『霊障マタニティ・ブルー:絶壁の地平線(ホライゾン)にて』
『霊障マタニティ・ブルー:絶壁の地平線にて』
1. 失われた黄金比:平坦なるディストピア
「……なぁ、ユウキくん。見てみろよ、この街を。かつてあんなに豊穣な果実が実っていたこの街が、今や……『平たい胸の一族』が住まう村みたいになっちまった」
久我の視線の先では、レオの「無差別ドレイン」の余波に遭った女子たちが、一様に板のような胸元を隠しながら、魂の抜けたような足取りで歩いている。久我が鑑定師人生をかけて愛した「CからDの黄金比」は、今や絶滅危惧種。
「お前のせいだぞ、霊央。パパが一生かけて愛でるはずだった世界の質量を、お前はなんていうギガ・スピードで飲み干してくれたんだ……」
2. サヤカの「いたちごっこ」:削ぎ落とされる母性
そこへ、お盆を手に持ったサヤカがやってきた。
「久我様、お茶が入りましたわ。……あら、そんなに悲痛な顔をなさって。頬がこけすぎて骨格標本みたいですわよ?」
久我は、サヤカの胸元を「鑑定(ガン見)」し、絶望に打ちひしがれる。
「サ、サヤカさん……。昨夜、俺が全霊力を指先に込め、不眠不休の『深夜の復元調律』で、せっかくBカップまで盛り土(復興)したのに……。今朝、霊央がちょっと添い寝しただけで、また……限りなくAに近い『何か』に戻っているじゃないか!」
「うふふ、いいのですわ。霊央が満足そうに『ちゅっ』と吸い付くたびに、わたくしの母性が物理的に削ぎ落とされ、光となって消えていく快感……。これもまた、育児という名の『聖なる地ならし』ですもの」
サヤカは以前より身軽になった体で、くるりと一回転して微笑んだ。彼女の自己再生スピードを、レオの超重力的吸引力が完全に上回っている「負の無限ループ(負債)」である。
3. 乳神の嘆き:おしゃぶりの限界
サヤカの服の襟元にクリップで留められた「消しゴムサイズの乳神」が、プルプルと震えながら毒づく。
「わはははは! 良いぞ霊央! もっとだ! 汝の母を一生『板』という名の牢獄に繋ぎ止めておくのだ! ……と言いたいところだが、吸われすぎてわしの『神格(解像度)』まで消えそうじゃ! 誰か、この無限吸引地獄からわれを救い出せ!」
霊央が寝言で「ちゅー……」と空を吸うたびに、乳神の体はさらに縮み、今や米粒どころか「ドット(点)」の領域に突入しかけていた。
4. ユウキへの懐き:最もノイズのない男
ふと見ると、霊央がユウキのシャツのボタンを小さな指で握りしめていた。その瞳は、久我に向ける「食糧を見るような目」とは違い、純粋な信頼に満ちている。
「……なぁ、ユウキくん。霊央のやつ、やけに君に懐いてないか? 父親の俺には『精気を吸い尽くす対象』としてしか見てないくせに……」
「……当たり前ですよ。僕はあなたたちと違って、吸い取るべき『余計な野心や質量』を持っていませんから。霊央くんにとって、僕は最もノイズの少ない『霊子的無響室』なんです。安全な止まり木なんですよ」
ユウキが霊央の頭を撫でると、霊央は幸せそうに「きゃうっ」と声を漏らした。
「……くそっ! ユウキくん、君は霊央の『安全地帯』か。俺なんて、サヤカさんの胸をCまでどうにか戻した瞬間に、霊央のレーザーサイトが起動して、一瞬でデリートされるっていうのに……!」
5. 決意:質量を賭けた「夜の工事」
久我は、震える手で超特濃の精力ドリンクを飲み干した。
「サヤカさん、今夜もやるぞ……。BをCにするんじゃない、霊央に一晩で吸われる損耗率を計算に入れ、一気にEまで叩き込む……! これは、俺と息子の、『質量』を賭けた聖戦だ!!」
「あらあら、久我様。……受けて立ちますわ。わたくしの胸が爆発するか、霊央が満腹になって寝落ちするか、勝負ですわね」
背後で、ユウキが霊央をあやしながら「たかい、たかーい」と平和に遊んでいる。その横で、骸骨のような男と、真っ平らな女神が、「今夜の盛り土計画」について熱く議論を交わしていた。
平たい胸の一族に支配された街で、久我家の「終わらない再開発」は、今夜も熱い火花を散らすのであった。
「(……あの、わしの存在忘れとらんか……?)」
米粒サイズになった乳神の小さな呟きは、誰にも届かなかった。




