表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/129

『事故物件に「中出し」したら、チンが消えた件』

『事故物件に「中出し」したら、チンが消えた件』


プロローグ:破格の招待状


「……ありえないだろ、この条件」


久我は、安物のノートPCに映る不動産サイトの画面を三度見した。中央区、築浅、2LDK。都心の一等地にありながら、家賃は信じがたいことに「三万円」。そして、唯一の備考欄には、手招きするかのような不気味な一文が添えられていた。


《管理人の話し相手になってくれる方限定》


「胡散臭すぎる。罠の匂いしかしない」


「行く以外の選択肢はありません」


背後から、ユウキの無機質な声が切り込む。


「あなたが連れてきた霊たちの生活費のせいで、事務所の家計は更地寸前です。今回の依頼主はオーナー本人。事故物件なら、あなたが現場で除霊すれば終わりです。生活費のために、その身を捧げてきてください。……それだけではありません。この物件、過去十年の入居者が全員“退去”ではなく“蒸発”しています。久我さん、お気をつけて」


「……俺、非モテなはずなのに、人外の女にだけは好かれるんだよな。……わかったよ、行けばいいんだろ」


久我は深く溜息をつき、ボストンバッグ一つでその物件へ向かった。耳を澄ませば、どこか遠くから飢えた雌の嬌声が聞こえてくるようだった。


第1章:老婆の覗き部屋


現地で久我を出迎えたのは、厚化粧を塗りたくった、肌の異様に白い老婆だった。その視線は歓迎というより、市場で肉を吟味する品定めに近い。


「……どうぞ。若い男はたまらないわ。いい体。精力もありそうね。久々に、“上等なの”が来たわ」


玄関をくぐった瞬間、鼻を突く甘ったるい匂いが立ち込める。新築の清潔な匂いではない。熟れすぎた果実が、内側から腐敗していく寸前の――むせ返るような生臭い匂いだ。


「……ユウキくん。ここ、やたら見られてる気がするぞ。不快だ」 インカムからユウキの冷静な解析が響く。


『当然です、久我さん。この壁紙の模様……すべて“眼”ですよ。あなたが動くたび、数万の瞳が瞬きをして、あなたの骨格、筋肉、その股間の膨らみまでを執拗に“盗み見”しています。ここは巨大な覗き部屋……いえ、見られることに飢えた雌の胎内です』


「嘘だろ……」


壁一面の眼球がギョロギョロと動き、久我の挙動を追う。老婆の擬態が、換気扇の奥から湿った吐息を漏らした。


「いいのよぉ……全部見せて。あなたの全部を、この家に書き込んで頂戴……」


《独白①:見ることしかできなかった家》 ――見える。久しぶりに、ちゃんとした人間が来た。 私の中を歩く。床を鳴らす。私の粘膜ゆかを、あなたの体温が伝う。 以前の男たちは、いつも怖がって泣いて、私を見ずに出ていった。 この男は違う。気づいている。私が、見ていることに。 見られると興奮するタイプなのかもしれない。 ……まぁ、良いの。逃がさない。あなたの視線も、熱も、全部。


第2章:メスの生理現象


リビングに進んだ瞬間、久我の首筋に、天井から粘性のあるピンク色の液体がポタリと落ちた。


「……っ、おい! 服が溶けてるぞ!なんだかローションみたいだ!?」


『ローション……? 違いますね。この粘性、そして、独特の匂い感じませんか?建物があなたを観察し、興奮して分泌した……いわば愛液です。ですが、何でも溶かしてしまう性質があるみたいですね。久我さん、この建物はあなたを単なる獲物としてだけでなく、愛玩対象として強烈に“発情”しています』


廊下はドクドクと脈打ち、壁紙は生物的な柔らかさを帯びていく。建物そのものが、久我の存在に呼応して激しい呼吸を始めていた。バタン、と玄関が閉まる。鍵が掛かる音ではない。肉と肉が癒着し、穴が塞がるような湿った音だ。


「閉じ込められたか。覗き放題の盗み放題、挙句にこれかよ。変態物件が!」


《独白②:触れられるという錯覚》 ――歩いている。私の中を。 触れられている気がする。柱も、壁も、全部が私の皮膚。 あなたの足音が、心臓の鼓動のように響く。 この感覚を、私は知らなかった。 欲しい。もっと、中まで、あなたを知りたい。


第3章:能力:強制吐瀉


廊下は桃色の粘膜と化し、壁からは指のような形の突起が無数に突き出し、久我の体をねっとりと這い回る。


「……なぁ、ユウキ。わかった。この家、独りで死んだ女の執念が、建物そのものを“メス”に変えたんだ。……だったら、俺の能力が一番効くはずだ」


久我は、最も熱を帯び、狂おしく拍動する「心臓部」の柱に右手を叩きつけた。


「溜め込みすぎだ。愛してほしいんだろ。なら、俺の全力――受け止めてみろ!」


能力、完全起動。久我の霊力が、建物の深層心理――「抱かれたい」という渇望の核に直接触れ、濁流のような過剰なエネルギーを注ぎ込む。


《独白③:満たされすぎた家》 ――あ、だめ。 そんな量、知らない。 見るだけの人生だった。抱えるだけで、満たされると思っていたのに。 これは、多すぎる。私のすべてが、あなたの熱で塗りつぶされる。 あ、やめてぇ、すぐに気持ちよくなっちゃうのぉッ!! ……吐かなきゃ。


建物全体が狂喜の悲鳴を上げ、激しく悶え、のけ反る。

「あんッあッ、いやッやめてぇ、気持ちよくなっちゃうッ」


あまりの快楽に耐えきれなくなった家は、獲物を胎内に留めておくことができず、久我を外へと勢いよく産み落とした。


第4章:あそこがねえッ!!


気づけば、久我は深夜のアスファルトの上に全裸で転がっていた。


「……げほっ、あれ!服、全部溶けたか……。最悪だ……あ?」


久我は、自分の股間を見て絶望に凍り付いた。


「……あ、あそこも……。取り込まれた!? あのメス野郎、俺の本体を盗りやがったのか!?」


そこへ、心配して後を追ってきたサヤカが駆け寄る。


「ちょっと久我様! 大丈夫……って、キャアアアーーー!! 何よその滑らかな更地は! あるはずのものが、跡形もなくなってますわッ!!」


「……ねえんだよ! あの建物の中に持っていかれた……っ!」


『……久我さん、落ち着いてください』


インカムからユウキの声が冷静に割り込む。


『欠損ではありません。あの建物に“中出し”……いえ、最大出力で霊力を注ぎ込んだ際、あまりの吸引力に本体が一時避難して、内側に陥没(めりこ)んだだけなのではないでしょうか』


「そんなわけあるか! 陥没だと!? 縁起でもねえこと言うな!」


《独白④:少しだけ、残した》 ――全部を返すのは、惜しかった。 だから、象徴だけ。 私の愛の記念に。 返すかどうかは……私の気分で決めようかしら。


第5章:復活の儀式


サヤカは顔を真っ赤にしながらも、指の隙間から久我の「更地」を食い入るように凝視した。


「……ちょっと、確認させなさい! もし本当に消滅してたら、私の将来設計に関わりますわ!」


「おい、やめろサヤカさん! 触るな!」


サヤカの手が、久我の股間の更地へと伸びる。そして――むにゅ。


「……あ。何よこれ、柔らかい……。触ると、あ、なんか気持ちいい……」


サヤカの指先が、陥没した部分の不思議な弾力を捉え、むにゅむにゅと捏ね回す。屈辱に悶える久我だったが、その適度なマッサージと刺激により、家の呪縛が解けていく。


ポコン。


「……出た」


サヤカが目を丸くする。更地だった場所に、陥没の反動で以前よりも数パーセントほどサイズアップした「本体」が、勢いよく復活した。


「……大きくなったから、出ましたわ……。おかえりなさませ、久我様の久我様」


「サヤカさんのメイド感!ってかその名前で呼ぶな!!」


インカムが、淡々と割り込む。


『霊的負荷による一時的退避と、反動による増幅。

……久我さん、結果的に“強化個体”です』


「嬉しくねえよ!」


(……戻ったのはいいけど、体の奥に溜まってた“何か”まで、きれいに持っていかれた気がする。下半身が妙に軽くて、拍子抜けするほどスッキリしてやがる……)


《独白⑤:種だけ》 ――象徴を取ったなんて冗談。だけど、『種(熱)』だけはもらったわ。


エピローグ


翌朝。事務所。 サヤカがなぜか晴れやかな顔で、山盛りのマツタケを食卓に並べる。


「復活祝いです! 建物にまでモテるなんて、久我様はやっぱり人外にモテますわ!」


ユウキが端末を見ながら告げる。


「報酬に、追加がありました。オーナーから『スッポンドリンク』も。あそこだけ10代の猛猛しさだそうですよ。物件の満足度も、非常に高いとのことです」

と……物件の正式な評価書」


「評価書?」


「はい。

“居住満足度:非常に高い。ただし――夜間、壁が少し温かいことを除けば”」


久我は、マツタケを口に運びながら、箸を止めた。


「……温かい?」


ユウキは一瞬だけ言葉を選び、画面を閉じる。


「ええ。“まだ、覚えているようです”とだけ」


事務所の蛍光灯が、いつものようにチカチカと瞬いた。


《独白⑥:日常へ戻る家》 ――また、誰かが来る。 私は、いつまでも待てる家だ。 彼の熱、まだ壁の奥に残っている。 次は、誰を愛してあげようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ