表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第3章 僕らの中身

普通とはかけ離れた両親に育てられたレニー


第1章の裏で起こっていた出来事とは、


レニーが言ったあの言葉の意味とは。

 僕は何者なんだろうか、あいつらが化け物なら僕は?




 幼い頃の記憶は全べて幸せなものだった、この幸せが続くのだろうとさえ思わない程に、おしまいなんて言葉は僕は知らなかった。


 5歳の誕生日、とびきりのサプライズがあると裏路地に連れて行かれ、かくれんぼのように壁と見合って心の中で色々なパターンの驚き方を練習しながら待った。


 人生で初めて疑いと言う感情が生まれたのは壁を見つめて3時間が経った時。


 それから2日と8時間、大きくなり続ける疑いと不安の中に残った爪先ほどの期待を打ち砕いたのはジンの両親だった。


 人の家に引き取られて初めて、人気のない夜中の公園で遊ぶこと、昼間は一歩も外に出ないこと、そして何より父の瞳と肌の色が異常であることに気がついた。


 ジンの両親は僕が虐待に遭っていたのではと労ってくれた、僕は母と父の誤解を解こうと思ったがこれが話してはいけないことだと理解するのにそう時間は掛からなかった。



 この家族は紛れもなくいい人達だった、どこの誰かもわからない僕を快く向かい入れ、家族のように愛してくれた、ジンは生意気な奴だが思いやりがあり本物の弟ができたみたいで嬉しかった。


 ジンの母は”辛かったことは全部忘れて本当の家族だと思っていいのよ“と言った。


 もちろん彼女の精一杯の優しさだったんだろう、でも辛かったことなんて一つも無い、今でも僕は母さんと父さんに会いたいし暮らせるなら一緒に暮らしたい、でもこんなことを言うのはきっと薄情だ、小さく頷き母の胸に顔を埋めた。


 この時流した涙は、出会いに対する喜びではなく、別れに対する悲しさだったと言うことは口まで流れてきた塩水と一緒に喉の奥にしまい込んだ。



 それから僕はジンの家族として世間で言う普通に育ったと思う、18の時に何の考えも無く試験を受け収容所に就職して19でアンナと出逢い、22で結婚した。



 あいつが僕と同じ職場に来たのは以前愛した父と同じ種族の人間にとうとう情が湧かなくなり家畜か何かにしか見えなくなった頃。

 丁度僕が働き始めてから一年がたった辺り。


 あの頃僕は心を無くしたロボットのようにただ毎日を消費していた、アンナはガラクタのようになった僕を見て仕事を辞めて欲しいと懇願し、それを聞いた僕はプログラムエラーを起こし、“簡単に言うな“とアンナを怒鳴りつける、そんな日々の繰り返し。


 ジンが来てからは、仕事内容に違いはないが明らかに変わったことがある、あいつは僕をハッキングし心を埋め込み直してくれた。

 ジンはいつも僕を救ってくれる、あいつと出会えたことで僕を捨てた両親に感謝すら覚えるほど、大切な弟だ。



 そんなあいつにも俺の両親のこと話せなかった、捨てられた時胸ポケットに詰め込まれたあの写真ですら誰にも見せることはできないまま。


 カラー印刷が主流なこの時代に白黒の家族写真、父の瞳と肌の色を誤魔化すためだったのだろう、それでも目を凝らせば母と父の肌に若干の違いがあるのがわかる。


 ジンはこのことを知ったらどう思うだろうか、両親は_、アンナは_。


 話しておくべきなんじゃなか?、みんなならきっと受け入れてくれる、僕を愛してくれる。

 そう思ってもいざとなると言葉が詰まり、自分で喉を締めてしまう、自分自身もピリカ人を化け物だと思っているからなんだろう。



 矛盾しきった自分に耐えられなかった、何度自分を消してしまおうと思ったことか、居てはならない存在、生まれてくるべきじゃなかった存在。

 肌の色も、瞳の色も、母のものを継ぎ見た目は人間でも、僕は化け物だ、鏡に映る自分が人間に見えなくなった頃アンナが子を孕った。


 腹の中で必死に生きるそれは人間なのだろうか、僕よりは確かに人間に近いが100%じゃない、もう直ぐ生まれてきてしまうこれを僕は愛せるだろうか、生まれてきてくれてありがとうと目を見て言えるだろうか。





 どう死ねば自然かばかり考えて生きる、職場でも、家でも、ここにいるのは僕じゃない、自分が2人いるようなそんな感覚、周りの全てを騙し生きているような、生きているだけで大罪を犯しているような、その日々は確かに地獄だった。



 子が無事に生まれたと連絡を受けた時安堵と喜びの後を追い恐怖と絶望が僕に覆い被さる、母親の顔になったアンナの横でまだ少年の僕は壊れ物のように生まれてきたそれを両手で抱き上げた。


 化け物かもしれないなんて気持ちは赤子に吸い取られていく様に消え、それはまるで天使のように僕に笑いかけた。



「女の子ですよ。」



 もう一人の我が子に話しかける様にアンナは言った、もう僕を置いて母親になった彼女に僕は子供のように泣きつく。



「ありがとう、本当にありがとう。」



 決めた、人間になるんだ、僕にあの両親はいない僕は南の収容区で育ってジンと言う可愛い弟がいて、美しい妻がいて天使のような娘がいる。


 僕は最初からずっと人間だったんだ、自分の血が混ざった天使を抱え上げたあの時、過去を捨てた、全ての記憶をあの両親を僕の中でぐちゃぐちゃに潰し色を奪い、なかったことにした。



 あの日は天使この世に舞い降りて丁度3ヶ月、初めて僕と目が合った天使は僕の顔をバカにするかの様にけたけたと笑った、この子が笑うと言うことは僕は人間でいていいのかと下まつげに雫が跳ねた朝、いつものように家族に愛を囁き仕事に向かう。



 整列後不自然に開いた右側の空間を埋めたのは、一番上のボタンを閉め忘れたジンだ、よくもわからない戯言を吐くジンに苦笑しながらも今日の仕事内容を想像する。


 処分がもう2ヶ月と半分も回ってきていない、朝から幸せをつかってしまったからな、とびきりの不幸が来ても驚けないなと思いながらも小さく願い、目の前で止まった上官の口元に集中する。



「j班処分」



 オペレーターの様に一言発した上官はもはや人には見えなかった、まあ期待なんてしていなかったと胸の内にあった小さな願いを忘れることにし仕事場に向かう。


 ジンを含めた班員は思いつくだけの文句を仕事場に向かう廊下に垂れ流しフラフラと芯を抜かれた体で歩いていく。



 ジンと二言ほど会話をし、仕事場に着く、ライフルを受け取り定位置に着く、右隣には相変わらず兄貴にくっ付く弟がいる、生意気なやつだが中々可愛いやつだ。


 作業開始の合図と共に目の前に並ぶピリカ人の頭を狙い撃ち殺す、標準を合わせる数秒何度も目が合う彼らを人間ではないと心で唱えながら引き金を引く、ある程度区切りがつくと死体回収に向かう、もう生命ではないそれらを運び出す。


 決して安らぐ訳ではないが、唯一肩の荷が降りる時間だ。


 打つのは機械にまかしてこれだけやらせてくれれば、この仕事も少しかマシなのにな。



 40と8回引き金を引いた時、銃声の中に“休憩“と言う言葉が響いた。


 休憩に向かう途中上官に呼び止められ、“読んでおけ“と射殺リストが入ったファイルを渡される、自分が殺す奴らが乗ったリスト、あいつらを人間と思わないように一度も見たことがなかったが、上官には逆らえずファイルを開く。



 17人を頭の中で撃ち殺し、18ページ目、どうやってもあっち側にいる想像がつかない人物が射殺体と横並びになっていた、黄色の瞳に褐色の肌、確かにトムコル人の女だった。



 休憩室で怖いほどいつも通り休んでいるジンに尋ねた。



「なあ、これトムコル人だよな?なんでここに載ってるんだ?」



 何を言っているんだと疑いの視線を感じ、ファイルを渡そうとしたがいつの間にかジンはファイルを取り上げリストを凝視していた。


 その顔から疑いが抜け、特に疑問も抱かず言った。



「仕事とはいえ同族を殺すのはいい気分じゃないな、ハズレってやつだなレニー」



 ジンはなぜ乗っているのかは考えず事実だけを受け止めて話した、ハズレ、僕とっちゃハズレどころじゃない、腹の中でぐるぐると何かが蠢き出した所で資料を見続けていたジンが続けて話した。



「上官殿は大層素敵な趣味をお持ちだ。」



 嫌味が混じったその言い方に嫌な予感がしジンが指差す部分をしっかりと見つめる。“逃亡に加担ピリカ人の旦那に見学させよ“


 ピリカ人の旦那、その言葉を3回往復して読み、呼ばれた様な気がしてゆっくりと視線を射殺対象の写真に戻す。



 その顔は奥深くに眠ったモノクロの世界を思い出させた、かつて僕に笑いかけたあの顔、思い出してはいけないあの笑顔、生きていたのか_。



「そうか_。」



 無意識に口から逃げた言葉は意味を見失いただの文字として空間を彷徨った。


 駆け込んだトイレで僕のモノクロを吐き出す、消えてしまえ無くなってくれ、全て出し切らなければ。


 違う、知らない、僕はこいつを知らない見たことがない会ったことも話したことも。


 便器に吐き出したそれらは今日の朝食を思い出させた。


 帰らないとあの家にいれば僕は人間になれる、“仕事を終わらせて“帰らないと、仕事をしないと、人間であるために、人間になるために_。


 違う僕はずっと人間だ生まれたときからずっと僕はジンの兄でアンナの旦那であの子の父親だ、人間だ。


 頭の中で二人の生物が喧嘩しているようだった。


 何時間にも感じられた30分休憩が終わり仕事場に戻る、朝もそうしたように生き物を殺すために開発されたモノを受け取り定位置につく、次々に俺の前に止まるピリカ人はリストと同じ順番でやってきた、一人ずつリストで見た名前を呟きながら標準を合わせる。


 リン、ニーナ、ダニエル、ステイ、リーン、トニー、ジェシカ、リー、ルドルフ、アリス。


 一人一人。


 カリス、アリナ、アビー、バート、ナターシャ、ヴィオレッタ。


 17人目、13歳のドミニクを撃ち殺した。


 ここまで想像通りに事が進んでいると言うのに、あれは間違いだったんじゃなかとバカみたいな思考が働く、それが願いなのか期待なのか僕には理解でになかったが、写真で見た通りの女が狙撃地点を歩き、その歩みを僕の銃口のまっすぐ前で止めた時確かな絶望が僕の中で産声を上げた。



「リリー_。」



 先ほどまでと同じようにリストで見た名を呟き引き金に指をかける、標準を除きリリーの頭に十字の真ん中を合わせる。



「やめてくれ!!!」



 鳴り響いた銃声が一瞬止み、爆弾の様な声が耳の中で爆発した、おそらく爆弾が投げられたであろう方向を目玉だけ回して凝視する。


 監視員に抑えられたピリカ人の姿が見えた、あの温厚な父から発せられた声だとは到底信じられなかった。


 父?違う、無意識に浮かんでしまった勘違いを咄嗟にかき消す。


 打つんだ、殺すんだ、こいつは裏切り者だピリカ人と同等の化け物だ、打て、殺せ、始末しろ。


 視界が狭まるかき切った冷や汗はもはや体の体温を奪い始めている。



“殺す、いや処分する“



 プログラムが明確に定まり、ぐらぐらと揺れる目線カメラをあの女の方に戻そうとした。



 トン。



 小さく肩に衝撃を受けた、物理的には小さな衝撃だったが、脳みそを直接分殴られた様な衝撃があった、揺れがおさまりピントがあったのを確認し首をゆっくり曲げ衝撃地点を見る。


 ジンが心配そうにこちらを見つめていた、ジンは身振り手振りで“俺が打つか?“と僕に尋ねた、ジンの黄色い瞳が不安そうに揺らぐ、その目は心から兄を心配する弟の目だった、疑いなど一つもない。



 その瞳に映る自分が見える、人間でなくては、こいつの兄貴でなくては、さっきよりも強い決意を持って思う。



“殺す“。



“俺がやるから大丈夫だ“と首を振り小さく頷く。




 まっすぐ前を向き標準を合わせる、黄色い瞳が標準語しに見えた瞬間咄嗟に引き金を引き、向こう側は元あった赤色と同じ色で重ね塗りがされた。


 その後僕の前に止まる人間が全員リリーに見えた。


 42人目のリリーを撃ち殺し、ようやく仕事が終わった頃、僕は確実に殺人鬼なってしまっていた、違う、ずっと殺人鬼だったことに今ようやく気がついたんだ。



 気がつくとシャワールームにいた、どうやってここまで来たかは覚えていない、頭の中ではリリーを打ったあの瞬間がショート動画のように繰り返し再生されている。


 あの時僕は何を見て打った?リリーか?裏切り者の化けものか?どれも違う。


 見えたんだ、見えてしまった、リリーの瞳に映る化け物が、あれは誰だ、罪もない人間に銃口を向け作業のように人を撃ち殺す化け物、あれは_。



“僕か_?“



 腹の奥から不快感が込み上げてくる、喉を締め止めようとするが次々に湧き上がる不快な塊になす術もなくその場に膝をつき溢れ出すまま気持ち悪さを地面に叩きつけた。



 僕から溢れたそれは、死に際に立たされたピリカ人が吐き出すそれによく似ていた、同じだ、あいつらも俺も、皆んな。

 家畜だと思ってたあいつらには名前があって家族がいて、一人一人死んだらそれを嘆く友人もいる、死ぬまで働かされて、使えなくなったら殺される。


 なんでだ?なんでそんなことになってる、ピリカ人だからか?ただ瞳と肌の色が違うだけで、ただ昔その人種が戦争で負けただけで?


 今日殺したのは最高で74歳最低で13歳、戦争が起きたのは約140年前、こいつらは当事者じゃない、その時代を生きた人間なんて疾っくの疾うに死んでいる。



 ならあの人たちは__。



 考えてはいけないであろうことが脳裏に浮かんだ時蹲った背中に優しく何かが触れた、それでも吐き出され続ける憎悪を他人事の様に眺めていた。



「大丈夫かよ、災難だったな。」



 すぐにジンの声だとわかった、初めて会った時僕を救ってくれた声だ、家族に捨てられ、理解することを拒み、突然世界が滅亡するなんて妄想ばかりを繰り返していた僕にジンがくれた言葉。



「なあ、暇だし遊びに行こうぜ、にいちゃん。」



 照れくさそうにそっぽを向きながらジンは僕を“にいちゃん“と呼んだ、それが僕とジンの最初の会話、幸せな記憶が瞬きのわずかな時間でふわりと浮かび、瞼を元の位置に戻すと視界いっぱいに気持ち悪い現実が撒き散らされていた。



 それを見て思わず心が口を開いた。



「あいつらには僕らが化け物に見えるんだろうな_。」



 ジンは少し黙った後、俺の言葉には意味なんて無いと掻き消すように話し始めた。



「どうしちまったんだよ、お前最近働きすぎなんだって、なんでも聞くからさ飲みにでも行こうぜ。」



 

 自分で声に出してしまった言葉を頭の中で何度も読み返し、言葉にしてしまったことに驚いたが、それが悟られないように頷き笑って見せた。



 着替えを済まし、ジンと収容所内の帰路を歩く、なんでもない雑談をしながら、僕の頭の中は数年前考え尽くした自殺方法で埋め尽くされていた。



 首吊りか、飛び降りか、発見は遅い方がいい、海に身投げでもできれば_。


 収容区から出なければ海まではいけない、画面の中でしか見たことがない美しい海に自分が身投げする瞬間を想像した。



ドス_。



 鈍い音が体の中から聞こえた、脇腹がじんわりと暖かくなる、得体の知れない感覚が痛みだと気がついた時には僕の背中は地面と触れていた。


 なんだ?何があった_。



 ゆっくりと流れる映像には立ち尽くすジン、反対側には__。



父さん_。



「レニー!!」



 銅像みたいに固まっていたジンが叫びながら僕に駆け寄る。


 どくどくと横腹を抑えた手に何かが流れ出る触感が伝わる、僕は死ぬのか_。


 ずっと考えていた遺書の一番大事な部分をジンに託す。



「か、ぞくに、、愛してるって、、、」



 残りの力を振り絞り意味もなく手を伸ばした、ベッタリとついた液体、多分僕から出た血液だ、それのせいで自分の肌の色なんてもう見えなかった、この時気がついた、やっと、気がつかないふりをしていただけのことに。



「お、、なじ、色だ、、、。」



 そうだ、同じなんだ、違う目玉の色で隠したって、違う皮で中身を隠したって、必死に歴史にしがみついても、隠せない、隠しきれない。



 化け物であることを、人間であることを



 僕らは皆んな人間(バケモノ)だ。


僕らは皆んな同じだった、気がついたレニーの言葉はもう誰にも届かない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ