白銀のイチャパラ地獄変 〜除霊と暗黒物質(メシマズ)と、滅びゆく愛の果てに〜 【前編】
白銀のイチャパラ地獄変
〜除霊と暗黒物質と、滅びゆく愛の果てに〜
【前編】雪上の人間魚雷と、死を呼ぶダブルベッド
1. 昭和の残像と、揺れるEカップ
白銀のゲレンデ。マイナス15度の極寒の中、久我はスキー板をハの字にして震えていた。親友のユウキ、そのサークル仲間であるリナ、アオイ。遅れて合流予定のタケシを除いた一行は、表向きはスキー旅行、裏の目的はペンションの除霊調査にやってきたのだ。
「おい、ユウキ! なんで俺だけスキーなんだよ!」
「いいじゃないですか久我さん、昭和のトレンディドラマみたいで。リナたち女子軍団は今時のスノボですから、久我さんは古風に二本の板で踏ん張ってください(ニチャァ)」
リナがタイトなウェアに包まれた、雪をも溶かす熱量を持つEカップを揺らしながら、スノーボードで鮮やかに雪を蹴散らしていく。彼女は一旦停止すると、久我を指さして叫んだ。
「ちょっとユウキ、改めて言うけど、なんでこの『エセおっぱい探偵』を連れてきたのよ。せっかくの久々の二人きりと思ってたのに、視界に入るだけで胸のあたりがザワザワするんだけど!」
リナは吹雪の中でも主張を激しく繰り返す自慢の胸を抱え込み、防衛体制をとる。かつて久我が彼女をサイコメトリーするために、その重厚な肉塊を全力で揉みしだいて以来、彼女にとって久我は「変質者」と同義だった。
「まあまあ。久我さんはこの先のペンションの怪奇現象を調査するために僕が呼んだんだ。……もっとも、調査の半分はリナの胸の中で行われてるみたいだけど(笑)」
「ねぇ、さっきから、美乳だからって私のおっぱいばっかり見ないでよね」
「ついつい、すまん、職業病でな」
ユウキの爽やかな笑顔。しかしその瞳の奥には、親友を「性癖の崖っぷち」に追い込むことを楽しむサディスティックな光が宿っている。
2. 制御不能の人間魚雷
そこへ、初心者アオイのスノーボードが制御不能の魚雷と化として突っ込んでくる。
「きゃああああ! 止まらない! 止まらないのぉぉぉ!」
斜面を直滑降で猛スピードダウンしてくるアオイ。その先には、久我がいた。
「アオイしゃん、危ない! 俺を受け止めろ、いや俺が受け止める!」
久我はストックを投げ捨て、両腕を広げた。ドォォォン! という衝撃音と共に、アオイの柔らかい体が久我の胸に飛び込む。二人はそのまま雪山を転げ落ち、真っ白な煙を上げて止まった。
雪の上で仰向けになった久我の上に、アオイが重なる。アオイの控えめなAカップが、久我の胸板に押し付けられた。リナのような質量はないが、そこには確かな「愛」の鼓動があった。
「あ、久我さん……ごめんなさい、私……」
「アオイさん……大丈夫か?君は俺が死んでも守るッ」
密着したまま見つめ合う二人。なんだか良い感じの空気が流れ、雪の結晶が二人のまつ毛に降り積もる。吐息が触れ合い、吸い込まれるように唇が重なろうとしたその瞬間。
「おーい! いつまでそこで『雪山心中』ごっこしてるんですかー? いつまでくっついてるんですか(笑)」
上から滑り降りてきたユウキの邪魔が入り、二人は慌てて離れた。これが、地獄の一夜の幕開けだった。
3. ユウキの「悪魔的」な部屋割り
スキーを楽しんだ後、一行が辿り着いたのは、霧の中に佇む古びたペンション『雪止』。チェックイン時、ユウキが脂の乗った笑顔で鍵を差し出した。
「久我さん。リナが『変質者と同じフロアは死んでも嫌』と言うので、僕らは別棟です。久我さんは……愛しのアオイさんと二人きり、本館最上階の角部屋、ダブルベッドにしておきました。壁が薄いから、あんまり激しくしないでくださいね?(ニチャァ)」
「ユウキ……! 貴様、地獄に落ちたら真っ先に俺が迎えに行ってやるからな……なんてな、マジで最高だ!」
久我は震える手で鍵を受け取った。今夜、天敵である「鋼鉄の正妻」サヤカはいない。目の前には、久我の能力を「光」と言ってくれる唯一の女神、アオイがいる。
「やっぱり、おっかないサヤカさんより、僕だけの天使アオイさんだよな」
4. 消失した「落ち武者」の謎
もはや一級の除霊師の腕前と言っても過言ではない久我は密かに壁に触れた。このペンションは、かつて惨殺された落ち武者たちの呪いが渦巻く事故物件だ。
(……おかしい。霊気が一ミリも感じられない。それどころか……)
久我の脳裏に視えたのは、「絶叫しながら分子レベルで崩壊し、成仏すら許されず無に還っていく霊体」の残像だった。何かが「浄化」を超えた暴力的な「消滅」をこの場所にもたらしている。
「久我さん、そんなに壁を撫で回して……もう、私に触りたいの?」
アオイが顔を赤らめて首を傾げる。
「いや、違うんだアオイさん。ここにはもう、幽霊の一匹も残っていない。何かが、この場所を『浄化』という名の『焦土』に変えたんだ……」
久我は、この尋常でない「無」の気配の正体が、まだわからなかった。
5. 運命の「あーん」、そして臨界点(急降下)
部屋は二人きり。ダブルベッドの上で、アオイがタッパーを取り出した。
「久我さん、今日のために練習してきたの。……はい、『あーん』」
アオイが差し出したのは、漆黒の塊「オーガニック・プロテイン・ブラウニー」。
しかし、 その瞬間、久我の脳裏に激痛が走った。以前、アオイのクッキーを食べた際、心臓が一度停止し、死にかけたあの記憶。
(……また、あれを食うのか? 死ぬぞ。確実に死ぬぞ、久我!)
久我のサイコメトリーが、ブラウニーから「ウラン235」並みの崩壊エネルギーを察知し、本能が全力で退避を命じている。 だが、アオイの潤んだ瞳が久我を見つめる。
「……練習したんだ。上手くなってるかもしれない。アオイさんの努力に、俺は応えなくていいのか!?」
久我は決意した。これは食事ではない、信仰だ。
「アオイ……信じてるぞ」
久我は覚悟を決め、それを口に含んだ。
その瞬間、味覚神経が「緊急事態宣言」を発令。脳内でオーケストラが不協和音を奏でるが、久我は愛の力で飲み込んだ。
「おい……しいよ。アオイ……」
「本当!? 嬉しい! じゃあ、ご褒美に……」
アオイがふわりと久我の膝の上に乗り、その控えめなAカップを久我の胸板に押し当てる。吐息が混じる距離。
「久我さん……」
久我は吸い込まれるようにアオイの肩を抱き寄せ、その平坦で愛おしい胸元にそっと手を添えた。
6. サイコメトリーが視せた「真実」
その刹那、アオイの平坦で愛おしい胸元に触れた指先から、制御不能のサイコメトリーが奔流となって久我の脳内に流れ込んだ。
視えたのは、数時間前、夕闇に包まれた厨房の光景だ。 アオイは鼻歌を歌いながら、持ち込みの大きな鍋に「何か」を注ぎ込んでいた。工業用薬品のように禍々しい紫色の液体が泡を吹き、その中には、カブトムシの角が生えた異形のクリーチャーの死骸が、原形を留めぬままドロドロに溶けている。
その強烈な瘴気に引き寄せられるように、床下の隙間や壁の裏から、青白い火の玉と共に「落ち武者の霊」たちが這い出してきた。
「オノレ……生キ残リノ女カ……。呪ッテヤル……八ツ裂キニシテ……」
血走った眼、欠けた日本刀。数十体の怨念が、包丁を握るアオイの背後に迫る。リーダー格の落ち武者が、腐り落ちた手をアオイの細い首筋に伸ばした、その時。
アオイはふと手を止め、小首を傾げた。 「あら……? なんだか今、後ろの方で『隠し味が足りないぞー』って聞こえたような気がするな……」
アオイは笑顔のまま、背後を振り返りもせずに、空いた左手で背後の空間を「むんず」と掴んだ。 本来、物理的に触れられるはずのない霊体。しかし、アオイの指先が触れた瞬間、落ち武者の霊は「ヒィッ!?」と情けない悲鳴を上げた。アオイの放つ「純粋すぎる愛」という名の負のエネルギーが、霊体の構成分子を無理やり物質化させていた。
「ちょうどよかった! スパイスが足りないと思ってたの」
アオイは、逃げ惑う落ち武者の霊の襟首を掴み上げると、ゴミ箱にポイ捨てするかのような軽やかさで、煮えくり返る紫の鍋の中に「ドボン」と叩き込んだ。
「グアアアアア! 死んでるのに、さらに死ぬぅぅぅ! 魂が……魂が熟成されていくぅぅぅ!!」
落ち武者は鍋の中で瞬時に「旨味成分」へと分解され、成仏すら許されず、ただの『怨念風味の出汁』へと成り果てていく。仲間の惨状を見た他の霊たちが絶叫しながら逃げ惑うが、アオイの鼻歌が響くたび、見えない圧力が彼らを逃がさない。
「えいっ、えいっ、隠し味になーれ♡」
アオイがおたまを振るたびに、落ち武者の霊たちは「味付け」として次々と鍋に吸い込まれ、分子レベルでデリートされていった。かつてこのペンションを恐怖のどん底に叩き落とした怨念の塊は、今やアオイのブラウニーの「コク」として完全に制圧されていたのだ。
(……そうか。除霊してたのは、アオイの料理そのものだったのか!)
真実に気づいた瞬間、久我の胃の中のブラウニー(元・落ち武者の霊入り)が、かつての恨みを晴らすかのように核融合を開始した。
「ぐっ、あああああ……! 腹の中で……落ち武者が……暴れている!!」
「久我さん!? 顔が蛍光グリーンを通り越して七色に発光してるよ!?」
「ごめん、アオイ! 俺、ちょっと宇宙の果てまで『魂の放流』に行ってくる!!」
「えっ、待って久我さん! いま、合体が始まるところだったのに!」
久我は千載一遇の初夜を放り出し、半脱ぎのズボンを必死に引き上げながら廊下を爆走した。背後でアオイが、頬を染めて寂しげに呟いた。
「久我さん……もしかして、私との密事が『宇宙の始まり』すぎて、耐えられなくなっちゃったのかな?」
久我の戦いは、今、別の意味で始まったのだった。




