『一億円の指(ゴッドハンド):その3 国家転覆救護前編』
『一億円の指:その3 国家転覆救護前編』
第九章:国家権力による「新資格」
国家試験会場での「強制連行」から数日。久我奏太は警視庁の薄暗い取調室で、自分が書いた「カップと乳首だらけの答案用紙」を突きつけられ、絶望の淵に立っていた。
「君、これは公然わいせつ罪だけじゃ済まないよ。国家試験への冒涜だ」
捜査官の冷たい声が響く中、突如として内閣府からの「特級招待状」が届く。久我は手錠を外されるや否や、黒塗りのセンチュリーへと押し込まれ、最高警戒態勢の総理官邸へと運ばれたーー。
案内された官邸の奥深い一室。そこには、普段はテレビ越しに国民を震え上がらせる「鉄の意志を持つ総理」神崎龍一郎が、愛娘のリンに詰め寄られ、見るも無惨にタジタジになっている姿があった。
「パパ、お願い! あの人じゃないと私の霊は払えないの! あの人を合格させて! というか、あの人のための資格を作ってよ!」
「……うむ。わかった、落ち着くんだリン。パパが悪かった。……おい、例のブツを出せ」
総理は、久我を今すぐ極刑に処したいというドス黒い殺意を瞳に宿しながら、一枚の金ピカに輝く免許証を忌々しそうに差し出した。
『特別国家公務員:特級胸部救護士』
「……総理、これはいったい?」
「娘の強い要望でたった今、新設された。超一流のマッサージ技術に加え、強力な『除霊力』を必要とする特殊技能職だ。実質、この国で取得できるのは君一人しかいない。今日から君は、我が国の『重要機密資源』だ」
第十章:総理の嫉妬とユウキの友情
「だがな、久我君」
総理が久我の胸ぐらを掴み、至近距離まで顔を寄せる。その顔はもはや一国の主ではなく、娘を奪われそうな一人の父親の形相だった。
「娘を助けたことには感謝する。だが、娘に触れるのは『公務』の時だけだ。それ以外で一分一秒でも不穏な動きをしてみろ。国家権力……いや、私の私兵を使ってでも君をこの世から物理的に消去する。いいな?」
「ひ、ひぃぃ!」とおののく久我。しかし、そこへユウキが颯爽と現れ、総理の肩を叩いた。
「総理、そんなに久我さんをいじめないでください。彼、これでも必死なんですよ?」
すると、さっきまで鬼のようだった総理が、信じられないほど柔和な顔で微笑んだ。
「おお、ユウキ君じゃないか! 今日は娘とショッピングか? いつも娘の良き相談相手でいてくれて、私は本当に心強いよ。君の頼みなら、久我君の無礼も不問に付そう」
久我は愕然とした。ユウキと総理は大親友だったのだ。しかし総理にとって、久我は最愛の娘を誘惑し、さらに親友までも奪いそうな「悪魔」に映っていた。烈火のごとき嫉妬が、その視線に宿っている。
第十一章:黒沢の陰謀と支持率の垂直落下
この光景を、部屋の影で冷徹に見つめる男がいた。内閣官房長官、政界のナンバー2である黒沢である。黒沢は表向きこそ総理の忠実な右腕を演じていたが、腹の底では総理の椅子を虎視眈々と狙う野心家だった。
(ふん、神崎のやつ……公務員資格を私物化し、不潔な揉み師を官邸に招き入れるとは。好都合だ。あいつの政治生命を絶つ格好の材料だ)
翌朝、黒沢が裏ルートでマスコミに流した情報により、日本中の新聞に衝撃的な見出しが躍った。
『総理、私用で新資格を乱造!』
『不合格の変態を「特級公務員」として厚遇採用!』
ネットは大炎上し、国民の怒りは爆発。神崎内閣の支持率は、久我の就任と同時に垂直落下を始め、一桁台目前まで追い詰められた。
第十二章:逃げ場のない「偏愛専属」
一方の久我は、新資格を手に入れ「国家公務員なら合コンでもモテるはず」と鼻息を荒くしていた。早速、街で美女に声をかける。
「お嬢さん、顔色が……。僕はあの公務員の特級胸部救護士の久我です、さあ、早く胸を触らせてください!救護の必要が……」
その瞬間、背後からリンが猛スピードで飛びかかってきた。久我の腕をガッチリとホールドするその瞳は、もはや「捕食者」のそれだった。
「ダメよ! 他の人に触ろうなんて100年早いわ! 私は霊に取り憑かれやすい体質なのよ? 私だけを、ずっと触っていなさい!」
「ええっ!? でも僕は公務として……」
「これは公務よ! 命令に背くならパパに言って、資格を剥奪してもらうから! ……それに、あの指の感触……私、もうあなたじゃないとダメなの……」
リンは久我の腕に自分の胸を強く押し当て、熱い吐息を漏らす。久我は「役得」を通り越し、背筋に走る戦慄を感じた。背後ではユウキが総理と談笑しながら、久我に「地獄へようこそ」と言わんばかりのサインを送っていた。
第十三章:ファーストレディの虜と「椅子」の消失
さらなる受難が久我を襲う。噂を聞きつけた総理夫人、シズコまでもが久我を指名したのだ。
「あら……リンから聞いた通りだわ。とても『誠実』そうな手ね。私にも救護をお願いできるかしら?」
総理が「妻にまで触れるな!」とフォークを捻り曲げて発狂する中、久我は夫人に取り憑いた『歴代首相夫人のドロドロとした怨念』を指先一つで粉砕した。
「……っ!! あら、あらあら……! なんて深いところに届くの……! 心の霧が晴れていくわ……」
シズコまでもが久我の指先の虜となり、うっとりと頬を染める。「今日から官邸に住みなさい」という夫人の一言で、久我の監禁生活が確定した。
「ママ、ズルい! 久我さんは私の専属よ!」
「リン、独り占めは良くないわ。私を先に救護して!」
母娘が久我の両腕を奪い合う。
ここから、神崎総理の「物理的な居場所」が着実に奪われていく。
まず、朝食の席からだった。
「あなた、そこは久我さんが座るの。あなたは向こうの『丸椅子』で食べて」
総理は一瞬、箸を止めた。国の舵を握る男が、丸椅子へ静かに移動する。音を立てないよう、呼吸を殺し、慎重に…だが心は怒涛の嵐だ。
次に、リビングのソファである。
「お父さん、邪魔。久我さんとお喋りするから、パパは『踏み台』にでも座ってて」
総理のこめかみに青筋が浮かぶ。踏み台だと…!? いや、聞き間違いか。しかし、否、目の前で久我が悠然と笑っている。逆らえるわけがない。
そして――ついに、その時が来た。
「久我さん、私たちにとって大切な方だから、今日からこちらにお座りになって」
執務室の中央、国家元首だけに許された最高級本革の椅子(玉座)。背もたれに手をかけるだけで、国の威厳まで揺れるような重み。久我は迷わず腰を下ろす。
その瞬間、総理の居場所が確定した。
部屋の隅に追いやられ、脚がわずかに歪んだ錆びついたパイプ椅子。
総理は唇を震わせ、低く呟く。
「……あの男のせいで、俺の席が……」
その呟きは、誰にも拾われなかった。
第十四章:ユウキの逆転戦略 ―― 支持率120%の黄金時代
廊下の隅で、ユウキはスマホを構え、プロの目で画角を決めた。パイプ椅子に座り、家族から疎外され、一人カップ麺をすすりながら哀愁を漂わせる総理。まさに国家の威信を背負った悲劇の王だ。
『【号泣】総理、官邸の備品を若者に譲り、自らはパイプ椅子で国を想う。 #謙虚すぎるリーダー #俺たちの神崎 #全日本が泣いた』
投稿ボタンを押すユウキの指先に、微笑みと策略が混ざる。
この投稿は爆発的に拡散された。国民は「これこそ真のリーダーだ!」「自分を犠牲にして若者を支える聖人だ!」と大熱狂。支持率は垂直上昇し、物理的限界を超えた120%に到達した。
日本は史上空前の黄金時代を迎えたが、官邸内での総理の地位は「アイス買い出し係」まで転落した。
「あなた、邪魔。久我さんの分のアイス買ってきて。バニラよ」
「パパ、私は期間限定のソーダ味ね。間違えたら内閣不信任案提出よ」
「……は、はい、アイス、至急お届けいたしますぅ……!」
廊下を小走りで去る総理の背中。その姿は、かつて国を動かした威光の面影を、かろうじて留めているに過ぎなかった。
久我は乾いた笑みを浮かべる。
(総理の目、血走ってる……)
(死ぬほど怖い……)
(なんで俺、国家資格取っただけで、
こんな地獄にいるんだ……誰か助けて……)
だが、その悲鳴が外に届くことはなかった。
第十五章:逃げ場のない聖域
「ヤダァァァァァァァ! 自由に揉めると思ったのに、総理の殺意が地球規模だよぉぉ!!」
深夜、官邸から脱走しようとする久我。だが、背後からリンの細い腕が首に絡みつく。
「久我さん……どこ行くの? 私の胸が、また痛むのよ……私を一生、救護してくれなきゃ、嫌!」
背後ではユウキが、総理からせしめた最高級ワインを傾けながら、月に向かって微笑んでいた。
「久我さん、おめでとうございます。これであなたの予算は国家機密費から無制限、身分は一生安泰です。……まあ、総理の嫉妬が臨界点を超えれば、いつ消されるか分かりませんが。何より、総理の居場所はもはや家庭内にはなく、支持率という名の虚像の中にしかないのですから」
最強の資格を手に、最強の母娘に監禁され、最強の権力者に命を狙われ、それでも「支持率」という名の呪縛で国を救い続ける。 久我奏太の「特級胸部救護士」としての、至福に満ちた永遠の地獄は、まだ始まったばかりだった。




