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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む:『霊感(パイ)コメトリー・オブ・ザ・デッド』

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第5話:究極の萌え、あるいは最恐のメイド

小説:『霊感パイコメトリー・オブ・ザ・デッド』


第5話:究極の萌え、あるいは最恐のメイド


「ユウキくん……なんでまたここに来るのさ。君の家にはサヤカさんっていう、本物のメイドがいるじゃないか」


繁華街のピンク色の看板、メイド喫茶『マジカル・ハート』の前で久我は呆れた声をあげた。


「……久我さん、誤解しないでください。僕は別に、ここに萌えを求めて来ているわけでは……」

ユウキは苦い顔で肩を竦めるが、その手にはバッチリ「ポイントカード」が握られている。しかも、常連中の常連しか持てない最高ランクのブラックカードだ。


「嘘つけ! 何回通ったらそんな色になるんだよ!」


「……最初は、モテない男たちの生態観察のつもりでした。ですが、ここに来ると必ず『不可解な現象』が起きるんです。……ほら、また来ましたよ」


ユウキが店内に一歩足を踏み入れた瞬間、店内の空気が一変した。 他の客には「お帰りなさいませ、ご主人様!」と黄色い声が飛んでいるのに、ユウキが席についても、店員の女の子たちは一人も近づいてこない。遠巻きに「ヒソヒソ」と話しながら、怯えたような、あるいは同情するような視線を送るだけだ。


「……おかしいな。ユウキくんみたいなイケメンでモテ男が来たら、冷やかしだとしても女の子が食いつくはずなのに。一回も接客されないって、出禁レベルの嫌われ方じゃない?」


「みんな、冷やかしだと思ってるんじゃないんです。……『先客』がいるのが見えているんですよ」


ひょっこりとユウキの背後から、エプロンドレスを着た、青白い顔の少女幽霊が顔を出した。


『ユウキおにい♡ 今日もお給仕してあげるねっ! 浮気はダメだよ?』


「ヒィィ! 出たぁ!!」

久我は椅子から転げ落ちそうになった。少女霊は、他の店員を威嚇するように、ユウキの首筋にべったりと張り付いている。


「この店に来るたび、この子がつくんです。他の店員さんが接客しようとすると、彼女が耳元で呪詛を吐くせいで、誰も僕のテーブルに来られない。……僕は、ただ普通にオムライスにハートを描いてほしいだけなのに!」


「本音が漏れてるよ!! メイドカフェにドハマりしてるじゃん!」


ユウキは真剣な表情で久我に向き直った。


「久我さん、お願いします。僕の平穏なメイドカフェ・ライフを取り戻すために……あなたのその、忌まわしい右手の能力で彼女を除霊してください」


「いや、僕の能力って触れた時の質感で除霊するやつでしょ? 見た目未成年っぽい子を触るのは、社会的に死――」


「大丈夫です。法律より僕の『萌え』の権利の方が優先です。さあ、早く!」


久我は震えながら右手を突き出した。 「く、狂ってる……! でもやるしかないのか! 覚悟しろ少女霊、これは浄化だ!!」


久我の指先が、少女霊の胸元(情念の核)に触れようとした、その時。


ピシィィィィィィィ……!!


店内の「萌え」な空気が一瞬で、冥界の氷河期へと凍りついた。


「……ユウキ様。久我様。何故、こんな不衛生な場所で騒いでおられるのですか?」


振り返ると、そこには完璧な所作で立つ、ユウキの専属メイド・サヤカが立っていた。 背負っているオーラが、もはや軍隊並みの圧力である。


圧 倒 的 正 妻 感。


ユウキ「さ、サヤカさん!? これは、その……新しい除霊のフィールドワークで!」

サヤカの瞳は、絶対零度の冷徹さを保ったまま少女霊を射抜いた。


「除霊なら……わたくしがやります。」


サヤカは迷いのない足取りで少女霊に近づくと、その肩を「ポン」と優しく触れた。 瞬間、少女霊が絶叫する。


「ビャァァァァァァン!! 怖い! この本職メイド、霊圧がプロすぎて怖いぃぃぃ!!」


サヤカの指先から放たれた「格の違い」を見せつけるような衝撃波により、少女霊は光の螺旋となって吹き飛んだ。


『ま、また来るからあぁぁぁ!! 宿敵ライバル認定してあげるんだからぁぁ!!』


少女霊が消え、静寂が訪れた店内。しかし、次の瞬間、周囲の客たちがざわめき出した。彼らの目には、霊こそ見えないものの、突如現れた「超絶美人の本職メイド」であるサヤカに釘付けだった。


「おい、見ろよ……あのメイドさん、めちゃくちゃ美人じゃないか?」


「マジかよ、コスプレ感ゼロ。本物だろ、あれ」 「あのイケメン、さっきまで店員にシカトされてて可哀想だと思ったけど……あんな最高のメイドを連れ歩いてるのかよ! 羨ましすぎるだろ!」


オタクたちの羨望と嫉妬の眼差しが、ユウキと、その横でマヌケに口を開けている久我に突き刺さる。 一人の勇気ある客が、サヤカに向かって声をかけた。


「あ、あの! お姉さん! こっちのテーブルでも『おいしくな〜れ、萌え萌え〜♡』ってやってくれませんか!?」


久我は思った。(あ、こいつ死んだな)


サヤカはゆっくりと首を傾け、その客を氷の彫刻でも見るような無機質な瞳で見つめた。そして、慈悲の欠片もない微笑みを浮かべて言い放つ。


「申し訳ございません。わたくしはユウキ様だけのメイドですので。 他の方にそのような無価値な言葉をかける喉は持ち合わせておりません」


「……ズ、ズバッと言い切ったぁぁ!!」

客はショックで撃沈したが、その徹底した拒絶が逆に一部の層に刺さったのか、「……ご褒美です!」という謎の歓喜の声まで上がり始めた。


サヤカは一切気に留めることなく、ユウキの方へ向き直り、深く、優雅に一礼した。


「当然のことでございます。――私は、ユウキ様に仕える『No.1メイド』ですから。……お帰りの後、本格的なオムライスをご用意しますね。ハートなどという幼稚なものではなく、私の『忠誠心』を描いたものを」


ユウキは「それはそれで重そうだな……」と少しだけ顔を青くしながらも、サヤカの完璧な仕事ぶりに感謝し、ポイントカードをこっそりポケットの奥底に隠した。


「……僕の出番、今回ゼロなんだけど。右手の準備運動損なんだけど」


こうして嫉妬深いメイド幽霊は退散し、久我は右手の汚名を(皮肉にもサヤカのおかげで)守り抜いたのだった。

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