                      ……カユ ウマ


 このままではまずい。メイドから執事からシェフまで、みんなわたしがプリン好きと勘違いしている。

わたしは屋敷から抜け出し、この原因を作った商人を探しに行く。探してどうするかは考えてはいない。だが、このまま何もしなかったら何も変わらず食後にプリンが出され続けることになる。それだけは阻止しなければならない。

商人の特徴はなんでも自動車でアイスという菓子を売っているらしい。プリンじゃないのかよ。

一人で町に出たのは初めてだった。左も右もわからない。自分が今までどれほど世間を知らなかったのか感じさせられた。

だがここでとどまっていてはいけない。勇気を振り絞り、通りかかった人々に話しかける。

「ここら辺に最近やってきた商人を見ませんでしたか?」

 すると町の人々はこぞって同じ言葉を返してくる。

「ああ、あの暴走族だろ。アイス買いたいのに、あの商人とんでもないスピードで過ぎ去っていくんだ。お嬢ちゃんも無理はしない方がいいいぞ」

 本当にその商人は商売をする気はあるのかと疑問に思う。



数時間商人を見つけては追いかけ、見失うという行動を何回か繰り返し、商人が止まっているのを見つけたのはすでに日が沈みかけている時だった。

「おや、こんな時間に御嬢さん一人とは。危ないぞ」

「うるさい!あんたのせいでわたしの生活はめちゃくちゃだ。責任とって」

 この時のわたしは何を言っているのか自分でもよくわかっていなかった。一人で行きなれない町を走り回っていたから精神的に限界が来ていたのだろう。

「責任と言われてもなー。おじさんアイスを作るしかできないからよく分からないな。何で君はおじさんのことを恨んでいるんだい?」

 わたしは深呼吸をしてようやく落ち着きを取り戻した。

「あんたがわたしの屋敷の召使にプリンの作りかた教えたせいで――!」

「ああ、あのメイドの人か。なにかデザートになる物を教えてくれって言われたんだよね」

「アイス教えろよ」

「はっはっ。それは盲点だったな」

 おじさんは笑いながら店の中をごそごそと何やら物色し始める。

「じゃあこれはおじさんからの謝罪の気持ちだ」

 おじさんは薄い緑色の球体の物を渡してきた。おそらくこれがアイスなのだろう。

「わたし甘い物苦手なんですけど」

「まあ食ってみなって。君はお菓子について誤解をしているようだ」

「……しょうがない」

 私は言われるがままに一口食べてみた。

 その球体は冷たく、ほんの少し苦かった。この味、昔飲んだお茶の味だ。

「それは抹茶味のアイスだ。どうだい?甘くないだろ」

 確かに甘くない。私好みの味だ。疲れた体に染み渡る冷たさと苦み。とてつもなく美味しい。

「お菓子は何も甘い物だけじゃない。辛い物も苦いものも、酸っぱいものもある。だからこそ、お菓子というのは素晴らしく、偉大で、完璧なまでに、やっぱり素晴らしいのだ」

 つまり素晴らしいと言いたいらしい。


「御嬢様!」

 アイスを食べ終わったころ、屋敷の自動車がやってきた。メイドと執事とシェフと庭師とその他もろもろが自動車から降りてくる。

 あんたら仕事どうした。

 最後に、後から来た黒塗りの自動車から父が降りてきた。私の体が一瞬強張る。

怒られるかもしれない。こんなに皆に心配をかけたのだから、怒られてもしょうがない。

 父はわたしの前に来る。私は目を閉じた。

父は手をわたしの頭に置き、やさしくなでてこう言った。

「真実は見つかったか?」

 わたしは目を開き父の目を見て「うん!」と力強く返事をした。


 帰りの車の中、私は睡魔と闘いながら薄れゆく意識の中メイドに言った。

「わたし甘い物は苦手だけど、プリンのあの感触はよかったよ。できれば、抹茶味のプリンを食べてみたいな」

 メイドが「喜んで」と言ったところでわたしは睡魔にこの身をゆだねた。


バイオはやっぱり初代が面白い!

ついでに言いますと、私はプリンが嫌いなわけではありませんよ。

アイスが好きなだけです。

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