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探偵は胸を揉む  作者: リチャード裕輝
探偵は胸を揉む~宵闇の傷痕:巨乳探偵の罪と情動の劇薬

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第15話:正義の瓦解と演出家の登壇

第15話:正義の瓦解と演出家の登壇


この凄惨な光景を前に、久我の脳裏には一つの凄絶な推論が組み上がっていた。 ――伊織は、裏切った藤本への復讐のために、これほどまでの惨劇を引き起こした。止めようとした警察官たちまでも蹂躙したのは、彼女の内に眠っていた計り知れない激情ゆえなのだと。


この場にいる全員がその「伊織の復讐」という物語に引き込まれていた。だが、藤本が今際の際に絞り出した「逃げろ、こいつは伊織じゃない」という不可解な警告が、久我の心に楔を打ち込む。


「やめろ、伊織! 貴様、何様のつもりだ!!」


久我は激昂し、右手に黄金色に輝く『サイコメトリー』の情動エネルギーを収束させた。 藤本の変わり果てた姿、生死不明で横たわったままの黒岩と高木。この場に渦巻くすべての怨嗟を「光」に変え、久我は渾身の力でカゲの胸元へ、その『真実の光』を叩き込もうと跳ね起きた。


この一撃さえ胸に届けば、彼女を正気に戻し、伊織の心を取り戻せるかもしれない。


「伊織、戻ってこい!!」


久我の放った右手が、彼女の白い肌を捉える。その瞬間――。


「キャアアアアアッ!!」


カゲは短い悲鳴を上げ、感電したかのように身体を仰け反らせた。絶望の闇が浄化され、彼女の瞳から狂気が消えていくように見えた、その刹那。


「……なーんてね。なわけないわよ、久我センセッ」


悲鳴は、一瞬で氷のような嘲笑へと凍りついた。 仰け反っていたはずの身体が、バネ仕掛けの人形のように引き戻される。カゲは、全霊を込めた久我の一撃を、胸に届く直前で、まるでおもちゃを払うかのように細い指先で軽々と撥ね退けた。


「え……?」


愕然とする久我に、予備動作のない異常な回し蹴りが叩き込まれた。


ドシュッ――!!


「ぐっ……!!」

鈍い肋骨の軋む音と同時に、久我は「目の前が白くなるほどの肉体的なショック」を受け、口から呻きと胃液を吐き出しながら、数メートル吹き飛ばされた。久我は激痛に意識が飛びそうになり、水浸しの床に崩れ落ちたまま、一瞬で戦闘不能となる。カゲの戦闘能力は、常人の域を完全に超えていることを、久我は肉体で知った。


無防備な腹部を正確に捉えられ、久我の視界は白く弾けた。呻きと胃液を吐き散らしながら、彼は数メートル後方の水溜まりへと叩きつけられる。


「ゴホッ……、ガッ……」

一瞬にして、完全な戦闘不能。冷たい床に這いつくばる久我は、白濁する意識の中で痛感した。目の前の怪物には、魂の叫びも、全力の情動も、暴力も通用しない。


カゲは、床に伏す久我を冷酷に見下ろした。 「ねえ、久我センセ。……あなたの『正義』って、こんなものなのね?」


「ふふっ……素晴らしい。久我さんの『正義』が、まるで安物のガラス細工のように粉砕された」

静寂を切り裂いたのは、陶酔しきったユウキの声だった。彼は黒岩の血溜まりを無造作に踏みつけ、カゲとの距離を詰めていく。


「ですが、困りますね。僕が丹精込めてプロデュースしてきた『久我さん』を、こうもあっさりと壊してしまうなんて。……仕方ありません。主演俳優が使い物にならなくなったのなら、演出家が自ら舞台に上がるしかない」


ユウキは前髪を無造作に掻き上げ、遮るもののない剥き出しの瞳に宿る狂気をカゲへと向けた。


「カゲ。次は君の番だ。君のその『異常』が、僕の手の中でどんな悲鳴を奏でるのか……。直接、僕がプロデュースしてあげましょう」

床に這いつくばる久我の視界が白濁していく中、洗練された殺気を放つユウキと、血塗れのナイフを握る怪物が対峙する。


――最悪の演出家が、今、死の舞台へと足を踏み入れた。


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