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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む~宵闇の傷痕:巨乳探偵の罪と情動の劇薬

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第17話:バッドエンドの完成

第17話:バッドエンドの完成


カゲは、床に吹き飛ばされ意識を失ったユウキには目もくれなかった。彼女の関心は、ただ一人。自らの「歓喜の劇場」を完成させるための最高の観客にして、主演俳優である久我に集中していた。


血と泥に濡れた水浸しの床を、カゲは滑るような足取りで歩く。壁際で折れた肋骨を抑え、朦朧とする意識の中で喘ぐ久我へ、死神のような優雅さで近づいた。返り血と汗を纏い、裸同然の肢体を晒すカゲの姿は、狂気の舞台を統べる主役としての、毒々しいまでの美しさを放っている。


「さあ、優しい探偵さん。次はあなたの番よ」


カゲは久我の前に屈み込んだ。藤本を廃人へと追い込んだのと同じ、究極の絶望と支配を刻み込むためだ。その指先が、久我の裂けたスーツの隙間から、無防備な胸元を弄び始める。


「ユウキも言っていたわね、あなたは『最高に美しい主演俳優』だって。……ふふ、同感だわ。でも、彼の描くチープな脚本ドラマはもうおしまい。これからは私の劇場で、私と一緒に地獄の底まで踊り続けて……?」


久我の抵抗を嘲笑うかのように、カゲは躊躇なく彼のシャツとネクタイを引き剥がした。冷たい廃倉庫の空気に、あらわになった素肌が晒される。体はカゲの一撃で完全に麻痺し、指一本動かすことさえ叶わない。


カゲは久我の身体の上に圧し掛かり、その重みで全身を制圧した。それは単なる肉体的な蹂躙ではない。藤本に与えた「死なぬ程度のリンチ」と「人格を削り取る陵辱」を、今度は久我の精神に直接叩き込み、彼を己の所有物へと作り変えるための儀式。


今、絶望が、完成しようとしていた。


だが。


意識の混濁する淵で、久我の探偵としての本能だけが、獣のような鋭さで光を放っていた。


(……どいつもこいつも、勝手な物語を押し付けやがって。主演俳優だ? 演出家だ? ――笑わせるな。俺は、俺の意志で、この最悪な脚本シナリオを叩き割る……!!)


この麻痺、この屈辱、この距離——。 これこそが、他者の物語に翻弄され続けた久我が、死の瀬戸際で狙い続けていた、唯一無二の勝機だった。


カゲという異常人格が築いた鉄壁の防護壁。通常の方法では決して触れられぬその「核心」へ到達するには、カゲ自身が警戒を解き、久我を「獲物」として受け入れ、その境界線を越えてくるこの瞬間を待つしかなかったのだ。


(……見つけた。ここが、君の隙間だ……!)


「真実を……見せろ……ッ!!」


久我は、喉の奥から絞り出すような絶叫と共に、全霊を懸けた最後の一撃を放った。動かぬはずの腕を、魂の咆哮で強制的に駆動させる。覆いかぶさるカゲの胸を、血に塗れた手で強引に、逃がさぬよう執念深く鷲掴み(ホールド)にした。

「っあ……!?」


完全な支配を確信していたカゲの喉から、場違いなほどに剥き出しの動揺が漏れる。指先に伝わるのは、死神のイメージにそぐわない、驚くほど生々しく熱い女の鼓動。そして、彼女がひた隠しにしてきた「個」としての戦慄。


第三のサイコメトリー。


それは、触れた記憶を読み取るこれまでの優雅な行為とは、似て非なるものだった。自分の脳を焼き切り、命を燃料として燃やし尽くす、暴力的な精神のダイブ。カゲの防護壁を内側から爆破し、その奥底に眠る「伊織の原初の記憶」——カゲが生まれた瞬間の真実へと、久我は己の精神を弾丸に変えて撃ち込んだ。


久我の目から、一筋の鮮血が熱く流れ落ちる。


ついに、閉ざされていた禁忌の門が、久我の執念によってこじ開けられた。

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