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第二話「飴の塔」

パソコンがポポポポーン

席はなれるたびにデータ消えるね。


飴細工って食べにくいよね。

 飴が散らばっている部屋。

 色とりどりの飴玉が床を隠すように広がっている。部屋の隅と真ん中には飴細工が芸術品のように置いてある。壁は様々な彫刻が施されてあるが、それも飴である。壁には振り子の付いた大きな時計があるが、ペロペロキャンディーでできている。

 あありとあらゆるものが飴でできている部屋に私は埋もれている。

 

お菓子に囲まれたいと思ったことはあった。お菓子でできた家に住みたいと思ったこともあった。だが、何故飴オンリー?

 そう思ったら、急に飴が溶け始めた。壁や床、天井まで、自分以外のものが全て溶けて崩れてきた。もうだめだと思い、過去の自分を振り返ることにする。

 ……あれ、自分って誰だっけ?



 というところで目が覚めた。

 私はいつのまにか眠っていたようだ。 周りを見渡すと夢で見たのと同じ飴でできた部屋が広がっている。

 寝ぼけが一気に覚めた。自分が今誰で何をするべきなのか、頭を駆け巡る。

 

 ここで少し私と私の住んでいる町の話をしよう。

 私の住んでいるこの町は飴作りと、町の中央にある三百メートルある塔で有名だ。飴の技術は特産とも工芸とも言われるほど完成度が高く、世界中にその名を広めている。この町の周りは砂糖の採れるサトウキビ畑と果物の採れる森があり、資源が豊富だ。

 毎年サトウキビの収穫の時期には収穫祭として、町の飴作り職人達が自慢の作品を出展する。その時は国中から観光客が訪れるのだが、今年は奇妙な観光客が現れたらしい。なんでも自動車に乗ってアイスクリームという冷たい菓子を売っているらしい。まあそんなことはどうでもいいのだが。

 私の家系は古くからこの町で飴職人をやっているので、私も後を継ぐことになってしまった。大変嘆かわしいことだ。

今年の収穫祭は父が出るはずだったのだが、この間この飴の家を作っている最中に屋根から転落して意識不明の重体。意識が戻っても腕を折ってしまっていて、とてもこれを完成させるこはできない。そういう経緯で今年は私が出展することになったのだ。

あまりの急な出来事で驚く暇もなくっこの作業をやることになったのだが、父が一人で想像して作り始めたこの飴を私が完成させるなんて私にはできない。

そもそも飴で家が建つこと自体が謎なのに、完成図のないのに完成させるなんて無理だ。絶対飴の耐久度おかしいだろ。


さて、話をもどそう。

最近重労働が続いていたのだから不意に眠ってしまっても別に不思議ってわけでもない。

だが、一番大変なことは出展までの時間が五時間を切ってしまったことだ。もともと終わる気がしていなかったのに、これでは絶望的だ。

「すごい家だね」

 諦めて一服しようとしている私に男が話しかけてきた。男は外見からおじさんと呼ばれる年齢ということは分かる。あとは後ろに停めてある自動車の風貌から例の観光客ということまで分かった。

「これ私が作ったんじゃないんです。父が作ったんですよ」

「ほう」

「今回の祭りに出展しようとしていたんですが、父がこの間事故で作業できなくなってしまったんですよ」

「それで君が後を継ぐことになったのか」

「はい。めんどくさいです」

 おじさんは「HAHA」と笑うと私の隣に腰かけた。

「おじさんも祭りを観に?」

「いいや。おじさんはアイスクリームを売りに来たんだ」

 アイスクリーム。私にはあまり聞きなれない単語だった。この町はお菓子に関する情報がよく入ってくるので、名前は一応は聞いたことはあるのだが、見たことも食べたこともないので何も知らないに等しい。

「一つ食べるかい?」

「いただきます」

 得体のしれない人に食べ物をもらうのは不安があったが、私の中の興味が上回った。

 おじさんは自動車に戻りクッキーのような円錐の土台に白い歪な球体が乗っかっている。

「はい。バニラ味一つ百三十ライク」

 しっかりと金はとるらしい。

 口に近づけると冷気が感じられる。こういった冷たいお菓子は初めてだ。私は一口齧ってみる。

 世界が変わった。

体温と世界の気温が圧倒的にちがう。今は冬。私の体はさらに寒い真冬の涼しさだ。寒いと言ってもいいのだろうが、美味しさが寒いということを忘れさせようとする。

口の中がバニラの香りが冷たさと共に広がり満たされた。

「……寒い」

 いくら美味しくてもやっぱり寒いものは寒い。

「まだまだ若いな。寒ささえ美味しさに変えるんだよ」

 おじさんはそう言いながらアイスクリームを食べている。馬鹿は風邪ひかないというが、もしかしたら寒さを感じないから風邪をひかないのかもしれない。ついでにおじさんのアイスクリームは色からしておそらくブドウ味だ。

「おじさんってバカなんですね」

「――さりげなく毒舌だな」

 よく言われる。

「そういや、あの家は完成させないのか?」

 おじさんが痛いところを突いてきた。

「あれはもういいんですよ。私の作品じゃないし。今年はもう出展できそうにありませんから」

「でもその顔は納得できていないね」

「……まあそうなんですよ。もうこの町の塔は見ましたか?」

「ああ見たよ。あれもそうとうすごいな。全部キャンディーでできている」

 おじさんが言ったキャンディーというのは私たちが言っている飴と同じらしい。言葉とはどう変化するか分からないものだ。

「あれ、私の一族が古くから積み上げてきた物なんです。で、あの塔はまだ完成じゃない。毎年この祭りで塔の一部を完成させて結合する。この祭りの一番の見せ場です。この家も出展の後に塔の一部となる予定でした」

 今となってはこの家まで未完成で終わってしまったが。

 おじさんの目が細くなり、「ほう」と言葉を漏らす。

 絶対に解けない飴。それが私の一族に伝わるレシピだった。だが、私はそのレシピを教えてもらう前に父があのざまになってしまった。

「じゃあもうあれ使わないのか?貰っていいか?」

 このおじさん、とんでもないことを言いだした。

「あなたほんとバカですね。あげるわけないでしょ。父が起きたら続きやってもらわないとあの塔いつまでたっても完成しないじゃないですか」

「そうか。しかたない。諦めるか」

 未練そうな顔をしておじさんは飴の家を眺める。

「じゃあ一つ頼みたいんだが、このアイスクリームに合う飴をくれないか?」

 私は祭りのために用意していた氷飴と綿飴を渡した。

「じゃあおじさんはこれくらいで失礼するよ」

「祭りは見ていかないんですか?」

「アイスクリームの材料を探しに来ただけだからね。祭りは興味あるけど、他に探さなきゃならない素材がたくさんあるんだ。私はこれで失礼するよ」

 そう言っておじさんは奇妙な自動車に乗って去って行った。


さて、祭りも始まる時間になった。

 祭りの目玉である飴は完成しなかったが、外見はできているのでこのまま出展しよう。どうせ父の責任になるだけだし私には関係ない。私は適当に屋台でも開いてリンゴ飴でも売るか。

 ここで一つ疑問が浮かぶ。

 アイスクリームに飴なんて入れたら食いにくくないかな?

 


 それが分かるのはだいぶ後になる。

 その時はこの町でもアイスクリームが食べられるようになる頃だろう。


意味もオチもないんだよ。

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