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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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第6話:温泉旅館と絶望の女湯、あるいは覗きの代償

探偵は胸を揉む:『霊感パイコメトリー・オブ・ザ・デッド』


第6話:温泉旅館と絶望の女湯、あるいは覗きの代償

1. 忌まわしき「聖域」


深夜、山奥の老舗旅館『霧深亭』。木造廊下の突き当たり、「女性露天風呂 →」と書かれた看板は湿気で黒ずみ、まるで怨念が滴り落ちているかのようだった。その先には、深い緑が夜の闇に溶け込み、白い湯気が立ち込める「禁断の聖域」が広がっている。


「ユウキくん、聞こえるだろ……? 何かいる……!」 久我奏太は岩陰でガタガタと震えていた。今回の依頼は女将の切実な訴え。


「深夜の女湯から悲鳴が続くんです……。でも中を確認しても誰もいない。代わりに、肌をなめるような執拗な“視線”だけが、満ちていて……」


「……あ、あとですね。男湯の方でも、ごく稀にですが“誰かに見られている気がする”って苦情が出ることがあるんです。まあ、気のせいだとは思うんですけど……」


ユウキは冷静に特殊スコープを調整しながら、その場の空気を読み解く。


「最近の僕たちは霊力が上がっていますからね。視力も霊的な感度も、もはや常人の域を超えている。すべてがクリアに見えすぎてしまうのも考えものですね。……久我さん、知っていますか? この露天風呂、数ヶ月前に覗き魔の男が転落して溺死しているんですよ」


「じゃあ、犯人はその覗き魔の霊か!?」

ユウキは首を横に振る。


「いいえ。問題は『覗かれた側』です。過去、覗かれながら恥ずかしさと恐怖、そして激しい憤りの中で亡くなった女性たちの怨念が、時代を超えてここに集まっているんです」

久我の背中が凍りついた。


「……そんなの、僕が覗きに行ったら八つ裂きにされるじゃないか!」


2. 八人の絶世の怨霊


ふと横を見ると、ユウキがいつの間にかバスタオル一枚になり、久我の耳に小型インカムをねじ込んでいた。


「え、ユウキくん、なんで脱いでるの?」


「何って、僕も調査ですよ。僕は、あちらの男湯からアプローチしますから、久我さんは、さあ、女湯で、幽霊の闇を覗いてきてください」


「言い方が不謹慎すぎるだろ!! 探偵に覗きを強要するな!!」


ユウキに蹴り飛ばされ、久我は露天風呂へと視線を向けた。 ザッ……ザザザ……。湯煙が揺れる。最初に見えたのは、3つの人影だった。


「(……ヒッ! 本当にいた! でも……なんてレベルの高い美少女たちだ。さも、人間かのようだ……)


久我の目は釘付けになった。現代的なスタイルの女子大生。瑞々しく張り詰めた胸元に、真珠のような湯の雫が転がり、ピンク色の尖端が湯気の中で密やかに主張している。その隣には、妖艶な色香を振りまく花魁。白塗りの肌が月光に照らされ、重厚な帯を解いた腰つきが、ありありとその肉感を伝えてくる。そして、明治の令嬢が絶望の淵で、重厚な帯を解いた腰つきを無防備に晒す。


「……え、3人? いや……違う……」


湯気が、さらに濃くなる。

霊力が否応なく引き上げられ、久我の視界が“合ってはいけない焦点”に合わさる。


昭和の看板娘、戦後の未亡人……。

それ以上は、輪郭すら定まらない“女たちの気配”だった。年代も名も、すでに溶け合い、ただ「見られた記憶」だけが湯に漂っている。


「……まだ、いる……!」


そこに浮かび上がったのは、この世のものとは思えないほど鮮明で、艶めかしい「8体」の裸体だった。


「(やばいよ……本物にしか見えない。なんて美しさだ……)」 久我の鼻から、赤い筋が垂れた。その瞬間、インカムからユウキの声がした。


『久我さん。鼻血を拭いてください。彼女らの恨みは“視線”に宿ります。見られる恐怖を、あなたに反射しているんですよ』


「そんなこと言ったって……! 待てよユウキくん、なんで僕が見ている光景をそんなに詳しく実況できるんだ? お前、まさか僕の視界を共有して、男湯でくつろぎながら覗いてるんじゃ――」


その時、霊たちの目が一斉に吊り上がった。

『……ミツケタ……ノゾキ魔……殺ス……』


3. 背徳の除霊と「八人目」の正体


久我は戦慄した。8つの裸体がズザッ!と湯面を滑りながら、一直線に追尾してくる。万事休す。完全に覗き魔として認定され、なぶり殺される――そう確信し、久我が絶望の淵に立たされたその時だった。


「ガボッ! ゴボボボッ!!」

岩陰から、大きな泡と共にシュノーケルをつけた男が勢いよく引きずり出された!


『アア〜〜〜〜!! 見ツカッタァア!!』


絶叫したのは、岩の隙間に潜んでいた本物の覗き男だ。霊たちが一斉に男へと振り向いた。


次の瞬間、覗き男は悲鳴を上げる間もなく、八つの“視線”に縫い止められた。逃げ場はなかった。見られることを恐れ続けた女たちの怨念が、今度は彼を、骨の髄まで“観察”し尽くす。


霊たちが一斉に視線を向けた瞬間、男の存在は――“見られる側”として、音もなく溶けた。


『久我さん、今です。本物の覗き魔がヘイトを買っている隙に、能力で胸を触って除霊を』


「言い方! だがやるしかない!」 久我は死に物狂いで、最も近くにいた女子大生の霊へと右手を伸ばした。


ぐにゅり。


掌に、驚くほど柔らかく、弾力に満ちた肉の感触が伝わる。久我は無我夢中で、その豊満な胸を力強く揉みしだいた。霊力が高まっているせいで、指先には彼女の肌の熱までが伝わってくる。


「(……ッ、なんて柔らかさだ……!)」


その瞬間、サイコメトリーが発動し、脳内に生々しい記憶が流れ込む。


「……悲しい。みんな、ただ静かに癒やされたかっただけなんだ……なのに、あの卑劣なカメラが……!」

そこに映っていたのは、至る所に仕掛けられた盗撮カメラの映像だった。久我の共感と共に、一人が安堵の表情で光の中に消えた。 ――これで、残りは7人のはずだった。


覗き魔を瞬時に「処理」した7人は、今度は再び久我の方へと向き直る。


『ココニモ、イル……!』


怒り狂った霊団が、湯面を滑りように一直線に追尾してくる。


「ダメだ、多すぎる! 蹂躙される! 殺される!!」


『返シテ。私タチノ視線ヲ。返シテ……』

囲まれる。視線で全身を舐められる。恥辱と恐怖が混ざった呪いの感情。久我は錯乱しながらも、右手で顔を庇った。


だが、もみくちゃにされる寸前、久我は違和感に気づいた。


「……あれ? 数がおかしい。一人消したはずなのに……なんでまた8人いるんだ?」


目の前に立つ、この中で最も発育の良い「8人目」の裸体。それは、先ほどまでいたどの霊よりも美しい乳房で、不自然なほど「実在感」があった。


その直後、湯煙を割ってその裸体が悠然と言い放った。


「――原因の盗撮ユニット、すべて破壊したわッ!」


その声だけが、妙に“現実的”だった。


「……え?」


メイドのサヤカだった。彼女は最初から温泉の底に潜入し、怨念の核となっていた「現代の覗き道具」――盗撮カメラユニットをすべて粉砕して帰還したのだ。 カメラが壊れると同時に、囚われていた女性たちの霊は安らかな表情で夜空へ消えていった。


「サヤカさん……裸、素晴らしい……」

完璧な肢体を至近距離で拝んだ久我は、噴水のような鼻血を出しながら「成仏……」と呟いてパタリと倒れた。


4. 逃れられない「視線」


後日。事務所でボヤく久我に対し、ユウキは笑って答えた。


「問題ありません。今回はサヤカさんの物理除霊でしたね。健全な解決でしたよ。僕もいい湯でしたしね」


その時、ユウキの背後から、不自然なほどクリアに見える人影が這い出してきた。 シュノーケルをつけ、濡れた厚い胸板をぎらつかせる、巨大な男の霊。冒頭でユウキが語った、数ヶ月前に溺死した本物の覗き魔の霊である。


『いい体してるな、お兄さん……。男湯での裸、最高だったぜ……』


「……は?」

ユウキの表情が初めて凍りつく。


「そういえば、男湯の方で死んでたという覗き魔。そいつ、覗かれるのが大好きな変態マッチョ霊だったらしいぞ。霊力が上がった今の君には、そいつの毛穴までくっきり見えるだろ?」と勝ち誇る久我。


「サヤカさん……! 助けてください、今すぐ存在ごと消滅させてください!」

ユウキが悲痛な叫びを上げるが、サヤカは優雅にエプロンを整え、頬を染めて答えた。


「お言葉ですがユウキ様。わたくし、男性同士の……それも、このような『熱い執着』を感じる絡みは、たまらないですわ。想像するだけで、わたくしの魂も浄化されそうです。……あらマッチョ様、ユウキ様は耳の裏が敏感ですので、重点的に見守って差し上げて?」


『ぐひひ……いいこと聞いたぜ……』


「やめろ! くるな! 見るなーーー!!……見るなって、こんなにも恐ろしい言葉だったのか!」


ユウキは、最強のメイドと最強の変態霊によって、かつてない絶望の淵へと叩き落とされるのであった。


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