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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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乳が語る真実

乳が語る真実


夜の路地裏。湿ったアスファルトに、女の悲鳴が吸い込まれていく。 「きゃっ……! 誰か……!」 フードを深く被った女が壁際に追い詰められていた。


久我は足を止める。「……またか」 逃げるチンピラ。残る女。 「大丈夫ですか」


女は小さくうなずいた。久我の右手が――「サイコメトリーの導火線」が火花を散らす。 「……業務を遂行します。失礼」


もみゅ。


ハリのある胸に触れた刹那、脳内に情報の津波が押し寄せる。伝わってくるのは恐怖ではなく、「推しに触れられたオタクの歓喜」だ。そして、いつも通り逃げたチンピラも彼女が仕組んだ自作自演だった。


「……もう、今日で三回目ですよ、1号さん」


久我は無機質に手を離した。 「あなたは“助けてほしい”んじゃない。俺に揉まれる口実を作りたいだけだ」


沈黙。女はゆっくりとフードを下ろした。そこには、三日前とは別人のメイクを施した古株――1号・カスミがいた。唯一、この不毛な現場で久我の心を癒やしてくれる、可憐な美少女だ。


「……チッ、見つかっちゃいましたか。さすが久我さん」


カスミは不敵に笑う。その笑顔だけは確かに可愛い。だが、その可愛さすら、今や久我を追い詰める凶器でしかなかった。そこへ、暗闇から相棒のユウキが悠々と姿を現した。


「久我さん、早くしてください。次は48号のウメさんと102号のカズコさんが待機中ですから」 「ああ……」


久我はガックリと肩を落とした。 (俺のファンはカスミちゃん以外、ほぼ年齢層が高めなんだよな……。100人もいて、なぜこの子以外は、みんな“お達者クラブ”なんだ。触りたいはずのハリのある美乳は唯一カスミちゃんだけなんだ)


それでも久我は、自分が100人以上の女性をナンバリングして管理しているという、奇妙な優越感に浸っていた。だが、カスミが突き出したスマホの画面を見て、そのプライドは粉々に砕け散る。


そこには、女性たちが共有する裏サイト『揉み手格付け胸部門ランキング』が表示されていた。


「久我さん。残念だけど、あなたは今日から『下揉げじゅうの3位』よ」


「下揉の……3位!? 100人以上を相手にしてる俺が、なぜそんなに低いんだ!」


「ウフフ、頑張ってね。今のあなたは『事務的で作業が速いだけの早漏』なのよ。ちゃんといかせてあげなきゃダメね。久我さん、サイコメトリーと除霊に集中しすぎて、胸を揉む行為が完全に“流れ作業”になっちゃってるのよ」


「……何だと?」


「あなたの右手は確かに凄いわ。でも、情報の解析ばかり優先して、私たちの肌をただのハードディスクか何かだと思ってない? もっと丁寧に、一人ひとりの心に寄り添わなきゃ」


カスミのスマホを覗き込むと、そこには驚愕の事実が記されていた。 【総合部門ランキング・上揉じょうじゅう1位:ユウキ】


「ユウキくん……君が……!しかも胸部門ランキングでなく、総合ランキングだとッ」


久我は絶句した。女性たちの心を完璧に理解し、精神的な満足度で頂点に君臨していたのは、無能力者の相棒、ユウキだったのだ。


「ああ、久我さん、ごめんなさい」 ユウキは残酷なほど爽やかに笑った。 「本職、取っちゃいましたね。僕は胸だけに拘らず、揉まれる側が今何を求めているか……その心のリズムを捉えるのは、僕の方が上だったみたいですね」


夜風が吹く。 100人を超えて調子に乗っていた久我は、実は「一番下のランクの作業員」として評価されていたに過ぎなかった。


「久我さん、ボサっとしてないで! 次は150メートル先で82号のトメさんが緊急とのことです! 巻きで行きましょう!」 「……わかったよ……クソッ!!」


ユウキの屈託のない笑い声が響く中、久我は虚しく夜の闇へと駆け出した。 唯一の希望である可愛いカスミを背にして、次に待つ「82号・トメ(88歳)」のもとへ。


その背中は、どんな悪霊よりも悲しく、そして何より「事務的」だった。


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