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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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第19話:銀河の彼方で、あるいは初めての感情

第19話:銀河の彼方で、あるいは初めての感情


前話(18話)からの続き


転送光の中で消えたはずのエリスは、

次の瞬間――銀河帝国第8艦隊・旗艦の個室に叩き出されるように転送されていた。


「……はぁ……はぁ……」


鎧を脱ぎ捨て、壁にもたれかかる。

呼吸が荒い。

視界がわずかに揺れる。


心拍数、体温、神経伝達速度――

すべてが警告域。


(……ありえない……)


拳を握る。指が震えている。


(……たった一瞬の接触で……この私が……)


銀河最強の戦士。

感情制御指数・Sランク。

恐怖も動揺も知らぬはずの存在。


その彼女が――


無意識に、胸元に手を当てる。


(……柔らかい……)


一瞬で、我に返る。


(……じゃなくて!! そうじゃなくて!!)


慌てて手を離す。


「……っ……」


顔を振る。


(……なに……考えてるの……私は……!)


侵略中止報告を端末に入力する。


侵略作戦:中止

理由:地球人類は……危険

精神汚染のリスクが高すぎる……


指が震え、文字がわずかに歪む。


「……送信……」


完了表示。


……の、はずなのに。


脳裏に浮かぶのは――

あの地球人の顔。


呆れたようで、

やけに真剣で、

距離感が異常に近い目。


「……許さない、とか……普通に言ってたな……」


思い出して、なぜか喉が鳴る。


(……下等生物のはずなのに……)


また、胸に手を当てる。


(……なんで……あの人の顔が……消えないのよ……)


エリスは、未知の症状に戸惑っていた。


侵略対象に対して、

敵意でも恐怖でもなく、

妙な引っかかりを覚えている自分に。


(……これ……なに……? バグ……?)



その頃、地球


久我はコンビニのホットスナックをかじりながら、ぽつりと呟いた。


「なあユウキくん。さっきの人さ……なんか、怒ってたけど……嫌われた感じじゃなかったよな?」


ユウキは一拍置いて、真顔。


「それを“フラグ”と呼ぶんですよ、久我さん」


「なにそれ。宇宙人にもあるの?」


「ええ。しかも最悪のやつです」


久我

「こわっ」



夜空の遥か彼方


エリスの艦は、侵略モードから観測モードに切り替わっていた。


目的:

地球人・久我奏太

感情異常の原因究明のため。


そして――


銀河史上初の

「侵略対象に興味を持った宇宙人」が、誕生していた。


エリスは個室で観測モニターを起動する。


「……ただの……定期観測よ……ただの……」


誰にともなく言い訳しながら、地球の一室を映す。


そこにいたのは――久我。


部屋は薄暗く、カーテンは閉じられ、

光源は……モニターだけ。


「……」


エリスの眉が、ぴくっと動く。


久我は椅子に座り、やけに姿勢がぎこちない。

足を組み替え、

咳払いをし、

なぜか深呼吸。


「……なに……してるの……?」


画面の中で、久我がマウスを少し動かし、止め、また動かし、止める。


視線はモニターから離れない。


「……集中……集中……」


独り言。


エリスは、じわっと前のめりになる。


(……戦闘準備……? いいえ……構えが……変……)


久我が椅子の高さを微調整。


エリス「……っ……」


(な、なんで……そんなに真剣なの……)


モニターの光が、久我の顔を照らす。

その表情が……やたら必死。


エリスの喉が鳴る。


「……まさか……儀式……? 地球の……繁殖儀式……?」


自分で言って、目を見開く。


「……っ!? い、いえ……違う……わよね……?」


久我が、なぜかティッシュ箱を手元に寄せる。


エリス「……」


完全フリーズ。


(……え……? え……? ちょっと待って……)


久我が画面を凝視し、

一瞬、唇を噛む。


エリスのバイザーが、赤く点滅。


「……っ……な、なに……して……るの……この人……」


胸に手を当てる。


(……心拍数……上がってる……なんで……)



乱入ユウキ


ドアの外から、ユウキの声。


『久我さん?』


久我「!? ま、待て!! 今……その……」


慌てて何かを操作。

モニターの角度が不自然に変わる。


エリス「……」


(……隠した……? 今……隠した……!?)


ユウキの足音が遠ざかる。


久我は深く息を吐き、椅子に沈み込む。


「……助かった……」


そして――

何事もなかった顔で、またモニターを見る。


エリス「……」


(……二回目……!?)


思わず、椅子から立ち上がる。


「……ちょ、ちょっと……! 侵略対象が……何を……一人で……!」


頬が熱い。


(……エッチ……なの……? 地球人って……みんな……? それとも……この人だけ……?)


バイザーを外し、額を押さえる。


「……やだ……私……なに……見て……」


でも――

視線は、モニターから離れない。


「……だ、だって……気になるじゃない……」


小さく、言い訳。


「……観測よ……これは……必要な……観測……」


画面の中で、久我がまた姿勢を正す。


エリスの肩が、びくっと跳ねる。


「……っ……もう……!」


モニターを消そうとして、

指が止まる。


……三秒。


そっと、戻す。


「……やたら……見ちゃう……」



その頃、ドアの外


ユウキは久我の部屋の前で足を止める。


中から聞こえるのは、妙に静かな気配と、

規則的な……マウスの音。


「……」


ドア越しに、ほんの一瞬だけ“違和感”。


ユウキは、そっと天井を見上げる。


「……通信ノイズ……?」


眼鏡を指で押し上げ、周囲を観察。


空間の歪み。

目に見えない“視線”。


(……いますね……)


部屋の中。

久我は相変わらずモニターを見つめ、やたら真剣な顔。


エリスは艦の個室で、前のめり。


「……なに……してるの……本当に……なに……」


その瞬間――


ユウキの視線が、エリスの観測ポイントを正確に捉える。


(……宇宙レベルの覗き……ですか……)


小さく、ため息。


ユウキはわざと、少し大きめの声で言う。


「久我さん。カーテン、ちゃんと閉めてますか?」


久我「え? ああ、閉めてるけど?」


エリス「……っ!?」


モニターの前で、びくっと跳ねる。


(……見えてる……!? この地球人……気づいて……!?)


ユウキは、天井に向かって淡々と。


「……盗聴・盗撮は、地球ではマナー違反です。

それと……プライバシー侵害は、だいぶアウトです」


エリス「……!?」


思わず、モニターの前で姿勢を正す。


(……な、なんで……分かるの……!?)


久我「? ユウキくん、誰に話してるんだ?」


ユウキ、にこやか。


「独り言です」


(※完全に嘘)


そして、低い声で付け足す。


「……それと……“彼”は、特に無防備なので……

あまり刺激しない方が……身のためですよ」


エリスのバイザーが、真っ赤に点滅。


「……っ……な、なに……この人……怖……!」


慌てて観測角度を下げる。


(……バレてない……わよね……? バレて……ない……)


ユウキは小さく息を吐く。


(……やはり……宇宙案件……)


(……そして……久我さんは……相変わらず……自覚ゼロ……)


部屋の中で、久我が首を傾げる。


「なんか今日、ユウキくん変じゃない?」


ユウキ

「いいえ。通常運転です」



オチ:包囲完了


遠い宇宙。


エリスはモニターを閉じ、胸を押さえる。


「……あの眼鏡……危険……」


でも、指は――

また、観測ボタンの近くにあった。


「……でも……見たい……」


銀河最強の戦士は今、

地球の一般人と、

その冷静すぎる監視役に、完全に包囲されていた。


侵略は中止。

撤退も不可能。

視線は固定。


詰み。




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