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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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白銀のイチャパラ地獄変 〜除霊と暗黒物質(メシマズ)と、滅びゆく愛の果てに〜 【後編】地獄の目覚めと、赤い悪魔の帰還

白銀のイチャパラ地獄変

〜除霊と暗黒物質メシマズと、滅びゆく愛の果てに〜


【後編】地獄の目覚めと、赤い悪魔の帰還


6. 爽やかな絶望の朝と、暗黒のポタージュ

翌朝。ロビーのソファーには、一晩中「アオイという名の概念」と戦い続け、精神が磨り減って10キロ痩せたような久我の「死体」が転がっていた。

その顔には、幸福と絶望が五分五分で混ざった、最悪の笑みが貼り付いている。そこへ、アオイが軽快なスキップでやってくる。


「久我さん、おはよ! 昨日、せっかくなのに体調悪そうで残念だったから……これでエネルギーを出してね♡」


アオイが差し出したのは、ドロリとした粘り気を持つ『スッポンとエナジードリンクの暗黒ポタージュ』。表面には虹色の油膜が浮き、時折「プクッ」と不吉な気泡が弾ける。 久我は震えながら、遠くの山を見つめた。


(見るからに怪しい……。あぁ、サヤカさんの鉄拳制裁の方がマシだ。物理的な痛みの方が、この概念的な破壊より数倍マシだ。あれをくらって病院へ逃げ込みたい……)


そこへ、上機嫌なユウキとリナが登場する。


「久我さん! お熱い夜だったようで。顔が土気色ですよ? ……おや、何ですかこの、飲むだけでドーピングに引っかかりそうなドリンクは?」


ユウキはニチャァ……と笑い、その劇物を手に取った。



「おっ、いいですねぇ! 精力爆発しそうだ。昨日の夜はリナが激しくて頑張りすぎちゃったんで、ちょうど良いな。いただきます」


「ユウキくん、やめた方が——」


久我の制止も虚しく、ユウキは一切の躊躇なく一気飲みした。 数秒後。ユウキの爽やかな笑顔が凍りつき、顔面は急速にドス黒い土気色へ変貌する。


「……あ、れ? 久我さん、窓の外に……三途の川の対岸で、シュールストレミングを振り回しながら手招きするおじいさんが見えるんですけど……」


ユウキは白目を剥き、立ったまま意識を喪失。そのまま膝から崩れ落ちた。


【エピローグ:深淵を覗く時】


白目を剥いて倒れ伏す親友の傍らで、久我は震える指先をアオイの胸に触れようとする。


久我は一瞬、ためらった。

この胸に触れれば、もう戻れない。

だが、見なければならない「何か」がある気がした。


サイコメトリーの残滓が、彼の脳裏に決定的な光景を叩きつける。


視えたのは、今朝の厨房。 そこには、ペンションのオーナー(元・板前)が、アオイの「隠し味」を味見した瞬間に泡を吹いて卒倒し、その代わりにアオイが鼻歌を歌いながら、大鍋にスッポンを丸ごと(生きたまま)と、過剰なほどのエナジードリンクを注ぎ込む姿があった。


「……アオイ」


「なあに? 久我さん」


「やっぱりこれって……オーナーじゃなくて、君が『調合』したやつだよね?」


アオイは、雪のように純真な笑顔で答えた。


「うん! オーナーさん、急にお昼寝(気絶)しちゃったから。久我さんに元気になってほしくて、私が真心を込めたんだよ♡」


久我は、自らの胃壁が「もう許してくれ」と悲鳴を上げるのを感じた。


(……ああ、やっぱりそうだ。このペンションの霊をデリートしたのも、ユウキを三途の川へ強制送還したのも、全部……君の『愛』だったんだな。お前が見ているおじいさんは、きっとオーナーの生き霊だ……)


久我が、自暴自棄になって残りのポタージュで自決しようとしたその時。 スキー場の入り口から、「ドドドドド!!」という凄まじいエンジン音と共に、真っ赤なスポーツカーが雪を跳ね飛ばして突っ込んできた。


運転席から降りてきたのは、逆立つ怒髪を抑えることもせず、仁王立ちするサヤカ。その手には「お祓い棒」と「強力胃薬」が握られていた。


「久我さまぁ!! リナ様からLINEで逐一報告を聞いてたわよ! アオイ様とダブルベッド!? この『歩く公然わいせつ』がぁ!! その浮ついた胃袋ごと、私が分子レベルで叩き直してあげるわ!!」


久我は、その般若のような形相を見て、生まれて初めて「救世主メシアが来た」という至福の表情を浮かべた。


「サヤカさん……。頼む、一発で……俺を、俺の意識を宇宙の彼方へ飛ばしてくれ……」


ドカッ! バキッ! ドゴォォォン!!


小気味よい破壊音と共に、サヤカの鉄拳が久我の顔面にめり込む。久我の意識は瞬時にホワイトアウトし、胃の中の暗黒物質さえもサヤカの「正妻の怒り」によって中和されていく。


7. 終幕:タケシの放棄、そして地獄のハーモニー


雪の上には、殴られて幸せそうにニヤついて気絶した久我。 白目を剥いて死後硬直のようなポーズで固まったユウキ。


「この程度で死なせはしないわよ!」と久我の襟元を掴んで揺さぶるサヤカ。


そして、その横で「久我さん、死んじゃいやあああ。もっと栄養摂ってぇぇぇ」と泣きながら、追い打ちのようにポタージュを口に注ぎ込もうとするアオイ。


それを見て、リナが腕を組んで呆れ顔で呟く。


「……殴られてニヤつくなんて、やっぱり変態よ。ていうかユウキくん、早く起きて。置いていくわよ」


そこへ、ようやくレンタルスキーの調整を終えたタケシが到着した。


「……みんな、おまたせ。遅れてごめ……」


タケシは、目の前の地獄絵図——バイオレンスとメシマズと性癖がクロスオーバーした光景を網膜に焼き付けた。 状況を理解しようとして、 3秒で理解を放棄して、 スキー板を雪に突き刺し、最後に絞り出した一言。


タケシ「……!? うん、帰っていいかな?」


白銀のスキー場に、アオイの純粋な笑顔と、サヤカの怒号、そしてユウキのうめき声が、奇妙なハーモニーとなっていつまでも響き渡っていた。

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