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第2章 世界の本音

復習を誓ったジン出会ったが、なに兄の嫁に願いを託される。

その願いを叶えるべくジンは動き出す。

 俺の両親の祖父母の祖父母が生まれたばかりの頃、三つの種族が争いを続け、道を歩けは死体が転がり、雨のように降り注ぐ爆薬で暗い夜はなかったと言う。


 賢い人、ラーアン人、青の瞳に黄色の肌。


 強い人、トムコル人、黄色の瞳に褐色の肌。


 美しい人、ピリカ人、赤の瞳に白色の肌。


 十何年の戦争の末、世界は一度ピリカ人に支配された、巧みに他の人種を騙しラーアン人とトムコル人の中に反逆者を作りその他の人類を迫害した、しかしある時ピリカ人についていたラーアン人が一斉に暴動を起こしピリカ人を地に落とした。




 それから世界はラーアン人に支配され、トムコル人は労働力を提供することを条件に人権と安泰を手に入れた、最後まで争ったピリカ人は成す術も無く人権を奪い取られ、迫害されるに至った。



 歴史の授業は垂らした涎を拭いていた記憶しか残っていないが、これぐらいのことは歩き方よりも先に親に教え込まれた。



 それから何十年世界の均衡は保たれ、俺は収容所の職員になり、その迫害人種に兄弟とも言える友人を殺され、上官に刃向かった俺は仕事をクビになった。



 仕事も家族もいない俺に残されたのはクソ見たいな復讐心だけだった、ピリカ人はクソだ殺すしかない、あんな奴らは生きてちゃいけないんだ、あれは人間も形をした化け物だ。






 あれから何日経っただろうか、相変わらず俺が目を冷ますのは壁も屋根もない公園のベンチだ、ずいぶん大層なことを誓った割には何もできないまま家を失い、得たものといえば公園のベンチでも熟睡できるほどの疲労感だけ、復讐だのなんだの言った割には何もできていない自分にもはや呆れていた。



「ジンさん?」



 どこか懐かしい響きが聞こえそれが自分の名前だと思い出し、何人かの知り合いを思い浮かべながら声の主の方を見た、兄貴の、レニーの妻だ、胸にはレニーの面影を持った血乳飲み子を抱えていた、母親の顔をじっくりと見つめ、浮かび上がった名前をぼんやりと口に出す。



「アンナ_。」



 俺だということに確信がなかったのか安心したように笑顔を見せる、無理もない自分の名前も忘れていたようじゃ外見も以前とはかなり変わってしまっているんだろう。



「冷えますから上がっていってください」



 アンナは俺を家に招き入れてくれた、決して裕福な家ではないがこれが幸せなんだと俺に教えてくれるような家だった、家の壁には家族の写真が飾ってある、写真を眺めるだけで思わず口角が緩んでしまうほどいい写真ばかりだった、本当に幸せな家庭なんだろう、いやだったんだろう。



「旦那は最後に何か言ってましたか。」



 温かい紅茶を二杯淹れひとつ俺の前に置いた、アンナは一口紅茶を飲みながら椅子に腰を掛けてそう言った。


 あいつの最後を思い出す、あいつが残した言葉は。

 

 憎しみと共にレニーの声が思い出される、意味のわからなかった同じ色だなんだとかは聞かなかったことにして伝えるべきだと思った言葉だけを伝えた。



「家族を愛してると。」



 こんなテンプレのような言葉を自分が言うとは想像もしていなかった、映画で見ればまたそれかよと思うだけだが、身近な人間の言葉になるだけでこんなにも重みが変わってしまうのか。


 アンナの頬に静かに線が走った、母の感情を読み取ったのかスヤスヤと眠っていた赤子が顔を顰め大きな声で泣き出した、まるで母が殺した声を救い上げているようだった。



「俺のせいで、俺があの時もっと早く気がつけていれば、すみません、、。」



 まるでそうしなければいけないかのように震えた声で謝罪を綴った、アンナが俺を責める訳がないとわかっていながら、許してくれるとわかっていながら、もはやそれを求めて言葉を並べた。



「そんなジンさんがいたから今の私たちがいるんです、本当に感謝しているとレニーもよく言っていましたよ、私からも感謝します。」



 想像していたままの言葉をアンナはこのクズに言ってくれた、いや俺が言わせたのかもしれない、わかっていたはずなのにその言葉はあまりに俺の心に響いてあの日から乾き切っていた俺の瞳に潤いをくれた、友人の死を嘆いて泣いたのはこの時が初めてだった。



 その後はお互いを慰め合いながらあいつの話をした、まるでまだレニーが生きているかのように何年も前のことを昨日のことのように語り明かした、話が盛り上がり少し心が浮く度にお互いの目が合い現実に引き戻される。



 三度目の現実を見た時アンナが本音の口を開いた。



「ジンさんにお願いがあるんです、アニーのあの人の家族に会いたいんです、あの人がどのように生きてどう死んでいったのか知ってもらいたいんです。」



 アンナは強くまっすぐな目で俺を見た、俺の覚えているアンナは少し気が弱くて、いつもレニーの一歩後ろにいるような子だった、俺とは違ってレニーの死から生産性の無い憎しみなんかではなく未来を見る強さを得たんだ、俺なんかよりもよっぽど強い子だ。

 


 自分の情けなさに打ちひしがれているうちにアンナは何かを探しに居間を離れた、復讐なんて道が本当に正しいのかとまだ何もしていないくせに一丁前に悩み始める、それでも俺はピリカ人を思い浮かべるだけで全身に虫が這いずり回るような感覚を覚え心臓の奥底から殺さなくてはならないと言う思考に支配される。


 やはりあいつらは殺さなきゃ、、


「これです。」


 俺の思考を遮り、何かを手に持ってアンナが戻ってきた、差し出されたそれは白黒の写真だった、そこには三人家族が幸せそうにこちらを見ていた、美しい母と、優しそうな父そして真ん中にいる5歳ほどの男の子は、



「レニー?」



 確かにレニーだった出会った時のあいつそのものだ、いやそれよりももっと幸せそうに笑っている、あいつがこんなふうに笑うようになったのは俺と出会って5経ったころ、10歳になってからだった。



「あの人の部屋から出てきたんです、私も亡くなってから初めて見ました。」



 少し時間が空き、一言も話さない俺に間が刺したのか続けて話した。



「どうしても、会って話がしたいんです、彼を捨てたことは憎いけど、この人たちのおかげでレニーに出会えてこの子を授かれた。」



 アンナは泣き疲れて眠る我が子を世界一愛おしそうに見つめた。



 その姿を見て俺はただどうしようもなく願いを叶えたいと思った、会わせてやりたいと、復讐と言っても外からも中からも従業員しか出入り出来ない収容所の中にいるあいつを殺すのは元従業員の俺から言わせてみれば不可能だった。

 何より、俺も会ってみたかった、あいつは話したがらなかったからあまり深掘りはしたことがないが、正直興味はあった。


 いつか会うことがあったら嫌味ったらしく“あんたらがレニーを捨ててくれたおかげでレニーも俺も幸せに生きてこれたよありがとうな“って言ってると決めていたんだ。



「わかった、見つけるよ、必ず。」



 俺は負けじとアンナの目を強く見つめた、しばらく見つめていた目が潤み始め隠すように顔を手で覆った。



「ありがとうございます、本当に_。」




 外は幾分暗くなっていて、また俺は家とはいえないあのベンチに帰る、アンナはいつまでもいてもいいと言ってくれたが、レニーに申し訳なく思い1人寂しくベンチで黄昏れることにした。


 アンナがくれた写真を眺める、幸せそうに笑うレニーと目が合った気がした、あのころの兄貴が俺に笑いかけたように見えた。

 笑いかける兄貴の顔がじんわりと歪む、写真が見えなくなってしまうと服で写真を拭ったが相変わらず歪んだままでとうとう写真が見えなくなってしまった。


 生暖かい液体が頬に流れていることに気がつき目を拭う、拭った先にまた写真が見えた、今度はレニーではなく両親の方にピントが合う、俺はこの2人をどこかでみたことがある気がした。



 もしかしたら会ったことがあるのかもしれない、希望はある、一週間ほど過ごした我が家に別れを告げ、あまりに少ない荷物を持ってとりあえず歩き出した、背負い込んだ荷物はあまりに軽くて、なぜかこの重さが今の自分の命の重さのように感じた。




 一度だけ酒に酔ったあいつが昔話をした時の記憶を必死になってほじくり返した、確かあの日は珍しくひどく酔っていて、それでもあいつは愚痴ではなく思い出のように語っていた。

 確か北の収容区で育ったと語り、家の近くには小さな公園があってそこでよく両親と砂遊びをしたと、レニーの話す過去はいつも幸せそうで子を捨てる家族とは思えなかった、だから俺はその時少しの違和感を覚えたが、深掘りはしなかった。


 夜通し歩き俺がいた南の収容区がら北に移動した、俺たちが過ごす収容区はラーアン人が管理してトムコル人はこの中でしか生きることを許されていない。


 北の収容区には公園は五つある、決して多くはない、一つずつ公園を巡り来る人すべてに写真を見せ尋ねる。


「この家族を知らないか」と。


 三つ目の公園に入り、時間帯的に公園にいるのは子連れではなく、廃れた大人とホームレスだけになってきた頃、もうそろ切り上げかと思い、ホームレスの仲間入りをしようとベンチに腰掛けた時、隣のベンチに座っている老人が目に入った、知っている訳がないと思いながらももはや生きているかもわからない布の物体の肩らしき部分を揺すった。


 むくりと起き上がった布の塊は衣服の中から髭まみれの顔を覗かせた、どこが目かも分からない老人にもはや聞く意味はないかとも思ったが、もし昔からここに住んでいるなら1番の手がかりだと思い写真を取り出す、もう折り目が深くついてしまい、両親の上半身は二つに分かれてしまっている。



「この家族を知りませんか?」



 写真に顔を近づける老人をちゃんと見えているのかと訝しげに見つめた、しばらく眺め、もはや寝ているのではと勘違いするほどの時間が流れた時、髭の奥からこもった声が聞こえた。



「レニー__。」



 ほとんど諦めて仕事をサボっていた耳に突然知っている単語が飛び込み、脳みそがかち割られた感覚があった。

 しばらく処理が追いつかずクルクルと情報の更新を待つ俺にホームレスがさらに情報を詰め込んだ。



「どこで手に入れたんだ、生きているのか__。」



 “生きているのか“その言葉に対する答えだけが鮮明に理解でき出せる情報だけを淡白に放った。



「殺された。」



 俺から放たれた言葉を信じたくないというように老人は俺の顔を見た。



「なんてことだ、誰に_。」



 誰に?化け物だ、目の前のことに夢中になり忘れていた感情が息を吹き返す、湧き上がってきた怒りを意味もなく老人にぶつける。



「ピリカ人だ!あの悪魔に!化け物に殺されたんだ!この哀れな両親がレニーを捨てたりしたから、あいつはあの化け物に殺されたんだ!」



 かなりの声が出ていたようで喉に怒りがつっかえてむせこんでしまった、苦しそうに咳き込む俺の背を老人は優しくさすってくれた。


 呼吸が落ち着き冷静にホームレスを見た時しっかりとした顔があることに気がついた、老人の後ろにある街灯のせいでよく見えなかったが優しい顔がはっきりと想像できた。



「あなたはなんなんですか。」



 浮かんできた疑問をひとまとめにして伝えたせいで少し彼は困惑していたがひとつづつ着実に答えてくれた。



「私はレニーの母親の父だ、要はレニーの叔父に当たる、レニーとは二度ほどしか会ったことはないが本当に可愛い子だった。」



 両親よりも先に叔父という存在に出会い、親がいるということは祖父母もいるのかとあまりに当たり前のことに驚いたが明らかに近づいている目標に俺の心は確かに跳ねていた。



「それで、あいつの両親は今どこにいるんですか?」



 俺は急かすように彼の肩を掴んだ、俺のテンションと比例して上がる声のトーンとは裏腹に老人は一定のリズムとトーンで話し続けた。



「私にも分からないんだ、どこにいるのか何をしているのか、生きているのかさえも。」



 湧き上がった期待が一気に溢れ、ついには一滴も残らなかった、やっと掴んだと思った糸は俺と同じように宙に舞っているだけのただの糸くずだったのだ。

 落胆している俺の横でぶつぶつと老人が話し出す、最初はうまく聞き取れなかったが徐々に声に芯が入り先程までの柔らかい雰囲気は忘れ去られた。



「そもそもあんな奴と孕った子でさえなければ、私がちゃんと教育しなかったからだ、私のせいであの子は、かわいそうに騙されていたんだ、あいつのせいだ全部あのピリカ人が!」



 言葉は支離滅裂でもはやなんの話をしているのか分からなかった、まるで別人のように見えた彼がなんだか恐ろしくなり、俺はその場を離れようと立ち上がった時、確かに自分の意思の向く方向とは逆に体が引っ張られていくのを感じた。


 力の原点を辿り足元に目を向けた、老人が地面を這いつくばり俺の足にしがみついている、何かを喋るでもなくただ必死に足にしがみつく彼に底知れない恐怖を感じ、人が掴んでいるとは思えない力で足を乱暴にゆすった。



 何をしても離れない老人をなんとか引き離そうと手を伸ばした時、足首にくっついていた力の原点は瞬時に手首に移動した、じっくりと俺の顔を覗き草木のように生い茂った髭の中に黄色の瞳が光る、黄色というよりは金色だったような気がする。


 森の中で光る金色の宝石に飲み込まれまいと身を引こうとした時、呻き声のように老人は喋り出した。



「ピリカ人は悪魔だ、信じちゃいかん、悪魔に魅入られたあの子は悪魔の子を孕った、レニー、あの子にも確かに悪魔の血が流れていた。」



 呻き声が止まった時には俺の手首には掴まれていた感覚だけを残し、老人は小さく何かを喋りながら、足を引き摺ってベンチに戻って行った。



 俺は呼び止めようと声を上げたが老人はもう石のように固まって動かない、俺の声は一つも届いていないようだ。



 老人の言ったことを思い返す、理解できたのはあいつらが悪魔だってことだけだった、あいつに誰の血が流れてるって?いや違うこのおっさんはもう呆けちまってるんだ、おかしくなっている。

 

 そんな自分の心を置き去りにして思考は色々なことを繋げていく、仕事の時だけは命令に従順なロボットのような奴だったあいつが、あの時だけ引き金を引くのを躊躇ったのは?

 今まで何人も人を殺してきた、それは裏切った同士も例外じゃない、それなのになんであの時だけあいつはあんなに_。



 違う!違う違う違う!あいつが?そんな訳ないそんなことあって言い訳がない、それなら俺は何を誰を憎んで_。


 確かめないと、いや証明しなければあいつに化け物の血が流れていないと、だってあいつは人間だった、確かに俺と同じ人間だった。


 死んだ後にこんな汚名を着せられるなんてなんでかわいそうなやつだ、本当に人生丸ごとついてないなあいつは。


 考えることをやめようと必死に思考を手放したが俺の頭はこうゆう時だけやけに回転が速い、地球儀のように回転し続ける脳みそはありえないことを述べるばかりで、俺も壊れてしまったのかと次から次に浮かんで来る可能性を筋が通っていない理由で跳ね除けた。


 俺には信じられなかったのだ、違う信じたくなかった、それはあいつの半分があの化け物の血であるということよりも、それでもあいつを兄貴だと思ってしまう自分自身だった。

知ってしまった事実、知りたくなかった事実


それでも彼を兄と思ってしまうのは、、、

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