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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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第18話:未知との遭遇、あるいは銀河系一の事案

第18話:未知との遭遇、あるいは銀河系一の事案


深夜の臨海公園。

海風に混じって、どこか焦げたような匂いが漂っている。


久我は、ユウキから聞いた「最近、このあたりで発光する奇妙な人影が出る」という噂を調査しに来ていた。


「久我さん、あそこです。街灯の下に……何か不自然なほど左右対称の人間がいます」


ユウキが指差す先には、メタリックな光沢を放つスーツに身を包んだ、異様にスタイルの良い人物が立っていた。

頭部には奇妙なバイザー。周囲の空間が、ノイズのようにわずかに歪んでいる。


「……ありゃ、新型の霊か? それとも、最近流行りのコスプレイヤーか?」


久我はいつものように、右手の関節を鳴らしながら歩み寄った。


その「人物」――銀河帝国第8艦隊・先行調査員エリスは、心の中で冷徹なカウントダウンを行っていた。


(……まもなく、我が母星の侵略艦隊がこの惑星を灰にする。私は座標を送信するのみ。下等な地球人よ、さらばだ……)


彼女が手首のデバイスに指をかけた、その瞬間。


「おい、アンタ! こんなところで何して――」


久我の右手が、背後から音もなく伸びてきた。


「……あ、待て、これ霊じゃねぇ! 質感が……なんかツルツルした高級外車みたいな……でも、この奥にあるのは……」


「むにゅっ」


エリス「……!?!?」


指先に伝わる、地球の物理法則では説明のつかない反発力としなやかな弾力。

それは、生命の神秘が詰まった未知の質量だった。


久我「……柔らかっ! え、何これ、すげぇ柔らかいんだけど! てか、アンタ……女だったのか!?」


エリスのバイザー内部で、警告ランプが一斉に点滅する。


(な……なにが起きている……!? 侵略対象が……私の胸部装甲を……!?)


生まれて初めて体験する「恥辱」という概念に、銀河最強の戦士の思考回路が完全にフリーズした。


久我「あ、視えるぞ! ユウキくん。この人の記憶……。なんか、空からいっぱい船が降ってきて……地球をドカンとするつもりなのか!? そんなの、僕が許さない!」


久我の右手から、除霊の代わりに

「地球人の煩悩と執着」が、逆流する。


恋愛、欲望、食欲、家族、くだらない日常、どうでもいい幸せ。


すべてが、直接エリスの脳内へ叩き込まれた。


「何万光年も旅してきて、やることが爆破かよ! もっと楽しいこといっぱいあんだろ! ほら、こういう感触とかな!」


エリス「ひっ……ああああっ!? な、何、この不潔なエネルギーは……! 侵略どころか、精神が……汚染される……っ!!」


彼女は真っ赤な顔で久我を突き飛ばした。


久我「うわっ!? ……宇宙人じゃん、お前!!」


「チ、地球人……なんて野蛮な……! 触れただけで、こちらの生体記録をここまで汚すなんて!」


エリスは震える声で叫ぶ。


「侵略中止! こんな破廉恥な種族、関わりたくもないわ!!」


手首のデバイスを操作すると、転送光と共に夜空へと消え去った。


直後、空を覆いかけていた巨大な影――侵略艦隊も、蜘蛛の子を散らすように撤退していく。


静まり返った臨海公園。


久我は、自分の右手をじっと見つめていた。


「……逃げられた。結局、何だったんだあいつ? 宇宙人とか言っちゃったけど、コスプレの頭のキレてるお姉さんだったのかな」


ユウキは、空の彼方で爆発的に加速し、銀河の外へと逃げ去っていく光の粒を見上げながら、震える声で呟いた。


「……久我さん。今、間違いなく地球が滅びかけて、あなたの『むにゅ』がそれを防ぎましたよ。史上最も破廉恥な、世界平和の瞬間でした」


「なんだよそれ……。でもさ、あいつの質感、なんか凄かったな。シリコンとも違う、こう……銀河級の柔らかさっていうか」


「一生、その右手の感触を墓まで持っていってください。……ほら、通報される前に帰りましょう」


久我の右手は、地球を救った英雄の証として、ほんのりと青白い銀河の熱を帯びていた。

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