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第1章 化け物たち

3つの人種で別れた世界。


ある迫害人種の収容所で働く主人公ジンは、収容所内である事件に巻き込まれてしまう、、、

 化け物がいる、目の前に、姿形は俺に似た人間のようだが紛れもなく化け物だ、

そしてきっとこれも俺を見てそう思っているに違いない。




 現実味が欠けた世界にあまりに似合わない音が鳴り響く、それがアラームだと気がついた時にはもう何の夢を見ていたのかも覚えていなかった。


 ぼんやりと開けた瞼の隙間から携帯の画面がうっすらと光る。


 7:23


 遅刻だ、それに気づいた瞬間にはベッドから飛び起きていた。


 自分はこんなに早く動けたのかと言う具合に次々に準備が終わっていく、準備が終わる頃にはいつも家を出る時間の10分前。


 「焦って損したよ。」


 緊張していた体から力が抜け、どさっとソファに腰掛ける、焦りに縛られていた心もソファに染み込んでいくように溶けた。


 一息ついて家を出る頃にはいつもの時間から3分過ぎていた。


 またかと思いながら少し小走りで職場に向かう、しばらく進むと視界の奥に空さえも見えなくなるような高い壁が見えてくる、その壁が視界を埋め尽くし壁の奥が見える、これまた空まで伸びた大きなコンクリートの塊、これが俺の職場、ピリカ人収容所だ。


 「またギリギリだな」


 門兵が少しニヤつきながら俺に言う


 「間に合えばいいんだよ」


 このくだりはもう数えるのを諦めたほど繰り返した。


 まっすぐロッカールームに向かい制服に着替える、着替えの途中で間に合わないことに気がつきボタンを半分残してロッカールームを出た、残したボタンを閉めながら点呼に向かう、ドミノのように並んだ列が時間が来るのをぴたりと止まって待っている、一箇所だけ間隔が離れてしまっているドミノの間に入り込んだ。


 「ギリギリだぞ」


 隣に並んでいるドミノが小声で話しかけてくる、古くからの友人で兄弟みたいなやつ、名はレニー


 「お前が起こさないからだ、いつもはモーニングのラブコールがあるのにな」


 俺はうっすらを口角をあげ細目でレニーを見た。


 「やめろよ気持ち悪い」


 まっすぐ前を向いたままそう言ったが口は少し笑っていた。


 もう少し茶化そうとした所で廊下の端っこから向こう側まで空気を割るような声が響いた。


「気をつけーーーーー!!」


 数秒前までの少し緩んだ空気が一気に縛られ、その声に全員の手足がぎゅっと体に縛り付けられた。


 「休め!」


 足を開き手を後ろで組む、号令に反して皆の顔が更に強張る、左側から今日の業務内容が告げられる、上官が近づくにつれ肩が上がっていくのがわかる


「j班処分」


 一気に肩の力が抜け、抜けた部分が憂鬱で埋まっていく。


 “処分“これが今日の業務内容だ、俺が一番嫌いな業務で所謂ハズレ、俺と同じ班の15名ほどは憂鬱な顔で作業場へ向かう、レニーもその1人だ。

 廊下の角を曲がり上官の監視視野から外れた瞬間班全員のため息と共に歩き方が乱れる。


 「あー最悪だあ」


 「なんか俺具合悪くなってきた」


 次々に文句を垂れ流す班員と一緒になって俺も愚痴を吐く、レニーだけは何も言わずに歩き続けた、歩き方もまだ上官に見られているように背筋を伸ばして歩いている。


 「お前は本当に真面目ちゃんだよな、疲れないのかよ。」


 まっすぐ伸びた背筋を少しでも曲げようと高い肩に肘をかけが相変わらずレニーの肩は地面との水平を保ったままだった。


「嫌なもんはいやだよ、でもまあもう2ヶ月半も回ってきてなかったからもう直ぐだと思ってたしな。」


 まるで目の前にカンペでも出ているかのようにスラスラと話す、バカがつくほどの真面目なやつだが俺はこいつが結構好きだ。



 レニーは5歳の時に親に捨てられた、裏路地でちょっと待ってろって言われたレニーは2日と11時間一歩も動かず待った末レニーを見つけたのは俺の両親だった、その時俺は4歳と10ヶ月、それからおんなじ家で育ってレニーは家庭を持って家を出た。


 俺はなんとなく家を出て、安定した職業を探したら偶然レニーもいた、一年ほどバイトを転々としていたせいで少し遅れをとったが上司が兄弟ならなんてことはない。


 俺の憶測だが俺が同じ職場に入ってきた時こいつは結構嬉しかったと思う、普段はほとんど誘ってこないのにわざわざ俺の後を追いかけてきて飲みに誘ってきたからな。



 文句が底尽きてきたあたりで仕事場についた、1人ずつライフルが渡され規定の位置に並ぶ、次々に運ばれてくるピリカ人を待ち、自分の前で止まったやつを打つ、区切りがついたら死体を回収しまた位置に戻る。


 これの繰り返し、これが処分だ。


 俺が特に嫌いなのはこの死体回収だ、結構重いし汚れるし、なんかもうベルトコンベアーとかで運んでくれよ、それならこの仕事も楽でいいのにな。



「休ーー憩ーーー!!!」



 30人から数えるのをやめて無意識に数えてしまった15人目を打った時久しぶりに人間の声が脳に響いた。



 休憩室に向かい、座り心地だけは最高なソファに腰掛ける、引き金に欠けていた指がピクピクと痙攣を起こしている。


 午後からの処分リストを見ながらレニーが休憩室に入ってくる、今日打つ分のピリカ人のリストが全員に配られるがこんなものを読むのは相当な物好きだけだ、どうやらこいつはそれらしい。



 「なあ、これトムコル人だよな?なんでここに載ってるんだ?」



 とうとう狂ったかと思いリストが載ったファイルを取り上げたが確かにそこにはトムコル人の女が写っていた、なかなかな美人だ殺すにはもったいない。



 「仕事とはいえ同族を殺すのはいい気分じゃないな、ハズレだレニー」



 上からの命令だ、間違いもクソもあるかと、レニーを宥めながらも資料を凝視する、米印の横に、“逃亡に加担ピリカ人の旦那に見学させよ。“と記載があった。



 「上官殿は大層素敵な趣味をお持ちだ。」



 米印の部分を指で示しながらレニーに資料を返す、じっくりと読んだあと、“そうか“とだけ言葉を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。



 体感では3分ほどしかなかった30分休憩を終え仕事場に戻る、相も変わらず悲鳴のようなものが詰め込まれていて気分が悪い、イヤーマフをしていても隙間から入り込んで来るほどだ。


 数十分引き金を引き続けた頃レニーの銃口の前でそちら側では見慣れない肌の色が足を止める、実物は写真よりももっと美人だった。



「あーあもったいねぇ、好きになるやつさえ間違わなければな」



 自分で発した声すらあまり聞こえなかったがおそらくそのようなことを言った時、耳に詰まった騒音が一気に吹っ飛ばされるほどの声が聞こえた。



「やめてくれ!!」



 射撃場の端っこで何人かの兵士に抑えられ愛する者の死に際を見学させられているピリカ人の声だ、銃声よりもでかい声は初めてきた。


 レニーの引き金が少し遅れているのに気づき、隣に視線を向ける、ぴたりと固まったレニーは緑の軍隊の人形のようだった。


 動く気配のないグリーンアーミーメンの肩をたたき、ジェスチャーで“俺が打つか?“と伝えた、頭だけ動かし俺の方を向いた人形は大丈夫だと小さく首を振り頷いた。首の関節を元あった方に捻じ曲げ引き金に指をかける。


 俺が定位置に戻った時にはあの女はもはや肉と骨の塊になって転がってた、いつの間にか男の声も止んでいる、もしくは耳が働くことを放棄したのか_。





 長すぎる常務を終えてシャワールームで汚れと悲鳴を水で洗い流す、やっと耳が正常な音を拾えるようになった時レニーの嗚咽が聞こえてきた、シャワールームの端で人間とは思えないほど小さくなった背中に駆け寄り、背を撫でる。



「大丈夫かよ、災難だったな」



 嗚咽と共に涙を流していることに気がつき、手の力をさらに抜き精一杯の優しさを手のひらに込める



 ある程度落ち着いてきた時レニーは石のように固まった口をゆっくりと開いた。



「あいつらには僕らが化け物に見えるんだろうな_。」



 意味はわからなかったが確かにそう言った、こりゃかなり頭をやられてしまったようだ、とにかく正気を取り戻してやらないとと思い、いつもの具合で話しかける。



「どうしちまったんだよ、お前最近働きすぎなんだって、なんでも聞くからさ飲みにでも行こうぜ」



 久しぶりに見せた優しさに少し驚きながらも頷き微かに笑顔を見せた。



 着替えを終えて収容区内を歩いている時には少し元気はないが大方いつものレニーに戻っていた、飲みに行くのは何ヶ月ぶりだろうと雑談をしている時奥の方で監視員が騒ぎ始めた。

 

 どうやらピリカ人が脱獄したようだ、あいつらは無駄に力が強いからな若くて活きが良いのはたまに逃げ出すことはあるがこの収容区から出られることはない。


 手伝うほどでもないかとレニーの方に視線を戻した時レニーの顔がひどく歪んだ、すぐ後ろには化け物がいた、形は人間に似ていたがその形相は確かに化け物のそれだ。


 化け物の手には何かが握られていてそれはまっすぐレニーの横腹につながっていた。



「は?」



 声になったかもわからない音が小さく消える、化け物が握っていたそれを横腹から引き抜いた時それが凶器だと理解できた、ぼたぼたと昼間散々見た液体がレニーから流れている、ゆっくりとレニーの体から力が抜けていくのが目に見えてわかる。



 レニーが刺された、使えない脳みそが処理できたのはそれだけでそれ以降はエラーになっている。



「レニー!!」



 完全に倒れ込んでから3秒ほど間があっただろうか、俺はレニーに駆け寄った、襲いかかってきた男は今更監視員に取り押さえられている、医者を呼べだの叫んでいたが俺にはあまり聞こえていなかった。



 安定しない呼吸で必死に命にしがみついている、通信が悪い無線のように途切れ途切れにレニーは話した。



「か、ぞくに、、愛してるって、、、」



 全ての力を振り絞り俺の方に手を伸ばす、自分の手を見た瞬間言葉が止まった。



「お、、なじ、色だ、、、。」



 血で赤くなったレニーの手を勢いよく握った。



「しっかりしろ!大丈夫だ!まだ!頼む死ぬな!兄貴!!」



 握った手から命が消えていくのがはっきりとわかった、昼間嫌になる程感じたあの感覚あの触感がレニーの手から伝わってくる。



 死んだ、レニーが、兄貴が死んだ、いや殺されたあいつに、浮かんできた憎しみをそのままあの化け物がいた方向に向ける。

 俺はそいつに見覚えがあった、あの男だ、レニーが殺した女の旦那だ。



「やってやった!俺が殺した!仇を取ったぞ、俺も今行くからなリリー_。」



 おそらく言葉だったが俺には化け物の呻き声にしか聞こえなかった。



 殺してやる、絶対に、この化け物は生きてちゃいけないんだ殺してやる、心の底から憎悪と呼ぶべき感情が湧き上がる。


 感情のままにその男に襲い掛かろうとしたところで視界が一転したと同時に腹部に衝撃を感じた。



「騒ぐなトムコル人、こいつは処分対象じゃないぞ。」



 近くに寄れば冷気で指が悴んでしまいそうな、青い瞳に睨みつけられる、ラーアン人、俺らの上官で用は一番偉い奴らだ、俺はおそらく蹴り上げられたであろう腹部を押さえながら気持ちを手で握りつぶし理性を保った。



「失礼しました、しかし!こいつはレ、従業員を殺しました!処刑が一番の罰かと」



 握り締めた手の平に爪がつき刺さり血が滲んだ、地面に膝をついたままおすわりをした犬は悪意を持って飼い主様を睨みつけた。



「トムコル人如きが意見する気が、こいつはダメだ、まだ若い労働力になる」



 俺の悪意は棒切れみたいに簡単に踏み潰された、その棒切れを俺は健気に拾い飼い主様に返そうとする。



「しかし、罪は償わせなければ暴動が起きかねません!」



 上官は俺があいつらを見る時と同じ目で俺を見た、小さくため息をつきそっぽをむいて歩き出した。



「下等人種が1人死んだぐらいで騒ぎすぎだ、あいつはもういらん捨てろ。」



 レニーは昼間殺したピリカ人たちと同じ焼却炉で焼かれた、あいつの骨を家族に持って帰ることすら叶わなかった。



 翌日俺は仕事をクビになった、もう必要がなくなったと、、



 上官にとっちゃ俺たちなんてただの捨て駒、いらなくなれば捨ててまた新しいのを補充すればいい、その程度の存在、俺とレニーが親友だった何てどうでもいい。

 だって俺たちもアリを踏み潰す時こいつに家族はいるのかなんて考えたことないから。



 それでも俺は許せなかった、レニーだって人間だったんだあいつが死んであいつの家族が泣いた、生きていたんだ。

 絶対に許さないあの化け物を絶対にこの手で殺してやる、泥みたいに体にへばりついたこの感情は紛れもなく復讐心ってやつだった。



 レニーが望んだかどうかはどうでもいい、ただ殺さないといけない、あいつは生きてちゃいけない生き物だ。

復習を誓ったジンが向かう先とは

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